[Ingo R. Tize, Principles of Voice Production. 音声生成の科学;発声とその障害 新美成二、監訳 田山二郎、今泉敏、山口宏也 訳 p.182]
何年も前、Bartholemew (1934) は上手なオペラ歌手は3000Hz近傍にエネルギーを集めることが必要である、と言うことに気づいた。また、彼はこの凝集は喉頭もしくは下咽頭における特別な共鳴で作られるに違いないと述べた。
約40年後、Sundberg(1972,1978) は生理的な解釈を提出した。彼は、有名なテノール歌手、Jussi Bjoerling(1911-1960) の録音を分析して、とくに、大きなオーケストラの伴奏の存在で、彼の声のスペクトルは3000Hz付近で盛り上がりを持つことをみつけた。Sundberguは、図9-16に示すような、歌手とオーケストラの長時間平均スペクトルを作成した。オーケストラと会話では、エネルギーは500Hzあたりでピークになり、単調に低下する。一方オペラの歌では、長時間平均スペクトルは2000から3000Hz付近で音響エネルギーの2つ目のピークを示す。これはいま、歌声フォルマントとして知られ、図9-16の点線で示すことが出来る。もしこの歌声フォルマントがないと、歌手はオーケストラを越えて聞かせることが難しくなる。
Sundbergは喉頭上領域で声道内の小さな共鳴器で歌声フォルマントを模擬実験した。図9-17に示すように、小さな共鳴器(1/4波長)は、開放端では喉頭蓋の縁により、閉鎖端では声門によって結合される。 Yanagisawaら(1989)はビデオストロボスコープでこの形状を確認した。共鳴器の長さは仮声帯と喉頭室の厚さで決定される。もし次のようであれば、共鳴器にとって最適の状態が起こる(Sundberg によれば)。
A1/A2 < 1/6
ここで,A1は喉頭上の出口の面積であり、A2 は下咽頭の広がった領域である(梨状陥凹を含めて)。この様に、ほぼ3000-Hzフォルマントを作るように思える面積の重要な比率がある。その確かな周波数は小さな共鳴器の有効な音響的な長さによって決定される。典型的には、これは2.5から3.0cmであり。全声道の長さの約1/6である。このように、1/6比は、一度は長さに対する比率要因として、もう一度は断面に対して、合わせて二度表われる。