[Moon & Kuhen 2004]

口腔内の構造

口腔内の組織には、舌、口峡柱(faucial pillars)、扁桃(tonsils)、硬口蓋(hard palate)、軟口蓋(soft palate)、口蓋垂(uvula)と口咽頭峡部(oropharyngeal isthmus)などがあります(FIGURE 1-9)。これらの組織は以下の通りに詳しく説明していきます。

舌(Tongue)

舌は下顎骨弓内にあり、口が閉じられるとき口腔を満たします。 口を閉じた状態では、口腔内のわずかな陰圧によって、舌が口蓋に密着し、先端は歯槽隆起部に当たるようになるのが分かります。舌背dorsum背面)は舌の上面で、舌腹( ventrum腹部表面)は舌の下面です。

FIGURE 1-9 口腔の組織

口峡柱、扁桃、口咽頭峡部

両側の口腔の後部には、口峡柱(faucial pillars)(Figure 1-9)と呼ばれるペアのカーテン状の構造物があります。前方と後方の口峡柱には、口蓋帆咽頭の動きを助ける筋肉があります。(口蓋帆咽頭弁の筋肉のセクションを見なさい。)

多くの人々は、扁桃腺(tonsils)といえば、口腔内の組織が感染して扁桃腺炎(tonsillitis)を起こすものと考えています。実際に、3セットの扁桃(それは口咽頭の開口部を取り囲む)があり、総称してワルダイエル咽頭輪(Waldeyer’s ring)として知られています。

口蓋扁桃(palatine tonsils)(一般的に扁桃として知られている)は、口の後ろに、そして、前と後ろ両側の口峡柱の間にあります。口蓋扁桃は両側にありますが、大きさの違いはよくあることなので、一方の扁桃が別のものより大きいことは珍しくありません。舌扁桃(lingual tonsil)は舌根にあって、喉頭蓋(Figure1-10)に及びます。最後に、咽頭扁桃(pharyngeal tonsil)(別名アデノイド)は鼻咽頭に位置します。すべての扁桃は、リンパ節に類似した組織から成っています。それらは、粘膜に覆われていて、全体にcryots(凹窩)と呼ばれる様々な小窩を持っています。

FIGURE 1-10
鼻腔、口腔、咽頭腔とこれらの領域の構造の側面図。

扁桃組織は、感染症に対して抗体を発生させることによって、体の免疫系の一部として貢献します 。したがって、この組織は小児の最初の2年間に特に重要でdす(Brodsky、Moore、StanievichとOgra、1988)。時間と共に、扁桃と腺様組織は、特に思春期で萎縮する傾向があり、そのため、16歳ごろまでに、この組織の小さな残りだけが残ります。幸いにも、扁桃および/または腺様組織の萎縮(外科的除去でさえ)は、免疫システムにおける冗長性のため免疫にはほとんど影響を及ぼさない。実際、消化管全体には、扁桃で見られる同じようなタイプの組織で内側を覆われているので免除をサポートしてくれます。

口咽頭峡部(oropharyngeal isthmus)は、口腔と咽頭の間の開口部です。それは、上は口蓋帆によって、横は口峡柱で、そして、下は舌根に囲まれています。

硬口蓋(Hard Palate)

硬口蓋は、口腔を鼻腔から切り離す骨組織です。それは、口の屋根と鼻の床の両方を兼ねています。
硬口蓋の前部分は、歯槽隆線(alveolar ridge)(Figure 1-9)と呼ばれています。この隆起は、歯のための骨の支えをつくります。硬口蓋の残りの部分は口腔の上部で丸いドームをつくり、口蓋円蓋(palatal vault)と呼ばれています。

硬口蓋は、粘膜骨膜に覆われています。粘膜骨膜(Mucoperiosteum)は、粘膜と骨膜からなっています。粘膜は、硬口蓋の他に多くの体腔に沿った上皮組織で、粘液を分泌しています。粘液(Mucous粘膜とMucus粘液のつづりの間違いに注意)は、透明で粘着性の部分です。骨膜(Periosteum)は、ちょうど粘膜の下にあって、骨の表面をおおい、厚くて繊維性の組織です。

硬口蓋の粘膜カバーは複数の隆起があり、襞(rugae)と呼ばれ、横に走っています。硬口蓋の前部中央に粘膜のわずかな盛り上がりがしばしばああります。そして、切歯乳頭(incisive papilla)と呼ばれている。正中口蓋縫線(median palatine raphe)(発音/ræfei/)と呼ばれる、正中線(実際に発生学的な縫合線)の狭い縫い目のような隆起線が、硬口蓋と口蓋帆の全長にわたって切開性乳頭から後方に走っている。硬口蓋と軟口蓋の接合部には、口蓋窩(foveae palati)と呼ばれる両側の正中線状の窪みが見られることがよくあります。これらは、小唾液腺に通じています。

硬口蓋の骨には、顎前骨(一本の正中骨)、上顎の口蓋突起、口蓋骨の横板などがあります。これらの骨は、発生学的な縫合線によって切り離されます。

口蓋帆(Velum)

口蓋帆(一般に軟口蓋(soft palate)と呼ばれる)は、口の後部に位置し、硬口蓋の後縁面に付着しています(Figure 1-9、1-11)。口蓋帆は、骨ではなく筋肉からなっていて柔らかい。硬口蓋と同様に、口腔表面は、粘膜でおおわれています。正中口蓋縫線は、硬口蓋の正中線から、後ろに口蓋帆を通して口蓋垂へと延びています。口蓋帆の鼻腔面(FIGURE 1-14)は、前方には偽重層上皮、繊毛柱状上皮、後方には口蓋帆咽頭閉鎖部での層状の扁平上皮で構成されている。(EttemとKuehn(1994); KuehnとKahane(1990); MoonとKuehen(1996); MoonとKuehen(1997); SerrurierとBadin(2008))。

