Training the Singing Voice
歌声のトレーニング
An Analysis of the Working Concepts Contained in Recent Contributions to Vocal Pedagogy
(声楽教育学の最近の著作に含まれる実践的概念の分析)
第4章
Concepts of Phonation
フォネイションの概念
定義:
発声(フォネーション)とは、声音を発生させる行為またはプロセスであり、喉頭で声音が生成される時点での始まりである。より明確に言えば、発声は音の感覚を生み出す振動の原因である。これらの音が持続すると、歌声の基盤となる(Webster’s New International Dictionary 以下、Wと表記)。喉頭は声音を発生させる器官である。それは気管(wind-pipe)の最上部の輪状軟骨に位置し、調節可能な軟骨、筋肉、膜から構成され、それらが一体となって声帯の弁のような仕組みを機能させる [Negus 418, 1929]。
声帯(vocal cords)(誤った名称)は、声帯バンド(vocal bands)、声襞(vocal folds)、声唇(vocal lips)、クッション(cushions)、(壁から突き出た)棚(ledges)、靭帯(ligaments)、棚(shelves)、筋肉(muscles)、突起(processes)、縁(edges)とも呼ばれるが、正確には、喉頭(larynx)の空洞に突き出たペアの筋肉のヒダで構成されている。(いわゆる仮声帯は、喉頭室(laryngeal ventricles)の固定と拡張を目的としており、発声には直接影響しない。[Hemery 238, p. 55, 1939 ]真声帯は張力を与えられ、露出した縁に沿って引き寄せられ(接合する)ことで、その間を流れる息が声帯を振動させ、声を発生させる。「声帯は、発声において重要な機能を持つ喉頭の唯一の部分である。」[Negus 418, 1929 ]声門(glottis)は、通常の呼吸時に両声唇(声帯)が離れた状態にあるとき、または発声時に呼気流によって両声唇が強制的に離されたときに存在する開口部または隙間である。「声門は、声門を制御する筋肉の作用や軟骨の調整により、開いたり、狭めたり、閉じたりすることができる。」(W)。 声門(声門)という用語は、発声時に振動する両声唇(声帯)の縁を指す場合にも用いられる。
フォネイションの説明は、多くの場合、声道の解剖学的構造を説明する際に使用される専門用語の存在によって複雑になる。以下の議論では、主題の理解を深めるために、この専門用語を簡素化する。定義および専門用語は、必要な場合のみ記載する。レビューしたフォネイションの462の概念は、表3にカテゴリー別に要約されている。
表3
歌声のトレーニングで使用される発声の概念のまとめ
(発言の総数)―(小計)―(総計)―(プロ歌手)―(文書化された証言)―(文書化されていない証言)
Ⅰ. フォネイションに関する理論 合計188
A.一般的な説明 53・53・ー・ー・25・28
B.生理的要因 ー・84・ー・ー・ー・ー
1. 音の発生器 33・ー・ー・ー・17・16
2. ピッチ調整器 39・ー・ー・ー・25・14
3.外部メカニズム 12・ー・ー・1・4・8
C. 発声のメカニズム 51・51・ー・ー・36・15
II. 制御されたアプローチの方法 ー・ー・275・ー・ー・ー
A. 心理的アプローチ ー・85・ー・ー・ー
1. 必要とされる全体の連携作用 23・ー・ー・3・9・14
2. 予想がフォネイションをコントロールする 43・ー・ー・1・3・16
3.予想がピッチをコントロールする 19・ー・ー・1・3・16
B. 技術的なアプローチ ー・190・ー・ー・ー・ー
1. 口のコントロール
a) 口を開くことは重要である 29・ー・ー・ー・ー・29
b) 口を開くことは、重要でない 9・ー・ー・ー・ー・9
2. 舌の位置
a) 低い舌のすすめ 31・ー・ー・2・ー・2
b) 自由な舌のすすめ 19・ー・ー・1・1・18
3.口蓋コントロール
a) 口蓋は上げなければならない 2・ー・ー・ー・ー・2
b) 口蓋は自由でなければならない 4・ー・ー・ー・2・2
4. 開いたのどの概念
a) のどのコントロールを推奨 する 22・ー・ー・1・6・16
b) のどのコントロールを推奨しない 17・ー・ー・ー・3・14
c) 手段としてのあくび 20・ー・ー・2・ー・20
5. 喉頭位置
a) 喉頭は動くべきである 9・ー・ー・1・2・7
b) 喉頭は動いてはならない 9・ー・ー・ー・2・7
6. アタックを改善する手段 19・ー・ー・ー・2・7
総数 463ー463ー463ー13ー137ー326
THEORIES OF PHONATION
フォネイションの理論
GENERAL DESCRIPTIONS
一般的な説明
以下に挙げる理論的なステートメントのグループは、この分野における188の概念の概要を提供する。これらは、本質的な特徴を変えることなく、より理解しやすく、したがってより読みやすい一連のアイデアを統合することを目的として関連付けられている。
1. 振動体。「発声器官は振動体(喉頭)と、音の共鳴体または増幅器として機能するいくつかの空洞から構成されている[Clippinger 114, 1935] 。それは、声門下の空気の圧力によって、振動を維持される。「空気の移動する柱がリズミカルに、かつ人間の可聴限界内の速度で、その開口部からの出口を部分的にまたは完全に遮断された場合、音楽的な[ヴォーカル]音が生成される。」[Negus 418, p. 346, 1929] 。 喉頭の発生音は、基本周波数と倍音周波数からなり、それらは「さまざまな空洞共鳴によって選択的に増幅される」ため、各発声ごとに異なる、非常に個性的な声色が生み出される。[Curry 124, p. 57, 1940; Stanley 578, 1931]
2.音のエネルギー。
喉頭で発生する声の声音は、胸部、喉、頭部のより広い範囲に振動を発生させることが実験で証明されている(放射、共鳴振動、共振、骨伝導による) [Lindsley 347, 1933] 。フォネイションの振動エネルギーの大部分は喉頭で記録されるが [同書Lindsley 347, 1933]、気管内の声門下の振動 [Redfield 461, 1934] や「喉頭とつながった構造物の副次的な振動」 [Curry 124, p. 57, 1940] も指摘されている。(第5章も参照)
3.声門の動き
「声は声帯の運動によって作り出される。弦楽器の弦のようにではなく、膜状の唇が2つあり、呼気によって絶えず引き離され、自身の弾力性と筋肉の緊張によって絶えず再び引き寄せられることで、呼気の流れを一連のパフ、つまりパルスに分断し、音の感覚を引き起こすのに十分な速さでパルスを発生させる。」(W)。「弾性膜(声帯)の震えは、空気の圧力を素早く開放し、微小な空気の塊を次々と放出する」[Aikin 4, 1941]「声帯を振動させるためには、声帯を緊張状態にし、声門の開口部を狭めて空気の流れに抵抗を与える必要がある。」[Starlingの生理学713, p.350, 1930]「甲状披裂筋(声帯)は常に持続性収縮、の状態にあるため、常に弾力性がある。」 [Negus 418, p. 374, 1929]
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4. 各部品の均衡。
フォネイションは、相反する力(すなわち、呼気圧と声門抵抗)が完全な平衡状態で機能した結果である [Brown 78, p.63, 1931]。この2つの相互依存するアクションが自動的に機能した結果として得られるものが、正しい声音となる [Bergère 45, 1934]。 つまり、フォネイションという行為は、主に筋肉の位置を固定したり保持したりすることであり、各部の動きではない。[Stanley 577, p. 304, 1939]
5. 起動力
「声は、あらゆる楽器と同様に、3つの明確な作用から構成されている。」それらは、原動力、ピッチ調整メカニズム、共鳴メカニズムである [New York Singing Teachers Association 421, p. 34, 1928; Ruff 477, 1928] 。 肺と横隔膜が原動力を供給し、それが呼吸となる;これが声帯に触れることで声帯が振動し、音が生まれる(フォネイション);音は鼻、口、首、胸の共鳴腔で増幅され;口、舌、唇、歯によって調音され、発せられる [Jacques 299, p. 28, 1934; Herbert-Caesari 269, p. 28, 1936] 。「声帯を離す力は、呼気の動作によって引き起こされる気管内の空気圧である。声帯を再び閉じる力は、声帯自体が持つ弾力性である…音量の増加は、声門縁の弾力性の減少に伴う空気圧の上昇によって達成される。」[Negus 418, pp. 373 and 387, 1929] ((音の大きさは、振動する表面の面積、その物質、振動の振幅、環境によって異なる。[同書、p.344] (第VII章も参照))
6. 全体の連携作用
正しい発声法では、多くの部分が同時に活動し、正確なタイミングで連携して動く。これには、呼吸筋の適切な緊張、声門の自然な閉鎖、ビブラート、喉頭の下降、喉と咽頭の開放と共鳴のための形状、口と顎の動きの抑制が含まれる。間違った発声法では、これらの要素のいくつかまたはすべてが逆転してしまう[Dodds and Lickley 139, p.35]。 マーセルは、発声器官を身体の他の部分から切り離して、独立した構造として記述することは困難であると主張している。「そのアクションは、音の身体反応のまさに質感に織り込まれている。声のアクションは、身体の行動の全体的なパターンに影響を与え、形作る。」また、その逆も然りで、「身体全体に影響を与えるものは、声にも影響を必ず与える。」[Mursell, 411, p. 227, 1942] 。 ウォートンも同様の意見であり、フォネイションは、歌うという行為に「身体の多くの部分が協調して関わる」プロセスであると主張している[Wharton,655, p. 69, 1937]。
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7. 主要な機能。
ヴォーカル楽器は、そのすべてが人間の体の一部で構成されているという点でユニークである [Drew 147, p. 171, 1937]。また、「喉頭の機能は、発声のみに限定されるものではない。」ということも覚えておくべきである。[Evertts and Worthington 167, p.17, 1928] 。 喉頭は、食事、嚥下、呼吸など、声を出さない機能にも関与している [Witherspoon 677, p. 14, 1930] 。人間のフォネイションの方法には、「生命維持に必要なプロセスを中断することなく、呼吸中に音を出すことができる」という利点がある。[Negus 418, p. 346, 1929] 。「喉頭の構造の特異性のほとんどすべては、これらの器官の機能上の必要性によって説明できる。それゆえ、その主要な機能を考慮する必要がある。」[Drew 147, p. 174, 1937]。
