THE PHILOSOPHY OF SINGING
歌唱の哲学

by Clara Kathleen Rogers

Part II
MECHANISM AND TECHNIQUE
メカニズムとテクニック

 

第4章

SILENT EXERCISES, AND HOW TO PRACTISE THEM
サイレント・エクササイズとその練習方法

 

No.1。仰向けに寝て(できれば床に、枕は使わない)、全体重を床に預けて、両足を開き、両腕を開きます。体の各部分が適度にリラックスし、自由になっていることを確認します。鼻からゆっくりと静かに深呼吸をします。まず腹部が膨らみ、次に浮動肋骨、上部肋骨、そして最後に胸部が膨らみます。肺がいっぱいになったら、深いため息を発声するように、声門と口を開いて息を自由に吐き出します。息を吐くときは、まず腹部をリラックスさせ、その場合、胸は最後まで膨らんだままです。意識的に収縮する筋肉を動かして息を吐き出そうとしたり、意識的に胸の筋肉を把持して胸を膨らませようとしないようにしっかりガードします。胸部の拡張は、他の場所に不適切な緊張がない場合、何の助けもなく、自然に維持されます。(身体は、息の送り出しに対しても、送り込まれることに対しても、受動的であるべきです)。
この運動を数回繰り返します。

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No.2。
先ほどと同じように鼻から静かに息を吸い、肺がいっぱいになったら、歯を閉じて息をできるだけ自由に出るにまかせ、声なき音sh(「hush」のような音)を出します。息の流れを妨げるのは歯だけであり、呼吸筋を調節することではないことを理解しなさい。これらは、最初の練習と同じように自由に収縮できるようにしておかなければなりません。この指示に従うと、次のことがわかります、 横隔膜で呼吸を整えようとするよりもずっとゆっくりと呼吸を終えることができるのです。これを数回繰り返します。

No.4.素早く息を吸い込みます。先ほどと同じように息を止めます。No.2と同様に閉じた歯から息を吐き出す。

この4つの運動を立った状態で繰り返します。(身体は完全に平衡状態にあり、全体重が足にかかるようにします。)

No.5.鏡の前に立ちいなさい。口を大きく開けて(無理に伸ばさず)、喉の奥がよく見えるようにします。鼻から静かに息を吸い、口から吐いて、無声音のhehを出します。これはリズミカルに行い、1回の行為に1秒程度を費やします。(吸うときも吐くときも、舌は平らにして動かないようにします。) 息を吸うときは軟口蓋が適度に下がり、息を吐くときは軟口蓋が上がっていることを確認します。

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一方、身体はどこにも無駄な緊張がなく、自由でリラックスした状態でなければなりません。

不自然な緊張の測定方法

どこまでが適切な拡張で、どこまでが過剰な張力なのかを正確に理解することは常に困難を伴います。しかし、筋肉に負担をかけず、締め付け感や不快感もなく、肺が膨らむとはどういうことかを歌い手に知ってもらうことはとても大切なことなのです。次のエクササイズは、体操というよりむしろ実践的なデモンストレーションとして意図されており、歌い手は不必要な緊張を伴わない拡張の意味を発見することができます

口を閉じ、鼻の穴から深く息を吸い込みます。肺が十分に膨らみ、全身の骨格が正常に広がったところで、親指と人差し指で鼻孔を閉じ、息が漏れないようにし、息が体内にとどまっている間、例えば10秒程度の間に、息を吐かずに全身の骨格をできるだけ緩め、リラックスさせてから口を開け、息を吐き出します。

このエクササイズを何度か繰り返すと、呼吸の際に習慣的に使っていた緊張が、いかに無駄なものであったかがすぐにわかるでしょう。

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以下の練習は、Lennox BrowneとEmil Behnkeによる『Voice, Song, and Speech』(共鳴の章)から引用したもので、若干の修正を加えているが、練習の方法についてのみ言及したものである。

No.1。『口を大きく開け、舌をゆっくり出した後、静かに後ろに引き戻し、平らに低くしますが、下の歯の全周に触れます。数回、繰り返します。これと同様に、残りの舌の運動でも、唇と下顎を完全に静止させるよう細心の注意を払う必要があります。』

No.2.『舌の先端部分を下の前歯に当てて、できるだけ軽く押し出します。もちろん、これで完全に巻き上げることができます。そして、エクササイズNo.1と同じように、そっと後ろに引いてください。数回か繰り返しなさい。』「
【訳注:舌を押し出す筋肉は口蓋舌筋、舌を後ろに引くのは茎状舌筋です。この操作は舌の形状にとって非常に参考になる操作ですが、決して、舌を後ろに引くことと、舌を下に押し下げることを間違わないようにしましょう。舌を下に押し下げる筋肉はオトガイ舌筋であり。喉頭に過剰な緊張をもたらします。太線強調:山本】

『舌の根元をできるだけ平らにして、先端を上げ、口の中の屋根に向かって垂直に、かなりゆっくりと上げていきます。それから元の位置に戻るまで、また少しずつ下げてください。』

No.4.『No.3 と同様に舌の先端を上げて、左右に少しずつ動かし、一番高い位置で半円状になるようにします。数回、繰り返しなさい。』

しかし、このエクササイズを実践する際には、細心の注意を払うことをお勧めします。口を大きく開けるときは、引き伸ばすような感覚を避けましょう。舌を出すときは、できるだけ伸ばさないようにしましょう。すべてのパーツをリラックスさせ、ひとつひとつの動作は筋肉を意識的に動かすのではなく、意志の行動で行わなければなりません。これにより、この練習に伴う疲労が大幅に軽減され、あるいは完全に取り除かれ、その結果、各部分の柔軟性がはるかに向上することになります。

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私は読者の心に、上記の舌の体操は筋肉を強化するためのものではなく、むしろ筋肉の不自然な緊張をすべて緩和し、筋肉を柔軟で自由で、意志に対して可塑的なものにするためのものであることを印象付けたいと思います。また、舌根を押したり、固定したりする強い習慣があり、その習慣が無意識に身についている場合にのみ、その実践を勧めることにしています。しかし、悪い習慣がない場合には、このような舌の練習をすることは全く勧めません。

パーツの可塑性が達成されれば、これらを発声プロセスと組み合わせて正しく作用させることは比較的容易であり、その結果、歌い手は完璧なテクニックを速やかに確立し、自動化することができるようになります。
【訳注:可塑性(plasticity)とは、中身が入ることによって形が変わる容器のようなもので、弾性とは違いますが、クララ・ドリアのメトードの中ではキーワードの一つと言ってもよく、たびたび出てきます。】

2023/06/12 訳:山本隆則