FIGURE 1-14
鼻咽頭鏡検査法で見た口蓋帆の鼻腔面の様子。
耳管への開口部に注意しなさい。

口蓋帆の前部分は、口蓋帆張筋腱(tensor veli palatini muscle tendon)、腺組織(glandual tissue)、脂肪組織(adipose(fat) tissue)と口蓋腱膜(palatine aponeurosis)(軟口蓋腱膜とも呼ばれる)から構成されています(FIGURE 1-15)。

FIGURE 1-15
口蓋(軟口蓋)腱膜の位置。
これは口蓋帆の鼻腔面の直下に位置する1枚の繊維組織で、
骨膜、線維結合組織、口蓋帆脹腱膜からの繊維で構成されています。
それは口蓋帆咽頭筋肉にアンカーポイントを提供して、
硬さと口蓋帆咽頭筋に柔軟性を加えます。

口蓋腱膜は1枚の線維結合組織(fibrous connective tissue)と、口蓋帆脹腱膜(tensor veli palatini tendon)から構成されています。硬口蓋後縁に付着し、口蓋帆を通って約1cm後方のコースを取ります。口蓋腱膜は1枚の線維結合組織(fibrous connective tissue)と、口蓋帆脹腱膜(tensor veli palatini tendon)から構成されています。硬口蓋後縁に付着し、口蓋帆を通って約1cm後方のコースを取ります。口蓋腱膜は、口蓋帆咽頭筋のアンカーポイントとなり、口蓋帆のその部分を固くします(Cassell & Elkadi, 1995; Ettema & Kuehn, 1994; Hwang, Kim, Huan, Han, & Hwang, 2011)。口蓋帆の内側部分は、この章で後述する口蓋帆挙筋の繊維の大部分が含まれます。口蓋帆の後部は、前部に見られるのと同じ腺組織と脂肪組織で構成されています。

口蓋垂(Uvula)

口蓋垂は、通常は細長い涙形の構造体です(Figure 1-9と1-11を見なさい)。口蓋帆の後縁から自由に垂れ下がっています。口蓋垂は、表面の粘膜とその下の結合組織、腺組織、脂肪組織、血管組織で構成されています。しかし、筋線維は含まれていません。口蓋垂には口蓋帆咽頭機能には寄与ぜず、実際に認められる機能はありません。

 

咽頭の構造(Pharyngeal Structures)

咽頭(Pharynx)

FIGURE 1-16 咽頭の部分。
口咽頭は、口腔の高さ、または口のすぐ後側にあります。
鼻咽頭は口腔、口蓋帆の上にあり、鼻腔のすぐ後にあります。
喉咽頭は口腔の下にあり、
喉頭蓋から食道に向かって下向きに伸びています。

鼻腔と食道の間にあるノドの部分を咽頭(pharynx)といいます。FIGURE 1-16で分かるように、咽頭は3つのセクションに分けられます。これらのセクションには、鼻腔のすぐ後で口蓋帆の後ろにある鼻咽頭(nasopharynx)、口腔のすぐ後にある口咽頭(oropharynx)、口腔の下で喉頭蓋の下から食道に向かって伸びる喉咽頭(hypopharynx)が含まれます。ノドの後壁を後咽頭壁(posterior pharyngeal wall)、ノドの側壁は側咽頭壁(lateral pharynx)といいます。アデノイド(咽頭扁桃(pharyngeal tonsil)アデノイドパッド、または単にアデノイドとも呼ばれます)は、喉頭蓋のすぐ後ろにある咽頭後壁にあるリンパ組織の単数個の塊で構成されています。アデノイドは通常、子供には存在しますが、年齢とともに萎縮していきます。

耳管(Eustachian Tube)

耳管は、中耳空間と咽頭をつなぐ膜状の管である(図1-14参照)。両側の耳管の咽頭開口部は、鼻咽頭の側面に位置し、発声時には口蓋帆の高さよりやや上に位置している。各耳管の後開口部の縁には、耳管隆起(torus tubarius)という軟骨組織の突起があります。耳管隆起から下に向かって、腺と結合組織のひだがあり、耳管咽頭ヒダ(salpingopharyngeal fold)と呼ばれています(Cunsolo et al., 2010; Dickson, 1975; Lukens, Dimartino, Gunther, & Krombach, 2012)。

安静時には耳管が閉じているので、咽頭や鼻の奥の分泌物による中耳の不用意な汚染を防ぐことができます。しかし、嚥下やあくびをするときには、口蓋帆が上がり、口蓋帆張筋(tensor veli palatini muscles )が収縮して咽頭の末端を開きます。前述したように、これにより、中耳の換気が可能となり、耳の中の圧力が周囲の気圧とほぼ同じに保たれるようになります。また、チューブの開口部により、中耳腔内の流体や破片を排出することができる。

乳幼児では、耳管は基本的に水平で、咽頭開口部は小さい。しかし、子供の成長に伴い、中耳から咽頭にかけて管が下向き斜角に変化し、咽頭の開口部が大きくなります。その結果、大人の耳管は45度の角度になり、開口部は鉛筆の直径ぐらいのサイズになります。このように成長期に管の傾きと幅の両方が徐々に変化することで、中耳の通気性と排水性が改善されます。

 

生理学(PHYSIOLOGY)


口蓋帆咽頭弁(Velopharyngeal Valve)

