[Preclinical Speech Science, Anatomy Physiology Acoustics Perception  T. J. Hixon, G. Weismer, J. D. Hoit 2008 p. 186  ]

口蓋垂(uvulus)筋は、軟口蓋の唯一の内在筋である。
筋肉の繊維は、口蓋骨(palatine bones)によって作られる後鼻棘(posterior nasal spine)の側面と口蓋挙筋palatal levator)によって形成される吊りひも(sling)の近くの硬口蓋の後方から始まり、そして、前方の柔らかい部分に沿っておよそ4分の1を占める。
筋肉は下および後ろにロープ状の形で進み、軟口蓋のほとんどの長さを通して広がる。
口蓋垂の繊維のうち実際に口蓋垂に入る繊維は極めて少ないが、筋肉の名前は歴史的にそれに由来する(AzzamとKuehn、1977; Huang、LeeとRajendran、1997)。
これは、この筋肉を口蓋垂の筋肉として命名することは、誤りであり、解剖学的に誤解を招くものであると主張する人もいます(そして、一見そのように思えます)。(MoonとKuehn、2004)。
いわゆる口蓋垂の筋肉の位置は、口蓋挙筋によって形成された吊りひもの上にあります。構造的には、ペアの口蓋垂の筋肉は、軟口蓋の上面の縦方向の凸面の役割を果たしています。これは、たとえあったとしても、筋線維が乏しい口蓋垂の領域でも同じことが言えます。その1つの理由は、各々の口蓋垂の筋肉を取り囲んでいるカプセル化したさやが口蓋垂に残存し、軟口蓋と口蓋垂の間である程度の凝集性を与えて、後者を桁状にしているからです(KuehnとMoon、2005)。
口蓋垂の筋肉が収縮するとき、単独でも、組み合わせても、いくつかの効果を発揮します。これらには、(a) 軟口蓋を短くする、(b)軟口蓋を持ち上げる、そして、(c)軟口蓋の厚み(かさ)を、その長さの4分の3に増加させることが含まれる。ペアの口蓋垂の筋肉の機能に関する伝統的な考え方は、これらの影響(軟口蓋の上部の硬さのコントロールを含む)の中で、軟口蓋を短くすることに集中する(Kuehn、FolfinsとLinville、1988)。軟口蓋の後部に作用する硬直は、口蓋挙筋の収縮によって軟口蓋にかかる変形を打ち消すことができるでしょう。これは、組織の全体的なかたまりを動かすというよりは、軟口蓋の最上層が上へ伸びること回避します。また、口蓋垂の筋肉は、曲がった構造物を後咽頭壁に向かって構造物の後半分を回転させる柔軟性のある梁のように振る舞うようにするために、口蓋垂の上部内で力を発揮するように作用するとも考えられます。(手のひらを下に向けて曲げられた指を伸ばすことにやや似ている)。この場合、口蓋垂の筋肉は、軟口蓋と後咽頭壁の間の距離を短くするか、両者の間の接触そして/また接触力を促進する筋肉として機能します。

訳:山本隆則


[Moon & Kuehn (2004)]

口蓋垂筋

口蓋垂筋は、発声の間、口蓋帆の鼻腔面の後面の口蓋帆隆起と呼ばれるふくらみを作るために収縮します。この膨張は更なる硬さを提供して引き締まった口蓋帆咽頭シールを確保するのに役立ちます (Huang, Lee, & Rajendran, 1997; Kuehn, Folkins & Linville, 1988; Moon & Kuehn, 1996; Moon & Kuhen, 1997)。ペアの口蓋垂筋は口蓋腱膜の領域から始まって、口蓋帆の正中線上に並んで配置され、口蓋帆挙筋のすぐ上に位置します。それらは、口蓋帆の唯一の内在筋です(Kuehn & Moon, 2005; Moon & Kuehen, 1996)。これらの筋肉の名前は、口蓋垂の中には存在しないという点で、やや誤解を招きやすいことに注意が必要です。実際、口蓋垂は極めて少ない筋線維しか持たないので、口蓋帆咽頭閉鎖には関与しません

訳:山本隆則


[ゼムリン「言語聴覚学の解剖生理」原著第4版、舘村 卓:監訳、274-275]

口蓋垂筋 Musculus uvulae (Azygos uvulae)

口蓋垂筋はしばしば、対の筋肉と考えられるが、解剖学のテキストでは、それは不対、azygos (奇状、不対)であるとしている。それは、口蓋骨の後鼻̪棘と近隣の口蓋腱膜から生じる。後方に向かって軟口蓋全長を走行し、口蓋垂(軟口蓋の正中で垂れ下がった構造)にはいる。

収縮すると、この筋肉は軟口蓋を短くし、持ち上げるが、その機能は議論の対象外というわけではない。例えば、英語会話では口蓋垂は特定の役割を果たさないようであるが、他の言語のなかには重要な調音器官として機能している場合もある。口蓋垂(図4-80で示す)は、編成した物または遺残とかんがえられることもしばしばであるが、比較的高度の哺乳類だけに存在する(Kaplan, 1960; Palmer and LaRusso, 1965)。

口蓋垂の長さと厚みには相当なバリエーションがあり、非常に長い口蓋垂は、かつて「嘔吐を防止するために」として切除されたこともある。口蓋垂は、どのような長さであろうが、たぶんまったく何も問題を起こさないだろう(DeWeese and Saunders, 1973)(訳者注、長すぎる口蓋垂は睡眠時無呼吸症に伴ってみられることがある)。