肺から供給される呼気流は、それ自体では聴覚で感受されるような音圧変化の原因とはならないが、声門あるいは声道の作用によって、呼気流の持つ運動エネルギィーに変換することが出来る。このような音波の発声の原因となる部位および物理現象を、音声の音源(source) と呼ぶ。

音源として重要なものには、まず、声帯によるものがある。通常の呼吸時には、声門の間隙は数mm程度とかなり広いが、有声音の発音に際しては通常この間隙が零に近くせばめられる。… 声門を通過する乱気流の量に対して、声門間隙がある程度以下にせばめられると、声門部の空気と声帯との相互作用によって、声帯は持続振動を起こす… その結果生ずる周期的な呼気流の継続によって、数十ないし数百Hzの基本周波数を持った喉頭原音(glottal sound)が発生する。これを母音や有声子音の音源と見なした場合、声帯音源(glottal source)という。
その基本周波数および振幅は、声帯の振動部分の長さ、張力および声門下圧(subglottic Pressure)に依存する。このほか、声門では、次に述べる乱気流音源を発生させていわゆるいきの音(aspiration) あるいはささやきの音(whispered sound) を作り、また声門をいったん完全に閉鎖した後に急速に開くことによって、いわゆる喉頭破裂音(glottal plosion) の音源を作ることもできる。

今一つの音源の生成機構は無声音のそれである。 たとえば無声摩擦音の例として子音[s]の生成をみると、舌先にちかい舌端と歯の裏面とが極度に接近してせばめ (constriction) を形成するため、この部分を流れる呼気の流速がある限界値に達すると乱流が起こり、可聴周波数全域にわたる連続スペクトルをもつ雑音源信号を発生する。 これを乱流音源(turbulent noise source)という。
[音声科学 大泉充朗 監修 藤村 靖 編著 1972  p. 98-99]