口蓋帆咽頭弁は、口蓋帆(軟口蓋)、側咽頭壁と後咽頭壁から構成されています。鼻呼吸の際には、口蓋帆咽頭バルブは、鼻と肺の間に開放気道があるように開いたままです。鼻腔を口腔から切り離す(分離される)必要がある機能のためには、その構成組織の高度に連係された動きの結果として、口蓋帆咽頭バルブは閉じます。
口蓋帆咽頭閉鎖は、口部発話の生成ならびに、歌う、口笛を吹く、息を吹く、のみこむ、むせる、嘔吐する、吸いこむ、などのときに起こります(Noharaほか、2007)。発話に関して口蓋帆咽頭バルブは速く口音のためには素早く閉まり、鼻音のためには素早く開かなければなりません(MoonとKuehn、1996)。したがって、口蓋帆咽頭バルブは音響エネルギーと空気流を口腔内と鼻腔内への伝達を適切に制御し導きます。

口蓋帆咽頭バルブは、前-後(AP)局面を含む三次元構造であることを認識することが重要です閉鎖の間、口蓋帆咽頭弁が括約筋のような閉鎖を達成できるように、すべての組織の連係した動きがすべての局面になければなりません。これは、Figure 1-17 に、すべての括約筋が下の図に示されています。

軟口蓋の動き(Velar Movement)

鼻呼吸の時、硬口蓋から口蓋帆が垂れ下がり、舌根に当たっています(FIGURE 1-18A)。この位置は、鼻呼吸の際に鼻腔と肺との空気の動きを妨げないよう開いた咽頭に寄与します。口蓋帆咽頭閉鎖の際には、口蓋帆が上・後方向に移動して後咽頭壁に、まれな症例では、側咽頭壁と接触することもあります(FIGURE 1-18B)。上昇時には、口蓋帆は全長から約4分の3の位置で曲がります。この屈曲(時々ニー・アクション)は、口蓋帆と口蓋帆のくぼみの鼻腔面で口蓋帆隆起(口蓋帆のてっぺんの膝頭のような突出)となり、それは正中線で口側面で見ることができまする。口腔音の後で鼻音素が出されるとき、音響エネルギーが鼻腔に入ることができるように口蓋帆は下げられます。

 

FIGURE 1-17
口蓋帆咽頭ポートの下面図。
(A)口蓋帆咽頭ポートは、鼻呼吸の場合開いている。
(B)口蓋帆咽頭ポートは、スピーチのために閉じられる。

 

FIGURE 1-18
口蓋帆と後咽頭壁の側面図。
(A)口蓋帆は通常の鼻呼吸の間、舌根に寄りかかって、
開放気道となる。
(B)スピーチ中に口蓋帆は上がり、後咽頭壁に接して閉鎖する。
これにより、肺からの空気圧と喉頭からの音を
上方向から前方向に向きなおされて、
発話のために口腔内に入ることができる。

FIGURE 1-19側咽頭壁の正面図。
(A)側咽頭壁は内側に移動して、
口蓋帆に対して両側から閉じることになります。
(B)後咽頭壁(posterior pharyngeal wall PPW)
と接触している口蓋帆の側面図。

口蓋帆が上あるにつれて、それももまた口蓋帆ストレッチ(velar stretch)と呼ばれるプロセスによって伸長します(Bzoch、1968; MourinoとWeinberg、1975; PruzanskyとMson、1969; SimpsonとChin、1981)。したがって、口蓋帆の有効長は、硬口蓋後縁から発話中に口蓋帆が接触する後咽頭壁上のポイントまでの距離です。これは硬口蓋と同じ平面ラインで測定されます(Satoh、Wada、TachimuraとFukuda、2005)。口蓋帆ストレッチの量や口蓋帆の有効長は個人差があり、咽頭の大きさや形状に依存します。

側咽頭壁の動き(Lateral Pharyngeal Wall)

側咽頭壁は、内側に移動して口蓋帆に対して閉じるか、まれに口蓋帆の後ろの正中線上で合流することで、口蓋帆咽頭閉鎖に寄与すします(FIGURE 1-19)。両側咽頭壁は閉鎖時に動きますが、その移動の程度は正常な話者達によって大きな差があります(Lam、HundertとWilkes、2007)。そのうえ、片側が他の側よりも著しく多く動くことがあるので、動きに非対称性があることが多い。口腔内から見た場合、側壁の動きが見られることがありますが、内側への変位が最も大きいのは、硬口蓋(Iglesas、KuehnとMoris、1980)と、口蓋帆隆起(velar eminence)(Lam et al., 2007; Shprintzen, McCall, Skolnick, & Lencione, 1975)のレベルにあります。この地域は、口腔内検査で確認できる範囲よりもはるかに上に位置しています。実際、口腔レベルでは、発話中に側壁が外側に反って見えることがあります(Lamほか、2007)。

後咽頭壁の動き(Posterior Pharyngeal Wall Movement)

口蓋帆咽頭閉鎖時には後咽頭壁の前方への動きがあったとしても、咽頭後壁の閉鎖への寄与は、口蓋帆や側咽頭壁のそれに比べてはるかに少ないようです。(Iglesiasほか、1980; Magen、Kang、TiedeとWhalen、2003)。

