1. 以下の見解は、James Stark,”Bel Canto” の中のRegister の章に記載されたGarcia’s Theory of Main Registers からガルシアの引用を中心にまとめたものです。

【ガルシアの声区の定義】

「声区(レジスター)という語によって、我々は、同じメカニカル原理によって生成され、低音から高音まで連続する同種の音声の連なりを意味する。そして、それらの性質は、別のメカニカル原理によって生成されて、基本的に等しく連続する同種の音声の別の連なりと異なる。
人が音声に対して決めた音質、または、力にどのような変更があったとしても、同じ声区に属しているすべての音声は結果的に同じ性質である。」(Garcia 1847、1:6、1984、xli)

上記の有名な定義は、Memoire(1840)、そして、再度Traite(1841)に提示され、今日の声区の研究に於いても重要な参照ポイントである。スタークは、ガルシアの声区理論に関する混乱の多くは、「メカニカル原理」と「ファルセット」の用語で、彼が何を意味したかを理解できなかったためだという。

【ガルシアの声区の構成】
ガルシアはMemoireの中で、2つの主要な声区を認めている。
1.chest register (registre de poitrine)
2. falsetto-head register (registre de fausset-tete)である。このファルセット-頭声区は2つの部分からなる。
低い方にファルセット、又は中声(medium)を、高い方に頭声(head)の名を付けた(1847)。つまり、一般的な考えに反して、頭声区(head register) を falsetto register の上部に位置するものと考えた。この見解が混乱の原因であると非難された。
ではこのfalsetto-head register に2つの別々の名を付けた正当な理由は何でしょうか?

【声区のメカニカル原理】
ガルシアは、胸声区とfalsetto-head 声区の主要な声区を、2つの別々のメカニカル原理(声帯の振動の仕方)によって作られると説明した。
最初のメカニカル原理
胸声区;声帯は、長さと深さ全部を使って振動する。
ファルセット-頭声区;声帯の内側の縁だけが振動する。その結果、振動量は少ない。
第二のメカニカル原理
声門閉鎖が、強いvs. 弱い、によって頭声からファルセットを区別する。
ガルシアは、最初の原理を提示するに当たって、Johann Muller のPhysiologic de systeme nerveux から「2つの声区間の本質的な違いは、ファルセットでは、声帯の縁だけが振動するのに対して、胸声では全声帯が可動域に含まれる」という見解を引用しています。(Garcia 1847, 1:12)  ガルシアは、この違いは確かに真剣な考慮を必要とするが、2つの声区の違いを全て説明できるとは考えなかった。彼は特に、何人かの歌手に見られるように、縁だけでファルセット声区の相当な力を説明することができると言うことが疑問でした。後の喉頭鏡の調査によって、彼は声帯振動の仕方は、2つの主な声区で確かに違っていることを発見しました。しかし、同じぐらい重要なことは、彼はまた、声門閉鎖中に、披裂軟骨の位置がこれらの声区にどのように影響を及ぼすかを観察しました。
未訓練の声に於けるこれら別々のメカニカル原理の活動の最も簡潔な記述は、Hints on Singing にみいだされます:

音を発する準備をするとき、呼吸のために離されていた声門の両側はその通路を閉じる、そして、音が深い胸声であるならば、それらはわずかに緊張する。
声唇(前方延長部/anterior prolongation または披裂軟骨の突起/process of the arytenoid cartilage と声帯から成る)の全部の長さと幅が、振動に係わる。
その声区内で音が上昇するにつれ、唇の緊張は増し、厚みは減少する。
一方、披裂軟骨の内面の接触面はボーカル突起/vocal process の終わりまで前進し、広がるだろう。そして、それによって唇の振動する長さを短くする。
声唇は深くではなく単に縁だけで接触することを除いて、中声またはファルセットは同様の動きの結果である。
両声区に於いて、声門は、披裂軟骨によって、後ろからその長さを減らされる、そして、粘着力が完全になるまで接触を進める。
これが起こるとすぐに、ファルセットは終わる、そして、声門は、声帯だけから成って、頭声区を生成する。
広い面によって空気に対する抵抗は胸声区を生み出す、そして、縁によって与えられるより弱い対立はファルセットを生成する。(Garcia 1894、8;∥また、1984、25を見よ)

【ガルシアが言うファルセットとは】
ガルシアは、ファルセットをどのようにとらえていたのでしょうか?
ファルッセットに於ける「より弱い抵抗」は、「しばしば弱く、ベールがかぶった」ような、そして、より多くの息を使う音になると言った。
『胸声よりも強くない声門唇の収縮が求められて、声が同じ音の上で胸声から中声に移るとき、声帯にある程度のゆるみが感じられる』(Garucia 1855、403)
彼の1855年の『Observation on Human Voice/人間の声についての観察』でGarciaは書いています:『骨突起[ボーカル突起]の活動が終わる瞬間に、女声に於いて、すぐに耳と器官自体に非常にはっきりわかる違いを示す。』(Garcia 1855、403) 別の言い方をすると、歌手がファルセット或は中声から頭声区へ移るにしたがって声門は短くなり、声帯の閉鎖はより強くなる。
スタークは言っています、上部声区に於いて、堅い発声とゆるい発声の間にあるこの違いがどうやら、ガルシアが頭声区が本当の声区か、或るいは、ただのファルセットの続きかを決めかねている原因のようである。
ガルシアは胸声に於いても同様の現象を観察したが、それらには2つの名前を与えなかった:

これらの動きにおいて2つの声区を比較するならば、それらの間で非常に多くの類似性を見つけ出すでしょう; 最初は骨突起と靭帯[声襞]によって形成されていた声門の側面は次第に短くなり、最後には靱帯だけになる。胸-声区は、声門のこれらの2つの状態に対応して2つの部分に分割される。ファルセット頭声区は、完全な類似性を提示する、そして、さらにより際だった方法で。(Garcia 1855、127)

