Freilau(自由走行唱法)

Minimalluftアプローチから生まれたフォネイションのタイプとして、BrunsはFreilauf(「自由走行唱法」)を特定した。彼は、Freilauf現象を「すべての音域、幅、運声力と感応性において、すべての潜在的な響きの可能性を包み込む」音と説明した。彼は、この響きを獲得する方法は呼吸に関係するすべての筋肉(腹筋、肋間筋など)をリラックスさせて、空気と横隔膜に仕事をさせることであると言った。
Brunsは、横隔膜が不随意筋であるので、このようにバランスのよい音をつくることは、発声に関係する他の筋肉に積極的に影響を及ぼすと述べた。[Bruns, Minimalluft und Stutze, 94.]

 

この言葉は声楽教育者パウル・ブルンス(Paul Bruns; 1867-1934)によって造語され、輝かしく用いられた。ブルンスの信奉者たちの演奏において、この自由走行唱法は聞き手を根底から驚愕させた。それは一種の声の癲癇、最高音域に至るまでの〈上方への転落欲〉のように思われた。一見ヒステリックで、一種ヨーデル的で、トリル的でもある発声で、声を無拘束に爆発させ、音高的にも、テンポ的にも、リズム的にも全く秩序を欠いていた。
この〈発作にみまわれた〉女性歌手(男声歌手はより少なかった)の声楽的実践では、自由走行唱法というこの現象は、それによって高められた高度の演奏技術ほどセンセーショナルに賞賛されるところまでは、必ずしもいたらなかった。
声楽技術に於ける〈自由走行唱法〉というブルンスの本来の意味に対して、次のような問いが浮かんでくる――この美しい語によって、躍動に富み、リズミックで、生き生きと抑揚をつけられ、自由なのどの、輝くばかりリラックスしたコロラトゥーラの軽快さを名付けてみてはどうだろうか? この場合、まず名称が先にあって、その名称にふさわしい内容を後から求めるということになるわけである。

[フランチェスカ・マルティ―セン=ローマン、荘 智世恵、中澤英雄 共訳、p. 115]