後咽頭壁にパッサヴァン隆起を示す話し手もいます (Figure 1-20)。Gustav Passavantによって1800年代に最初に記述されたパッサヴァント隆起は、恒久的な組織ではありません。その代わりに、それは、咽頭後壁にある明らかな領域で、口蓋帆咽頭運動中に前方に不規則に膨らみ、そのあと、鼻呼吸時や口蓋帆咽頭活動が停止した時に消失します(Glaser、Skolnick、McWilliamsとShprintzen、1979; SkolnickとCohn、1989)。パッサヴァン隆起は、上咽頭収縮筋の特定の線維の収縮によって形成されると考えられています。隆起の垂直方向の位置は個体差があるが、通常は口蓋帆咽頭接点の部位の下の壁であり、口蓋帆咽頭閉鎖の要因にはならないように見えます。(Glsserほか、1979)。通常の話者におけるパッサヴァンの発生率の報告は、わずか9.5%から80%にも及びます(Casey & Emrich, 1988; Finkelstein et al., 1991; Skolnick, Shpritzen, McCall, & Rakoff, 1996)。

口蓋帆咽頭弁の筋肉(Muscles of the Velopharyngeal Valve)

口蓋帆咽頭弁はいくつかの筋肉の調整動作を必要とし、そのすべてが正中線の両側にある片方の筋肉と対になっています (Moon & Kuhen, 1996; Perry, 2011) (Figure 1-21)。口蓋帆咽頭弁の協調運動は非常に複雑で、これらの筋肉だけでなく、調音器官、特に舌の相互作用を必要とします (Kao, Soltysik, Hyde, & Gosain, 2008; Moon, Smith, Folkins, Lemke, & Gartlan, 1994; Perry, 2011; Perry & Kuhen, 2009)。

口蓋帆挙筋(Levator Veli Palatini Muscles)

口蓋帆挙筋(levator veli palatini)は、しばしば挙筋スリング(levator sling)(Mehendale、2004)とも呼ばれ、口蓋帆咽頭閉鎖の間、口蓋帆を上昇させる役割を担っています。これらの筋肉は両側で45度の角度で口蓋帆に入り、正中線で互いにかみ合う(一体となる)(Smith & Kuehen, 2007)。この角度が45度であるため、挙筋の収縮により、口蓋帆が後上方向に引っ張られて後咽頭壁に密着します。これらの筋肉が噛み合っているポイントは、発声時に口蓋帆の口腔表面の正中線上に見られる、口蓋帆のえくぼ(velar dimple)を形ります。

FIGURE 1-21 口蓋帆咽頭メカニズムの諸筋肉

鼻咽頭の両側では、口蓋帆挙筋は頭蓋骨の基部にある側頭骨の小骨部の頂点から起始しています。その後、筋肉は頸動脈管の前側と内側、耳管の下側にある領域を通過します (Moon & Kuehn, 1996; Moon & Kuehn, 1997; Smith & Kuehn 1996; Moon & Kuhn, 1997; Smith & Kuehn, 2007)。挙筋は全口蓋帆の中央40%をしめています、したがって、その主な筋肉量を提供しています (Boormann & Sommerlad, 1985; Kuhen & Moon, 2005; Nohara, Tachimura, & Wada, 2006; Perry, Kuehn, & Sutton, 2011; Shimokawa et al., 2004)。

上咽頭収縮筋(Superior Constrictor Muscles)

上咽頭収縮筋上咽頭括約筋(superior pharyngeal constrictor)とも呼ばれる)の筋肉は、口蓋帆のまわりで側咽頭壁の狭窄の役割を果たします (Iglesias et al., 1980; Shprintzen et al., 1975; Skolnick, McCall, & Barnes, 1973)。ペアの上咽頭収縮筋は上咽頭に位置して、翼突鈎(ヨクトツコウ)(pterygoid hamulus)翼突下顎縫線(pterygomandibular raphe)後舌(posterior tongue)後下顎骨(posterior mandible)口蓋腱膜(palatine aponeurosis)から生じる。それらは、後咽頭壁の正中線の咽頭縫線に挿入します。

口蓋咽頭筋(Palatopharyngeus Muscles)

口蓋咽頭筋は、口蓋帆を接近させるために、側咽頭壁を内側へ動かす役目を果たします (Cassell & Elkadi, 1995; Cheng & Zhang, 2004; Sumida, Yamasita, & Kitamura, 2012)。口蓋咽頭筋は、後ろの口峡柱の中に含まれます。これらの筋肉は、口蓋帆の前部と硬口蓋後縁での口蓋腱膜から起始します。それから、後ろの口狭柱を介して咽頭まで下ります。

口蓋舌筋(palatoglossus Muscles)

口蓋舌筋は、口腔音に続く鼻子音の生成のために、口蓋帆を素早く下げる役割を担います (Kuehn & Azzam, 1978; Moon & Kuehn,1996)。鼻音素で口蓋帆を下げ、口音素で上げなければならないスピードを考えると、重力だけでは有効ではありません(Cheng, Zhao, & Qi, 2006; Lam et al., 2007)。口蓋舌筋は、前口峡柱のに含まれます。口蓋腱膜から起始し、前口狭柱を通って舌の後側面に挿入します。

耳管咽頭筋(Solpingopharyngeus Muscle)

耳管咽頭筋は、嚥下中に咽頭と喉頭を持ち上げて、嚥下の間、耳管を開けるのを助ける役割を果たします。サイズと場所を考えると、これらの筋肉には口蓋帆咽頭閉鎖を達成するうえでの重要な役割はありません。これらの筋肉は、咽頭の上層にある耳管隆起の下縁から起始します。それから、垂直に、側咽頭壁に沿って、そして、耳管咽頭ヒダの下へ進みます。

口蓋垂筋(Musculus Uvulae Muscles)

