[Lilli Lehmann, HOW TO SING 1902/1993 Dover edition]

Equalizing the Voice – Form
音声を均一にすること-フォーム

女声と男声の最も低い音域において-男声の場合は、音声のほとんど全音域で生じる-頭腔共鳴への通路はほとんど遮断され、口峡柱(the pillars of the fauces)が咽頭の上で引き伸ばされ、喉の壁に引き戻されるので、音の響きはほとんど口蓋共鳴と胸共鳴に限られます。喉頭は、口蓋と反対方向に柔軟に配置されていると考えられます。[i][e][u]の間の張力は、垂直というよりもむしろ水平で非常に小さく、声帯は緊張していますが、ほんのわずかです。[u]が生み出す声のカヴァリングによって、鼻の部分ではビロードのように柔らかく感じ、歌っている時には、大きいアーチが、口蓋に沿って後ろの方へ伸びているのように感じられます。それは、[y]によって、他のすべての母音や発声器官に結びつけられます。私達はこれを胸声と呼びます、すべての声域で最も強力なものです。(蓄音機による複製から、女性が出す例外的な胸声より、もっぱら胸声で歌う男性の声がどれほど鳴り響くかをはっきりと聞くことができます。)

鼻の後ろの軟口蓋の先端を上げ(軽い鼻かぜの時のような感じ)、舌の後ろ(back of the tongue)を上げて、[e]を使って喉頭をより接近させます、そして、[i]を上向きに、[u]を下向きに使って声帯を緊張させることによって、口峡柱(pillars of the fauces )は互いに引き寄せられます、こうして、頭腔に向かう息または音声のための通路が解放されます。その共鳴が今、詳しく説明されます。これは、すべての声で最も高い音域である頭声、最も薄い音域のファルセットですが、その音質の特徴は、最も大きな運声力です。

発声器官のこれら両極端の機能である、最も深い胸声と最高音の純粋な頭声、またはファルセットの間には、低中音域と高中音域のすべての等級だけではなく、胸声と頭声が混ざった「voix mixte(混声)」が存在しますが、すべては母音混合(vowel mixing)で発声器官を調整することによって確保することができます。

 

ここで黒い線で示される口蓋の感覚は、もちろん感覚にしか過ぎません。それは、口蓋の上に始まって両側に分かれ、喉の後ろに沿って下に伸びる別の筋肉【訳注:口峡柱の後ろの柱にあたる口蓋咽頭筋】の張力からなる。それは、口峡柱が上げられるや否や、その形を現し、まるで口峡柱が大きな曲線で直接鼻から横隔膜まで伸びるような感覚を生み出す伸ばす筋肉です。実のところ、口峡柱は、音声が高くなるほど、 最上部に向かって互いにますます引き寄せられる。しかしながら、その感覚は下に向かうカウンターテンションによって増加します。

前にも言いましたが、胸声の場合、喉の上に口峡柱を引き伸ばすこと(streching)によって、頭声への通路をほとんど遮断しますが、息の分れた流れはどんなに小さくても、の後ろと上([i]で鼻、その後に前頭と頭腔)を通らなければなりません。これは、すべての音声、最も低い音声においても振動しなければならない上音(頭音声)を生み出します。【この時代のペダゴギーでは、息の流れと音の伝動の区別が曖昧なので、口蓋帆ポートをの開閉については、この書物全体を通じて矛盾点がみられる。】

これらの上音は、2種類の共鳴の絶えず変化する混合物によって、ゆっくりと純粋な胸声から導き出されます、まずは、バスとバリトンの高い音声、テノールの低い音声、アルトとソプラノの中間音声、最終的に最も純粋な頭声、テノール(ファルセット)またはソプラノの最も高い音へ。(図を見なさい。)
上昇するパッセージでの頭腔共鳴の増加と、下降での口蓋共鳴の増加の際に、音階を極めて繊細にグラデーション(少しづつ変える)しなければなりません。それは、口蓋、舌と喉頭をしなやかに動かす技術と、 腹圧をゆるめて、胸の狭い場所【胸骨の裏側】に圧力をかけることによって、絶えず息をコントロールし、 しっかりとつながれた共鳴する部屋に途切れることなく穏やかな流れを作ることに依存します。前もって喉頭と舌を準備することによって、まるでシリンダーを通過するように、それはその共鳴体の表面に達しなければなりません、 そして、各々の音声と母音の響きために正しく、前もって準備されたフォームを回転して流れなければなりません。このフォームは、息を穏やかではあるだが、しっかりと取り囲みます。腹圧が供給室から声帯に与える空気の量が非常に少ないにもかかわらず、空気の供給は継続的に変わらず、減少するよりはむしろ増加していきます。そのフォームは更なる進行をじゃましないように、しなやかで、母音の最も繊細な変更に対して繊細でなければなりません。調音のだらしのなさ、または筋肉張力のたるみによるフォームのわずかな変位が、回転する流れと振動を壊して、その結果、音声、響き、力と持続期間に影響を及ぼします。

上行する継続的なパッセージを歌う際に、そのフォームは、[i]によってより高くなります、そして、[u]によってより柔軟になります;その時は口蓋の最も柔らかい場所は上へ引き上げられます。

