[William Shakespeare:The Art of Singing] p.32

The  Register of the Voice
声区

イタリア語では、オルガンのストップはレジスター(i registri、複数形)と呼ばれている。このことから、人間の声のさまざまな部分が、壮大な音、銀色の音、フルートのような音など、異なる音質によって特徴づけられることから、これらの異なる部分が声の「声区(registers)」と呼ばれてきたのではないだろうか。

ハープやピアノフォルテの最低音を出す弦は、上位の音を出す弦よりも長く、太くなければならない。

人間の喉頭には、声帯の振動する部分の長さや幅を声のセクションごとに変えることができるすばらしい仕組みがあり、歌手は音を高くしたり低くしたり、大きくしたり柔らかくしたり、壮大にしたり、銀色にしたり、鳥のようにすることを求める。

モレル・マッケンジー卿は、その著書「発声器官の衛(The Hygiene of the Vocal Organs))」(マクミラン社)の中で、声帯の特定の調整によって得られる同質の一連の音を声区と記述している。ここでは、上の段落で説明した分類に基づいて声区を区別することにする。 これは科学的ではないかもしれないが、実用的な目的にはより役に立つ。

 

Chest Regoster
胸声区

声帯がその全長と最大の幅で振動しているとされ、声の最低音を構成する一連の音を胸声区と呼ぶ(図8参照)。

この用語は、この声を出すときに設定される、顕著で特徴的な胸の振動に由来しています。この現象は、音が深くなるほど低く知覚され、音が高くなるほど胸の高部で振動を感じる。この声区で最も大きな音は、ほぼ全身に振動の感覚をもたらす。
音が低いほど、喉だけでなく、前章で口の中の床を形成すると説明した顎の下の広い筋肉もリラックスした感覚がより大きく得られる。声帯は、音が上がるにしたがって短くなっていく。【訳注;これは明らかに間違いで、声帯は音の上昇に従って長くなる。】

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この音域で上に向かって歌っていくと、それに応じて配置している筋肉(placing muscles)の緊張が高まる。声帯の長さが短くなったり、収縮したりすると、声帯の端が近づいてくるので、息の圧力を少しずつ上げていく必要が息の圧力【音程の上昇と共に息の圧力は上昇するが、声帯が短くなるためではない。】

そのため、高音になればなるほど、あごの下の広い筋肉で支える必要があり、息の圧力が高まるのをコントロールする必要がある。この声区の最高音を歌うときには、喉や舌、顎を意識しないように、最大限の技術を駆使しなければならない。

この声区での正しい歌い方ができないと、人によっては音が喉声になったり、鼻声になったり、前に出たり、露骨になったり、耳障りになったりして、胸の振動感覚が薄れるであろう。

胸声を正しく出すことは、声の他の部分にはない壮大さ、男らしさ、音色の広さを特徴とします。

図8 胸声区における声帯振動(一般に認められた見解による)。

この声区ではどのくらいの高さまで歌っていいのだろうか?

喉を開き、息をしっかりとコントロールする限り、舌と顎を無意識に自由にできる限り、確実に音をスタートさせ、1つの音から他の音へとレガートスタイルで進めることができる限りにおいて。

ランペルティによると、バス特有の音(最も力強く壮大な音)は上のCであり、これは確かに胸の声区であると考えられる一方、バリトンの特有の音は上のDである。

テナーの声は、歌手が本来の声よりも大きな声を出しているような印象を与えることなく、このような広くて壮大な声区を出すのに適していません。 また、C、C#、D、D#、E、さらにはFまで胸声のままで上げてしまうと、開きすぎていると非難されだろう。もともとバリトンに近い音程を持っているテノールもいるが、彼らの多くは胸声を使ったときに、喉が無意識ではないことに気づいている。

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コントラルトやメゾソプラノは、この声区で最低音からD、時にはEb、まれにE(ナチュラル)まで歌うことがでる。しかし、後の2つの音は間違って歌われることが多く、メゾソプラノ-コントラルトの中には、FやGまで胸声を上げたとしても、音が粗く、緊張した表現になるだろう。