口蓋垂筋肉は、発声の間、口蓋帆の鼻腔面の後面の口蓋帆隆起と呼ばれるふくらみをつくるために収縮します。この膨張は更なる硬さを提供して、引き締まった口蓋帆咽頭シールを確保するのに役立ちます (Huang, Lee, & Rajendran, 1997; Kuehn, Folkins & Linville, 1988; Moon & Kuehn, 1996; Moon & Kuhen, 1997)。ペアの口蓋垂筋は口蓋腱膜の領域から始まって、口蓋帆の正中線上に並んで配置され、口蓋帆挙筋のすぐ上に位置します。それらは、口蓋帆の唯一の内在筋です(Kuehn & Moon, 2005; Moon & Kuehen, 1996)。これらの筋肉の名前は、口蓋垂の中には存在しないという点で、やや誤解を招きやすいことに注意が必要です。実際、口蓋垂は極めて少ない筋線維しか持たないので、口蓋帆咽頭閉鎖には関与しません (Ettema & Kuehn, 1994)。

口蓋帆張筋(Tensor Veli Paratini Muscles)

口蓋帆張筋は、中耳の通気性と排水性を強化するために耳管を開ける役割を果たします(Ghadiali, Swarts, & Doyle, 2003)。これらの筋肉が口蓋腱膜に主に寄与しているとはいえ、張筋は口蓋帆も上げ下げのどちらの方法にも配置されていません。したがって、これらの筋肉は、何かあるとしても、おそらく口蓋帆咽頭閉鎖にはほとんど関与しないでしょう。両側の口蓋帆張筋は、耳管軟骨の膜質部分と蝶形骨の舟状窩棘から始まる(Barsoumian, Kuehn, Moon, & Canady, 1998; Schonmeyr & Sadhu, 2014)。更なる滑面は、翼状突起の内側板の側面と蝶形骨の棘から生じます。口蓋帆張筋は、そのあと翼突鈎の周りを通過するために頭蓋の底から垂直に下ってコースを取ります。これにより、筋腱は内側に90度方向転換され、ここでは、口蓋帆の上側領域および前側領域の口蓋腱膜に関与します。

ペアの筋肉の各々の主要な機能の概要については、下の表を見なさい。

筋肉=======主要な機能

口蓋帆挙筋=====口蓋帆咽頭(VP)閉鎖中の口蓋帆の挙上
上咽頭収縮筋====VP閉鎖中に、口蓋帆のまわりの咽頭壁を絞る
口蓋咽頭筋=====VP閉鎖中の側咽頭壁の内側への動き
口蓋舌筋======鼻音でVPを開くために口蓋帆を下す
耳管咽頭筋=====咽頭と喉頭を上げて、嚥下の間、耳管を開ける
口蓋垂筋======VP閉鎖中の口蓋帆の鼻腔面の容積を大きくする
口蓋帆張筋=====嚥下の間、耳管を開ける

口蓋帆咽頭閉鎖のバリエーション

口蓋帆咽頭閉鎖のパターン

口蓋帆咽頭組織の閉鎖に対する各々の相対的な貢献度は、話者によって異なります。これは、軟口蓋と咽頭壁の筋肉の向きが微妙に違うせいです(Finkestein, Talmi, Nachmani, Hauben, & Zohar, 1992; Finkelstein et al., 1993)。これらの違いの結果、正常な話者と口蓋帆咽頭機能障害を持つ話者の集団において、口蓋帆咽頭閉鎖の3つの異なったパターンを識別することができます (Finkelstein et al., 1992; Igawa, Nishizawa, Sugihara, & Inuyama, 1998, 1998; Jordan, Schenck, Ellis, Ragarathnam, Fang, & Perry, 2017; Perry 2011; Shprintzen, Rakoff, Skolnick, & Lavorato, 1977; Siegel-Sadewitz & Shprintzen, 1982; Skolnick & Cohn, 1989; Skolnick et al., 1973; Witzel & Posnick, 1989)。これは、Figure 1-23で見ることができます。

FIGURE 1-23
上から見た口蓋帆咽頭閉鎖パターン

 

最も一般的な閉鎖パターンは、コロナ・パターン(coronal pattern)です。このパターンは、後ろの咽頭壁の幅広い領域に対して、口蓋帆が接触することが特徴です。後咽頭壁のわずかな前方移動があるかもしれませんが、側咽頭壁の寄与は最小限です。話者のおよそ70%がコロナ閉鎖パターンを持っていると推測されます(Witzel & Posnik, 1989)。

2番目の一般的な閉鎖パターンは、円形パターン(circular pattern)です。このパターンは、すべての口蓋帆咽頭組織がほとんど同程度に閉鎖に関与するときに起こり、したがって、それが閉まるとき、弁は真の括約筋のようになります。パッサヴァン隆起は、閉鎖の循環パターンを持つ、個人の中にしばしば認められます(Skolnick & Cohn, 1989)。すべての話者のおよそ25%が閉鎖のコロナ・パターンを持つと推定されています(Witzel & Posnick, 1989)。

最も少ない閉鎖パターンは、矢状パターン(sagittal patternです。このパターンでは、側咽頭壁は内側に移動して、口蓋帆の後ろ(口蓋帆に対してではなく、口蓋帆の後ろ)の真中で接触し、閉鎖を達成するために軟口蓋の後側変位が最小限に抑えられます。このパターンは、話者の5%以下で起こるようです(Witzel & posnick, 1989)。

個人間の閉鎖の基本的なパターンの相違は、特に評価プロセスにおいて認識することが重要である(Siegel-Sadewitz & Shpintzen, 1982; Skolnick et al., 1973)。例えば、側方ビデオ蛍光透視法(X線撮影技法)で、閉鎖が完了していても、口蓋帆が後咽頭壁に対して閉鎖していないので、矢状方向パターン閉鎖によって不十分な口蓋帆咽頭閉鎖があるように思えるかもしれません。したがって、すべての口蓋帆咽頭組織とその閉鎖への寄与を評価することは、基本的な閉鎖パターンを特定し、治療の推奨を行う際に考慮できるようにするために重要である。

