THE FUNCTIONAL UNITY OF THE SINGING VOICE
Second Edition
by

BARBARA M. DOSCHER

Chapter 3

PHONATION

音を作るコンセプトは単純な活動である、しかし、実践において、それは人体によって行われるあらゆる仕事と同様に複雑である。我々は呼吸の周期的な過程と喉頭の筋肉組織とその隣接する領域を検討する。今や、我々はモーター(呼吸)と振動体(声襞)の連携作用にたどり着いた。共鳴体の機能は、後の章で調べられるだろう。

機能が望み通りの平衡を得るために、繊細で厳密な筋肉調整が必要であることについて疑問の余地はない。発声の最中での、歌手の第一の仕事は、空気流と振動体の筋肉緊張の間の最も効率的な釣合いを達成することである。

発声(phonation )は、サウンドを作る行為である。用語法の明確さのために、それは音声学(phonetics)と同じでない。音声学(phonetics)はスピーチ・サウンドに関する研究と系統的な分類を意味するが、その一般に普及している含みは言葉の発音と調音を指す。
声帯の解剖学的構造は、前章で少し詳しく述べた。それらの驚異的な強さと反発力を考えると、それらは驚くほど小さな筋肉である。それらは、長さで、低い男性の声の2.2cmから、子供の0.95cm、そして、幼児のたった0.3cmまで異なる。赤ん坊の声のスタミナと泣き声の投射は、最適動作の証拠である。

声帯が合わさるにつれて、声門下の空気圧(声帯の下で)は上がる、そして、声門を通過する流れの速度は増加する。声門の隙間がおよそ3ミリメートルまで狭くされるならば、空気流のほんのわずかな量で充分に襞を振動させることができると推定される。(1) 声帯における空気流のこの働きはベルヌーリ効果と呼ばれる空気力学的法則によって説明することができる。気体が流動しているとき、それはその回りの標準圧力より低くなる。(2)「気体分子の運動が活発になると、圧力は減少する。」という別の言い方もできる。(3) 空気は、気体である。したがって、声唇が互いに十分に接近しているとき、空気は声門の隙間を狭めるためにより速い速度で動く。その結果、襞の縁の間は、減圧される又はマイナスの圧力となリ、それらは文字通り互いに吸い寄せられる。ベルヌーリ効果を例示するために簡単なやり方がある。2枚の紙を用意し、それらを少し離して持ち、それらの間の空間に穏やかに息を吹き込みなさい。紙は、互いに引き寄せられるでしょう。各シートの外側にある通常の大気圧は、それらの間に吹きつけられている内側を流れる空気より大きい;空気の速さが増すことによって、圧力は減少する。

この空気力学的な活動に、筋弾力線維性(筋肉)のものを加えられなければならない。声帯が閉ざされているとき、声門下圧が声帯の緊張より大きくなるまで空気の流れを止める。その次に、空気の小さいパフが漏れ、声帯閉鎖がさらにまた空気の流れを止めるまで圧力を減らす。
発声は、筋弾力線維性ー空気力学的な現象である。

高速画像(毎秒4,000コマ)は、空気力学的な要素を強調する声帯振動パターンを示す。
筋肉要素は存在するが、古くからの筋肉緊張対呼吸圧力が全体像を与えるコンセプトはもはや受け入れられない。視覚的な証拠は、しばしば、声襞の筋肉部または前部が、披裂軟骨が軟骨部または後部を合わせることができるより速く吸い付けられることも確認した。(4) 声帯の振動速度がとても速いので声の開始へのこれらの2つのアプローチの違いは、高速画像を通さないと見ることも調査されることもできないが、結果として生じる音声の違いは識別力のある耳にはわけなく聞きとれることができる。ブラス奏者は、空気力学的なアプローチを「スイート」アタックと、そして、筋弾力線維性のアプローチを「うなり」アタックと言う。

同時アタック、又は「スイート」アタックのための現象の順序は、以下の通りである:

(1) 息の流れは、声門を吸い込んで閉じる
(2) 呼吸圧が声門に吹きつけて開くまで、流れは止まる
(3) 空気の流れは再び始まる、そして、サイクルは繰り返される

毎秒440サイクルのA4のために、ちょうど記述された進行が1秒につき440回起こる。
声門を閉じる内転筋と流れる空気の2つの要素は、完全なアタックを達成するために、同時に起こらなければならない。
声門は、振動の1サイクルに1回、開いて閉じる。
これらの2つの活動は、内転(くっつける)と外転(離す)と呼ばれる。Fig. 21 Abduction and Adduction of the Vocal Folds

