第5章
Harmonic/Formant Interactions
倍音/フォルマントの相互作用

音声共鳴は、喉頭音源(振動体)倍音と声道フォルマント(管共鳴)の間の相互作用の結果である。一般に、我々はフォルマント・チューニングと、共鳴に利用できる歌唱中のピッチの倍音との間でおおよその一致を必要とする。倍音は、リアクタンスのためにフォルマント周波数ピークの高い側で、より急速に力を失うだろう(Titze)。我々は、倍音の位置(それらは歌で求められるピッチによって決定される)をコントロールできないので、共鳴のために影響を与えられる主な要因は、最初の2つのフォルマントの位置(チューニング)である。西洋のクラシック歌手は、より高いフォルマントの位置が全体的な音色とfachの一貫性にとってできるだけ安定していることを望む。しかし、最初の2つのフォルマントは、利用できる倍音を共鳴させるために調整されることができる。

倍音/第1フォルマントの相互作用(Harmonic/First Formant Interactions)

音源倍音とすべてのフォルマントの間の相互作用が重要であるが、第1フォルマントとの相互作用は特に重要である。倍音が第1フォルマント帯域幅の範囲内、理想的にはフォルマント周波数ピークの下、に得られなければ、全体的な音は弱くてか細い。豊かさと深さを持つために、それによって共鳴するF1の近くに,少なくとも1つの倍音が必要である。二つ以上の倍音が第1フォルマントの下にあるならば、すなわち、低いピッチを歌うとき、フォルマント・チューニング(formant tuning)はほとんど必要がない。その状況において、通常1、2番目とより高いフォルマントのそばに、共鳴に利用できる多くの倍音があるからだ。高い基本周波数になるほど、倍音どうしの間隔は広くなる。そして、共鳴する最初の2つのフォルマント圏内では、より少ない倍音しか存在しなくなる。したがって、高いピッチを歌うとき、フォルマント・チューニングに対するより多くの注意が必要になる。

可能性があるフォルマント/倍音の相互作用(Possible Formant/Harmonic Interaction)
フォルマントと倍音らとの相互作用には4つの可能性があるある:
1)フォルマントは、移動する倍音をフォルマントを通して通過させることができる(音色を開閉する);
2)フォルマントは、安定した倍音を横断することができる(同じピッチ上の母音変化)
3)フォルマントは、倍音を追跡することができる(yelling, belting, or whooping);
4)フォルマントは、倍音から離れて「デチューン」されることができる(F2上のソプラノの戦略)

音色の開きと閉じ(Timbral Opening and Closing)
音源倍音が第1フォルマントを通り越して、それより上にあるときはいつでも、閉じた音色と言われる聴覚的な影響がある。倍音がF1の下に下がるときはいつでも、音色はある程度開いて聞こえる。

開いた音色(Open Timbre)
二つ以上の倍音が第1フォルマント以下にあるとき、音色は開いた音色(イタリア語のvoce aperta)と言われ、第1フォルマントの下の倍音が多いほど、音色はより開いたものとなる。言い換えると、歌われている母音の第1フォルマントの1オクターブ以上の低音を歌うとき、開いた音色が起こる。開いた音色は、明るい(bright)、まっすぐな(straightforward)、鮮明に(clear)、新鮮な(resh)、むき出しの(exposed)、より直接口からくるものなどと評されるだろう、― ピッチが十分に低いならば ―音がぶつぶつ言う(buzzy)と言われる。
第1フォルマントが第2倍音に同調される、または、逆に、第2倍音が第1フォルマントのピークの周波数に近づくとき、F1/H2 acoustic coupling(第1フォルマント/第2倍音音響カップリング)が起こる。そして、それは開いた音色の特に強いフォームをつくる。そして、鳴り響く鮮明さと力強さによって特徴づけられる。これは、そのような強い音響的結合で、力と投射が必要なとき、本能的に調整される。

