肺から送られた空気流が声帯による作用を受け、咽頭、口腔、ときには鼻腔によって変化させられて生み出された音が音声である。
つまり、声帯が呼吸メカニズムから必要とするのは、肺から送られる空気流であり、その空気流を生み出すのは、肺の中にある空気の過剰な圧力である。その圧力を、声門下圧という。

ここで、特に日本で発声教育を受けた人々にとって注意しなければならないことは、息の圧力と息の量との混同です。オペラ歌手達が歌っているときの胸の形を見ると、高い位置で大きく開いていますが、あの胸の形は、大量の息の貯蔵庫ではなく、圧縮機/compressor としての機能をはたすための形であることを理解しましょう。十分な息を取るのは、不十分な息よりも圧力を高くするのに便利だからである。この件に関するいろんな証言は、「息は充分に吸いなさい、しかし吸い過ぎには注意しなさい。」や、過去の偉大な歌手達が、出来るだけ少ない息で歌うことを奨励していますが、十分な声門下圧で歌う歌手は、限りなく息の消費が少なく大量の息を貯蔵しておく必要が無いからです。ゴムホースから流れ出る水を考えてみましょう。大量の水がそのまま流れるときと、ゴムホースの出口を強くつまんだときの違いを見ると、圧力を加えられればそれだけ流れる水の量は少なくなります。つまり圧力と量は反比例すると言うことです。
ただし、圧力を可能な限り高くすると、気張り声しか出せません。重いものを扱うアスリート、例えば重量挙げや砲丸投げの競技では、体内に取った息に非常な圧力をかけてそれをエネルギーとして極限の力を発揮します。しかしオペラ歌手の場合、声門下圧をつくり出す筋群は、声帯の機能に影響を与えていないと思われ、声帯下圧をつくり出すさいの筋肉の選択は声帯に影響を与えていないと考えられています。