図21 声帯の外転と内転

図21で声帯を見ると、それらが内転させられている正しい形を示している。
左の図で、それらは静かな呼吸のために外転させられる。
激しい、速い呼吸(図示せず)の間、より空気が声門を通過することができるように、それらは外へ曲げられる。
避けられなければならない2種類の発声がある。息が声帯の接近の前に流れているならば、バルブをゆるめることは発声の前に起こる、そして、音声は完全な内転が達成されず気息質の音から始まる。この種のアタックは大人ではまれである;気息音が混じることは貧弱な呼吸、そして/あるいは、非効率的な共鳴によってより一般的に生じる。含まれる美的問題にかかわらず、帯気音アタックは声にとって破壊的ではなく、ただ非効率的な種類の発声生成である。

声門の破裂音は、しかしながら、破壊的で、声帯結節(声帯の上の小さなたこ)に至るだろう。硬い起声では、披裂軟骨は互いに鋭く合わせられるれる、そして、呼吸圧は筋肉緊張に打ち勝つために加圧される。筋肉緊張の程度は一般に、そのプロセスがどれほど損害を与えるかを決定する。声門の破裂音は軽い咳と同様である;それは声にとって健康ではなく、最終的に、喉頭にいくらかの障害を引き起こすだろう。しかしながら、披裂軟骨が互いに打ち付けられ、そして、空気が聞き取れるポンという音で声帯を打つならば、ダメージはよりひどく、本当に短時間で起こることもある。これらのコンディションの下で、喉頭は、極度に締めつけられて、喉が上がり、披裂軟骨はきつく互いに押される、そして、声帯の筋肉部分がまったく振動し始める前に、かなり多くの振動サイクルが起こるだろう、(この「硬い」声門のアタックは、ロック歌唱のいくつかで、チアリーディングで、スポーツ大会(例えばフットボールまたはバスケットボールの試合)で叫んだり絶叫しているとき、または、騒がしいパーティーの席などで一般的である)。咽喉科学者はこの種の発声が極度に有害であることを確認する。そして、物理的に何が起こるかについて理解しているすべての歌唱教師と合唱の指揮者は、その使用に反対する倫理的な義務を持つ。それが使われるとき、歌唱楽器の機能的な自由は、不可能となる。空気は過度の圧力の下にある、声帯は酷使され、喉頭は一般に高い位置にある、外因性筋肉組織は衰弱する、そして、共鳴腔は狭く、圧迫されている。

高周波のために、振動サイクル数が増加し、声帯は一般により長く張り詰めたようになる;低周波は逆になる。低周波振動の別の特徴は、垂直面の相違と呼ばれる。声帯は厚く、声門は最上部が閉まる前に底面が閉まる、同じように、最上部が開く前に、それは底が開く。この活動は、声帯が旗を振っているように見え、逆に声帯が薄い高い周波数では垂直面の相違はほとんどない。

Manuel Garciaがクー・ドゥ・グロッテの使用を主唱したとき、彼が意味したものをめぐる論争が今でもある。そのフレーズは、声門の打撃は声門の調音(微妙な意味論的ポイントで)を意味するのか? 1890年にMorell Mackenzieが、そのテーマを論議することに、或いは、1つの側面または別のものについて主張する必要性を認めなかったことに注意することは興味深い。彼はGarciaとある項目または教育学的ポイントについて意見が合わなかったが、明らかにクー・ドゥ・グロッテはそれらの1つではなかった。Mackenzie博士は、「クー・ドゥ・グロッテまたは喉頭での空気の到達とそれを受ける声帯の調整の間での正確な一致は、いくら強調してもしすぎることがないポイントである」と言う。(5)  いずれにしても、Garcia自身は、正しい調音を彼が胸部の打撃と呼んだもの(それは咳のようである)と混同することのないように警告した。(6)  20世紀のテクノロジーは、咳において起こることについて、そして、普通はそれほど強くはないが、声門の破裂音は同様に形づくられることを我々に示した。一方、空気力学的な筋弾力線維性のアタックでは、純粋な、明確な調音は、振動体が酷使されたり、空気が無くなったり、あるいは不十分な特に筋肉的な圧力を生み出したりする危険性がなくなることが目的である。

声門下圧は声帯のすぐ下の圧力であり、呼吸と発声の要素の複合システムの結果である。極めて弱い発声では、例えば、おおよそ3cm H2Oの低圧で十分なものは、主に肺と肋間筋の、受動的な反動によって発声できる。およそ20cmH2Oの圧力があれば、歌うことや話すことにかかわらず、大きい声でもおそらく充分である、しかし、並外れた歌唱コンディションの下では70cm H2Oでも可能である(しかし、おそらく望ましくない)。逆に、150cmH2Oまでの声門下圧は、重いリフティング中か、いくつかの金管楽器の演奏のために用いられる。(7)

声門下圧/空気流の両極端の間の比率が「通常の」発声での多くのバリエーションを可能にする。一方、正しい声門下圧を使い損なうならば、歌手は絶えず調子外れに歌うこととなる。一般に強弱の変化よりも歌われる音の振動数の方が重要なので、我々が高い声門下圧と言わなかった点に、あなたは注意するだろう。

