Caruso あ母音

母音 A

Caruso お母音

母音 O

Caruso う母音

母音 U

Caruso い母音

母音 I

エンリコ・カル-ゾー(1873年2月26日~1921年8月2日)は膨大な録音といくつかの映画を含む映像を残しましたが、残念なことに当時はサイレント時代であり、歌唱と映像の同時録音はありません。写真は、すばらしい衣装をまとった、プロマイド的な物はたくさん残っていますが、歌っているときのものは案外少ないのです。

Caruso え母音

母音 E

右の写真は、マラフィオッティの「カルーソー発声の秘密」の中から引いた、5つの母音を歌っているときの顔です。
(E母音は、おそらく歌の内容のためのものと思われます)
E母音以外の母音に共通する顔の特徴は、眉の角度です。4つの写真の鼻から下を手で覆うと、すべて泣き顔にみえますが、反対に、目から上の部分を覆うと笑顔のように見えます。とくにO母音は、頬骨が高く、唇の形が横に引かれているので、この写真を見てO母音であると判断する人はいないでしょう。普通は、眉の形が下がれば、唇の形は縦になります。
このカルーソーの顔は明らかにある重要な共鳴体の形を示しています。
最も注目すべきポイントは、顔の上半分と下半分が矛盾しているということです。
眉の両端を下げると、基本的に喉頭の位置が無理なく下がり、さらに、口峡上部が前に向くのでその結果咽頭腔が大きくなります。しかし、音色は暗くなり声帯の振動もぼやけたものになります。
その対抗措置として、唇の形は横に、頬は高く引き上げられ、舌の後方は高く保たれることによって、声帯振動を妨げることが防げるのです。どちらかの要素がないと、その声は、それぞれ暗いこもった傾向になるか、明るいが平べったい白い声になります。

オペラボイスの特徴は、キアロスクーロと言われます。chiaroscuroとは、chiaroは明るい、oscuroは暗いを意味し、もともと絵画のテクニック明暗法から取られた言葉です。
カルーソーの歌っているときの顔の形は、まさにキアロスクーロの表情といえるでしょう。この表情が、あの多彩な声を生み出す大きな要因の1つであるといえるでしょう。

声の質は、音色や音質といわれますが、それらは何を意味しているのでしょうか?
音色とは、共鳴に関連します。喉頭が上昇すると声帯から唇までの声道や共鳴体である咽頭腔が短くなり明るい音色が生まれ、反対に喉頭の位置が下がるとそれらは長くなるので音色は暗くなります。つまり喉頭の上下変化にとって音色は決定されます。
一方、音質とは、振動体に関連するもので、声帯がしかりと閉鎖して振動しているときは音質は堅くクリアーなものとなりますが、声門の締まりがゆるいと声帯の隙間から漏れる息の量が増え音質は鈍く不鮮明になります。
この2つの変数のバランスを調整することによって歌手は無限の音質と音色を使うことが可能になるのです。また、ピッチの上下によって音声は明るくなったり、暗くなったりします。それ故、高い音は暗めに、低いおろは明るく出さなければ声質のバランスは保てません。それ故、高い音と低い音で母音は修正されなければなりません。イタリアで昔から言われている「純粋母音」は、ただ1つだけではなく、音程によっていくつもの「純粋母音」が存在すると言うことになります。
優れた発声技術とは、唯一の音質音色を追求する事ではなく、さまざまな音質音色を自在に変化させる能力を獲得することと言えるでしょう。

口の開け方に関するカルーソー自身の発言が残っています。[同上、p.84]
「良好な喉の開きを得るために、口の両端を開くことと同時にあごを充分に下げることが必要である。より高い音をとる際に、もちろん、少しより広く口を開かなければならないが、ほとんどの場合、口のポジションは微笑んでいるようになる…人が技巧に十分に塾達しているならば、口を目立つほど開かなくても、単に呼吸の力だけで、完全に喉を開けることができる。」(太線強調:山本)
唇を横に開くことと、あごを充分に下げることは矛盾する動きであることに注意しましょう。

また、完全に喉を開くためには呼吸の力が必要であることが言われていますが、これは非常に重要なことで、この項の限界を超えており、詳しくは述べません。 しかしここでは、たとえどれほど良好な口の形を取ったとしても、呼吸の力が準備されていないならば,その口の形は有効に働かないと言うことだけを指摘しておきたいと想います。