8. 音響上の類似性
発声メカニズムは、その音響的特性を説明するために、他の楽器と比較されてきた。たとえば:
a. 声は、管楽器のようである。[Redfield 462, 1934 ]
b. それは、弦楽器のようである。[Mackenzie 364, 1928]
c. それは、両方の組合せである。[DoddsとLickley 139, 1935]
d. それは、リードのように振動する。[Aikin 4, 1941]
一方、クリッピンガーは「声は声であり、他の楽器と比較すべきではない」と主張している。なぜなら、「声は他の楽器とは異なるからだ。」[Clippinger 115, 1935]
フォネイションに関するその他の一般的な観察結果として、以下の3点が興味深い。
まず第1に、ボナヴィア=ハントの「声音生成のうず理論(vortex theory )」では、声帯そのものは音を発生させないとしている。「声帯は空気の渦流、すなわち『渦輪(うずわ・’vortex rings’)』を発生させる。1回の完全な振動につき1つの渦が発生する。ちょうどホルン奏者の唇が楽器のマウスピースに渦を吹き込むように」である。これらの渦輪のエネルギー、大きさ、速度は、振動する声帯(唇)から発生する空気の噴流の張力、周波数、度合いによって制御され、その結果、音が発生する [Bonavia-Hunt 55, 1942; Herbert-Caesari 269, p. xii, 1936] 。 「喉頭音は声帯靭帯自体の振動によるものではないことは周知の事実である。そうして生み出される音は微弱なものだろう。重要なのは、サイレンのように空気の流れをリズミカルな塊に分断することである。」[Negus 418, p.368, 1929]。
第2に、ドッズとリックリーは、声のトーンが実際に「息のパフ【声帯の1振動で漏れる空気:山本】」で構成されていると考えるのは誤りであると指摘している。なぜなら、これらの息のパフはごく短い距離しか移動しないからだ。声の音波は、空間を伝わるために空気の流を必要としない。音波は毎秒約1100フィートの速度で伝わり、音源からあらゆる方向に同時に広がる。これは、空気(息)の流れが伝わる速度よりもはるかに速い [Dodds and Lickley 139, p. 33, 1941]。
第3に、長年カルーソの主治医を務め、メトロポリタン歌劇場の「その時代の」ほぼすべての偉大な歌手の声帯を診察し研究してきたと主張するマラフィオティは、現代の偉大なオペラ歌手の声帯のほとんどは、一般人の声帯と比較しても、構造上あるいは生理学的に顕著な違いは見られないと主張している。したがって、歌の才能は、フォネイション器官に固有の機能的特性だけによるものではないと推定される [Marafioti 368, p. 74, 1933] 。 ニーガスはまた、「2人の人間のうち、明らかに解剖学的には同等に恵まれているにもかかわらず、一方はもう一方よりもはるかに優れた声を持っている」とも報告している。[Negus 418, p. 437, 1929]
これらの発声プロセスの基本概念は、以下に続く教育論議に関連して、歌唱指導者にとって一般的な指針となる。 発声器官の詳しい解剖学的説明は、Curry [Curry 124, 1940] や Negus [418, 1929] などのよく知られた文献や、標準的な生理学の教科書で入手できる。発声器官に関する技術的ではない優れた記述は、ウェブスターのニューインターナショナルディクショナリー(第2版)の序文にも掲載されている。本研究に関連する喉頭およびその周辺の構造に関するさらなる議論は、第III章、第V章、第VI章にも記載されている。
PHYSIOLOGICAL FACTORS
生理学的要因
音の発生装置。
ホワイト[White 657, 1931; 658, 1938; 659, 1938]の三部作は、正弦波の生成に関するもので、フォネイションの共鳴理論を支持しているが、このテーマに関するすべての主張は、声の振動活動は声門で発生するという基本的な前提に一致しているように思われる。ヘンダーソンによる音の生成行為の簡潔な要約は、典型的なものである。 「声帯(声帯)は普段は隠れていて、その端が互いに接近し、狭小な裂け目を作り、そこを空気が通過することで、声帯(膜)が振動し、サウンドが生成される…これがフォネーション(発声)の一連の動作である。」 [Henderson 243, p. 36, 1938]。 同じ主題について、より技術的な典型的な記述を比較のために以下に示す。「声襞(声帯)が強く内転し、高音を発するような場合、声帯間の部分は声帯の密着によって線状のスリットになる。これは、軟骨の内側への回転によって近づけられる。」[Gray’s Anatomy 707, p. 1101, 1942] 。 声帯の閉鎖は、フォネイション中の「拮抗筋群」の完璧な連携によって達成される。これは、歌声の第一条件である。[McLean 385, 1931]
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実験的な調査結果。オグルは、各声帯(唇)を「繊細なプリズム状の筋肉」と表現し、その全長は約12㎜であると述べている。この筋肉は、2つの付着部位(すなわち、一方は甲状軟骨、もう一方は披裂軟骨)にちなんで、甲状披裂筋と名付けられている [Ogle, 433 ,1940] 。エヴェッツとワージントンは、この筋肉の長さは、男性歌手では平均15㎜(約3/5インチ)、女性歌手では11㎜(約2/5インチ)であることを発見した [167. Evetts,p.30, 1928] 。ニーガスは、成人女性の声帯の長さは約12.5~17ミリメートルであると報告しているが、成人男性では17~25ミリメートルと幅があるという[ Negus 418, 1929]。ファーンズワースは、声帯の長さを「約120サイクルで振動している場合、1/2インチ(12.7㎜)から5/8インチ(15.8㎜)である」と推定している [Farnsworth 168, 1940] 。ネブレットは、歌における声門の位置を「喉から60~100ミリメートル(2.35~3.92インチ)下」と大まかに表現しているが、これは個々の解剖学的構造の多様性や、これらの部位の可動性を考慮すると、せいぜい概算にすぎない [Neblette 417, 1931] 。
この分野における教育上重要なその他の実験結果は、以下のようにまとめられる:
1. 「声帯はそれ自体では振動できない。」息を吐き出すことによってのみ、音の原因となる振動を発生させることができる。[Lloyd 351, p.7, 1929]
2. フォネイションの際、声帯は「ほぼ完全に水平面で動く」が、最大変位約4ミリメートル後、振動サイクルごとに1回、互いに直接接触する。[Curry 124, p.45, 1940]
3. フォネイションにおいて声門閉鎖が少しでも遅れると、呼気性音声【h音】が生まれる。[同書、Curry 124, p.45, 1940]
4. 声帯の振動運動は、直進する空気の流れを「交互に変化する空気流、すなわち音波」に変える効果がある。[Farnsworth 168, 1940]
5. 声唇(声帯)は交互ではなく、同期して振動する。[Metzger 395, 1928]
6. 「声帯は部分的に振動する」という確かな証拠が今、示された。これは、部分的な振動によって発生する倍音が、声の音質に基本的な特徴をもたらして いることを示していると思われる。 [Seashore 505, 1939]
結論として、フォネイションには通常の呼吸とは異なる呼吸法が必要であるというスタンリーの意見は興味深い。呼吸では声門は通常開いているが、発声では声門は閉じた状態を維持しなければならない。したがって、彼は主張する。音を維持する呼吸法に通常の呼吸反射を組み込むことは不可能であると。[Stanley 577, p.310, 1939]
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ピッチ調整要因。このテーマに関する39の声明の総意は、発声時の声門の開閉の頻度または速度が、歌声の基本音程に影響を与えるというものである [例:Negus op. cit., p. 346、1929] 。また、あらゆる声の周波数(音程)レンジは、声帯の長さ、厚さ、密度によって影響を受けるという考え方が一般的である。マッケンジーは、300人から400人の歌手を対象とした喉頭鏡検査の結果、低音では「声門縁」の一部のみが振動し、声の高さがファルセット(第VI章参照)に達すると、振動する部分が声帯前部に向かって移動すると主張している [Mackenzie 364, p. 67] 。この肉眼による観察結果は、後にファーンズワースによって確認された。ファーンズワースは、声帯の動きを研究するために高速モーションピクチャー撮影法を用いた [Farnsworth 168, 1940] 。ファルセットのメカニズムに関するネガスの説明も興味深い。ファルセット(頭声区)では声帯は離れたまま保たれ、外に向かって息の流れによって弓形に反る。「声門の縁の一部のみが振動している。このメカニズムは、甲状披裂筋の内部繊維のみの収縮に依存しているようで、気管の空気圧の著しい変動と関連している。」 [Negus 418 p.440, 1929] 。
ファーンズワースは、フォネイション中の声帯の声門接触の持続時間は、音程が高くなるにつれて短くなり、「ファルセットでは、完全な接触は通常まったく達成されない」と報告している [Farnsworth 168, 1940] 。カリーによると、喉頭のピッチ調整の方法は、音階が上昇するにつれて変化する。なぜなら、声域全体をカバーするために必要な大まかな調整と細かい調整の両方を1つの調節メカニズムで行うのは不適切だからである [Curry 124, p.66, 1940] 。低音域では声帯は比較的厚く、高音域では「薄く引き伸ばされる」[Bartholomew 39, p. 122; Kwartin 325, p. 32, 1941]。
しかし、歌いながらピッチチェンジャーで声帯をチューニングしたりストレッチしたりする際の正確な生理学的メソッドについては、確実なことは何もわかっていない。以下に複合的に記述されているさまざまな行動は、典型的な相反する見解を示しており、ピッチ調整のプロセス全体を不完全に描写している:
1. 口蓋から咽頭にかけての筋肉(喉のうしろの柱/口蓋咽頭筋)は、「より高い音程を得るために、より小さな喉頭筋が声帯を伸ばすのを助ける」[Bartholomew 39, p. 130, 1938]
2. 輪状(原文のまま)軟骨の傾きによって声帯が引き伸ばされる。 [Jones 307, p. 10, 1930]
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3. 「披裂軟骨の外転は声帯の縁を緊張させ、同時に声門の閉鎖を妨げる。」[Garnetti-Forbes 198, p. 86]
4. 振動の速度は、弦の張り具合、長さ、形状、および空気流の圧力によって決まる。 [Passe 443, p. 56, 1933]
