肺はスポンジ状の構造を持っている。肺を身体から取り出し、空中につり下げると、急速に収縮してしまい、可能な限りの最も小さい体積まで、胸郭内で体積が小さくなる… 肺が空気で満たされると、中に入っている空気の量に応じて生じる圧力によって、空気を外に出そうとする。これは、肺が、吸気によって取り込まれた空気の量に応じて増加する空気を押し出そうとする圧力によって、完全に受動的に働いていることを意味している。最大吸気の後は、肺の中の圧力は約20cmH2Oになる。(Proctor,1980) [訳注:Hoxon,Zemlinは50cmH2O]
胸郭もまた、声門下圧に関係する弾性システムである。2種類の肋間筋と呼ばれる筋肉が肋間の間に結合している。吸気時に働く肋間筋である吸気肋間筋(外肋間筋)は、収縮すると胸郭の体積を増加させるように作用する… 筋収縮が消失すると、胸郭は膨張のない小さい体積にもどろうとする。筋肉の働きではなく受動的に実現される呼気の力は、吸気肋間筋が収縮した後、弛緩するとすぐに生じる。このときの圧力は、深呼吸で吸気した場合には10cmH2O位である もう1種類の肋間筋は、呼気肋間筋(内肋間筋)で、正反対の機能を持っており、胸郭の体積を減少させるように働く。呼気肋間筋を呼気に用いると、受動的に吸気の力が生じる。深呼吸に於ける呼気の後は、肺内の圧力は約-20cmH2Oである。
まとめると、我々の身体には吸気と呼気の両方に於いて弾性力が存在しており、それらの力は肺気量に依存し作用する。よって、呼吸のメカニズムにおける特別な呼気と吸気の力が等しくなる肺気量の値が存在する。この肺気量の値のことを、機能的残気量(FRC:functional ressidual capacity)とよぶ。肺がFRCから外れて拡大なたは収縮すると、すぐ元の状態に戻ろうとする受動的な力が働く。呼気、吸気において受動的な力と能動的な力の両方が存在していると結論づけることが出来る。
[J. Sundberg, The Science of the Singing Voice 27 邦訳、歌声の科学 27]