Teaching Singing
歌唱指導
第9章
CONCEPTS OF Diction
ディクションの概念
「ディクション」とは、『Training the Singing Voice』の中で定義されているように、「言語の基本的な音を明瞭かつ正確に形成(formation)、生成(production)、投射(projection)すること、また、これらの音を、歌の言葉や音楽の音調表現に適した流暢で連続的なパターンに組み合わせること」である(204, Fields 1947, p. 190)。 同じ著者は、アーティキュレーション、発声、発音の3つを定義している:
調音(articulation)— 母音と子音を、理解しやすい音節や言葉のパターンで生み出す方法。アーティキュレーションは、言語の音声パターンを形成する声道の組織的メカニズムが関与する、形成的または成形的なプロセスである (205, 1952, p,5)
発語(Enunciation)— 聞き手に伝えるために、母音と子音に声の響きを与え、聞き取りやすく、明瞭にする、投射的、動的、または通力的なプロセス (205, 1952, p.20)
発音(Pronunciation )– 母音と子音を統合し、音節、単語、フレーズと呼ばれる大きなリズム的単位へと結合させる統合的または結合的な過程です(1947,p. 190)。
「完全な意味でのディクションとは、明瞭で美しく、繊細で分かりやすい言語の伝達だけでなく、歌のテキストを伝える技術や芸術全体を意味する」(481, NATS、1957年)。他の人たちは次のように付け加えている:
母音と子音によって言葉のイデアが投射されること、それが発語(エヌンシエーション)ということである[Schmidt 1950, p.11]
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表11. ディクションの概念の概要
(Teaching Singingの記述数)—(Training the Singing Voiceの記述数)
I. ディクションの理論
A. 一般的な考慮事項 28—23
B. 歌手のディクションにおける声の要因
1. 声の伝達手段としての母音 30—25
2. 母音の特徴 40—16
3. 子音の重要性 33—13
II. ディクションの育成方法
A.心理学的アプローチ
1. メンタルイメージの重要性 11—7
2. 技法としてのスピーキング 34—28
3. 技法としてのウイスパー 1—2
4.技法としての チャンティングの技法 5—4
B. 技術的アプローチ
1. ソルフェージュ訓練の価値 0—9
2. 母音のテクニック
a) a母音の重要性 11—26
b) 舌のコントロール 24—17
c) その他の身体的コントロール 14—7
d) さまざまなヒント 14—13
3. 母音の変更
a) 高いピッチの母音は変更される 16—15
b) 高いピッチの母音は変更されない 3—7
4. 子音のテクニック
a) 身体的コントロール 14—9
b) 音を中断する子音 22—23
c) リズムの中断 4—5
d) 手法としての誇張 14—5
5. 発音の知識が推奨される 13—0
合計 331 ― 254
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一般的に言えば、私たちは言葉を発音(pronounce)し、母音と音節を発語(enunciate)発音し、子音を調音(articulate)する[114, Christy, 1967, p.75]。
私たちはディクションを一つの言葉として捉えており、その言葉とは「ことば」である[436, Marshall 1953, p.1]。
単語は音で構成されている。音の生成と発音の科学は音声学(phonetics)と呼ばれ、音から合成された単語や文の発音(エヌンシエーション)はディクションと呼ばれる [2, Adler 1967, p.3] 。
テキストの要素は、歌唱を楽器の持つ表現方法から切り離すものである。この区別のために、歌唱テキストの著者は歌唱における優れたディクションの重要性を常に訴えている。
歌を歌う際の第一の必要条件として、その言葉が明確に理解されなければならない[599, C. Scott 1954, p. 424]。
完璧なディクションなくして、歌唱における完璧な音のプレースメントは達成できない[795, Wyckoff 1955, p.30]。
そのすべての秘密は、第一に母音の完全な純粋さにあり、第二に自由で束縛されない調音にある [186, Eberhart 1962, p. 32] 。
私は、ほとんどの基本的な発声の考え方は、息の扱い方、発声の自由度、母音と子音の適切な調音という3つの基本原則にまで絞り込めると信じている。[677, Treash 1947, p. 4]。
私たちの多くは、音に対する最も効果的なアプローチは言葉の発音の仕方だと考えている[156, DeYoung 1946, p. 304]。
THEORIES
理論
General Considerations
一般的な考察
母音は輸送手段である
30の声明が、母音を歌唱音の主要な運び手として言及している。John Collins (120, 1969a, p.33) が引用しているように、McLellan(Margolis ?) は、「音とは、母音化された息以外の何ものでもない」と述べている。コリンズによれば、マーゴリス( 435, Margolis )はこのコメントで母音の重要性を強調しています。「それは非常に重要なことであり、たとえ歌手が世界で最も素晴らしい呼吸法を開発していたとしても、母音の型が正しくなければ歌うことはできない」と。以下の記述も関連しています:
声の美しさと感情の表現は母音に現れ、その強弱と色彩は非常に多様である [Rose 1962, p. 225]。
母音を強調し、子音は比較的あまり強調しない [551, Rose 1959, p. 10]。
良いディクションを得るための手順を簡単に述べると、純粋な母音を歪みなく、あるいは「明瞭に」発声し、次の純粋な母音に瞬時に移行することである[537, W. Rice 1961, p. 46]。