5. 声帯を緊張させるために、2つの対向する筋肉群が作用する。それらは、甲状披裂筋と輪状甲状筋である。[Stanley 578, 1931]
6. ピッチの変化は、「甲状披裂筋の[内部]収縮の度合い」によって決定され、これらの筋肉の外部の伸張によって決定されるものではない。 [Negus 418, p. 439, 1929]
ラッセルの喉頭の動作に関するX線研究では、声の高さを上げるのが声帯の伸張によって達成されるという証拠は提出されていない。したがって、ラッセルは「この根本的な主題に関する我々の概念さえも変更しなければならない」と主張する正当性を感じている [Russell 479, 1932] 。 レッドフィールドによるピッチコントロールの要約は、純粋に理論的なものだが、音響学的に興味深い。「人間の声のピッチを完全に、あるいは部分的にコントロールできる可能性がある手段は3つある。1)声帯の張力を変化させる、2)共鳴する空洞の容量を変化させる、3)音の振動が共鳴する空洞から外気へと抜ける開口部の大きさを変化させる、の3つである。」[Redfield 462, p. 272, 1935]
エベッツとワージントン、スタンリー、クリッピンガーは、呼気圧をピッチのコントロール要因として使用する可能性を提示している。この点について、これらの著者は、発声中の呼気圧の不規則な増加が、音を外す原因であることが多いと主張している。これは、空気圧が増加すると、声帯膜(声帯)が伸び、与えられた固定音のピッチが高くなる傾向があるという事実によって説明される。圧力が弱まると、正しい音程が回復する [Evetts and Worthington 167, p. 81, 1928; Stanley 578, 1931] 。無意識のうちにこの原則を適用している歌手は、声帯を一定に調整しながら、息の力だけで高い音を出そうとする。高い音が出しにくい場合、「それは弦が厚すぎる、つまり声帯の抵抗が強すぎるために生じる」[Cilippinger 104, p.32, 1932]。また、エヴェッツとワージントンは、男性の声の平均的な音域は、女性の平均的な音域よりも「約1オクターブ低い」と指摘している。これは、男女の声帯の長さが15対11の比率であるためである [Evetts and Worthington 167, p. 24, 1928] 。しかし、バスとテナーの声帯の長さには、それほど大きな違いはない [White 658, p. 6, 1938] 。(第6章参照。)
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ピッチ調整プロセスに関する以下の興味深い要約は、ニーガス [Negus 418,1929]から引用したものである。
a) 「実験により、声帯自体によって声の高さが決定され、咽頭、口腔、鼻腔のさまざまな共鳴器によって変化することはないことが証明されている。」[p. 439]
b) 「成人の男性の声帯(死体)の長さは23mmであることが観察されており、この長さは(技術的に)27.5mmまで伸ばすことができる」という4.5mmの差異。「これは、披裂軟骨に予想される大きな動きの範囲である。このような動きが起こった場合、小後輪状披裂筋 (small postici [crico-arytenoid] muscles)が持つよりもはるかに大きな力を発揮する必要があるだろう...他の要因が発見されなければならないが、それは声帯[甲状披裂筋]自体の収縮能力にあると私は考えている。[p.373]
c) したがって、「声の高さは声帯の伸張によって変化するものではない。声の高さは、甲状披裂筋の収縮の度合いで決まり、それによって声門の縁の弾力性が調節される」[p. 439]
d) 「喉頭の他の筋肉は、披裂軟骨を適切な位置に保つという二次的な役割を果たしている。」[p. 376]
e) 「結論 – 多くの場面で裏付けられている – は、喉頭が声帯に関して同じ状態を維持している場合、空気圧の[増加も] 音程を上げるということである。」[p. 384]
f) 「したがって、ピッチの上昇は空気圧と声門縁の弾性の両方の変化によって達成されることは明らかである。実際のフォネイションでは、この2つは関連しており、空気圧のわずかな増加がピッチの大幅な上昇を引き起こすような仕組みになっている。[p. 386 以降]
外因性のメカニズム。喉頭の筋肉や部分の一部は、喉頭内に完全に収まっておらず、喉頭から体の他の部分に伸びている。このような部分は、喉頭内に完全に収まっている内因性機構と区別するために、外因性機構と呼ばれる。歌うための声の音色を生み出す器官としての機能において、喉頭は固定されたものではない。自由に動かすことができ、頭蓋骨、舌、舌骨、顎の上部、胸骨(sternum)と肩甲骨(omos)の下部とつながっている柔軟な外因性筋肉によって喉に吊り下げられている。 [Edwards 158, 1932]
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このような部位の名称として一般的に使用されているラテン語やギリシャ語の用語(例:sterno-thyroid muscle(胸骨甲状筋)、omo-hyoid muscle(肩甲舌骨筋))は、必ずしも音声テキストに一貫して使用されているわけではない。そのため、専門的な議論を避けるために、ここでは必要な場合のみ使用する。
ニーガスによると、「声帯とそれらを支える筋肉の関係、そしてフォネイションにおけるそれぞれの機能については、大きな混乱がある」[Negus 418, p. 369, 1929] 。外因性筋は歌っている時の体の姿勢と関係しているため、歌に関する文献や記事で時折言及されることがある。しかし、フォネイションにおけるそれらの特定の機能についてはほとんど知られておらず、ほとんどの著者はそれらについて簡単に触れるか、あるいは完全に無視している。
ウィザースプーンは、フォネイションの間、喉頭はリラックスしていないという事実を強調している。むしろ、それは緊張した平衡状態であり、望む音の強さに比例して、内在筋と外在筋に均等に分布する状態である [Witherspoon 677, p. 61, 1930] 。ゲシャイト Gescheidt は、特定の喉頭筋(外因性)が喉頭と頸椎を結びつけているため、「喉頭から脊椎に共振振動を伝える」手段を提供し、発声時の元の音色の増幅に寄与していると主張している [Gescheidt 200 , p.12, 1930] 。また、カリーは発声動作の簡単な説明の中で、外因性の付着についても言及している。これらの筋肉は、甲状軟骨が輪状軟骨のうえで動く際に、喉頭を背部の脊椎骨に固定して支える役割を果たす [Curry 124, p, 64, 1940; also Negus 418, p. 380, 1929] 。オルトンは、声の外因性メカニズムについてより詳細な説明をしている。彼は、下方に引っ張る外因性の筋肉(例えば、胸骨-甲状筋や肩甲-舌骨筋)が、舌骨と舌筋(舌骨舌筋)および頭蓋骨をつなぐ上方に引っ張る筋肉によって相殺され、発声中の喉頭の位置が安定化されると主張している。舌骨は、甲状軟骨の真上に位置し、常にしっかりとそこに繋がっていることから、喉頭の一部であると考えられている。「舌骨は、喉頭の上の管を開いた状態に保つのに役立つ。」[Orton 439, p.45, 1938]。
音声学者が挙げるもう一つの外因性メカニズムは、 喉頭蓋である。それは、舌の裏側、声門のすぐ前に通常突き出ている「黄色い弾性軟骨」の薄い葉のような突起である(W)。一般的に、嚥下時には声門を覆い保護するものと考えられているが、この作用は明確に立証されていない。声の生成におけるその可能性のある機能についても、音声理論家による精査の対象となっている。喉頭蓋が歌唱、呼吸または嚥下(嚥下)においてわずかな重要性しかないと、Negusは主張する。比較解剖学、発生学、生理学に関する広範な研究を経て、彼は「動物におけるその本来の機能は、口を気道から遮断することで嗅覚の完全性を維持することである。人間においては、それは大きいものの、機能は退化している。」という結論に達した。[Negus 418, p. 466, 1929]
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ヘーガラは、喉頭蓋の機能は食べ物を処理することに限られており、歌う際に使用すると喉頭を塞いで音を妨げる、と主張している[Hagara 220, p. 23, 1940]。この見解は、ショー[Shaw 518, p. 88, 1930]とヘメリ[Hemery 238, p. 23, 1939]によって支持されている。エベッツとワージントンは、喉頭蓋の切断は声に深刻な影響を与えないと報告している[ Evetts and Worthington 167, p.3, 1928] 。 また、フェルダーマンは、喉頭蓋はフォネイションには何の機能も持たないと述べている。彼はその証拠として、「最も優れた種類の鳴禽類には喉頭蓋がない。」という事実を挙げている [ Felderman 173, p.64, 1931]。
THE VOCAL VIBRATO
声のヴィブラート
声のビブラートとは、通常の音高を上下する声の周期的な振動であり、1秒間に約6.5回の割合で発生し、常に半音の間隔で変化するものと定義される。これは、通常半音以上変化するトレモロ効果[Tolemie 617, 1935]や、半音、全音、3分の1の音程で2つの異なる音程を急速に交替させる声のトリル[Waters 647, p. 76, 1930; Henley 251, 1938]と混同してはならない。声のトレモロは、発声時の声帯のメカニズムの安定した調整を維持できないことによる、緊張の干渉、筋肉の弱さ、ピッチの不規則な不安定さや不調として定義される [Wilcox 669, p. 39, 1933] 。トリルでは、急速に交互に鳴る2つの音の間には、常に意識的な規則正しい音程が維持されている。一方、ビブラートでは音程という概念は完全に欠如している。[Seashore 511, p. 154, 1936]
ビブラートは、声の生成においてかなりの実験的処置が施された要因の1つであると思われる。このテーマに関して収集された51の声明のうち、16は実験結果の報告である。この分野における初期の研究の包括的な要約は、カール・E・シーショア編集の『アイオワ大学音楽心理学研究』第3巻(1936年)に掲載されている[Seashore 511, 1936]。歌声のビブラートに関する研究はまだ実験段階にあるが、一部の研究者の報告は教育関係者にとって有益で興味深い。生理学的および音響学的なデータが明らかになるとともに、ビブラートの原因や教育的な治療法に関する推測もいくつかある。
ウェスターマンは、声のビブラートを、人体における活動電流(神経インパルス)の放電速度による神経筋現象と説明している。生理学上の法則により、これらのインパルスは通常、神経系に沿って(例えば、脳から筋肉へ)1秒間に5~8回の頻度で伝わる。発声時に通常活性化される声帯筋も、この頻度で神経エネルギーを受け取る。その結果、ビブラートと呼ばれる声の震えが生じる[Westerman 652, 1938]。