空気圧活動対非空気圧活動(Pneumatic versus Nonpneumatic Activities)

口蓋帆咽頭閉鎖はスピーチ生成中に起こるが、それ以外の機能のためにも起こる。これらの機能が空気圧活動非空気圧活動に分類される場合、それぞれのカテゴリーに対して特徴的かつ明確な閉鎖パターンを確認することができます(Flower & Morris, 1973; Shprintzen, Lencione, McCall, & Skolnick, 1974)。実際には、発話以外の活動、特に非空気圧活動時の閉鎖と発話時の閉鎖には、別の神経学的メカニズムがあるようです。

非空気圧活動(nonpneumatic activities)とは、空気の流れがない状態で行われる活動のことです。それらには、吐き気、嘔吐、嚥下などがあります。吐き気と嘔吐では、喉頭蓋は咽頭の中で非常に高くなり、側咽頭壁はその全長に沿ってしっかりと閉じています。これは、口蓋帆咽頭閉鎖で唯一感じられることができるタイプです。このように高くてしっかりとした閉鎖は、鼻への逆流することなく口腔内に物質を通過させるために必要なものです。嚥下時には、舌の後部が口蓋帆を上に押し上げるため、口蓋帆の上昇は挙筋の収縮ではなく受動的に起こります(Flowers & Morris, 1973)。重要なことは、非空気圧活動では口蓋帆咽頭閉鎖が完了していても、発話やその他の空気圧活動では不十分であることです(Shpritzen et al., 1975)。

空気の活動は、口蓋帆咽頭閉鎖の結果として空気流と空気圧(陽圧と陰圧の両方)を利用するものです。息を吹いたり、口笛を吹いたり、歌ったり、話したりするために必要なのが陽圧です。陰圧は、吸ったり、キスするために必要です。これらの活動では、閉鎖は非空気圧活動でより鼻咽頭下部で起こります。

空気圧活動(pneumatic activities)のための閉鎖が非空気圧活動のための閉鎖とは非常に異なるが、それぞれの空気圧活動のための閉鎖もまた、互いに生理的に異なります(Nohara et al., 2007)。たとえば、吹くことは口蓋帆咽頭組織の全般的な動きを必要とする-そして、吹くための挙筋活動は発話より高くなります(Kuehn & Moon, 1994)。他方、発話はこれらの組織の正確で迅速な動きを必要とします。次のセクションで説明するように、接触点は音声の違いによってもわずかに異なります。歌唱時と発話時の口蓋帆咽頭閉鎖を比較すると、口蓋帆咽頭ポートは、特により高いピッチで、歌唱時の方が発話時よりもより長く、しっかりと閉じられています(Austin, 1997)。

閉鎖のタイミング(Timing of Closure)

発話の際には、起声と口蓋帆咽頭閉鎖が密接に連携していなければなりません。口腔音のための口蓋帆の動きは規制前に始めなければならないので、発声が始まるときには口蓋帆咽頭弁が完全に閉じられています。完全な閉鎖が喉頭音源の起動前に達成されていなければ、スピーチは口腔音スピーチ生成の間、鼻腔内に音が逃げる結果として超鼻音(hypernasal )になるでしょう(Ha, Sim, Zhi, & Kuehn, 2004)。

口腔音のための閉鎖のタイミングは、音素の種類に多少依存していることが分かっています。Kent and Moll (1968) は、停止のための口蓋帆の上昇動作は、停止が有声よりはむしろ無声の場合に、より早く始まり、より迅速に実行されることを示唆する証拠を発見しました。発声中の鼻子音の生成は、口蓋帆咽頭機能とタイミングに更なる影響を及ぼす。口蓋帆は上昇したままで、口腔子音や母音が出されている間は、閉鎖は発声中を通して維持される。鼻子音(/m/、/n/、/ng/)は生じるとき、口蓋帆は素早く下がり、両側の咽頭壁が正中線から移動するため、口蓋帆咽頭弁を開き、鼻腔共鳴が可能になります。口音と鼻音の組み合わせが多い発話部分は、口蓋帆運動の時間的な条件をより難しくしています。これは、口蓋帆咽頭閉鎖が薄弱であるならば問題となります(Jones, 2006)。そのうえ、鼻子音に前後する母音は、鼻子音の直前に口蓋帆の先行する低下に、わずかに影響を受けます(Bunnell, 2005)。したがって、閉鎖のタイミングは、音素の必要性に応じて、発話全体を通して一定の微調整を必要とします。タイミングを逃すと、共鳴や鼻声の知覚に影響を与える可能性があります。

閉鎖の高さ(Height of Closure)

口蓋帆咽頭閉鎖が口音発話の全体を通じて維持されていても、出されている音素の種類とその音素環境によって接触によって若干の違いががあります(flowers & Morris, 1973; Moll, 1962; Moon & Kuehn, 1997; Shprintzen et al., 1975; Simpson & Chin, 1981)。

一般的に、子音対母音、高圧子音(破裂音、摩擦音と破擦音)対有声子音、そして、高母音対低母音では、口蓋帆の高さがわずかに高くなるます(Moll, 1962; Moon & Kuehen, 1997)。そのように、口蓋帆の位置は、各々の音の生成のたびに微妙に変化します(Karnell, Linville, & Edwards, 1988)。

閉鎖のかたさ(Firmness of Closure)

