第8章
Perceptions of Turning Over
ターン・オヴァ―の認識

読者は不思議に思うかもしれない。「声がターン・オヴァ―するとき-H2がF1によって上がるとき-それは、観衆にどのように聞こえるのか?そして、歌手にとってどのように響くのか、そして、どのような感じがするのか?」
先ずは、すべての母音は、G4(低い声にとってはD4という早さで)のオクターブ下でターン・オーヴァーするので、この質問は、主に男声にとって重要であることに注意しなければならない。また、母音から母音に、声種から声種によって、そして、原因が能動的母音変形か受動的母音変形かによって少し変わるので、答えはさらに難しくなる。最後に、感覚認知が非常に個人的なことから、予知的な認識の説明は本質的に危険である、故に絶対に確実なものとはなりえない。言われてきたことのすべて、以下の説明と教育学的意見 ― 明らかに、厳しい検証を受けていない、個人の経験、逸話、印象、そして学生の反応に基づく ― は典型的なもので、役立つかもしれない。

Perception of Vowel and Timbre:母音と音色の認識
十分に実行されるとき、ターニング・オーヴァーに伴う音色の変化と受動的な修正は通常微妙なものである。母音が前舌と後舌の「系統(families)」または、最も閉じたものから開いたものへと記載され、/i ɪ e ɛ æ a/、そして、/u o ʊ ɔ ɑ/(13)の順序(sequence)に分けられるならば、母音の受動的修正も、同じ母音系統または順序となる。より開いた前舌母音はわずかに閉じる、そしてまた中間化するか、いくぶん中立化するかもしれない:/ɛ/は、可能性として/œ/が混ざって/e/か/ɪ/の方へ移動するように思えるだろう、しかし、唇の状態は変化しない。確かに、これらが本当に受動的な修正であるならば、母音移動の方向へ形を変化させてはならない。元の母音と声道の形は、ターンを終えた後も慎重に維持されなければならない。喉頭咽頭の一定の深さを保つ(開いたのど、固定した喉頭)ために注意する一方で、知覚的な「高さ」と「鳴り」のために調音され、チューニングされた声道形の様相は、ターンをした後の音色が鈍くなりすぎることを避けるために特に強調されなければならない。生徒は、口頭(orality)に行こうとしすぎる(イエール反応)かもしれないし、母音を重く修正(チューブを長くして母音の形を閉じる)しすぎるかもしれない、あるいは、単に中立(「特徴のない母音:anonymous vowel」)の方へ形を崩してしまうかもしれない、しかし、それらの全ては避けられなければならない。適切に発声されるとき、音色の変換は、筋肉にではなく聴覚に感じる、そして、さらに音響感覚の変化は繊細で、重いものではない。

(13) /ʊ/と/o/の相対的な閉じは論争の余地があり、発音によって左右される。著者の経験において、共鳴音/ʊ/のF1はより高く、より開くようにする。

Perception of Tonal Sensation:音感覚の認識
他ならぬ「ターン・オーヴァー(回転する)」という語は、音響感覚を説明するものである。曲げてかぶせた、又は、頭の中に丸く巻いて前に向かう、すなわち、開いた音色の場合のように口から真っすぐに出てくるのと対照的に、回転して頭のまわりで反響する音感覚の最上部の感覚がある。同時に、体に沈み込む下に流れる音の「最下部」の逆の感覚があるだろう。この後の側面は、イエールの上・外に達する特有の感覚に対抗する。これらの感覚は、互いに、巻きあがって前に向かう、そして、下に降りて体の中へ向かう渦巻の両端のようになるだろう。開いたのどの音感覚に関して、「後ろの壁」は、ターンを通して前に動かされることも、さらに後ろに動かされることもあってはならない。また、音が胴の中に次第に降りて開いているという感覚もある。そして、音響的に集められ、そして、前に向かって収束し、広がるというよりはむしろ狭くなっている。
フープ音色が求められない限り、受動的修正は2つの最も閉じた母音/i/と/u/にとっては不十分である、それらは、パッサージオの下ですでに十分閉じているだろう。それらは、力強い音質を保持し更なる上昇で開き続けるために、男性のパッサージオ・ゾーンを通して積極的に開けられる必要があるだろう。一般に、母音を開けるとき、その内面的な長さを垂直に伸ばすことが、開きをリードしなければならない。開いたあごは、外に・下に伸ばすより、後ろに・下におりるように導くというよりも、より感じられるようにならなければならない。