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ビブラートはバイオリンの音色と同等に歌声に欠かせないものである[Evetts and Worthington 167, p. 80, 1928]。その主な特徴は実験的に観察されたところによると以下の通りである:
1. アーティストの歌声では、1秒間に平均6~7サイクルである。[Metfessel 394, 1928 ]
2. ビブラートの速度が遅かったり、不規則だったりすると、聞き手に不快な印象を与える。[Stanley 577, p. 367, 1939]
3. ビブラートの規則性は、単一の音ではかなり一定している。 [Metfessel 394, 1928 同上]
4. 芸術的な歌唱におけるビブラートのサイクルの平均的な幅または範囲は、半音である。[Seashore 506, p. 367, 1936]
5. ビブラートの幅に関しては、明らかな性差は認められない。 [Seashore 506, p. 367, 1936 同上]
6. コンサート歌唱のフォネイション時間の50%から75%の間にも、2デシベルから3デシベルの強弱のビブラートが存在する。[Tolmie 617, 1935] [Seashore 506, p.97, 1936]
7. 芸術的な歌唱におけるグライディング・イントネーションでは、フォネイションの時間のうち100%にビブラートが存在する。(68%のグライディング・イントネーションが調査された)[Miller 400, 1932w]
8. 歌のスライドやアクセントの間、ビブラートは常に一定である。 [Stanley 578, 1931]
9. 芸術的な歌唱における理想的なビブラートは、滑らかで、慢性的な不規則性がない。 [Seashore 512, p. 154, 1932]
10.プロの歌手も上級の声楽学生も、音の生成においてビブラートが優勢である。 [Tiffin 615, 1932]
シーショアは、声のビブラートは良い声音の望ましい必然的な属性であり、音色に類似したものだと考えている。 よく訓練されたアマチュアやプロの歌手であれば、誰でもフォネイションに自動的に付随するものである[Seashore 512, p. 120, 1939; 513, p. 12, 1930]。それは、歌[Scott 501、前書き]のすべての強められて感情的な発声の特徴である;熱のこもった発声[Samuels 487, p. 39, 1930]の結果。感覚が表されて、冷えた、無表情な声で不在のときはいつでも、それは現行である。感情をシミュレーションしないために、本当に感じる力を深めて、ビブラートを深めるために。これは、海岸のアドバイスである。[Seashore 511, p. 112, 1936]
歌声を訓練する際にビブラートを意識的に練習すべきだろうか?「もちろんです!」とムールマンは言う。「優れた歌手には皆あるものです。」[Muhlmann 407, 1936 ] 。声のビブラートをコントロールする実験研究に基づく博士論文で、ワーグナーは「子供でも大人でも、ビブラートを伴う歌い方を教えることができる」という結論を導き出している。これは、メトロノームのリズムビートと、発声時の呼気のコントロールメカニズムの作用に特別な注意を払うことで達成できると彼は説明する。[Wagner 626, 1930 ]
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この点に関して、ウィルコックスは、不均一な震えのトレモロの欠陥(フィリップは「許しがたい声の欠陥」[Philip 446, p. 147, 1930]と呼んでいる)を、正しく発声された音のすべてに特徴的な、均一な間隔のビブラートと混同すべきではないと、歌の教師たちに警告を発している [Wilcox 669, p. 39, 1935] 。スコットは同様に、発声指導においては「不随意のトレモロと随意のビブラート」を常に区別すべきだと主張している。前者は間違いなく悪いが、後者は「表現力豊かな演奏に欠かせない」[Scott 501, p. 72, 1933] 。ウェスターマンは、その用語が誤解を招くため、声楽教師の語彙から「トレモロ」という用語を完全に排除すべきだと考えている[Westerman 652, 1938] 。スタンリーは、声のビブラートの訓練は「(歌唱)教師の技術において最も重要な段階である」と主張している。彼は、最終的には、歌の生徒の声をそのビブラートの効果によってほぼ完全に評価できる明確な基準が確立されると信じている。[Stanley 578, 1931]
結論として、メトフェスルとシーショアの両者は、歌手志望者に対して、ビブラートを掛けた歌唱法の正当性は音響学的にも審美的にも確立されていることを思い出させる。「コンサートやオペラで成功を収めるためには、歌うすべての音にビブラートを掛ける必要がある」ということが、今では決定的に証明されている。[Seashore 505 , 1939; Metfessel 392, 1932]
METHODS OF CONTROLLING PHONATION
フォネイションをコントロールする方法
PSYCHOLOGICAL APPROACH
心理学的アプローチ
トータル・コーディネートが求められる。コーディネーション(連携作用)とは、身体の異なるが関連する活動を機能的に統合するプロセスである(W)。歌における特定の「連携作用(coordination)」は、意識的なトレーニングや練習によって発達したり妨げられたりする可能性があるため、教育的な影響を受ける。声は喉だけで作り出されるものではなく、「身体のあらゆる部分の協力」によって作り出される [Wharton 655, p. 69, 1937] 。この意見を表明している23人の著者は、その考えの根拠としてさまざまな理由を挙げている。デイヴィスは、歌うことは「肉体的、精神的、霊的」な要素を含み、したがって人格全体を伴うものであると宣言している [Davies 127 , 138, 1938] 。マーズウェルとグレンによると、「発声のメカニズムのあらゆる部分が、互いに最も密接に作用し、反応し合う」のであり、連携作用は歌うという行為の本質そのものである [Mursell and Glenn 413 , p.284, 1938]。
フォネイションをコントロールするインパルスは、今ではその全過程をたどって、脳の起源までさかのぼることができるようになった[Seashore 505, 1939] 。フォネイションのコントロールには、大脳皮質にある神経中枢が関与していることが分かっている。「大脳皮質は、身体の中で最も高度で一般的な連携作用を司る中枢である」[Mursell and Glenn, 1938, op. cit.]
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「喉頭と横隔膜、喉頭と耳、喉頭と顔面筋の間にも、皮質を介さない直接的な神経の相互接続がある」と、マースウェルは指摘している。「歌を歌うという行為において、生物全体が焦点となる」ことを示している。[Mursell and Glenn 411, p. 225 ff, 1937; also Curry 124, p.7, 1940]
オートンは、声の音色は脳の両半球からコントロールされており、身体の動作との身体的なつながりを示していると報告している [Orton 439 , 139, 1938] 。ニーガスによると、「声帯の運動(フォネイション)は左右両側で脳に表象されているが、人間の言語は左半球の中心(ブローカ野)のみでコントロールされている」[Negus 418 , p. 468, 1929] 。迷走神経が呼吸と発声の両方の機能に役立つことも知られている [White 658, p. 103, 1938]。したがって、神経学的証拠だけから見ても、声帯の筋肉全体がひとつの統一されたシステムとして機能し、心理神経学的コントロールのみによって支配されていることは明らかである。また、声のトレーニングには、心理学的指導アプローチによってのみ影響を受けることができる根深い連携作用が関わっている [Garnetti-Forbes 198, p.79, 1936] 。ヘンダーソンは、声帯の動きは完全に自動的であり、音を出すという意思によって完全に支配されていると宣言している [Henderson 243, p. 35, 1938] 。スタンレーによれば、随意的な身体的コントロールは、音作りを常に支配している自発的な精神的プロセスを妨害することになる[Stanley 577 , 1939]。「自然な自由な[声]の動き以外には、何も必要ない」とヒルは言う[Hill 272, p. 11, 1938]。
ウィザースプーンは、フォネイションの欠陥は通常、局所的な原因によるものではないと考えている。それらは連携作用の欠陥から生じる。局所的な努力のようなものは、声楽の学習者にとっては忌まわしいものである [Witherspoon 677, p. 5. 1930] 。したがって、音声指導における第一の法則は、「フォネイションという行為に関与する狭い筋肉群の直接コントロールに属する指示を生徒に与えてはならない」ということである [Stanley 578, 1931] 。言い換えれば、すべての発声器官の連携作用が、単一の部位の訓練された活動よりもはるかに重要である[Everett 165, 1935] 。
音の予則が発声をコントロールする。これは、歌唱指導者の間で広く受け入れられている考え方である。43人の著者がこれを支持している。この意味での予測は、喉頭で実際に音が生成されることを期待して、その音を心の中で予見または視覚化するものと定義できる(W)。それはセルフリーディング(第7章を参照)とは異なる。
音の予測が十分に強くなると、音が「心の中で聞こえる」ようになり、実際に音が発せられる前に、声帯の準備反応が起こる可能性がある。心理的な教授法としての予測に関する一般的な概念は、以下の代表的なコメントに要約されている:
1. 「生徒に良い音で歌わせようとしても、まず生徒の心の中に良い音が存在しなければ、それは無意味である。」 [Clippinger 114, 1936]。
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2. 「もし彼の音色の構想が完璧であれば、その音色の生成も完璧であろう」[Maurice-Jacquet 380, 1941; また Cimini 98 p. 11、1936] 。
3. 「完璧なアタックでは、声が発せられる前に、アーティストは意識(心)の中ですでに歌っており、. . . したがって、安定した集中力が必要となる。」[Wharton 655, p. 61, 1937]
4. 「[音調]のアイデアは、[発声]の動きに常に先行し、絶対に不可欠なものである。」[La Forest 326, p. 173,1928]
5. 身体的(発声)行動を試みる前に、「心の中のイメージ」を形成しておくべきである。 [Brouillet 64, p. 65, 1936]