高い圧力の後、うまく低い音に到着するために、適切に声門下圧を減らすことが必要である。減少が十分にされなければ、低音にとって声門下圧は高すぎるだろう、そして、極端な場合、声帯はこのようなコンディションでの振動がさらに難しくなるだろう。(8)

最も長い音楽フレーズのために必要とされる空気量の問題(第1章で論議された)のように、個々の歌手の間にかなりの違いがある。おそらく少なすぎる圧力より多すぎる圧力の方がよく見られる。特に多くの歌手の競争心の強い個性を考えると。万一歌手が空気を使い果たしたときのために、空気流を減らし声門下圧を増やそうとする。その場合、適切な比率はバランスをなくし、固い、押された音になる。

Ingo Titzeは、Journal of the Acoustical Society of Americaの最新号の声門の空気力学に関する魅力的な論説で、歌手は与えられた肺圧力に非歌手より2~3倍強いピークの気流を得ると述べる、そして、彼は振動体と共鳴体の間で最適の移動について仮説を設ける。(9)
与えられた声門下圧に対してより大きい振幅を得るために、歌手は声帯のさらなる濃厚化、声帯靭帯をゆるめる調整またはより大きな気流を使うだろう。

基本振動数と音の強さを決定する要素は以下の通りである:
(1) 声帯緊張または声門の抵抗
(2) 空気力学的な力(気流に対する声門下圧の比率)
(3) 声帯の長さ
(4) 声帯の質量
より低い振動数で、ピッチと強さのコントロールは声門の抵抗、声帯自身の閉鎖度と閉鎖時間(声帯筋と輪状甲状筋の相互作用によって主に決定される)によって調節される。しかし、より高い振動数では、声門の抵抗はもはや主な要素ではなく気流である。これは、空気の流れが高い振動数での強さの唯一の決定因子であるということを言っているわけではない。1965年という早い時期にある研究は、低い周波数では、大きな強度によって「流速量は、ほとんど影響を受けない」、しかし、高い周波数では、声の強さが10デシベルの増加に対して流速はおよそ二倍になった(男女両方で)ことを示した。(10)  言うまでもなく、第1章で行った呼吸テクニックのように、肺圧と声門の抵抗の組合せは、個人の声と歌唱テクニックで、そして、歌手の肉体的な条件で非常に異なる。

GauffinとSundberg(1989)は、完全な声門の閉鎖と組み合わせられる最も高い可能な気流を持つ種類の生成のための「流れ発声flow phonation」という用語を提案する。(11) 流れ発声が過剰な空気使用を擁護すると考える批評家に対して、著者は言う「…豊富な空気流は声帯機能にとって有益であることはしばしば擁護される。」(12)

TitzeはGauffinとSundbergに同意して、印象的なやり方で彼が実証する論証を説明する。 以前にリストアップされたより一般的に使用される要素の代わりに、彼は、声の強度を定める調整の3つの種類を引用する。(13)
(1) 喉頭の下で
(2) 喉頭の内で
(3) 喉頭より上で
喉頭の下で、空気力学的な力は、声門下圧と気流の産物である。
喉頭の範囲内で、この空気力学的な力は音響の力に変換される、そして、この変換のためのコントロール・メカニズムは発声-前声門の幅である。
「流れ発声」の間に、披裂軟骨の声帯突起のかすかな開きは、声門の幅の増加のしるしである。その場合、声門幅によるこの変動率は、声門下圧による変動率とどのように関係するのか?圧力が一定に保たれる場合、音響の力が上昇すれば、声門の幅の1ミリメートルの増加によっておよそ3dBが主に増加すると、Titzeは言う。(14) 彼はさらに、4-7dBの変化は、声門幅によって声門下圧を二倍にすることで、8-9dBの増加に匹敵することが可能であると推理する。(15)
調整の速度と微妙なコントロールを要するとき、前者(声門幅の増加)は優先される。また、それは、明白な理由によって、声帯筋肉組織はほとんど疲れない。多くの教育者は、やや気息質の音よりもむしろ高周波で大きいデュナーミク・レベルを支持するが、どんな代償が、力による、押された発声のために払われるか?別の最近の研究において、「…専門的なテノールは、主にピークの空気流が同じ圧力に対してより高かったので、非歌手より10-12dB大きい強度を生成した。」(16)

「適切な」比率は、ピッチ、強度、母音、声区とデュナーミク・レベルの組合せによってかなり異なるので、行為の正確な方法は、不可能でないとしても、分類するのは難しい。「(喉頭抵抗の複雑さと連結する)調音器官によって気道抵抗の複雑さが生じたとき、…筋肉労力の間の相互作用が考えられて、気流、気道抵抗、そして、事実上声門下圧は説明のしようがない。」(17) 歌手と歌唱教師は理解する必要がある、それらは「スイート」アタックを達成するために互いに働くにもかかわらず、しかし、その気流と声門下圧は同じでものではない。これらの相互作用の逆説的な性質は、Wilbur J. Gould博士(発声財団の共同議長)によって記述される。