私が一つの音声を歌うときは連続的に上行する音を歌うときよりも、より多くのパワーを口蓋、胸、そして鼻腔共鳴にあたえます。あるメロディーラインを歌う際に、最高音に楽に到達できるような方法で最低音を置かなければなりません。それゆえに、1つの音声が必要とするより、上行する音声でかなり多く頭声を与えなければなりません。(非常に重要。)さらに前進させるとき、私は口蓋の上、鼻より上・後で頭腔に向かって、しっかりした非常に弾力性のあるゴムボールをイメージします。そして、それを風船のように満たし、それのずっと後ろに息を流がしながら風船の中身を一定量に保ち続けます。つまり、胸から渦巻き流(whirling currents)で頭腔に入り込んでくる息の枝別れした流れは、[i]を完全に出し終えた後、邪魔されず口から自由に流れなければなりません。

私は、もっと高く歌おうと思うとすぐに、上記のこのボールの大きさを洋ナシの形にまで大きくすることができます。実際、私は、今歌ったばかりの音から次の音に進む前に、その形をしなやかにして、いわばもっと高い位置に置きます、このようにその形、つまり「伝達フォーム(propagation form)」を維持して、次の高い音に備えます。それによって、粘膜に対して息の流れが途切れない限り、よりたやすく高い音に達することができます。このような理由から、後・上に向う息の流れは、決して押してはならず、常に流れていなければなりません。音声が高いほど振動は多くなり、渦巻き流はより速く伝わり、そして、より多く垂直な音声または呼吸フォームの感覚が得られます。カタルはしばしば粘膜を乾かすと同時に音声を中断しがちになります。こうした時には、特別な注意をはらって、とりわけ強い流れを音声の後ろにつけて歌わなければなりませんが、こまめに息をとるようにした方がいいでしょう。下降している音階または旋律では、逆に、低音ではなく最も高い音のためにとられるフォームを非常に慎重に保たなければなりませんが、同じ高さの音を打ちなおしているようなイメージを保たなければなりません。フォームは、徐々に上端部で少し変更されるかもしれませんが、これは、軟口蓋が非常に注意深く鼻に向かって降ろされ:ほとんどいつでも最高音のために用いられフォームをキープして、母音[u]の助けを借りて、鼻に向かって旋律の最上部を歌います。この補助母音[u]は、喉頭がゆっくり適切な場所に降ろされているだけで、その動きは、音や言葉のあらゆる変化に応じて更新されなければなりません。

この時、頭腔共鳴は弱くなり、口蓋共鳴と、少しづつ胸腔共鳴が増強されます; 軟口蓋のへこみのために、口峡柱はますます引き上げられます。それでも、頭声が、口蓋共鳴から完全になくなってしまうというわけではありません。両者は最後の息まで結びつけられたままで、上昇と下降のパッセージで互いに支え合い、しかし聞き取れない程度に互いに強くなったり弱くなったりします。鼻の緊張、軟口蓋の上げ下げ、口峡柱に対応する上昇と下降、あごをゆるやかに下へゆるめる、これらのことはそのフォームを形成するために実行されます。

舌の正しい位置:舌の先端を下の前歯に置く ― 私の場合は、さらに歯の根元に置きます。

舌の後部は、あらゆる動きに備えて、喉から高く離れています。舌の溝は作られなければなりませんが、低い音ではほとんど目立ちません、そして、高い音に行く際には完全になくなるかもしれません。口蓋共鳴が必要とされるとすぐに溝が作られ、それを保たれなければなりません。私の場合は、特に暗く、つまり、音声をカバーして歌う必要がないときは常に見られます。これは、いくら強調してもしすぎることがないくらい、最も重要な事項の1つです。舌の溝が現れるとすぐに、舌の両側が上げられるので舌のかたまりは喉から離れて保たれます。それゆえ、音声は正しく鳴るようになります。それでも溝をつくらないで非常にうまく舌を使っている歌手もいます。

喉頭が、最低音で非常に水平の位置にあり、通り道を邪魔しないので、舌は一番平らになっています。

さらに、舌と舌根の圧力なしで操作しなければならない、拘束を受けない喉頭の位置があります。その喉頭から、息は前方へ、均一に、そして、途切れずに流れなければなりません、それのためには、舌と口蓋によって作成されるフォームを満たし、そして、喉の筋肉で支えられなければなりません。

しかしながら、この支えとは、決して圧力に頼ることではなく、最も大きい弾力的な張力(greatest elastic tension)に頼ることです。人は筋肉で演奏しなければならなりません、そして、意のままにそれらを収縮、弛緩させることができるので完全な熟達が可能になります。この絶え間ない練習のためには、聞く力、息の圧力、正確な母音の不断の調音を通してのフォームの絶え間ないコントロールなどが求められます。

初めのうちは、圧力をかけるのではなく、ぴんと張った筋肉を保持するために、非常に強い意志力が必要です、つまり、言ってみれば、喉、口や頭腔を通して音声を響き渡らせるために。

音声生成での間違った圧力が強くなるほど、それを取り除くことはより難しくなります。言い換えると、単なる緊張の結果です。筋肉は、ゆっくりリラックスできます、つまり、通常の位置にすぐに戻ることができる程度にしか収縮させてはいけません。決して、首が膨張したり、血管が浮き出たりしてはなりません。あらゆる発作的な感覚や痛みを伴う感覚は間違っています。

 

2020/04/15 訳:山本隆則