6. 「良い声音は美しいサウンドの概念に依存する。」 [アメリカ声楽教師アカデミー – 理論の概要より引用。Christy 97, p. 45, 1940]
7. 発声には3つの段階がある。1)構想、2)アタック、3)持続。これらはすべて「精神的な目的」によって支配されている。[Owsley 441, p. 66, 1930]
8.あらゆる音の自発性は、予測のみによって決定される。 [Brown 78, p. 78,1931]
9. 最初から、生徒は音が発せられる前に音を考えることを学ばなければならない。 [Mowe 405, p. 2, 1932; Althouse 9, 1941]
10. 「自分が何をしようとしているのかに耳を傾けなさい。自分が何をしたのかだけに耳を傾けるのではなく。」 [Howe 284, p. 63, 1940]
11. 歌手の声音は、常に以前に思い描かれた精神モデルの模倣である。 [Kling 319, p. 3, 1939; also Smallman and Wilcox 566, p.8,1933]
12. 音を理想化する能力は、美しい歌声を歌うための前提条件である。 [Kirkpatrick 317, 1932]
13. 歌手に、音を出す前にその音を考えるように訓練する。 [Staton 581. p. 3, 1942]
予測がピッチをコントロールする。19の論文では、「どのような音程でも、その音程を考えるだけで」、つまり、特に意図的に意志を働かせることなく、声帯にその周波数で振動するのに必要な正確な緊張が自動的に生じるという意見が述べられている [例:Clippinger 112, 1931 ] 。この概念は、音のイメージの使用による耳の訓練の概念に関連している(第VII章を参照)。スタンリーは、この教授法について次のように説明している。「歌い始める前に、生徒は…これから歌う音の高さについて、完全に明確な精神概念を心に抱くように指導されなければならない」[Stanley 578, 1931; also Wood 686, p. 21, 1930] 。ラックストーンは、声の高さの調整を、心的概念に対する反射行動として考えている [Luckstone 358, 1938] 。フォネイションの筋肉は、メンタルなピッチの概念に自動的に反応する [Judd 309, p. 13 1931; Strauss 591, p. 2, 1935]。
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つまり、ピッチコントロールは、フォネイションをコントロールするうえで、個別に用いられるテクニックではない。それは音の概念に組み込まれており、発声プロセスとして教えられなければならない。「私たちは考えることでピッチをコントロールしている」とモーウェは言う。「これは唯一試みるべきコントロールである。」[Mowe 405, p. 5, 1932]
スティーブンスとマイルズは、歌唱におけるヴォーカル・アタックとピッチの正確さの関係について実験的研究を行い、正しいイントネーション(ピッチの)は、「訓練されていない本能的な認知感覚」による場合を除いて、「どんなに努力しても」得られないと報告している [Stevens and Miles 583, 1928 ]。有名なテノール歌手、エドワード・ジョンソンも同様に、「声帯の緊張(音程をコントロールするための)は完全に無意識のプロセスである」と考えている。したがって、フォネイションにおけるピッチの変化は自動的かつ無意識であり、思考のみによってコントロールされる [Edward Johnson 306, 1941]。
最後に、ダンクリーは、ほとんどの歌唱上の欠陥は、ピッチコントロールの誤った習慣によって引き起こされると主張している [Dunkley 151, p. 1, 1942] 。「音痴は、身体的障害というよりもむしろ精神的な障害であることが多い。」とイーリーは言う [Eley 160, 1937] 。シェイクスピアも同様に、この欠点を修正するには、舌や喉の動きを意識しないようにし、歌う前に正しい音を頭の中でイメージしながら練習することでしか達成できないと教えている。 [Shakespeare 517, p. 24, 1938]
TECHNICAL APPROACH
技術的なアプローチ
オーラルコントロール。口または口腔は、声帯から外気へと声が伝わる調音腔の一部分である。口腔は、その上にある鼻腔と口蓋と呼ばれる水平の骨と筋肉の隔壁によって隔てられている。口(口腔)には舌、歯、頬、唇、アゴの先(chin)、下顎(jaw)も含まれ、これらの部分の1つまたは複数を指して、口の位置を大まかに表現することが多い。したがって、口の位置には、アゴの先の位置、下顎全体の位置、唇の位置などが含まれる。
38の声明では、歌声のトレーニングにおける技術的な要素として口のポジションのコントロールについて言及しており、主な目的は喉の筋肉の緊張を防ぐために顎をリラックスさせることである。しかし、口のコントロールの有効性については疑問視されており、9人の著者は明確に反対している。この問題の両面は以下のように示されている:
随意的な口腔コントロール:
1. 口腔の形状をコントロールする筋肉は、喉頭の筋肉の動きと密接に関連し、連携して動いている。したがって、口のポジションは重要である。[Crist 123, 1930]
2. 昔の師匠たちは、口は指1本か2本が入る程度に開くべきだと教えた。 [Henderson 243, p. 62, 1938; Blatherwick 53, 1935]
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3. 「口をあけないと硬直してしまう。」 [Wilson 674, p. 7, 1942]
4. 「昔の教師は、歌手の口のポジションの重要性を非常に重視していた。」自然な笑顔で上唇を軽く持ち上げて、上の歯が見えるようにする。 [Hagara 220, p. 44, 1940 ]
5. 口腔は調節可能な共鳴器である。したがって、口が大きければ大きいほど、「音はより豊かになる」[Scott 502, p. 26, 1933]
6. 音を自由にするには、まず顎を自由にする必要がある。 [Hall and Brown 227, p.14, 1928 ]
7. 「美しい歌声には、緩んだ(リラックスした)顎が不可欠である。」 [Cimini 99, 1936]
8. 下顎をリラックスさせることで舌もリラックスする。 [Clippinger 110, 1930]
9. 顎を簡単に動かすには、上顎が動くものであると想像する。 [Orton 439, p. 94, 1938]
10. 顎を落とす際には、頭を後ろに傾けないこと。 [Hill 272, p. 11, 1938; Wilson, op. cit.]
11. 顎を落として、唇が卵の形になるようにする。 [Ryan 480, p, 77, 1937]
12. 音が高ければ高いほど、顎は下がらなければならない。 [B. Marchesi 369, p. 34, 1932 ]
13. 大きな声で歌うには、顎を大きく開けることが不可欠である。 [Jeffries 301, 1933]
14. 最も純粋な音を生み出すための理想的な唇の開き方がある。 [Passe 443, p. 69, 1933]
随意的なオーラルコントロールに反対:
1. 意識的に顎を開くと、舌と喉頭の筋肉が収縮する。 [Harper 228, p. 21, 1940]
2. 唇の運動性は明瞭な発音にとって重要であるが、顎は受動的なままであり、特別な注意は必要ない。 [Greene 209, p. 311, 1940]
3. 「口を動かすだけでは、決して歌手にはなれない。」 [Lampertiより引用、Owsley 441, p. 65, 1937]
4. 「誇張された口や唇の動きはまったく必要ない。…そして、多くの優れた歌手を台無しにしてしまう。」 [Lloyd 351, p. 9, 1929]
5. 口を大きく開けすぎるのは最も一般的な間違いである。 [Haywood 237, II, p. 14, 1933-1942]
6. 高音は、口を小さく開けるだけでよい。 [White 659, p. 41, 1938]
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舌のコントロール。舌は口の中で自由に動かすことができ、突出させることのできる筋肉である。舌の付け根は舌骨に付着しており、間接的に喉頭にもつながっている。また、他の外因性接続部を通じて、顎や頭蓋骨の一部にもつながっている。(W)
舌の位置を低く前方に保つという意見は31人の著者によって支持されており、一般的な意見としては、舌を口の中で低く前方に保つことで、舌筋が喉や喉頭に後退するのを防ぐことができるというものである。これらの意見は以下に要約されている。
1. 舌は間接的に喉頭に付着している。舌がわずかに後ろに動くと、声がこもってしまう。そのため、発声時には舌を口の中に静かに置くように訓練する。[Samuels 487, p. 21, 1930]
2. 舌の位置が前方にあると、喉が開いた状態になる。 [Faulds 172, 1931]
3. 舌根を後ろに引き上げると、喉頭が引き上げられ、その正常な調整が妨げられる。 [Conklin 121, p. 27, 1936]
4. 顎の下にある舌筋は、常に柔らかくリラックスした感触でなければならない。 [Clippinger 104, p. 10, 1932]
5. 舌を広げてリラックスさせ、「頬が歯に引き込まれないようにする」[Harper 228, p. 137, 1940]
6. 舌の位置を低く保ち、軟口蓋を盛り上げて「音の出口を最大限に確保する」こと。[Ronavia-Hunt 55, 1942]
7. 歌うとき、舌は口の床で完全にリラックスしているべきである。 [Marafioti 368, p. 113 1933; Nicholson 425, p. 106, 1932]
8. 舌の先端は下の前歯の上または後ろに位置する。舌の奥の部分が盛り上がっている。[Lilli Lehmann 337, p. 54, 1935]
9. 「舌の根元は低く構えていなければならない。」 [Jessica Dragonette 146, 1940]
10. 下唇に舌をだらりとつけると、顎が解放されるのを助ける。[Hall and Brown 227, p. 14 1928; Wycoff 692, 1930]
舌の完全な自由
19人の著者は、意識的な舌の制御は局所的な努力と筋肉の緊張を生むため、舌の完全な自由が好ましいと主張している。例えば:
1.「舌を黙らせろ!それは、音を台無しにする以外には、音とは何の関係もない」[Lloyd 351, p. 16, 1929]
2. 舌の自由は、開いた喉と同意語である。なぜなら、喉の緊張は必然的に舌を硬直させるからだ。[Shakespeare 517, p. 19, 1938; Waters647, p. 13, 1930]
