[Lilli Lehmann, HOW TO SING 1902/1993 Dover edition] p.38
Nasal – Nasal Singing – Singing Toward the Nase – Covering the Tone – Chanter dans le Masque – Nasal Twang
鼻音-鼻の歌唱-鼻に向けて歌うこと-音のカヴァーリング-マスクに歌う-鼻トゥワング
口峡柱(かなり後ろ)を、上げること、丸くすること、広げること、そして、口峡柱に対して舌の幅広い後ろをふさぐことなどによって、「鼻音、ナザール」は生み出されます。かなり後ろの暗い母音に属するang、 ungや ong、ずっと前の明るい母音に属するingやengです。それは、yと密接な関係があり、咽頭から前の口腔を切り離します。
喉頭で[e]を明瞭に発音しないとき鼻音は誇張されることがよくあります;口峡柱は過剰に引き上げられ、上昇する音で舌は平らになりすぎ、喉と音声は支えがなく開いてしまいます。これは開いた歌唱としてよく知られています。それはピッチを損ない、歌手活動を終える運命になります。明るい母音と暗いものを混ぜ合わせることが、フォームを保証するために絶えず必要です。平べったく開いたähは避けるべきです。それは常にすべての補助母音と混ぜられなければなりません;それは、次に来るフォームと結合する全てのものに応じなければなりません。
鼻音は無視されることが非常に多く;ほとんど十分に使われていないのは確かです。
ドイツ人は、鼻の響きに気づく機会はほんのわずかしかありません;彼らは、ほんの少しの単語だけでそれを知ります:「Engle」、「lange」、「Mangel」など、 常にngが母音の前か後に生じる所です。
Eng のときの、舌と口蓋の感覚
フランス人は、逆に、 ― 高くて上げられる口峡柱とそれらに対して舌の後ろを高くして ― 常に鼻音で歌い、話します、そして、それを誇張することはめったにありません。口蓋が広がることで、フランス人は習慣の力で、特に並外れて培われており、呼吸が共鳴する面として巨大な空間を提供しているため、彼らの声はしばしば途方もないものに聞こえます。このような音声は、すぐに単調になるという唯一の欠点があります。初めは、器官のパワーが我々をびっくりさせます;次には、音色が常に同じままであることに失望します。音声は、さらに中空(hollow)音質にしばしば変質します。一方、鼻が充分に響かない声は、色がなくて、明らかではあるが、無表情に聞こえます。
完璧な技巧によって中間のやり方を追求し続けた歌手もいます ― 例えば、Meschaert【訳注:ヨハン・メシャールト(1857~1922):ジュリアス・シュトックハウゼンの弟子】です。
生徒の注意を、鼻音声と口蓋の弾力性に向けるために、しばしばフランス語による特定のエクササイズを与えなければなりません。
鼻、又は、鼻の方へ歌うこと(高い喉頭と、[e]で舌を詰める(pinching)ことによって出される「鼻トゥワング」と混同しない)は、十分に調査され、利用されていません。その音の効果(その崇高な音質)のために、それはあらゆる音声の上で広く用いられなければなりません。それによって、最も低い胸声から 最も高いヘッド・ボイスに至る、お互いの音声の結合が効果を発揮します、 ;すべて、カンティレーナの美しさがそれの意識的な応用です。歌手が「鼻の歌唱」について言うとき ― 実際にただ鼻の方へ歌っているだけである ― ということを言っているだけです。口蓋と舌の後ろが互いに向かい合って、音のカヴァリングを生み出し、 「音声をカバーする(covering the tone)」、 フランスでは、「マスクに歌う(chanter dans le masque)」と言われます。しかしながら、私はさらに違った説明をするつもりです。
多くの歌手が鼻で歌う意味を全く知らないことからも分かるように、先生方は鼻で歌うことについてほとんど話していません、そして、彼らがたまたまそれについて聞いたとき、「鼻の方へ歌う」と云う考えによって悩まされます。彼らは声をそれ自体で働く1つの完全な器官であり、1つのことは常に同じであるとみなしています。協働するすべての器官の機能を知ることで何ができるかについては、彼らは何も知りません。
優秀な歌い手は、通常これらの音域でカバーします。けれども、カバーされた音声は、先行する音声から徐々に開始されるので、突然、別の声区のように聞こえることはありません。音声をカバーすることは、上行する音で[u ]母音の補助を引き出します。私の言うことをよく聞いてください、それは、[u]だけではなく、同様に他の母音たちの補助き出します;[u]は喉頭をより柔軟にします、その結果、他のフォームたちに響きを導くので、高い音域に上がることをより簡単にします。女声より男声において、「声のカバーリング」はより目立ちます。けれども、 歌手が完全性と崇高な音質に対する所有権を主張しようと望むならば、あらゆる音声はカバーリングを用いることが求められる。
ブラインド・ボイスは、その歌手が頭声を十分に弱くさせず、口峡柱を喉の壁に引き寄せすぎて、頭腔への通路を閉ざす「鼻で歌う」の誇張された練習によって引き起こされます。
不完全な音声生成の原因:
詰めた音声(Pinched tone)-[e]を平らにし過ぎ、押し付けている。
空洞音声(Hollow tone)-[u]が、ぼやけすぎている-[e]の響きが無い。
とがりすぎの音声(Too pointed tone)-[i]が鋭すぎる。
フラット音声(Flat tone)-平べったく混ざっていないäh。
開いた音声(Open tone)-開いた喉で-混ざっていないäh
喉声(Throaty tone)-この場合、舌が喉頭の上である。[e]と[i]の調音が間違っている。
硬い音声(Hard tone)-締めつけられた呼吸筋と歌唱筋。
震え声(Shaky tone)-支えのない音声。喉頭が調整されていない;胸筋とつながっていない。
多くの歌手は、体力がそれに耐えられる限りここで述べられたような間違った習慣に固執します;しかし、時間の経過とともに、さらにより力強い体格で、彼らは著しくフラットに歌い始めるでしょう;体力のない歌手の場合、致命的なトレモロが現れ、多くの歌手を破滅に追い込む結果となります。
若い歌手が「もう私に必要とされる力がなくなってしまった」と言うのを何回聞いたことでしょう、その問題は頭腔共鳴がうまく使えていないだけなのです。音声の状況(posture)が変わるにつれて、器官の位置(position)を同じに保つことはできないことを決して忘れてはなりません。
2020/05/02 訳:山本隆則