イェール結合(Yell Coupling)
このF1/H2の開いた音色のカップリングが維持される、あるいは、上昇する第2倍音とともに第1フォルマントを上げることによって歌われている母音の通常のF1位置より上に追い上げられるならば、歌手はイエール音色(yell timbre)へ移動する。これは生活の中で必要な時に役立つ共鳴戦略で、ミュージカル劇場、ポピュラー、フォーク、そして、ワールドミュージックなどでは全く一般的であるが、叫び声音色は西洋古典的歌唱では避けられる。これらの古典的でない発声スタイルは、多かれ少なかれ上手に叫ぶことでの力と「自然さ」を利用すると言うことができる。叫ぶ能力は、明らかに大昔から受け継がれた、すべての人々の、力強い生存本能である。本能を克服することは、西洋の古典的な音色でうまくpassaggiを乗り越えさせるために若い男性を訓練する際に重要である。それどころか、そのフォームを注意深く取り扱うことは、ミュージカルのベルト音色を訓練するために重要である。


図6:F1/H2の開いた音色結合:チューブを短くすることによって、この組み合わせが高くて運ばれるならば、イェールの「広げられた(spread)」音色をつくる。

イェール特性(Yell Characteristics)
チューブを短くすること(喉頭の上昇)、咽頭を狭くすること、そして、口を広くすること、すなわち拡散的(divergent)共鳴器の形をつくることで、第1フォルマントを上げることによって、イェール音色と機能は達成される。これらの操作の最初の2つは、喉咽頭部を上げて収縮させる嚥下筋を起動させ、のどを狭くし、シンガーズ・フォルマント明暗法音色の使用を止め、そして、振動体の機能をプレス発声の方へに促すことによって、達成される。さらにまた、叫ぶことは通常/ɑ/、または、/ɛ/のように開いた母音で出される、なぜならば、それらの高いF1の場所と本来的に拡散的な形が、叫び声の音響の必要条件とより両立するためだ(純粋な/u/で叫んでみなさい!)。叫び声は、胸声区(TA)またはモード1(mode one)が優位である。これらの操作は、高くなった喉頭、プラス広げられた母音の形に合わせて、若い男性の高く前方へ伸びたあごになる。

 

 

閉じた音色(Close timbre)
第2倍音が第1フォルマントより上に越えると、音色は閉じて、または曲がる(turn over)のが聞かれる。この交差は、男声の主要な音響声区現象である。閉じた音色(イタリア語のvoce chiusa*)は、ドームの、傾けられた、なめらかな、頭での高い感覚として、いくぶんストレートではない(カヴァーされた)ようであるとさまざまに言われ。歌われているピッチが、歌われている母音の第1フォルマントの下の1オクターブ未満であるとき、これが起こる。それは、他の発声スタイルと違って、音色の深さまたは暖かさを失わずに高い音域を生み出すことができるので、西洋クラッシック歌唱の高い声の訓練に必要な構成要素である。
曲げること(turning over)は、深さ(チューブの長さ)、母音の形、と相対的な母音の暗さ― その全てはF1周波数の場所を維持すること ―を保ち続けることによって達成される。それは、ある程度の受動的な母音変形passive vowel modificationピッチとその倍音が移行する間、チューブの形を維持する結果としての母音の質の変化)を伴い、能動的(active)変形(フォルマントの結果として生じる再チューニングによる意図的な形の変化を含む)とは対照的である。

*用語voce chiusaは、キアロスクーロ音色とシンガーズ・フォルマント・クラスターに結びつく一般に収束性の共鳴戦略を意味するなにかとして使われ、voce apertaは、一般に拡散的共鳴戦略を意味するなにかとして使われる。

フープ・カップリング(Whoop Coupling)
H1(歌っている音の高さ)が第1フォルマントの周波数に達するとき、強いF1/H1カップリング(strong F1/H1 coupling)がある。これはフ―ピング(whooping)またはフーティング(hooting)と呼ばれていて、「hootier」フル*、深い音色などと云われる。そして、それは基本周波数、共鳴、さらに開いた音色より滑らかで耳障りでないことが特徴となる。それは頭に集められるように見え、第1倍音と第1フォルマントが優位を占める。