3. 良い歌を歌うには、舌と顎は互いに独立していなければならない。 [Howe 284, p. 63, 1940]
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4. 舌は、もし影響があるとしても、歌声の質にはほとんど影響しない。 [Dacy 126, 1930]
5. 舌を局所的に平らにしようとしてはならない。 [Witherspoon 677, p. 15, 1930]
6. 舌のコントロールは「意識的な努力や肉体的な力ではなく、心によってなされる」[Skiles 559][Skiles 559, 1934]
7. 声楽を学んでいる生徒が舌について口にするだけで、無意識のうちに舌の筋肉に緊張が走る。 [Samoiloff 484, p. 121, 1942; Henderson 243, p. 46, 1938]
8. 「歌手にとって有益な舌の訓練などない。」 [Ryan 480 p.95, 1937 ]
9. 舌の器官には、高い柔軟性、自由度、動きやすさが求められる。 [Wilcox 666, 1934]
口蓋のコントロール。軟口蓋または口蓋帆は、硬口蓋の膜状および筋肉質の延長部であり、口蓋の天井部分で硬口蓋と連続した表面を形成し、口腔と鼻腔を隔てる仕切りとして機能している。口蓋帆の後部境界は、中央に位置する肉質の垂れ下がった突出部で終わっており、これは口蓋垂と呼ばれる。(W)
声の生成における軟口蓋の役割は明確に確立されていない。ラッセルによると、発声時の鼻音を防ぐには、軟口蓋が弁のように持ち上がり、鼻腔への後方の入り口を塞ぐ必要があるというのが一般的な考え方であった。しかし、X線研究では、鼻腔への軟口蓋の開口部は、軟口蓋が持ち上がることで閉じられるのではなく、「前部から後部にかけての括約筋のような作用」によって閉じられることが示されている。ラッセルは、すべてのX線写真において、発声時には常に口蓋垂の通路は閉じたままであったと報告している [Russell 479, 1932 。また、エベッツとワージントンは、放射線画像を用いて、通常の発声時と安静時の呼吸時において、軟口蓋が「まったく同じ位置に留まっている」(すなわち、受動的である)という事実を証明した。この位置は、どのような音程で発声しても変化しない [Evetts and Worthington 167, p. 44, 1927] 。コンクリンは、軟口蓋は「音程が上がるにつれて自然に持ち上がるため、意識的な調節は必要ない」と主張している [Conklin 121, p. 20, 1932] 。また、サヴェッジは口蓋の動きには干渉しないことを支持し、これらの動きは「メンタル」に、すなわち意識的にではなくコントロールされなければならないと主張している。[Savage 490, p. 92, 1931]
ヴォイストレーニングにおける意識的な口蓋コントロールを推奨する代表的な意見は、フォネイションにおける不適切なアタックを防ぐには口蓋を意識的に引き上げる必要があると考えるリッスフェルトによるもの [Lissfelt 348, p. 19, 1938]、そして、良好な発声レベルを維持するには「口蓋垂を慎重に訓練する必要がある」と助言するマッケンジーによるものである。[Mackenzie 364, p. 117, 1928]
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OPEN THROAT CONCEPT
喉を開くという概念
喉は、口腔と胃および肺を結ぶ主要な通路として説明されている。 咽頭(のどの上部)、食道の上部、喉頭および気管、そして嚥下、咳、音声発声などをコントロールする複雑な筋肉群を含んでいる(W)。 相互に関連する多くの部分は、繊細な喉頭器官と微妙に結びついており、わずかな発声の不調が喉の筋肉の連携に悪影響を及ぼし、その逆も起こり得る。
最もよく知られた発声の欠陥は、喉の筋肉の緊張である。オープン・スロート(誤称)という表現は、良い歌声に伴う喉の自由さや受動性を表現するためによく使われる。発声指導におけるイメージの役割について、バーソロミューは次のように述べている:「発声教師が音質を向上させるために用いる様々な手法を分析すると、そのほとんどまたはすべてが、直接的または間接的に喉を大きくするための工夫であることがわかるだろう。」 [Bartholomew 38, 1935]。 喉を開くという概念について述べた59の声明が収集された。22の声明は、この要因を直接コントロールすることを支持し、17の声明は直接コントロールに反対し、20の声明は、発声中の喉を開くことを促す間接的な教授法としてあくびを推奨している。
直接的なアプローチが支持される。「『歌唱の技術(The Art of Singing)』において、シェイクスピアは堅さを避け、ノドを開くことにある。」と述べている [Shakespeare 516, 1939] 。ハウは、すべての子供たちに、のちに下手な歌い方を防ぐ方法として、「のどを自由に開き、舌を柔軟に動かして、あごを緩める」ように歌うことを教えた [Howe 284, Introduction, 1940] 。オースティン・ボールは、「ノドが開いているほど、より力強く、生き生きとした、一般的に望ましい音色になるだろう」と考えている。これは、イタリアの古い時代の巨匠たちが教えたことであり、近代の科学理論によって否定されたことは一度もないと彼は主張している [Austin-Ball 31, p. 14, 1938] 。カルーゾーとシャリアピンもまた、喉を開いて歌うテクニックを推奨していた [Marafioti 368, 1933; and Alda 5, 1930] 。
オルトマンは実験観察から、喉を大きく開くには「嚥下性反射」などの自然な反射の一部を意識的に抑制する必要があり、これは良好な音の生成に不可欠な条件であると報告している [Ortmann 437, 1935] 。バーソロミューによると、この分野の研究では、優れた声質の特徴である「低いフォルマント」が顕著であるなど、喉を意識的に大きくすると、音響的な属性がすべて現れることが証明されている。したがって、喉を開くという概念を教えることは、優れた教え方である。それは確かに「頭部共鳴」を教えることよりも重要である。なぜなら、繰り返し行われた実験が示すように、「頭蓋内で音が実際に共鳴しているかどうかは、たとえ共鳴していたとしても、良質な音を身体的につくり出すことにはほとんど重要ではない」からだ [Bartholomew 39, 1937](第5章も参照のこと)。ウォーターズは、喉をリラックスさせ、硬直を防ぐ方法として深呼吸を勧めている [Waters 647, p. 7, 1930] 。また、シェイクスピアは、「ささやき声の母音」を発することが喉の緊張の緩和に役立つと助言している [Shakespeare 516, 1939] 。
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間接的なアプローチが支持される。直接的なコントロールに対する反対意見は、クリッピンガーの声明に要約されている。「喉を意識的に開いた状態に保つことは、かなりの緊張を伴うため、肉体的にほぼ不可能である。」さらに、母音や音調のさまざまな調整を行うためには、喉を「柔軟な」状態に保つ必要がある[Clippinger 104, p. 8, 1932]。 スタンリーもこの見解に同意している。彼は局所制御に反対している。なぜなら、彼が言うように、喉を開くことと喉をリラックスさせることは「直接的な矛盾」だからだ [Stanley 578, 1931] 。
エーキンは、喉は自然に常に開いていて自由であると主張している;つまり、放っておけば、という条件付きではあるが [Aikin 4, 1941]。 「喉は常に開いている。そうでなければ窒息してしまう」とサヴェッジは言う [Savage 490, p. 113, 1931] 。 サモイロフと ゼルフィは、歌っているときに喉を楽にしようと意識的に努力することは、確実に喉に負担をかけ、身体のこわばりを引き起こす、と強く主張している [Samoiloff 485, 1940; Zerffi 700, 1932]。 それは本来の目的に反している [Shaw, 518, p. 194, 1930] 。 喉で意図的に歌おうとせず、ただ通り道として使うこと [Macklin 365, 1934; Ryan 480, p. 56, 1937] 。 「喉を放って置きなさい」[Skiles 564, 1936] 。それは自動的に機能する [Huey 285, 1931]。
デバイスとしての欠伸。あくびとは、通常、眠気によって引き起こされる不随意の行為であり、口、口蓋、喉の通路を無理やり大きく開けた状態が続く、深くて長い吸気からなる行為と定義される(W)。このデバイスを使用する際の主な考え方は、通常、あくびに伴う深い吸気反射を実際に起こさずにあくびの前の感覚を捉えることである。これにより、喉は間接的に開いた状態に保たれ、歌うことができる。
メトロポリタン歌劇場のソプラノ歌手、キイナ・マリオは、正しい発声の最高の判断基準として、「あくびをこらえているときの開いた感じ」を挙げている [Mario 370,1935 ]。「声[喉]を開くことは、比較できるものとしてはあくびのようなものだ」とフォーリーは言う[Fory 191, 1935]。リリー・レーマンは、初心者には常にあくびをする姿勢を教えている。「舌を正しい位置に置くのに役立つ」[Lehmann 337, p. 186, 1929] 。「私たちはあくびから、音の生成について貴重な教訓を得ている」とマッコールは言う [McAll 383, p. 25, 1932]。正しい発声に必要なあらゆるコンディションが、それによって確立される。 [Spohr 571, p. 110, 1936] また、母音の「アタック」も改善される [Dodds and Lickiey 139, p. 42, 1935 ]。グレゴリーは、あくびをする準備として、顎を落として「hung」と発音することを提案している [Gregory 211, 1935 ] 。 最後に、シェイクスピアによるフォネイションの要点をまとめたモットーは示唆に富んでいる:
音を出さない呼吸によって、喉を解放する。
音を正確に開始する。
あくびをするような感じで「あー」と声を出す。
温めるように呼吸する。[Shakespeare 517, p. 15, 1938]
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LARYNGEAL POSITION
喉頭の位置
発声時に喉頭は動くべきか?この問題については、18人の著者の意見は真っ二つに分かれている。賛成派と反対派の議論は、主に実証的な観察と個人的な指導経験に基づいている。肯定的な意見は、以下の考え方によって示される。
1. 喉頭は自身の軸を中心に回転する。したがって、ピッチに応じて下降する。[Witherspoon 677, p. 26, 1930]
2. 上下に少し動く。 [Passe 443, p. 54, 1933; Marchesi 369, p. 15, 1932]