より大きな強度を生成することは、より大きな労力を必要とするように思えるだろうが、この増加する労力は主として主観的なものである、そして、訓練によって、ほとんど労力が必要なくなるようになるまで労力の意識は減少する。(18)

18、19世紀の古典的な教育の本、伝説的な歌唱教師によって書かれたそれらの大部分に、「息の上で歌う」コンセプトは何度も繰り返されている。さらに、我々が今日もっているような科学的な証拠なしで、彼らは求められる完全なアタックと適切な空気力学的パワーを聞き取り、確認した、そして、彼らは聞いたものを記述しようとした。「息の上で歌う」は、これらの師匠達の経験的アプローチの理想的な例証である。西洋古典歌唱の基本的な方法論が彼らの教育的コンセプトで反映されるので、彼らの著作の注意深い研究から学ぶことは多くある。(19)

発声の空気力学的な筋弾力線維性の性質を考慮して、過度の筋肉圧力よりもむしろ息の流れを強調することは望ましいようである。過剰な空気流は多分好ましいだろう、確かに、十分でないより損害を与えない。最上の発声は、声門下圧が豊かな気流と声帯の堅固な閉鎖の結果であるときに生じる。一方では、過剰な腹筋の圧力を通して不十分な気流を矯正しようとすることによって生成される声門下圧は、おそらく声帯の過度の筋肉緊張と同じくらい、非効率で、潜在的に有害である。

すべての歌手のために有効となる呼吸メソッドを工夫するより、やってはならないことを明らかにすることの方が、疑いなくずっと楽である。唯一真の意見の一致は、腹式呼吸(または横隔膜)と胸式呼吸の組合せが空気流と振動する声帯の間でベストの協力作用を促進するということである。

 


(1)[Zemlin、「スピーチと聞くこと」(Speech and Hearing)、前掲書、144。]
(2)[Vennard、「歌唱」(Singing)、前掲書、39]
(3)[Raymond H. ColtonとJanina K. Casper、Understanding Voice Problems(Baltimore:WilliamsとWilkins、1990)、286。]
(4)[Vennard、「歌唱のベルヌーリ効果」(The Bernoulli Effect in Singing)、NATブリテン、17:3の(1961)、10。]
(5)[Morrell Mackenzie、「発声器官の衛生」(Hygiene of the Vocal Organs)(London:Macmillan、1890)、110]
(6)[Manuel Garcia、「歌唱の技巧」(The Art of Singing)、パートI(Boston:Oliver Ditson、約1855)、11。]
(7)[ R. LeandersonとJ. Sundberg、「歌唱のための呼吸」(Breathing for Singing)、Journal of Voice、2:1の(1988)、4。]
(8)[同上、10]
(9)[Ingo Titze、「発声閾値圧力:声門の空気力学の失われた環」(Phonation Threshold Pressure: A Missing Link in Glottal Aerodynamics) Journal of the Acoustical Society of America、91:5の(1992)、2926-2935。]
(10)[N. Issiki、「声の強度と空気流量」(Vocal Intensity and Air Flow Rate)、Folia Phoniatrica、17:2の(1965)、92-104。]
(11)[Jun GauffinとJohan Sundberg、「声門の発声音源波形特性のスペクトル相関」(Spectral Correlates of Glottal Voice Source Waveform Characterristics)Journal of Speech and Hearing Research、32:3の(1989)、559。]
(12)[同上、563]
(13)[Ingo R. Titze、「声門下圧で声門幅による声の力と有効性の調節」、19章、声帯生理学:発声生成、メカニズムと機能、Osamu Fujimura(ed.)(ニュー・ヨーク:プレス(1988))、227-238]
(14)[同上236。]
(15)[ 同上237。]
(16)[Ingo R. Titze and Johan Sundberg, 「話者と歌手の声量」(Vocal Intensity in Speakers and Singers)、 Journal of the Acoustical Society of America, 91; (1992), 2936]
(17)[Zemlin、「スピーチとヒアリィング」(Speech and Hearing)、前掲書、92]
(18) [W. J. Gould、「肺-喉頭部システム」(The Pulmonary-Laryngeal System)第3章、声帯生理学、K. N. StevensとM. Hirano(ed.(Tokyo:University of Tokyoプレス、1981  26)。]
(19) [Berton Coffin、Historical Vocal Pedagogy Classics(Metuchen、N.J.:Scarecrowプレス(1989)。18の論説の再版は、当初1981~1984年にNATブリテンで出版された。)]