ガルシアは、女声の中間の声を「ファルセット」と呼ぶことによって「古典的な誤解」を蔓延させたことを告発されてきました。しかし、Mackworth Young (1953)によると、生理学者達は1800年頃から、胸声区と頭声区の間にファルセット区を置いていた。従ってガルシアは、声の中間部にファルセットという語を使った最初の人ではない、と指摘しています。
『ファルセットは、特に女性と子供たちのものである。この声区は弱くて(faubke)、カヴァーされていて(couvert)、むしろより低い部分において、フルートの低い音に似ている。』
彼は、女性のファルセットが大体A3またはB3からC4またはCis4まで広がると言って、こう加えた。
『音声が[D4]より下に下降するほど、それらはより弱まる;[A3]より下で、それらはなくなる。』
女性の歌手がE5について達するとすぐに、声は『特徴的で輝かしく』なった。
これは彼が声帯突起(vocal processes)が充分に内転すると主張したポイントであった。そして、彼が頭声と呼んだものになった。(Garcia 1847、1:4、1984、xliv)
更に混乱させる発言は、『男性によるファルセットは、同じ性質であって、女性のそれと同じライン上に置かれる。
しかし、低い音声は[ファルセットで:山本]発するのが難しく、(胸声で同じ音声を生成するのにずっとよく適している)男性的な喉頭を避けて通る。』(Garcia 1847、1:8; 1984、xlvi~xlvii)です。Louis Mandl は、弱い中間声区を良く訓練されていない声の「穴/hole」と言いました。

ここで、ガルシアの意味することを理解するための鍵は、彼にとってのファルセットとは弱い声門閉鎖から来る、そして男女両方の声の中間部に見いだされる弱くて、覆われた音質であると言うことを十分に理解することです。

女性の声のファルセットの音域より上のより輝かしい声はGarciaによってfausset-tete(ファルセット頭声)と呼ばれた、そして、それは最も高い声でF6まで広がる。男性の声において、voix de teteが、昔のイタリアの言葉の感覚でファルセットと我々が通常考えるものと一致します。
Garciaの理論には一貫性があります、しかし、声区へのふたまたのアプローチ(声門閉鎖と、振動のさせ方を含む)は最も多くの読者に伝わりませんでした、と同時に、声の中間部分に対する用語ファルセットの使用は、広範囲にわたる誤解へと導びきました。
Garciaはこの誤解に敏感に反応し、抵抗するのをやめて声の中間部分のためにファルセットの用語を放棄し、より容易に受け入れる3-声区モデルを採用しました。 Hints on Singing において、『すべての声は、3つの異なった部分または声区(すなわち、胸、中声と頭)の形をしている。胸は最も低い場所を、中声が中間を、そして、頭が最も高い場所を持つ。これらの名前は不適当であるが、一般に受け入れられている。』とかいています。

【声区の均等化の方法】
Garciaの、声区を結びつけるための鍵は、堅固な声門の閉鎖のメカニカル原理の中に見いだされます。
彼は、それはゆるい声門閉鎖を使ったいわゆるファルセットの声 ― つまり、ブレークの上のオクターブ ― で、それ故、弱くて、不明瞭で、不安定で、効率が悪い点を指摘した。
『声門をきわめてはっきりと締めることは、我々がちょうど今指摘した弱点に対する救済策となるだろう。』(Garcia 1984、24)
『不明瞭な、フワフワした、鈍い音質を生成する方法を教えることによって、我々はそれを認識し回避する方法を学んだ。』(Garcia 1984、39)
Garciaは女性の生徒に『胸声区から離れる瞬間に、息の多いファルセット音声に向かう傾向に屈しないように警告した。』(Garcia 1847、1:28; 1984、51)
彼は、声区を均一にするために『声区の間のパッセージで、中断することなく、そして、気息音が多くなることなく、まずは音声[D4、Es4、E4、F4]上で1つの声区から他の声区に交互に移動することを練習するだろう』と言った。同じアドバイスは、男性にもあてはまる。(Garcia 1847、1:28; 1984、50-2)

問い、中声[またはファルセットの声区]が不明瞭で、継続的な漏出によって空気流出するとき、どうすべきですか?
答え、漏れは、声門唇が不完全に閉ざされているから起こる。鳴りは、[E4-C5]間のすべての音をシャープな声門打撃を伴うアタックで達成される。(Garcia 1894、15)

ここでガルシアは、輝かしい音の達成、息の効率化、声区均等化のために「声門の締め付け/pinching the glottis」を彼のcoup de glotte と同じものと見なしました。彼のアドバイスは胸声区と同じ堅い声門のセットを使うことによってファルセットの弱さを避けることでした。
彼は再び、ファルセットの弱さとcoup de glotte の奨励、並びに、sombre timbre(暗い音色)の使用について言及しました:

むしろ、多くの場合ファルセットの末端の音[Cis5とD5]は弱いのに対して、頭声区の先頭の音声[Es5、E5、F5]は、丸くてまじりけがない。この丸みとこの鮮明度は、ただ咽頭の位置と声門の収縮からのみ生じるので、軟口蓋をアーチ形にすることによって、そして、使っていないすべての空気の消失を回避することによって、先行する音にそれら(丸みと鮮明度)を与えるだろう。咽頭が暗い音色(sombre timbre)をとる位置によって、そして、声門を締めることによって、このようにこれらの声区が均一にされる。(Garcia 1984、45-6)

これは、声門音源と声道の両方が声区の融合に於いて重要な役割を演ずるという認識である。