歌唱中の呼吸とランニング中の呼吸の意外な共通点
歌唱中の呼吸、話している時の呼吸、睡眠中の呼吸、起きているときの呼吸、運動中の呼吸、等々、呼吸の仕方はその状況によって色々と変化します。
よく、平静なときは腹式呼吸で、運動中は胸式呼吸であると信じている人がいますが、これは半分間違っています。平静時に腹式呼吸をすることは間違いありません。では運動中は胸式呼吸ではないのでしょうか?運動と言ってもいろいろな者がありますが、今はランニングに絞って考えてみましょう。勿論、ランニング中でも、短距離と長距離では全く呼吸法が変わってしまいます。短距離走では、ゴールに到達するまで息をしなくてももつので呼吸はしません。つまり短距離走は無酸素運動で、呼吸運動に費やすエネルギーを全て走るエネルギーに費やすためです。
ランニング中の呼吸が胸式呼吸であるか否かは、胸骨の両側に手を当てて実際に軽く駆け足をすることですぐに分かることです。これは、軽い駆け足であろうがマラソンであろうが短距離走であろうが同じです。人間は走っているときには胸郭を固定します。
この時の胸筋の使い方が歌唱中の呼吸と重要な共通点を持つのです。

では、胸筋とは一体なんでしょうか?
呼吸筋とは呼吸に使われる筋肉のことで、息を吸うときに活動する吸気筋と吐くときに働く呼気筋に分類されます。呼吸筋としての胸筋の中で最も重要な筋肉は肋間筋です。この筋肉は、外肋間筋と内肋間筋の2層構造で、外側の外肋間筋が胸郭を持ち上げる吸気筋、内側の内肋間筋が胸郭を引き下げる呼気筋です。主にこれらの筋肉を呼吸筋として使って呼吸をすると、胸式呼吸、或は肋間呼吸と言われるものになりますが、ランニング中はこれらの筋肉はどのように機能しているのでしょうか?

外肋間筋と内肋間筋は、上と下の肋骨の狭い間をつなぐように付着していますが、外側と内側の肋間筋の筋肉繊維の方向がほぼ直角にずれています。外側の肋間筋の繊維は、上の肋骨の後方から、下の肋骨の前方へ走り、筋肉の緊張によって胸郭全体を上方の拡張することが出来ます。内側は直角にずれた角度に付いているために、胸郭を下に下ろします。つまり、胸を拡張するときは、外肋間筋が内肋間筋よりも優勢でなければならず、胸を閉じるときはその反対です。その優劣の差は胸を開くスピードによって変化します。素早く急激に胸を開くときは、ほとんど外肋間筋だけで、内肋間筋は緊張しませんが、ゆっくり開くときは外肋間筋と内肋間筋が拮抗して働きます。
ランニング中には、外肋間筋と内肋間筋が等しい力で緊張するので、胸郭は全く動くことなく最も適切な胸の姿勢を保つことが出来るのです。

ここで重要なポイントは、医者達は呼吸に関係する筋肉のほとんどを、吸気筋と呼気筋に分類していますが、その呼吸筋等は、呼吸以外の機能も持ち、さらに呼吸とは独立した働きをする場合があると言うことを理解することです。
外肋間筋が存在する限り、胸を開くことはいつでも出来るはずです。ただ習慣として呼気時に胸を開く習慣がないので、発声時に胸を開くことは初期段階では難しいだけです。このことが理解できると、昔から言われている、歌唱中つまり呼気時に、胸郭を開きなさい、或は歌い終わったときに胸を一番高く、歌うときは息を吸うように、等々の一見矛盾するような教えが解決することが出来ます。