【*訳注:whoopもhootも訳語としては叫び声の一種で、hootはDonald Millerが使用する語。日本人はwhoopやhootに当てはまるような声を出して叫ぶ習慣がないので翻訳は不可能であるが、あえて日本語にすると大きな胴間声か?】

フープ特性(Whoop Characteristics)
Whoopingは、第1フォルマントをH1(F0)(つまり、歌われているピッチに)に合わせることによって達成される。それは、ファルセット(CT)、あるいは、モード2が優勢で、流れ発声の傾向がある、喉頭咽頭スペースを楽にし、収束性の(背面を広く、前面をより狭い)共鳴器の形を容易にする。それは、主に狭母音、特に/u/でなされる、低いF1の振動数位置がF1/H1カップリング(非常に高い音でない限り、大部分の男性は開いた母音でフープすることは難しい)を容易にするから。結局、女性は母音全ての第1フォルマント以上のピッチを歌うので、特に西洋クラシック歌唱において、彼女らはしばしば叫び声モードで操作している。

 

 

図7:Whoop音色(女性のクラッシック歌唱に非常に特徴的)のF1/H1カップリング。

 

イェールとフープの周波数(Yell and Whoop Frequency)
これらの2つの共鳴戦略は音響的にもともと強く、したがって人々の間で一般的に見られる。たとえば、スポーツ競技または熱心な祝賀でたくさん声を出そうとするとき、人間は叫ぶ(yell)か、大声(whoop)をあげる。過度に実行されるならば、どちらでも機能亢進的な摩耗を引き起こすことがありえる。しかし、whoopingは圧力が低くリスクは少なく、声にとって2つのうちではより健康的である。文化的な受容性は、別の問題である。Whoop・モードでの「Bravo!」は採用されそうにはない。

ターニング・オーヴァー(Turning Over) (曲げること、カヴァーリング)
男性にとって、これらのいろいろな倍音/フォルマント相互作用で最も突出し、教育学上重要なことは、第2倍音(H2)が第1フォルマント(F1)の上に交差すること。これは男声の、そして、少なくとも開母音のための主要な音響声区移行(primary acoustic register transition)で、ヴォーカル・カバー又はターニング・オーヴァーと呼ばれてきた。それは、歴史的に、胸声から頭声(または胸声区から中央の/ミックス声区、または喉頭モード1のより小さいバージョン)へと言われていた喉頭シフトと関係している。前記したように、それが母音音色の微妙な閉鎖とラウンディングを引き起こすので、この移行も受動的な母音修正(passive mpdification)と言ってもいい音色シフトを生み出す。この修正は、形の変化によることなく、移動する音源倍音と安定した声道フォルマントの関係を変えることによって達成される。

図8:H2(赤線)がちょうどF1を越えたときのturning overのパワースペクトル。第2倍音が第1フォルマントを通り越す

ターニングのピッチ(The Pitch of Turning)
ターニングのピッチは、歌われている母音の第1フォルマントの位置によって決められる、そして、母音がどれほど開いて、または、閉じて発音されているかによって影響を受ける。H1はH2のオクターブ下なので、ターニングのピッチは母音の第1フォルマントの下のオクターブよりもわずかに少ない。つまり、与えられたピッチを歌っているとき、その第2倍音は1オクターブ上にある。その母音(その母音の第1フォルマントの下の1オクターブ未満の)のためのターニングのピッチの下の音色は、開いた音色である。ターニング・オーヴァーが、第1フォルマント位置によるよりもむしろ喉頭声区現象の結果であるならば、人は、声がすべての母音で同じピッチでターニング・オーヴァーすると思うだろう。そうではない。その考えは、もはや現実的な教育学的見解とはいえない。

 