ソプラノは、胸声区にいかなる力強さも備えていない。テナーの場合と同様に、彼女の楽器は一般的にこれらの広い音を出すには小さすぎる。C、C#、Dは時によってはかなり強いが、作曲家がこれらの音に頼って効果を上げることはほとんどない。

良くない歌い手は、胸の音を無理やりG以上にすることができるし、そうすることもよくあるが、そうすることで、歌い方の癖がついてしまい、声楽家としてのキャリアを短くしてしまう危険性がある。

胸部の声区は低音域と高音域に分けられることがあるが、上手く歌えば楽器の自由度が高くなり、メカニズムの変化はほとんど感じられない。

この声区は、中声区と同様に、十分な筋力を持った人であればかなり上げることができるが、あるポイントを超えるには、歌い手のコントロールを超えた息の圧力が必要となる。

このポイントに到達すると、喉を開いて息を正しくコントロールしながら高音を歌い続けると、喉頭のメカニズムが変化し、声帯の調整も多少変わってきて、別の声区が作用すると言われている。これは、中声区として知られている。

 

2022/02/13 訳:山本隆則

 

Medium Register
中声区

また、この声区では口の中の空気が振動するという重要な感覚があり、わずかではあるが胸の振動を伴うことからミックスボイスと呼ばれることもある。イタリアの巨匠がファルセットと呼ぶこともある【訳注;ガルシアのこと】が、これはより大きなチェストボイスに比べて力が劣るためである。もちろん、これは英語のファルセットという言葉とは無関係である。

このやや軽めの一連の音では、声帯はその全体の長さや最大の息では振動せず、その端だけが振動し、音階が上がるごとにさらに短縮されると言われている。

中声は胸声区のように、声帯が極度に弛緩するために最低音はほとんど聞こえなくなるまで無限に下げることができるが、高音部は銀色の音質で非常に輝かしい特徴を持っています。

音階を上げていくと、あごの下にある狭い筋肉の帯が徐々に収縮し、最高音ではかなりの緊張感が出てきます。この声区で間違った歌い方をすると、結果的に上唇が固定された状態になります。これでは、発音の妨げになるだけでなく、この声区の特徴である上唇の機能が果たせなくなってしまう。 つまり、音が上がるにつれて、微笑んだような表情で上唇を徐々に上げ、上の歯をより見せることができなくなるのだ。

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この声区は、上の歯に振動を与えるような、口の中に顕著な振動感覚を伴う。その声区の胸のように、口は音で満たされているようである。高音になればなるほど、上の歯に対する振動の感覚が後ろに感じられる。

中声を正しく発声すると、それぞれの音に対応した大きさの口腔が関連付けられているように感じられる。音が上がるにつれて、独立して行動していた上唇は、微笑みの筋肉によって徐々に角が上がり、音が上がるたびに奥の上歯(back upper teeth)が露出していきく。小さい音の時は、奥歯の露出度についての効果が高い音が鳴っているようでなければならない。

女声の場合、EbまたはE(ナチュラル)(高音部の五線譜の1行目)が中声区のあらゆる力の最初の音であり、これを上あごの前歯に当てて振動させるように感じる。 Fは前から2番目の歯、Gは3番目の歯、または犬歯で感じる。

図9。 中声区で振動する声帯(一般に認められた見解による)。

テナーは、この音域を力強く歌うとき、真ん中のAは前歯、Bは2番目、Cは3番目または犬歯の振動と関連付ける必要があり、 上昇する音に合わせて、音が上の歯に沿って後ろに進み、 同じ音を静かに歌うと、さらに奥の方まで進むのが分かる。

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中声区の高音を出すのは確かに難しいので、この声区を上中声区と下中声区に分けている人もいます。
あえてこのように細分化するのは、用いられるメカニズムの違いを示すためではなく、これらの音が最も歌いにくい音であり、その獲得が単にテノールの最高音だけでなく、特に女性のヘッドボイスの鍵となるという事実を強調するためである。後者の場合、上の中声区はA音から始まる。これを力強く歌うと、上から4番目の歯(犬歯の隣の歯)に振動が伝わり、上唇が上がるのがわかるはずだ。この声区の残りの3つの音も同様に、頭声区が現れるまで、それぞれの音が前より後ろで振動する。