Perception by Voice Type and Vowel:声種と母音による認識
男性の声種がより軽いほど、通常、ターンと修正はより軽く聞こえる。低く、重い、あるいは、深い声種は、ターンがより目立って聞こえるだろう。バス、低いバリトンとドラマティックテナーがより明らかな、さらに劇的な変換をする傾向があるが、軽いテノールはむしろ微妙な変換をするだろう。ターンはまた、開いた母音、特に/ɔ/や/ɑ/のような開いた後舌母音でより明らかである。ターンによって母音の鳴りの要素が強くなるほど ― 自由に得られるならば ― ターンはより上手くなり、結果として生じる音は「カバーされた」感じが少なくなる。これは、十分に強いシンガーズ・フォルマントによるか、或いは、ターンより上の効率的な第2フォルマント/高倍音カップリングによるものであろう。

Difference in Effect Between Active and Passive Modification:能動的変更と受動的変更の効果に於ける相違点
音階のパッセージで、2度の音程間隔にわたって滑らかな、段階的なターニングを達成することは、最もエレガントである。しかし、ターンは能動的母音変形によってあらゆる声で強調することができる:ターンのすぐ下でより開いた音色を選ぶこと、それから特に高い倍音でF2が傑出するほうに変更が調整されたならば、ターンにおいて計画的なより重いカバーを生み出す。特にこれは、ターンを延期してはじめに音色を開けていることが必要である、そしてその後で、母音の形を閉じて、或いは、声道を延ばすことによってF1を低下させる。そのような動きはより劇的な、計画的なターンを引き起こす。そして、それは ― 誇張しすぎでなければ ― 強い表現力豊かな印象のために効果的かもしれないが、特別な状況のために取っておかれなければならない。そのような使用の複数の例は、テノール、ニコライ・ゲッタによるラフマニノフのヴォ―カリーゼの録音で聞くことができる(付録5:Youtubeの例を見る:例2(128ページ))。この戦略を、これほどまでに使用することがこの歌の中で理想的かどうかは議論の余地がある。このレコーディングにおいて、Geddaは、開きから閉じへの移行をスムーズにしようとはしていない。その代わりに、彼はしばしばターンのすぐ下でわざと開いた音色を歌い、それから、あからさまにターンに「引っかける(hook)」。例えば、Vocaliseの3分ほどのところで、Geddaは開いた音色でF#4を歌ったすぐにその後で、G#4へ移るときだけ閉じている(図16)。上手な歌手は、狭いピッチの範囲内で、同じ母音でわずかに異なるピッチでターンをいくらか自由にすることができる。

図16

ターンするピッチが通常の場所から移動するならば、通常大きな音量のために(開くことを通して)より高いピッチまで延期されるか、音量を下げる戦略(閉めることを通して)として低いピッチで実行される。その通常のターニングの場所より高い、開いた母音で保持された/ɑ/母音は、Geddaのこの録音の中のいくつかの開いたF#4上での2、3の例が示すように、少し広げられて露骨に聞こえるだろう。とは言うものの、Geddaの卓越した最後のC#5への上昇に於ける、モード2への滑らかな喉頭声区の変換は無類のものである。

Perception of Tuning in a Deeper Voice:低い声でのターニングの認識
低い声に特有のより明らかなターンの優れた例は、Jose van Damによって録音されたラヴェルのカディシュにおいて聞かれる。曲の終わりの近くの/ɑ/の長いメリスマのパッセージで、Van Damの声は、予想された所でターン・オーヴァーする。その母音変更は、この豊かな、低い、美しい声としてかなり注目されるが、そのような声種にとって典型的である。(付録5:Youtube例を見る:例3(およそ3:48))