発話中の口蓋帆の接触位置を高くさせる全く同じ要因は、閉鎖の堅さを増加させることにもなります。したがって、接触が比較的高いとき、口蓋帆咽頭の堅さは最も大きくなります(Kuehn & Moon, 1998; Moon, Kuehen, & Huisman, 1994)。鼻子音に隣接する母音、特に子音に先行する場合は、口子音に隣接する母音よりも閉塞力が小さい(Moll, 1962)。

速度と疲労の影響(Effect of  Rate and Fatigue)

早口は口蓋帆咽頭運動の効率に影響を及ぼすことがあり、その結果、閉鎖の高さや堅さを低下させることがあります。これによって、超鼻音性の知覚が高まる可能性があります。

正常な発話をしている人でも、筋肉の疲労は、閉鎖の高さとかたさに影響を及ぼすことがあります(Kuehn & Moon, 2000)。実際、幼い子供は疲れている時に “whiny(ぐずり) “と表現されることが多いのですが、これは “鼻声 “の別の言葉に過ぎません。管楽器を演奏しているときのように、長時間吹いていても、口蓋帆の疲労につながることがあります(Tachimura, Nohara, Satoh, & Wada, 2004)。

成長と年齢による変化

 

発話の下位組織(Subsystem of Speech):
すべてをまとめる(Putting It All Together)

発話中は、すべての動きが迅速かつ極めて正確に行われなければなりません。実際、発話のためのすべての筋肉の動作は、システム内の他の筋肉の動きに影響され、各組織の動きは他の組織の動きに影響されます。そのうえ、あらゆる音素は、それのまわりの他の音素によって影響されます(Kollia, Gracco, & Harris 1995)。このため、呼吸、発声、口蓋帆咽頭機能、調音操作を含む生理学的サブシステムのすべての側面をうまく連携させる必要があります。これらのサブシステムの重要性と、それらがどのように口蓋帆咽頭弁と関係しているかを理解するためには、音声がどのように生成されるかを確認することが役立つかもしれません。

呼吸(Respiration)

呼吸は生命維持にとって不可欠なものですが、発話にとっても不可欠なものです。肺からの空気は、子音を生み出すための発音の開始力を提供するものです。静かな呼吸の間、吸気相と呼気相の持続時間は比較的長く、通常はほぼ等間隔です。しかし、発話の間、吸気は非常に速く起こります。その後、声門下圧は、全フレーズまたはセンテンスの間、声帯下で維持されます。呼気相は、呼気相よりもはるかに長く、生成される発声の長さに応じて変化します。発話のための吸気相と呼気相は、話者のフレージングに基づいています。

発声(Phonation)

フォネイション(ヴォイシングとも呼ばれる)とは、声帯の振動によって音を生成することです。声帯振動によってつくられる音は、声と呼ばれています。声は声道を通じて上へ伝わり、その後、発話と歌唱時に口または鼻を通して発されます。ヴォイシング(またはフォネイション)は、すべての母音の生成と、半分以上の子音【有声子音】のために必要です。

空気が肺から声門を通して放出されるとき、フォネイションが始まります。それと同時に、声帯が閉まり、声門下圧をつくるます。この空気圧によって、声帯の底が強制的に開かれ、その後も上へ動き続け声帯のトップが開かれます。動きの速い空気柱に遅れて作られた低圧は、声帯の声帯の底を、続いてトップを閉じる原因になります。声帯の閉鎖は、空気柱を切断して、空気の波動を放出します。これで、1回の振動サイクルが終了します。このサイクルは、声帯振動のために繰り返され、一種のバズ音(後に共鳴によって修正されます)になります。

連続した発話の間、声帯は有声音のために振動しなければならず、無声音のために急に振動を止め、次の母音または有声子音のために再び振動しなければなりません(Bailly, henrich, & Pelorson, 2010; Kent & Moll, 1969; Takemoto, Mokhtari, & Kitamura, 2010; Tsai, Chen, Shau, & Hsiao, 2009)。「a cup」という単純な2-音節のフレーズでは、母音で声帯が振動し、/p/の子音で停止します。これは、多くの神経筋の連携とコントロールが必要となります。また、フォネーションのための力を提供し続けることができるように、発話全体を通して空気の流れを維持しなければなりません。

韻律(Prosody)

プロソディ(韻律)とは、発声時に声帯によって生成されるスピーチのアクセント(stress)、リズム、イントネーションのことを指します。アクセントは、音節の生成の間、喉頭と声門下圧の増加に関連しています。アクセントのある音節は、ない音節と比較して、音程と強度が高く、持続時間が長く、より高い調音精度で生成されます。リズムとは、強調された音節と強調されていない音節の変化と、それぞれの相対的なタイミングを指します。イントネーションとは、声帯の長さと質量の微妙な変化によって制御される、発話全体を通して頻繁に変化する音程のことを指します。これらの変化は、喉頭の振動速度に影響を与えます。連続する発話全体で音程の変化はありますが、音声のピッチは、各文の終わりには低い周波数に下がり、質問の終わりには高い周波数に上がる傾向があります。アクセントとイントネーションはどちらも強調のために使われ、また意味を伝える助けとしても使われます。例えば、「desert(砂漠)」と「dessert(デザート)」という言葉は、アクセントを付ける場所の違いから伝わる意味の違いがあります。「Well, that’s just fine」という文を感嘆符がついているかのように言うのと、最後にピリオドがついているかのように話すときとは違う意味になります。アクセントとイントネーションの違いによって意味の違いが伝えられます。

共鳴と口蓋帆咽頭機能(Resonance and Velopharyngeal Function)