テナーボイスでは、D、E、Fなどの上中音と呼ばれる最も難しい音が、女性の声のA、B、Cに相当しており、同じように奥歯の上で振動しなければないが、上唇を上げて微笑むと、これらが見えてくるだろう。この声で彼は最も美しい効果を出し、この声によって最高の高音を出すための技術を身につける。中声区で歌われる中央のA以下の音は、ほとんど力がなく、胸声で歌ったとしても、彼の声は通常、その声区をうまく使うことができないため、力はほとんど得られないだろう。

バスやバリトンは、CやDまでの胸声区で強力な効果を得ることができるが、真のアーティストは、歯に振動を感じるような中声で歌うことで、これらの声区や低音に、すべてのソフトなグラデーション【シェイクスピアは、グラデーション(徐々に変化させること)を良い発声の目安の一つとして考えている。】を加えることができる。

特定の歯に特定の音を振動させることに関してこれまで述べてきたことはすべておおよそのことであり、むしろ一般的に表現されているように、中声区の音を前方に配置しなければならないという重要な原則を強調するものであると考えなければならない。上唇を離して上の中音域を歌うようにこだわることで、演奏者はイントネーションの乱れや高音の恐怖が解消されるのが分かる。【強調はシェイクスピアによる。】

顎を固定すると、上述の上唇の自由や歯の振動感覚が得られず、イギリスやドイツの歌手がよく耳にするフロントトーン【これは上の強調文の前方に配置することと混同してはならない。シェイクスピアがフロンタルと言って否定する声は舌や喉の堅さによって音が前に出ることをいっている。】になってしまうため、この声区では大きな障害となる。 バス・バリトン、テナーの高音、コントラルト、メゾ・ソプラノ、ソプラノの中声部の高音は、この叫び(whoopiness)に最も苦しんでいる。A~Dのバス、B~Eのバリトン、C~Fのテナー、A~Dのコントラルト、A~Eのメゾソプラノやソプラノの難しさは、大抵このような硬直した発声に起因している。

笑いの筋肉以外で唇を上げてしまうと、不自然な歪みである作り顔になると言われている。笑っているとき:(1)上唇の角が上がっており、怒りや皮肉のように後ろに引かれていない、(2)この上がった角の肉質が柔らかく、硬くない、(3)下面の赤みが極限まで露出している、(4)歯ぐきのピンク色が見える、(5)上の歯のほとんどが見える。

このように上唇の角が上がることで、下唇が下の歯に押し付けられるように収縮し、上唇と歯の間には空間があるように見えるだろう。

上記のサインは、必ず主張されるものではなく、各人の笑顔に合わせて自然なものを選べばよい。

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Head Register
頭声区

 

ヘッドボイスは、チェストやミディアムの声区とは性格の異なる一連の音で構成されており、声帯の異なる動作によって生み出されると考えられる。
フルーティー【フルートのような音】で鳥のように愛らしく、本質的に女性的であることが特徴である。
それは男女ともに歌うことができるが、男性の場合は非常に弱々しく男らしくないので、人前で歌おうとする人はほとんどいないが、メゾソプラノやソプラノの場合は、その音質の愛らしさだけでなく、その比較的な希少性から、今日ではより高く評価されている。
声帯は、その長さのほんの一部でこの声区の振動をしていると言われている。

図10 頭声区で振動する声帯(一般に認められた見解による)。

高い音をできるだけ小さく歌っているときに、手であごと喉頭の間の筋肉が微弱に収縮しているのを見出し、この音が一番奥の上の歯を超えて後頭部に向かって音が反射したり、鳴ったりする感覚を伴うならば、私たちはヘッドボイスで歌っていることになる。この声区は、上記の現象からその名が付けられた。この声区を出すためには、上の歯をすべて笑顔の筋肉で見せ、下の唇を下の歯に感じさせる必要がある。

