Helmholtz’s Acoustical Theory ヘルムホルツの音響理論
[James Stark, Bel Canto p. 46]

多くの側面に於いて、ガルシアの共鳴理論は,彼の教育的目的に対しては簡潔で正しく十分なものである、しかし、現代の基準ではそれで十分とは言えない。発声共鳴の特殊性に関するより完全な説明は、現代の音響理論の発達を待たねばならなかった。この理論の基礎はHerman Helmholtz の記念碑的書物、On the Sensations of Tone によって築かれたこの本の初版は1862年のドイツで、1885年に Alexander J. Ellis によって英語に翻訳された。(日本では、2014年に「音感覚論」として銀河書籍から辻伸浩のすぐれた翻訳で出版された:山本) 音響学は、Helmholtzの専門分野の1つにすぎないが、しかし、それは彼がもっとも記憶される1つである。

ヘルムホルツは、音は基音のピッチと基音周波数の倍数の周波数である上部の 部分音(partials)、または上音、倍音 (overtone) からなっている。実験用の目的のために人間の死体から喉頭を解剖した生理学者 Johann Müller (J. Müller 1837) との研究から、ヘルムホルツは、声門は、息の流れを小さな空気の一息(puffs of air)に切り刻む声音の最初の音源となることを理解していた。彼は、強い声は声門の閉鎖に於いて「完全な堅固さ(perfect tightness)」が必要であることを確認した。彼は18世紀初頭に音楽理論家の Jean Philiipe Rameau がすでに声の倍音を記述していることを記している。ヘルムホルツが特に注目するのは、男声に於いてピアノの1オクターブ上に相当するエネルギー・ピークがあり、それは「小さなベルが鮮明にチリンチリンと鳴っている」ような音だと言う。彼は:「このようなチリンチリンと鳴る響きは、人間の声に特有のものである;同じ方法でオーケストラの楽器は、明瞭でも、強くもその響きを作ることはない。私は、他のいかなる楽器からも人間の声ほど明瞭にそれを聞いたことがない… 人間の耳をそのように鋭敏にした倍音がそのように豊かであるのがまさに人間の声であることは、確かに注目すべきことである」と言う(Helmholtz 1885, 116, 103)。
ヘルムホルツはまた、後にフォルマント理論として知られるものの骨組みも作った。音叉と共鳴体の使用により、声道の形(今日ではよく「調音;articulation」と呼ばれる)によって決まる共鳴が存在することに気づいた。これらのフォルマントと呼ばれる共鳴は、それらのそばにある減少するあらゆる部分音を増幅する。ヘルムホルツは、母音は低い方の2つのフォルマントによって決定されることに気づいた。また、フォルマントは男性、女性そして子供によってわずかに変化することも発見した。彼は、女声の高音では母音の修正をしなければならないことを観察した;「歌唱状態…特に高い音程に於いて、母音の特徴付けにとって望ましいものではない。誰でも知っていることだが、普通話しているときよりも歌っているときの方が言葉を聞き取るのは難しい、そして、その難しさは、同じように訓練された女性よりも男性の方が少ない。もしそうでなければ、オペラやコンサートの対訳本は不必要になってしまうだろう。」(114)

Allexander J. Ellis (彼れはヘルムホルツの弟子であり翻訳者)は、影響力のある Pronunciation for Singers (1877) など、何冊かの重要な本を書いた。この著書で、彼はヘルムホルツの声の共鳴の記述を、発声音源と声道の相互作用によって起こる音響現象あることを確認した:『すべての楽音とすべて歌われた母音は、それらが歌われる音の単一の部分音群の相対的な音量によって決定される音質を持つ。そして、この相対的な音量は、空気が直接振動本体で刺激されることによって、部分的に決定され、そして、振動本体によって刺激された空気の振動が、外気に達する前に伝えられる腔の空気の共鳴によって、部分的に決定される』(Ellis 1877, 9)Ellis によって音響音声学(acoustic phonetics)の研究は、話し声を作る際の「調音器官」(舌、アゴ、唇、軟口蓋)の操作に集中する調音音声学(articulatory phonetics)に取って代わられた。Ellis は、現代国際音声アルファベットに先立つ音声スペリングシステム、Glottic を考案した。彼がこれを解決しているほぼ同時期に、A. Melville Bell (Alexander Graham Bell の父親) は、Visible Speech (見える話し声) 1867年を出版し、それには、話し声をフォーメーション中の調音器官の形が示されている。EllisとBell は、話し声の実際的な研究のための音響理論の重要度を変えた。