3. 音程が上昇するにつれて喉頭が上昇する。 [Allen 7, p. 49, 1935]
4. 固定された位置はない。訓練された歌手の場合、音程が上がるにつれて喉頭が実際に下降することがある。[Pressman 452, 1939]
反対意見は以下にまとめられている:
1. 喉頭は発声時にはかなり下に位置し、正しい呼吸によってその位置が保たれる。 [Scott 502, p. 20, 1933]
2.天然の歌手は、声を出しているときに喉頭の動きが見られない。[Evetts and Worthington 167, p. 10, 1928]
3. 歌う際には喉仏を一定の位置に保つ。 [La Forest 326, p. 151, 1928]
4. 「喉頭は歌の間中、静止しているべきである。」これは正しい動作のサインである。 [Brown 78, p. 12, 1931]
5. それは「どんなに高く歌っても、どんなに低く歌っても」上下してはならない。どちらかといえば、それは背骨に対してしっかりと固定されたままである。[Feuchtinger 179, 1933]
6. 歌において最良の結果を得るには、「喉頭は、その外因性筋肉の収縮によって持ち上がってはならない。. . . それによって、喉頭の上にある共鳴腔の容量は減少する」[Negus 418, p. 441 and p. 383, 1929]
7. 喉頭は本来あるべき場所に置いておけ! [Hemery 238, p. 82, 1939]
声のアタック(起声)を改善する装置。アタックとは、歌声を開始する方法である(W)。それは声帯の縁を振動させることで声門で音波を発生させるための手段である。[Skiles 558, 1932; Curry 124, p. 5, 1940]。このテーマについて、19のステートメントが収集された。「完璧なアタックとは何だろうか?」とローレンスは問いかける。彼女自身の答えを提示し、それは「音が鳴り始める前に何も起こらない」音の響きであると説明している[Lawrence 335, p. 14, 1939 ] 。ヘンダーソンの記述はより明確である。正しい音声生成においては、フォネイションとブレスコントロールは同時に行われる。声門アタックは、ブレスが準備できる前でも後でも起こるべきではない。[Henderson 243, p. 37, 1938]
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つまり、正しいアタックとは、声帯の振動と呼吸の開始を正確にシンクロさせることである[Howe 284, p. 36, 1940] 。
「基本的な準備は非常に簡単だ」とジェフリーズは言う。「まず、直立した姿勢になること。次に、楽にリラックスして十分な呼吸をすること。そして3つ目に、胸の奥まで通じる道を開くような感覚で、口を普通に開くことだ」[Jeffries 302, 1934] 。下手なアタックは、ピッチと強さに不当なばらつきを生じさせる。上手な歌手は、音のピッチの中心で音を出し、音が鳴っている間は一定の強さを保つ [Stanly 578, 1931]。
「目的の音にずり上がるように近づくのは、その音の位置がわからないことを示している。」[Clippinger 104, p. 37, 1932]
芸術的なパフォーマンスでも、アタックのずれは発生すると言われている。科学機器は、人間の耳には聞こえないパフォーマンスの不規則性を測定することができる(第X章を参照)。シーショアによる一流歌手グループの歌声の実験的分析により、アタック音の約25パーセントは直接的なものではなく、滑るように(ほとんど気づかないほど)目的の「音」に到達していることが明らかになった。さらに、音から音への移行の約40パーセントは、音と音を結ぶ、聞こえないポルタメントまたは滑るようなイントネーションによって達成されていた。歌われた音符のうち、レベルアタック(音と音の間にわずかな休止がある)は約35パーセントのみであった。この情報は、優れた歌唱においてもフォネイションの不規則性を示し、一般的な聴覚が音程の正確さの指針として誤りを犯す可能性があることを示しているという点で、教育上興味深い。 [Seashore 511, 1936]
声門破裂。
エイキンに よると、マヌエル・ガルシアとその信奉者たちは常に、音をはっきりとアタックさせるために、その音の前に「ごく軽い咳払いのようなもの」を置くべきだと主張していた。[Aikin 4, 1941]このタイプの「アタック」は、声門破裂または「クー・ドゥ・グロット(Coup de glotte)」と呼ばれる [Henderson 243, p. 37、1938] 。クー・ドゥ・グロットは、著者の間ではあまり理解されていない。そのため、そのことについて言及されることは少なく、しばしば混乱を招くような矛盾した表現で語られる。クリッピンガーはそれを「声門の不快な衝撃」と呼び [Clippinger 104, p. 6, 1932]、一方で、スカイルズはそれを「音を構築するための最良の原材料」となる声のアタックを明確にする方法として言及している [Skiles 564, 1936] 。 この問題については、確証となる証拠がないため、結論が出ていない。
声の出し方に関連して、さらに5つの興味深い提案がなされている:
1. 練習で何らかの音を歌う前に深く息を吸う場合は、その音を「アタックする前に少量の息を逃がす」のが最善である。[Allen 7, p. 28, 1935]
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2. スティーブンスとマイルズは、歌声の第一声の声音の振動に関する実験的研究を行った。彼らは、「アタックにおける最も確実な成功の鍵は、結果のピッチと均一性に関して、それに先立つ同じくらいのレベルの声音経験があることだ。これは、同じ音程で異なる母音を連続して歌うことで実現する」と報告している。[Stevens and Miles 583, 1928]
3. ディラクリーは、歌の中で異なる音程を次々と歌う前に、「グループの中で最も高い音の感覚を把握する」ことが望ましいと提案している。これは、そのアタックのかなり前から高い音をよく考えておくことで達成できる。[Dirakley 151, p. 37, 1938]
4.広い間隔のアタックを正確に決めるように、心(思考)を集中させる。この精神的な準備は、喉のどんな肉体的な惰性をも克服するだろう。[Wood 686, Introduction to Volume III, 1930]
5.また、コートカンプも声の「アタック」を向上させるためにメンタルなアプローチを推奨しており、「実際に歌う前に、その最初の音を約3秒間歌っているのを聞くことを想像してほしい」と述べている。[Kortkamp 321, 1940]
SUMMARY AND INTERPRETATION
概要と解釈
463のフォネイション概念の分析は、発声理論や実践の細分化において、権威者たちがほとんど意見を統一できないという説得力のある証拠を提供している。ニーガスは、喉頭のメカニズムに関する493ページにわたる実験的研究をまとめた著書が、この分野で最も包括的で権威あるものとみなされている。フォネイションに関する既知の説明をすべて検証した上で、ニーガスは「このテーマ全体は曖昧で混乱しており、意見の一致がまったく見られないため、フォネイションのメカニズムに関するこれまでの説明を一切考慮せずに、最初からやり直す必要がある」という結論に達した。[Negus 418, p. 369, 1929] 。 喉頭で声が発せられるという事実さえも議論の的となっている。 [例:White 657, 1930]しかし、複雑に絡み合った音声研究の分野では、権威者たちの意見の相違は避けられない。相反する見解の論理的比較は、しばしばそれらを明確にし、調和させるのに役立つ。
ここで取り上げた発声理論に関する議論は、ニーガスの意見を裏付けるものとなっている。発声に関する断片的で不完全な記述の多くは、表面的な喉頭鏡検査の意見に由来するもので、声道のX線検査によって補足されている。これらの記述のいくつかは、生理学的事実を簡潔に述べたものである。また、哲学的コメントが混じった拡張された経験的観察もある。著者のなかには、より根本的な要因を排除して、比較的些細なデータに固執する者もいる。また、根底にある詳細を無視して一般論にふける者もいる。これらの不完全な断片を総合的に要約し、単純化することは、教育の現場、特に複雑な声音の生成プロセスを教える際に役立つだろう。
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フォネイションに関する議論は、関連分野に存在する多数の分岐により、さらに複雑になっている。喉頭の身体的構造とその機能の研究は生理学に属する。 トーン分析は音響学的なテーマである。 自己表現の一形態としての歌唱は、心理学的な扱いを必要とする。呼吸、顔の表情、姿勢、舌、唇、顎の動き、耳の機能など、すべて関連する活動である。おそらく、声の伝達における距離の推定には視覚さえも関わっている。したがって、フォネイションは多くの他の身体機能と統合されており、声楽理論のさまざまな分野に存在するこのような相互関係は、歌のいくつかの構成要素それぞれに対して独立した指導手順の階層を設定することを妨げるように思われる。実際、教育的な意味合いにおいて、この研究のどの部分も、他のすべての部分から完全に独立して考えることはできない。
発声プロセスの全体性というこの概念を強化し、歌唱指導者向けに専門的になり過ぎない簡潔な再方向付けを行うため、以下に発声機能の概要を提示する。これは、このテーマに関する前述の理論的および方法論的資料の解釈的な要約である。特に記載がない限り、ページ番号は参考文献の項目番号418に挙げられているニーガスの著書【The Mechanism of the Larynx.】を参照している。
THEORETICAL CONSIDERATIONS
理論的考察
フォネイションの力学的な側面。喉頭は、最も単純な力学的な観点では、エネルギー変換器である。声門における弁のような作用により、胸郭の呼吸圧が音響エネルギーに変換され、それが声として周囲の空気に伝わる。フォネイションには少なくとも5つの力学的な要因が関わっている:1)呼吸エネルギー(肺)の蓄積; 2) 呼気の流れを上向きに解放する方向制御弁(呼吸筋および気管);3) 空気の圧力に部分的に抵抗し、その位置(声帯または声門)で潜在的エネルギーを集中させるもう一つの弁;4) 新たに変換された音響エネルギーまたは声音を外部大気(共鳴器)に伝導、投影、伝播するための経路;5) 消耗し、使用されていない部分の励起剤(喉、鼻、口の呼吸通路)を更新し、活性化させる手段。ニーガスは、息は声の構成要素ではないことを思い出させてくれる。
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それは単に声帯振動器を起動させるための機械的な力であり、声帯振動が誘発された地点を過ぎると、音響的な要因として重大な役割を担うことはなくなるようだ。彼は次のように書いている。「効率的なフォネイションのためには、肺にかなりの量の空気を蓄え、気管を通して正確にコントロールされた速度と圧力で排出することが必要である。」[p. 439, 1929] このような呼吸は、「胸郭下部と横隔膜の複合メカニズムによって最も効果的に行われる。. . . . 純粋な鎖骨呼吸は誤りであると認められている」[p. 390](第3章も参照)。