図9:バスの声のための基本的な母音(音楽家の便宜のため譜表上で示す)の近接する第1フォルマント位置。各々の母音フォルマント(そのIPA記号を含む)は、高音部譜表の上でボックスに置かれている、それと共に、声がターニング・オーヴァー、又は、閉じるであろうピッチが、各々の母音の下のバス音部記号の上で楽譜に記されている。あらためて母音フォルマントのセットの全体的な輪郭線に注意しなさい。これは、他の声種のために上/下に調整されることができる。最も高いものから最も低い声種まで、およそG4-G5にわたる平均ソプラノ・フォルマントと、およそC4-C5にわたるバス・フォルマントで、フォルマント場所は、ほぼ4度か5度変わるだけである(補遺2(124ページ)を見よ)。

上記のように、開母音(/ɑ/のような)は、高い第1フォルマントを持つ。狭母音(/i/や/u/のような)は、低い第1フォルマントを持つ。母音をより開いて発音するほど、その第1フォルマントは高くなり、そして、より高い位置でターン・オーヴァーするだろう。母音をより閉じて発音するほど、その第1フォルマントは低くなり、そして、より低い位置でターン・オーヴァーするだろう。
声のターニングを聞き取る能力と、ターニングの場所についての知識と予測、そして、意欲とその音色を変化させる能力、それらのすべては、男性のpassaggioと女性の低い声を訓練するのに極めて有効である。

Madde探査4:開音色と閉音色

ターニングからフープへ(From Turning to Whoop)
H1とH2の間は1オクターブある。したがって、チューブの長さと形が一定のままならば-言い換えると、F1周波数の位置が一定のままならば-H2がF1を越えるターン・オーヴァーの位置と、H1がF1にマッチするフル・フープ音色(full whoop timbre)への到達の間には、1オクターブ弱の差がある。音響の課題はH1とH2の間がオクターブ離れていることによって起こされる;ターンのすぐ上の、F1共鳴の優位性を放棄して、H2が力を落とし始める所で、H1はまだF1の下で、ちょうど今失われたH2の力と組み合わされるには離れすぎている。この力の損失は、 ― 特に女性で ― その強いCT(頭声)優位、弱い声門抵抗、そして、高い倍音の強さの急な減衰を伴い、振動モード2に向かう喉頭声区の早すぎる変化によって悪化する可能性がある。

ターニングとフープの間の共鳴戦略(Resonance Strategies between Turning and Whoop)
この移行範囲で使われる3つの基本的な第1フォルマント戦略がある:

1)能動的母音変形、すくにフープを起こすためにF1を降ろす;
2)チューブの形とF1チューニングを維持すること;そして
3)能動的母音変形、whoopを延期するか、避けるためにF1を上げる。

ターニングから フープへのこの移行するレジスターにおけるこれらのF1戦略による重なり合いは、第2フォルマント戦略である:高い倍音とF2のカップリングが強さを維持したり、増やしたりするのは、まさにここである。あるいは何人かの女性は、― 後ろを開いた母音によってーそれら(F1とF2)の間にある第2倍音を上げ続けるのに必要なだけ、F1とF2を集約させる。

能動的母音変形によるF1の降下(Lowering F1 through Active Vowel Modification)
閉じた母音、同じ母音のより閉じた発音、或いは、何らかの別の喉の開き、音色を深くする戦略(例えば、チューブを長くする)が、歌われる母音のために共鳴器収束を最大にするために使われるならば、F1は降ろされる。これは、完全なフープ音色(F1/H1合致)に、より急激な上昇を引き起こす。言い換えると、それは、ターニング と フ―ピングの間の音程間隔をむしろ1オクターブ以下に減らす。これは西洋のクラッシック歌唱の高音域声(女性とカウンターテナー)で普通にみられる戦略である、そこで、フープ音色の華やかな頭声は大部分の音域を通じて望ましいものとなる。これはフル・フープ音色(F1/H1試合)により迅速な上昇を引き起こす。いい換えると、それは、ターニングとフ―ピングの間隔を、1オクターブよりむしろより少ないものに減らすだろう。