図17

Effect of Approach by Leap:跳躍によるアプローチの効果
声のターンは、たとえ滑らかにされるときでも、本来の音色変化がジャンプによって、開いた音色から閉じた音色へとより鋭い違いとなるので、低音からジャンプによってアプローチされるとき、特にエキサイティングなものとなる。たとえば、Amy Beachによる「Ah, Love, but a day!」のJussi Bjoerlingのレコード(オーケストラによるビデオ、ピアノ付きのオーディオ)は、いくつかの明解で説得力のある例である。(付録5:Youtube例を見る:例4)テキスト「Ah, Love, but a day」の一番最初の文において、F4の「love」の/ʌ/と、Eb4の「day」の発音の/ɛ:i/は両方とも、開いた音色である。これは、同じテキストの第2の文に明らかな比較変化を与える。そこにおいて、両方の母音はターン・オーヴァーしている:Ab4で「love」の/ʌ/、そして、G4の「day」の/ɛ:i/。さらにまた、「day」の2回目の出現は、G4で閉じた音色で始まった後でEb4に長3度下がるポルタメントの間に開かれている(図18)。この同じフレーズの後に、「world」という語も、F4で閉じて始まり、それからB3への降りるポルタメントで開かれている。

図18:Beach Ah! Love, but a day! 抜粋、2-9秒

同じ一般的なテッシトゥーラにおいて、どのように母音が閉じた音色から開いた音色に変化するかという後の例が、歌の中ほどの「Look in my eyes」の最初の出だしで起こる。(図19を見る)F4での「Look」の母音/ʊ/は、閉じた音色で、すぐ後の「eyes」の/ɑ/閉じた音色は、半音低いだけにもかかわらず、開いた音色である。このテキストの、同様に始まる2回目の入りは、今度は「eyes」の/ɑ/は、Eb4で、開いた音色で始まり、その後Ab4 ― G4 への跳躍で閉じた音色に劇的に移行する。これは、F4の「Wilt」の/ɪ/を閉じた音色で続ける、そして、E4の開いた/ɑ/は、その後、オーケストラとの録音ではF4への上行で閉じるが、ピアノとの録音では閉じていない。

図19 :Beach Ah! Love, but a day!抜粋、26-32秒

これらの音色の変化が滑らかに達成されたとき、全く歴然としているにもかかわらず、ビヨリンクの美しい声の表現力豊かな抑揚の一部になっている。主にその母音のためにターンするピッチを越えて、母音の形を保持することから生じる受動的な音響現象である。

Darkened Timbre:暗くされた音色
上昇中に、深さが維持されるとき、歌手は音色をより縦に、あるいは、さらにいくぶん暗いと認識するかもしれない(用語、カバー(74ページ)を参照)。Hendelの「Ombra mai fù」のライブでのBjoerlingの第2の録音は、より深い声種の場合のようにターニングの影響を増やして故意に「暗い音色」を示し、むしろ劇的な影響をつくる(付録5:Youtube例5を見る)。今日の基準によってバロック・スタイルの問題をわきに置くならば、これは発声法の、そして、音色の開始と終わりのむしろ注目に値する実証である。たとえば、1:52の「Ombra」のD4の/o/を閉じた音色で歌い始め、それからクレッシェンドしながら/ɔ/で開いた音色にする。

図20:同じ音と母音での、閉じから開き。

その後の2:18で、上行する「care ed amabile」で/ɑ/母音は、E4とF#4の開いた音色から、G4の劇的に閉じた音色へと進む。

図21:/ɑ/での劇的な段階上のターン。

2:45-52での同じテキストでのその後のセットは、以降にセットすることに/ɑ/開いた音色(またはミニ・ターンされた)が保たれるが、/ɛ/はほぼ同じピッチで閉じられる。