構造的側面。簡略化のため、喉頭または声帯は5つの基本構造要素にまとめられる。これらは、1)環状(輪状)軟骨、2)一対の小さなひしゃく状をした(披裂)軟骨、3)盾状(甲状)軟骨、4)一対の 声帯筋(甲状披裂筋またはヒダ)、5)U字型の(舌骨)である。これらの5つの構造単位は、結合組織によって互いに連結され、配置されているため、喉頭の弁部分に剛性と可動性を与え、呼吸とフォネイションの目的のために、気道に十分な広さと方向性を与える。
1) 輪状軟骨は、声帯のメカニズム全体を支える土台となり、より可動性の高い甲状軟骨と披裂軟骨がその上に乗ることで、比較的静止した基盤となる。輪状軟骨は気管(気管)にしっかりと固定されており、事実、気管の最上部の輪を形成している。「輪状軟骨は、喉頭における気道の通気性を維持する上で非常に重要である。」[p. 466]
2) 披裂軟骨は、声帯(甲状披裂筋)の後部の付着箇所となる。披裂軟骨は、個々の凸面が輪状軟骨の上に位置しており、回転および滑走運動が可能である。「これにより、各披裂軟骨は、互いに近づいたり離れたりすることができ、また、垂直軸を中心に回転することもできる。」[p. 450] したがって、披裂軟骨は声帯の長さと張力を微調整する役割を果たし、発声、呼吸、嚥下の際に声門の開閉を調整する。発声の際には、声帯を緊張させる一連の動作の一部として、披裂軟骨が喉頭筋の小さなグループによって固定される。
3) 甲状軟骨も輪状軟骨の上にのっており、旋回関節によって後者と連結しているため、弧を描くような動きが可能とされている。声帯の前端は、一般的に「のど仏」として知られている突出した膨らみのすぐ後ろにある、甲状軟骨の接合点にまとまって収束している。
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4) 声帯(一対)は、甲状披裂筋または声帯の振動する辺縁を形成している。声帯は気管の入り口に張り出しており、弾力性があるため、呼気の流れの圧力によって振動運動が起こる。これらの甲状披裂筋の内的収縮は、発声時に緊張して硬くなり、この緊張の度合いも発声される音のピッチに影響する。この緊張作用とちょうど同時に、声門の辺縁(声帯)は、後方に付着している2つの披裂軟骨が接近することによって、一緒に引き寄せられる。これにより、呼気の流れに対する辺縁の抵抗が増し、楽器を吹くラッパ奏者の唇が振動するように、声縁を強制的に振動させる。「空気の圧力が一定であれば…振動は一定の間隔で繰り返され、音が発せられる。」[p. 459]
5) 舌骨は、発声機構全体の上に水平に位置し、喉頭の骨格を構成する。その主な機能は、輪状軟骨が喉頭と気管をつなぐ下部の入り口を開いた状態に保つように、喉頭と喉頭下腔(咽頭)をつなぐ上部の入り口を開いた状態に保つことである。舌骨は舌や他の筋肉の固定部としても機能している。舌骨は常に甲状軟骨にしっかりと結合しているため(甲状舌骨筋と靭帯によって)、通常は後者とともに一体となって動き、甲状軟骨に独自の動きを与え、その逆も同様である。[p. 16]
外因性メカニズム。
また、上述の喉頭の堅固な構造部分のそれぞれには、多数の外因性筋肉および靭帯が付着しており、発声メカニズムを活性化させたり、喉頭を発声に適した安定した位置に保持したりしている。また、これらの外因性の付着部はフォネイションの振動領域を広げるため、小さな声帯自体が生成する初期の振動を増幅させる。(大人の声帯の長さは、女性の喉頭では約12.5~17mm、男性の喉頭では17~25mm、つまり約1/2インチから1インチ弱である。)[p. 457] 。したがって、フォネイションのプロセスは、喉頭のメカニズム自体が表すよりもはるかに幅広い筋肉群を包含している。
フォネイションの振動領域。
フォネイションの発生音は、実際には2種類の振動エネルギーから構成されている。a) 原発振動(originating vibrations)とb) 補足振動または増幅振動(supplementary or enforced vibrations)である。 カリーは、呼気圧の形で声帯に加えられるエネルギーのうち、声門で利用されるのはわずか20パーセントにすぎないと推定している。 [Curry 124, p. 49] 。 残りの80パーセントは、使われない息によって散逸するか、あるいは、接続する筋肉と表面の共鳴(強制)振動の形で隣接する領域に吸収される可能性がある。このような補助振動は、音量の増大に大きく寄与し、また、フォネイション音の質にも影響を与える。
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「音の大きさは振動する表面の面積によって異なる」 [Negus, p. 344] 。固有の収縮力(筋緊張)により、これらの外因性連結筋はすべて、喉頭から発生する声の振動に共振して振動することができる。さらに、それらは、その振動エネルギーを、それらが取り付けられている身体の周辺構造にも伝達する傾向がある。次の例はこの原則を説明するものである:
1. 茎突舌骨筋は喉頭と頭蓋骨の茎状突起をつないでおり、喉頭の振動を頭蓋骨の側頭骨に伝える。
2. 口蓋咽頭筋は、喉頭(甲状軟骨)と軟口蓋をつなぎ、喉頭の振動を口腔の天井に伝える。
3. 胸鎖甲状筋は喉頭と胸骨(胸郭)をつないでおり、これにより喉頭の振動が胸郭と肋骨に伝わる。
4. 舌骨舌筋や喉頭と舌をつなぐ他の筋肉は、舌に共振振動を発生させる傾向がある。
5. 脊椎骨と肩甲骨も同様に、喉頭との直接的な筋肉のつながりを通じて共振振動を伝達される。(例:輪状咽頭筋と顎舌骨筋。「輪状軟骨は、輪状咽頭筋の収縮により脊椎の前面に強く引き寄せられている。」[Negus, p. 380])
その他にも多数の喉頭外筋のつながりが確認されており、それらは同様に喉頭からの振動エネルギーの直接伝導および放射の影響を受ける身体の多くの異なる骨格部分に関連している。したがって、発声の際に人体の相当な部分が音の複雑な振動子として機能していることが示唆される。(第5章および第7章も参照) [Negus, p. 382 以降]
この章で取り上げられている発声理論に関するその他の議論には、歌における声のビブラートの性質と重要性が含まれる。これらの議論の要約的な分析は説明を要するものではないためここでは繰り返さない。
編集中
METHODOLOGICAL CONSIDERATIONS
方法論的考察
姿勢の重要性。姿勢の問題は、275の方法論的声明の中で最も多く見られる。特に、口、舌、口蓋、喉、喉頭の位置とコントロールに重点が置かれている。
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ここでも、歌う際の姿勢全体と声帯の各部分を関連付けることが望ましい。喉頭は、ノズルがガーデンホースの先端に取り付けられているように、気管の上端に取り付けられている。閉鎖した声唇(声帯)に対して呼吸圧を加えている間、喉頭は外因性のサポート筋の配置によってぐらつきを防いでいる。 これらの筋肉は、まるで支柱のワイヤーのように、喉頭から上方に向かって頭部のポイントに、後方に向かって背骨のポイントに、下方に向かって胸と肩のポイントに放射状に伸びている。明らかに、発声時のわずかな姿勢異常によって、これらの外因性筋肉が配列から外れ、喉頭全体が脊椎に対する基本的な支持から離れてしまう傾向があり、その結果、発声メカニズムが乱れる。「歌っているときの喉頭の上昇は、誤ったメカニズムである。」[Negus, p. 383]
発声における多くの一般的な障害は姿勢の悪さに起因するため、歌唱法のテキストの著者は、芸術的な歌唱のための正しい姿勢を維持するための技術的要素として、頭の位置、胸の位置、舌の位置などの重要性を常に強調している。首、肩、背骨、肋骨、胸の自由度と柔軟性は、発声に寄与する要因である。アーティストの歌手は、初心者が頭を後ろに倒すような姿勢、胸を平らにする、肩を落とすといった姿勢を取らないよう注意している。このような姿勢の異常は首の筋肉に異常な負担を強いるため、慢性的な喉頭の緊張を引き起こし、持続的な歌い方の負担により、発声器官に損傷を与える可能性がある。 [同上 p. 390]
心理的コントロール。
以上の考察は、発声器官の複雑性を示す強力な証拠であり、歌声を発する筋肉のネットワークに部分的な技術訓練方法を押し付けることのきわめて困難かつ危険性を示している。85の声明で、歌う際の局所的な努力は、声帯の多くの相互関連部分の連携作用を乱す傾向があることが論じられている。したがって、心理学的または間接的な訓練方法が推奨されており、次の3つの主要な目的を具現化して いる:
1.精神的な安らぎ。
発声に関する不安や用心をすべて取り除くことで、生徒の精神的な安らぎや落ち着きが養われる。形式ばった規律や批判は最小限に抑えられる。自己分析や意識的な努力、発声器官の能力を超えるような努力を防ぐことで、挫折感や失敗感は消え去る。歌は、発声練習という苦行や自意識過剰なパフォーマンスではなく、魂を満足させる体験として教えられる。
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2.音のイメージ
強力な音についての概念を植え付けるには、優れた音声モデルを認識する以前の経験が必要である。耳は、聴くことと模倣を通して訓練される。(第8章) また、学生はフォネイションされる各音を予測(イメージ)する練習も行う。このように、音高、音量、音質に関する心的概念の構築を通じて、間接的に音声反射が養われる。
3.モチベーション。
最後に、モチベーションがフォネイションをコントロールするのは、表現したいという自然な欲求を刺激し、意欲や実りある目的を伴うからである。(第2章および第10章) 間接的な教授法を好む人々は、強い目的意識、美的感覚、興味、そして喜びにあふれた熱意が、歌う際の肉体的動作の自由につながると信じている。
結論として、声楽の教師は、声は生きた現象であり、不活性な喉頭構造の機械的な産物ではないことを念頭に置くべきである。死体解剖は、歌手にとってほとんど意味のないものであり、生きた声における声門振動の正確な特性を観察し測定するための実験的な手順には、まだ克服されていない多くの実際的な困難が伴う。歌声を鍛えるには、新しい習慣を身につける前に、古い習慣を壊さなければならないことが多い。そのため、改善技術は声の育成において重要な役割を果たす。しかし、実際の歌唱を通して改善策を適用する過程において、学習する曲は、生徒が到達した習熟度に関わらず、常に自己表現の手段として捉えるべきであり、基本的な発声上の問題を克服するための分析的なテクニックの学習として捉えるべきでは ない。「背筋を伸ばせ」、「顎を引け」、「深く呼吸しろ」、「舌を上顎につけておけ」といった注意を引くような訓戒は、自発的な声楽の連携作用を妨げ、ぎこちない、自意識過剰なパフォーマンスにつながる。
2025/03/08 訳:山本隆則