声道形を維持すること(Maintaining Vocal Tract Shape)
回転(turning)の母音の点(vowel’s point)より上に上がるとき、声道の長さと母音の暗さ(したがってF1振動数位置)を維持することは、完全なwhoop音色が,およそ1オクターブ高く上げられるまで、徐々により閉じた、より頭の音色になるだろう。基本周波数(H1)が第1フォルマントの傾斜をのぼって、音色を際立たせ始めるにつれて、whoopingは通常、頭部と垂直咽頭柱で感じられるので、音の感覚は次第に集中されるように感じるかもしれない。しかし、この音響レジスターの低い音域で、全体的な強さは、高い倍を共鳴させる第2フォルマントから、あるいは、それらの間にある第2倍音を共鳴させる第1および第2フォルマントの集積性からの援助を必要とするかもしれない。声種と音楽スタイルに適しているならば、強さもまた、ターン以上のより強い喉頭声区(モード1「より胸声傾向の」)を保持することによって助けられるかもしれない。

母音を開くことによってF1を上げること(Raising F1 through Vowel Opening)
あるいは、一旦声が閉じた音色にターン・オーヴしたならば、母音の形は徐々に開けることができる。そして、閉じた音色のままであるとはいえ、ターニング・ポイントより上に1、2歩前進する。この戦略はフル・フープ音色に達するのを延期する、ターン・オーヴ、さらにより力強い音色のミックスを保持する。それは、依然としてH2の下でとどまる(イェール音色を避ける)のではなく、F1をH1-歌われるピッチが ―より上にうまく置いておく (完全なフープ音色を避ける)方法で母音形を開けることによって第1フォルマントを上げることが必要である。母音がF1を上げるために開けられるとき、チューブの長さ ― そして、音色の深さ ― が喉頭の上昇よって危うくされないことが重要である。
上記のように、西洋クラッシック歌唱において、訓練された女性は最初の2つの戦略を好む、それは、母音を閉じたままにするか、より頭声主体で豊かに-フル・フープ音色に達するまでー音域でより低く聞こえるために母音をさらに閉じる 。男性は第3の戦略を好む傾向がある。そして、ファルセット/フープ音色へ更に進まないためにターニング(特に狭母音で)のポイントの上でいくらか母音を開ける。多くの主演男性歌手も、より刺激的な、プロフェッショナルなオペラの最高音のために男らしい声の鳴りを増進させるために、F2/倍音カップリングを追及する。

第2フォルマント戦略(Second Formant Strategies)
今言及されたように、それはターニング・オーヴァーとフープ音色に到達することの間の範囲にある-開いた母音にとって、ほぼ高音部記号の音域である-、より突出した第2フォルマントを含むその戦略は、多くのプロの歌手(特に男性)によって使用される。高い倍音とそれらの「後に続く」倍音の間の比較的小さな隔たりと比較して、これはH1とH2の間のおおきな隔たりに起因するようだ。たとえば、H3がF1を越えるとき、H2は完全5度下未満であり、それによって共鳴するために、すでに十分にF1の帯域幅の範囲内にある。しかし、H2がF1を通り過ぎて越えるとき、H1はほとんど1オクターブ下である。高い倍音がF2の帯域幅の範囲内にあるならば、結果として生じる力のロスは対処することができる。Donald Millerが指摘するように、高いF2周波数センターを持つ前母音にとって、これはH4かそれ以上になりそうである。後舌母音(それは、低いF2を持っている)では、これはH3になりそうである。これは多くの主役テノール、特に鳴り響く最高音域を生み出す、の特徴であるように思える。他のテノールは、リングを成し遂げるために、強いシンガーズ・フォルマント・クラスターを維持する。
女性歌手の類似した戦略は、低い中声には適切でありえるが、高い中声にとっては、過度にキラキラした音を生み出し、フル・フープ音色のF1/H1優位を確立するためにF2/H3(またはF2/高い倍音)優位を放棄することに対する抵抗が生まれる可能性がある。高音部記号とその上の最高音に近いピッチでは、F1/H1優位は、豊かなオペラの頭声にとって必須である。いかなる場合でも、音色のバランスのための豊かさと深さを必要とするために、H2がF1を越えるならば、F1はH1をある程度充分な広さに共鳴させる必要がある。