図22:/ɑ/ と/ɛ/の比較。

「fù」の/u/は、3:10のB3で閉じている。高い「di vegetable」は予想通り閉じた音色で始まり、E4の/ɑ/で開いている。

図23:閉じた/ɑ/から開いた/ɑ/へ。

最後の高い「soave piu」はF#4「-ve」で閉じ、G4「piu」で閉じた音色でとどまる。閉じた音色の中に残るが、「piu」の発音はより力強いので開かれる。歌われたピッチが母音のF1に接近するとき、閉じた発音にとどまることは、フープ音色になり-この最高潮の瞬間にはあまりに「頭声らしく」なり過ぎる。口とあごは、その代わりに高い/ʊ/の形に開けられる。最後に、3:49のG3の「piu」の最後の/u/は、普通は閉じた母音をより大きな強さのための開いた音色にした例である。

図24:高くて、閉じていて、更に強い/u/と、低く、開いた/u/との比較。

F1/H2以外の音色の開閉
低い声の音色の閉じと開き(F1/H3とさらにF1/H4接合で起こるような)は、同様にしばしば明るく聞こえることもありうる。Jose van Dam(付録5:Youtube例を見る:例3)が歌うRavelのカディシュで前述の録音のはじめに、Van Damが、F3からBb3まで上がるときの/ɑ/のメリスマ(開始から1分)を歌うとき、F1/H3交差のミニ転機を聞くことができる。ミニ・ターンは、/ɑ/の第一ターンの下およそ5度あたりの、Ab3で起こる。(図25)

図25:ラヴェルのカディシュ抜粋、13-14秒。

F1/H2、F1/H3とF1/H4交差のいくつかの優れた例は、バス・バリトンGeorge LondonのSchubert「An die Musik」の録音で聞くことができる(付録5:Youtube例を見る:例6)。
たとえば、0:14のG#3からB2への「wieviel」でのポルタメントは、狭母音/i/の主要なF1/H2開きを示す。閉じてから開いた音色への26:ポルタメントを形どる/i/。

図26:/i/で閉じた音色から開いた音色へのポルタメント。

「wo mich des Lebens wilder Kreis」で歌手は、「mich」でのG#3の閉じた/ɪ/から、行くこと上で「Lebens」でのA#2の開いた/e/に、そして、「wilder」での開いた/ɪ/に進み。

図27:閉じた/ɪ/から開いた/e/と/ɪ/へ。

0:56で「besser」のB3の/E/は、ミニ・ターンされる(H3は、F1を越える)、そして、0:58での「Welt」のD#4の/E/は、閉じた音色(H2は、F1を越える)であること。次の「bassre」(B3-D#3)と「Welt」(F#3-A#2)の/E/のメリスマは、Londonの/E/のためのターンの最初のピッチがC4なので、それぞれH3開きとH4開きを示すこと。

図28:開いた/ɛ/を閉じた/e/へ;ミニ・ターンされた/ɛ/を非常に開いた/ɛ/に。

2:19で/i/と/y/を閉じた発音でキープする戦略が、柔らかい頭声効果(フープ音色に近づく)を生み出すのに用いられる。そして「Kunst」と「danke」の最後の下行ポルタメントは、閉じた/ʊ/のF1/H2の開きと、/ɑ/のF1/H4の開きを示す。

図29:閉じた、頭声の/ɪ/と/y/;、そして、下へのジャンプでの開いた/ʊ/と/ɑ/。

これらの音響声区現象の更なる聴覚的な例のために、人が適切なフォルマント・セッティングでタイプと母音をモデル化する方法を知っているならば、Maddeシンセサイザーを使っている声タイプと母音によって、母音開きと閉じcanbeのおよその音はデモをした。人が適切なフォルマント・セッティングでタイプと母音をモデル化する方法を知っているならば、Maddeシンセサイザーを使っている声種と母音によって、母音の開きと閉じのおよその音は示されることができる。

2018/02/27 訳:山本隆則