男性が使用する場合、ヘッドボイスとよく間違われるようなヒューヒューとしたファルセット(whoopy falsetto)ではなく、中声区で作られるテノールの非常に高い音で時々聞かれるソフトな効果でもない。それはより小さくて、一番奥の上の歯よりもまだ遠いところにある。 男性教師がこの声を知り、認識できるようにならなければ、メゾソプラノやソプラノの生徒たちに歌い方を教えてはならない。

女性のヘッドボイスは、A(第2間)までは歌えますが、この音は弱々しいものです。しかし、音階が上がるにつれて徐々に力強さを増し、C、C#、Dになると、大きなホールでソフトな効果としてうまく使えるようになるだろう。Eに到達すると、特にメゾ・ソプラノの声を持っている場合は、ある程度のパワーのある音を出すこともできる。

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Lampertiは、メゾソプラノとソプラノは常にEを完全に頭で歌うべきであり、この達成こそが彼女らが切望する高音の鍵であると述べている。これによると、メゾソプラノとソプラノは、中声でEを歌ってはいけないことになる。中声区のE、F、F#を歌う歌手はたくさんいるが、これらの歌手は、上の方にある美しい頭声を私たちに見せることはほとんどなく、原則として不快な前頭部の音(frontal tones)に頼っている。

この声区でのメゾソプラノの特有な音はF(第5線)だが、この音に必要な力強い息の圧力をコントロールし、低音の配置を理解した上で初めて、この音を出すことができる。

ソプラノの特有の音はGで、大きな部屋ではとてもよく響く。この音では、彼女は楽に発音し、あらゆる感情を表現することができなければならない。しかし、生徒はこの特徴的で力強い音を頻繁に聞くことを期待してはいけない。なぜなら、ほとんどのソプラノ歌手は、現代の作曲家が求めるドラマチックな効果を狙って、ドラマチックでパワフルな音を出そうとするために、中声を無理に上げてFやF#を大きな音にしてしまい、昔のイタリア楽派の歌手のように、CやD、さらに高い声まで頭声で歌う力を奪ってしまうからである。

メゾソプラノやソプラノにとって、BbやCといった低い音程の頭音を勉強することは有益であろう。 これらは公衆の面前で歌うには弱すぎるが、(笛や鳥のように軽やかな特徴を持つので)頭声区は、Eから始めただけの場合よりも、中声区との区別がより容易になるだろう。

頭声で歌う人は、喉を押さえつけないという事実から、この声区の練習は生徒にとって有利であり、正しい息のコントロールを勉強せざるを得なくなる。公の場での演奏には役に立たない声区ではあるが、この練習は、男性の声にも同じように適している。

Eまでの頭声を獲得したメゾソプラノは、次に自分の声の最大の音であるFを、さらにその上の音も獲得しなければならない。

同じように、ソプラノがEまでの頭声を克服したら、自分の一番良い音であるGまでの音を獲得することになる。力強さはやや劣るものの、輝かしさは劣らず、上の音は比較的容易である。 というのも、一度ヘッドボイスを自分の特徴的な音までマスターしてしまえば、それ以上の音を額に当てて歌うという古い習慣に戻ることはほとんどないからだ。

本当のコントラルトは頭声を出すことができるかもしれないが、人前で使うことはない。なぜなら、Dが彼女の特徴的な音である上の中声区と同等に聞こえるほどの力がないからだ。

正しく歌うことの報酬は、いつでも好きなときに頭声区に入ることができる能力(それを妨げる喉の硬さはなく、無駄に息が切れる心配もない)である。大きな声が必要なときには、Ebまでは中声区のメカニズムが無意識のうちに働く(これは限界を超えることはできない。) メゾソプラノやソプラノは、Cの頭声の柔らかさを利用して、膨らみながら、よりパワフルな上の中声区に無意識のうちに変化することができるし、その逆も同様である。

