以下の見解は、StarkのBel Canto、第1章にあたるガルシアのcoup de la glotteからの引用ですが、まず、Starkは、ガルシアのcoup de la glotteに対する長らく続いたこの技術に対する誤解をとき、この技術の重要性について、彼自身の認識を詳細に書いています。ガルシアは、coup de la glotteを用いる目的について、声の出だしをずり上げや曖昧な音からではなく、意図したピッチ強さ音質などがストレートにクリアーに出すことだと言っています。そのためには、発声前チューニングをはじめ神経系のメカニズムに対する認識が不可欠となります。
また、Starkは、一般的にcoup de la glotteを声門破裂(glottal plosive)と理解し、日本語にも訳していますが、これを否定している点に注目しなければなりません。
詳細は、StarkのBel Canto、1. The Coup de la glotte: A stroke of Geniusの翻訳を見てください。
[Stark, 1990 29-30]
起声とその結果として後に続く発声フォームとの重要な関係は、それらをコントロールする神経システムによってよりよく説明されます。発声前セットは主に中枢神経システムが喉頭筋に信号を送る『動力システム(motor system)』によってコントロールされ、その結果として、随意の筋肉収縮を引き起こします。続いて起こるこれらの筋肉のコントロールは求心的なものです;それは、自己受容性感覚(proprioception)または運動感覚性認識(kineaesthetic awareness)として知られている神経筋フィードバック・システム、ならびに耳が音をモニターして、持続性矯正をする聴覚コントロール・システムによって達成されます。自己受容性感覚は、ときどき『第6感(sixth sense)』又は『内部感覚(internal sensibility)』と呼ばれます(Key 1963; Husson, 1962, 37)。喉頭の中には受容器と呼ばれる特別な神経終末があります:例えば、粘液出の膜組織の中の感圧受容器(pressure-sensitive receptors)は声門下圧を監視します;声帯筋の中には感伸縮受容器(stretch-sensitive receptor);関節の中には、機械刺激に反応する機械的受容器(mechanoreceptor)が動きを監視するします。これらの受容器からの情報は中枢神経にフィードバックされ、その結果、修正がなされます。自己受容性感覚とは、このような『反射システム(reflexogenic system)』なのです(Wyke 1974d; 1980; Gould 1971b; 1980)。聴覚フィードバックシステムはときどき歌唱において『コントロール・ループ』と呼ばれます。歌手がその音声を聞くや否や、コントロールはほとんど、自己受容性感覚から聴覚フィードバック・システムに移動します(Michel 1978)。『歌唱は、喉頭筋上で活動する基本的な3つの神経コントロールシステム―すなわち、発声前チューニング、反射的調節、そして聴覚的モニタリングなどの連続した操作を含みます』(Wyke 1974a, 261)。これらのコントロールシステムの調整は優れた歌唱には不可欠のものです。発声前セットにおいて内転筋の神経感応は、視覚に次いで非常に速い;これは多分、気管に侵入する異物を防ぐ喉頭の保護作用によるものでしょう。(*13) いったん発声が開始され、声帯自身が監視されなければならならなくなると、そのコントロールは喉頭の反射システムと聴覚コントロール・ループに移動します。ようするに自己受容性感覚は、声帯が『発声の期間中、それらの予めセットされた形からそらされる』のを防ぐことによって発声前声門セッティングを維持して、安定させるのを助けます(Wyke 1980, 52)。これは、ガルシアのcoup de la glotte がなぜそんなに重要であるか、そして、なぜ発声前の形を押しのけてしまう声門破裂(glottal plosive)を避けなければならないかの理由となります。一旦発声が開始されれば『声帯の状態を直接知覚する意識を提供してくれる神経系メカニズムは存在しなくなります』そして『歌手はいかなる意識的なコントロールも行うことができない―それは喉頭筋組織の発声前活動のコントロールとは著しく異なるものである』(48)。(*13) Titze 1994, 248; Winckel 1952, 95; Martensson and Skaglund 1964, 332; Broad 1973, 161