H1(F1/H1)の第1フォルマントの追跡(First Formant Tracking of H1 (F1/H1))
一般的に熟練した歌手は、音に深さと豊かさがなくなるので、第1フォルマント(F1)のチューニングより高いピッチ(F0、H1)を歌いたくない。したがって、母音の第1フォルマントの標準の位置より高いピッチで歌われる場合、フル・フープ音色を維持するために、ピッチの上昇とともにF1を上げて母音を能動的に修正しなければならない。
第1フォルマントを上げるには2つの方法がある:チューブ・ショートニングと母音を開くことである。母音を開くことは、より良い選択である。母音を開くことはその全体的な形の相違をより鮮明にすることと、さらに、他の母音と比較してその特徴的な何らかの形を維持することが必要である。たとえば、それが前舌母音(舌は、平らであるよりもむしろ前歯の近くで丘状に盛り上がる)であるならば、舌を少し前にすることと前方の狭小化は保たれ、まさにその時に母音が開かれる。歌われているピッチが高いほど、あらゆるな母音の鮮明度は希薄になる、しかし、目的とする母音のなんらかの想い/意図は、歌っている音域において著しく高い了解度をアシストしてくれる。それが話し声の音域内の円唇母音であるならば、唇のラウンディングのなんらかのヒントは話す音域を上回って― 非円唇母音と比較して―非常に高い音域まで残る 。

チューブ・ショートニングはすべてのフォルマントを上げるので音色的Fach(訳注:特別な声種)を変える。それは、通常、女性の最も高い音域(およそB5以上)を除いて避けられなければならない。そのピッチの近くでは、母音の開きだけで第1フォルマントを上げる能力は使い果たされる、そのため、喉頭を上げることはF1を上げる唯一の残りの手段である。その時点で、F1をH1に合わせることが有益な双方向フィードバックを振動体に与え、必要な声門抵抗の量を減らすので、喉頭を高くすることが声帯の自由を必ずしも危うくするというわけではない。また、そのような成層圏周波数を企てる歌手の声のFachは、めったに問題にはなることはない。

そのようなF1/H1フォルマント・チューニングで開いた母音は、男性(カウンターテナー以外の)により、第1フォルマントが彼らの歌唱音域の中にある母音(例えば/i/、/u/、そして、/y)だけに用いられる。上記のように、訓練された男性は、特別な特殊効果のために純粋な頭声またはファルセットの音色を試みない限り、彼らが母音を開くことによって歌っているピッチの上に第1フォルマントを保つことによって概してフープ音色を避ける傾向がある。しかし、訓練されていないか、あまり上手くない男性は、狭母音(/i u y/)の第1フォルマント位置(およそE4~G4)より上で歌うとき、十分に開くことをしばしば怠るので、音色の薄さとより労力の多い発声になる。

訓練されていない男性はまた、狭母音、例えば/i/・/u/で、これらの母音を閉じた後でさえ喉頭をしばしば上げる、すなわち、母音の第1フォルマントの下のオクターブ以内で。この場合、第1フォルマントに近いピッチを歌うとき、母音の発音を開けることなく、より強い喉頭調整にとどまろうとしている。その状況で低い喉頭と閉じた発音を維持することは、一般的にますます「頭声優位」の音色になる。そのフープ音色を避けるために喉頭を上げることは、浅い音色を引き起こして、押す発声か締めつけた発声になる。リラックスした一定の喉頭を維持している間、口を開くことによって、閉じた音色の範囲内で母音の形を開けることは、強い音色を容易にして、フープ音色を下位に置くか、回避する。高音域の男性の声(カウンターテナー)は、女性の声と同じフォルマント・チューニング共鳴戦略を使う必要がある。

 

2018/02/07 訳:山本隆則