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ヘッドヴォイスのE(高音部譜表の第4間)は、頭の後ろの方、例えば頂上から1インチ下に残響感があり、Fは少し上の方、Gは頂上、AとBはやや前の方に感じられます。Eより下で、反響ポイントはより不明瞭になっていくだろう。

ランペルティは、この声について、反響感覚の局在化をピアノの鍵盤の位置に例えて、上昇する音が一歩一歩上昇していくように見えると述べている。

ほとんどの歌手は、ある場所と、いろんな声区の様々な音を関連付ける。しかし、優れた歌手は、胸声、中声、頭声に付随する身体的感覚を認識しながら、正しく歌っているときには適切な声区が無意識のうちに現れることを知っている。ある音を大きくしたり小さくしたりすると、その音に付随する振動が別の場所に移動することに気づくかもしれないが、自分が正しく歌っていることを知るのは、どんな感情でも発音し、表現することができるときであり、確実に音を始め、他の音とレガートのスタイルで結合することができるときである。

このように、3つの声区があっても、正しく作られると、それらが互いに緊密につなぎ合って、1つの長い均等な声を形成するのである。

警告のひとこと! どの声区でも、高い音になればなるほど、良く響くが、同時に、必要な息の圧力も比例して大きくなる。しかし、表現力豊かに歌うことは、ヴァイオリンやピアノフォルテの演奏に劣らないほど難しい技術であるにもかかわらず、どの学生も勉強を急ぎ、胸声区や中声区の最高音を乱用して、オペラ舞台やコンサート会場に早く登場できるように、力強い声を作ろうとする。そのため、バスやバリトンは、胸声区の最高音を、楽音というより叫び声に近い形で出しがちである。テナーは中声区の代わりに胸声区を、特にC、D、E、時にはFで使うことが多くある。コントラルト、メゾ・ソプラノ、ソプラノは、共鳴する胸声からF音やそれ以上の高音まで無理に上げてしまい、メゾ・ソプラノやソプラノは、女性の声で最も美しいとされる頭声を使えなくしてしまう。

声区を押し上げる歌手は皆、喉が締めつけられるのを感じる芸術的な感性は、音の硬さ、表現の乏しさに反発し、喉と舌を緩めようとし、奇妙な闘争を繰り広げる。一方では喉を緩めようとし、他方では自由に出せる音よりも大きな音を歌い、喉と舌を押さえなければならないのに、そうしないように努力している。その結果、筋肉が震え、現代の歌唱の悩みの種であるトレモロが発生する。これを治すには、胸声区と中声区の両方の大きな高音の練習をしばらく控える必要がある。最初は声が弱くても、正しい基礎の上に立って、少しずつ、胸声であれ中声であれ、高い良く響く音を落ち着いて安定して出せるようになるのである。

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真の芸術家は、各声区の低い音を強化することを好む。冷静さと余裕で聴き手を感動させ、特別な劇的な効果のために最高音を攻めるときは確実さと力を示す。一方、下手な歌い手は、声区の最高音にばかり頼らざるを得ず、その結果、彼の歌は緊張感と努力感に特徴付けられ、クライマックスに近づくにつれ、聴衆に苦痛を与えることになる。

すべての音を無意識のうちに自由に出させなさい。そして、クレッシェンドとディミヌエンドの力であるメッサ・ディ・ヴォーチェは、必要なときに無意識に変化する声区によって、自在に操ることができる。ダイアトニックやクロマチックの音階、アルペジオ、ターン、トリルなどが比較的容易に表現できるようになったが、硬直してしまうと失敗し、「私の声は柔軟ではない」「私はトリルができない」と言うのを聞くことになる。昔の作曲家の声楽曲は、他の楽器のために書かれた音楽と同じくらい徹底したテクニックが要求される。もし、ヴァイオリニストやピアニストが、自分の楽器の古典的なレパートリーに含まれるパッセージを演奏できなかったら、どう思われるだろうか。現代の歌手による、このような無能力が示されるのはあまりにも多いのではないだろうか?

 

2022/02/25 訳:山本隆則