一旦発声が始まると、声帯からの音響エネルギーは声道の空洞を通して上方向に移動し、咽頭腔から始まり、口腔および/または鼻腔で終わります。発話に関連した共鳴とは、声帯からの音が空洞を通過する際に、特定の周波数を選択的に増強することで修正されることです。強化される周波数は、空洞の大きさや形状によって決まります。

声道の空洞の大きさと形状の影響は、水で満たされたボトルの唇を横切って吹くことによってシミュレーションすることができます。ビンがほとんどいっぱいになると、共鳴する空間が小さくなり、結果として生じる音はピッチが高くなります。音源が同じであったとしても、音のピッチは共鳴空洞の大きさで決まります。

音の生成とその音の成形は、音源フィルターモデルと呼ばれ、Gunnar Fantによって最初に記述されました(Fant, 1960)。このモデルは、音を出すことができるすべての楽器には、少なくとも3つの構成要素が必要であるという前提に基づいています:(1)音(音源)を作るための振動メカニズム、(2)振動を起こす励振力、そして、(3)音の様々な周波数を選択的に減衰させるか、増幅させる共鳴メカニズム(フィルタ)。人間の発話において、声帯は振動メカニズム(音源)、声門下気圧は励振力、そして、声道の空洞が共鳴体(フィルタ)となります (Baken, 1987; Sataloff, Herman-Ackah, & Hawkshaw, 2007)。

個人間の共鳴腔の大きさと形状の相違、多くの場合年齢と性別によって決まります。例えば、乳児の場合、共鳴腔が非常に小さく、そのため、声質が非常に高いピッチになります。女性や子供は通常、男性よりも咽頭腔が短いため、生成された声のフォルマント周波数が男性よりも高くなります。さらに考慮すべき点は、空洞の壁の厚さです。咽頭壁が厚いと音を吸収し、薄いと音を反響させます。これらすべての要因から生じる振動の変化が共鳴を生み出し、音色や声質の知覚を与えます。これが個人の声に独自の音質を与えているのです。

口蓋帆咽頭弁は、発話中に適切な空洞に音響エネルギー(そして、空気流)の伝達を導くことによって、共鳴に影響を与えます。口腔音(/m/、/n/、/η/を除くすべての音)の生成の間、口蓋帆咽頭弁が閉じて、口腔から鼻腔を遮断します。

調音(Articulation)

発音と共鳴の結果生じる音は、個々の発話音のために口腔内の調音器官によってさらに変化します。口腔内の調音器官には、唇、あご(歯を含む)と舌などがあります。(口蓋帆は、発話のための調音器官でもあります。)口腔内の調音器官は、音響生成物を2つの方法で異なる発話音へと変化させます。第1には、動きと調音配置によって口腔の大きさと形状を変えることができます。第2には、調音器官は、音、特に空気流が放出される方法を変えることができます。

母音と有声口腔子音の両方共、生成のためには口腔共鳴を必要であり、多くの子音には口腔内の空気圧も必要とします。母音生成のために、舌とあごは口腔の大きさと形状を変更しますが、音響エネルギーまたは空気流のほとんど阻害するものはほとんどありません。母音の区別は、舌の高さ(高・中・低)、舌の位置(前・中・後)と唇のラウンディング(有無)によって決まります。

一方、子音は、口腔の部分的または完全な閉塞によって生じるものであり、その結果、口腔内に空気圧が蓄積されます。口腔内の空気圧は、圧力に敏感な子音(破裂音、摩擦音と破擦音)を生成するための力を提供します。破裂音の音素(/p/、/b/、/t/、/d/、/k/、/g/)は、口腔内の圧力が高まり、その後の急激な解放に伴って発生します。摩擦音の音素(/f/、/v/、/s/、/z/、/∫/、/ℨ/、/h/)は、狭くされた開口部または制限された開口部から、徐々に空気圧を解放する必要があります。破擦音音素(/t∫/、/dℨ/)は、破裂音と摩擦音の組合せで生じる音素である(/t∫/=/t/+/∫/、そして、/dℨ/=/d/+/ℨ/)。このように、破擦音は、口腔内の空気圧を蓄え、狭い開口部から徐々に解放する必要があります。子音は、生成の方法(破裂音、摩擦音、破擦音、流音とすべり)だけでなく、生成の場所(両唇音、唇歯音、舌‐歯茎音、口蓋、軟口蓋、声門)やヴォイシング(有声、無声)によっても区別されています。

「チームプレーヤー」としてのサブシステム(Subsystems as “Team Players”)

発話生成中は、各サブシステムはチームのメンバーのようなものです。「チーム」が正常な発話生成という目標を達成するためには、各サブシステムがそれぞれの役割を実行することができなければならず、また、他の「プレイヤー」との連携方法を学ぶ必要があります。あるプレーヤーが優秀であれば、他のチームのプレーヤーはより効果を発揮します。あるプレーヤーが劣っているならば、他のチームプレーヤーの仕事がずっと難しくなり、効果的に機能しなくなります。例えば、口蓋帆咽頭機能不全は、呼吸、フォネイションに影響を及ぼし、より非効率にする可能性があります。鼻を通しての空気流の損失によって、空気を補充するために息を頻繁に取るようになるため、発話中の呼吸の変化を引き起こす可能性があります。発せられた音(すなわち、n/s)を代用することによって、無声音のために不十分な口腔内の空気流を補う場合、発声は変更される可能性があります。一方で、超鼻音性の音をマスクに充てるために、気息声を使うかもしれません。口蓋帆咽頭機能不全のための口腔内の空気流れの損失は、感圧性子音の調音に影響を与え、口腔内ではなく咽頭で音を出すようになります。

 

2020/08/11 訳:山本隆則