声は、美しく効果的な言葉があって初めて美しくなる。 声の美しさと言葉の美しさは同義語である[160, De Young 1958, p. 67]。
私は、音の美しさは母音に与える色彩によるものだと確信している [212, Fonticoli 1951, p. 17] 。
結局のところ、生徒が5つの母音を純粋に歌えるようになれば、その生徒は歌うことを学んだことになる。初期のベルカント教師たちは、絶対的に純粋な母音には歌唱上の欠点がないという前提に立っていたのであり、時が経ってもこのことは何ら否定されていない[770, Whitlock 1969, p.13]。
母音の特徴
母音の機能はRirie (540, 1960, p.45)によって簡潔に表現されている: 「母音は音の運び手である」。 母音の個別性に関して、Young (789, 1956, p. 25)は次のように述べている。「異なる母音は、2つの空洞の共鳴の組み合わせが異なることから生じる。すべての母音は、その母音の上下の音の高さ、いわゆる 『フォルマント 』を持っており、喉と口の共鳴がそれぞれこの2つのフォルマントに対応するときに聴こえる。」
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TruslerとEhret (681, 1960, p.16)は次のように付け加えている:「生徒が知るべき最も重要なことの一つは、それぞれの母音にはそれ自 体の性質があるということである。すべての母音が一貫して明るい色か暗い色に中和された声ほど退屈なものはない」。
この研究の範囲では、歌唱に使われる各母音の詳細をすべて調べることはできない。発声された音の質に関する以下の記述は、代表的なアプローチを示している:
6つの母音はすべて、上の前歯のすぐ後ろで、高く前方に響くように感じるべきである … より鮮やかなee(イ)、aye(エ)、ah(明るいア)は上の歯の縁の下を通り、より地味なawe(暗いア)、oh(オ)、oo(ウ)は上唇の下を通るようにする。口は常に左右対称に保つべきである [377, F. Lawson 1944, p. 23]。
母音の位置に適用できる一般的な原則……それは、すべての位置が明確で、静止してい ることが可能でなければならないということ、つまり、器官が跳ね上がり、すぐに退く ような位置であってはならないということである;例えば、oo(ウ)の位置は、息がどのよう になっていても、唇を動かさずに、ずっと静止していなければならないということである [3. Aikin 1951, p. 81]。
母音 ア、エ、イ は微笑んだ姿勢で歌うべきである。しかし、オ と ウ (ü)は、口が大げさにキスをするような丸みを帯びた形で、よりまろやかな音を出す必要がある [244, Fuchs 1964, p. 45]。
母音を選択することは、《uh》というニュートラルな 響きから離れることを意味する。声のさまざまな響きが形作られ始めるのは、この《uh》の位置からなのだ。この母音の形は、(1) 舌を上げて前進させる動作、(2) 唇を閉じる動作の 2 つから生じる [599, C. Scott 1954, p. 112]。
私は音声学や母音学派の様々な影響に対してほとんど我慢できない。
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PURE VOWELS、イタリア語は7つ。その他の派生語は後回しでいい。AH、AYE、EE、OH、OOだけだ。 若い歌手がこの5つの母音を純粋に歌えるようになれば、歌手としてのキャリアのための最も確実な基礎が築かれたことになる [768, Whitlock 1968 a, p. 20] 。
母音プロセスに関連する生理学的機能の考え方は、しばしば進展している。アドラー(1, Adler 1965, p. 45)は、「母音とは、喉頭で始 まり、咽頭と口によって形成される経路を妨げられることなく通過する有声の発話音であ る」と述べている。 その他の観察も興味深い:
母音は、喉頭蓋が喉頭の上を後方に傾くことによって形成されると言われている。 この喉頭蓋の「傾き」が変化することで、さまざまな形の空洞が形成され、異なる音程での共鳴の組み合わせが生まれる。これはさらに、喉と舌の形状の変化にも影響される。異なる母音を形成するのは、これらの空洞の無意識の調整である [768, Whitlock 1968a, p. 20] 。
喉頭咽頭の前壁は舌根であり、その主な機能は母音の形成を助けることである;舌の残りの部分の主な機能は、唇と歯の助けを借りて子音を作り出すことである [441, MacCollin 1948, p.3]。
音量の増減と接続開口部の伝導率の相互作用により、適切な共鳴によって、声の特定の倍音が強調され、これらの倍音が母音を決定する[656, R. Talor 1958, p. 29]。
複雑な音の構成に関係する音響学の法則が満たされると、イントネーションの純度が高まり、純粋な音が生まれる。したがって、「純粋な母音音質」と呼ばれるものは、音質に関する私たちの心的概念と物理学の法則が一致している状態を表しているのである [533, Reid 1950, p. 38]。
子音の重要性
Charles Kennedy Scott (599, 1954, p. 157)は、「子音」を「母音が音楽であるように、言葉の特徴を際立たせるものであり、単語の象徴的性格は子音が使われることによって生じる」と定義している
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Singer’s Manual of English Diction(436, Marshall 1953, p.5)は、子音を重要視している: 「子音とその重要性についてはあまり聞いたことがないかもしれない。それらは声を放射する。声をフォーカスする。声量を増強する。運ぶ力を与える。効果的なピアニッシモを歌うためにも、力強いフォルテッシモを生み出すためにも不可欠なのだ」。 Kelseyは『Grove’s Dictionary』(356, p.59)の中で、子音を単語の識別記号と呼んでいる。 Sarle Brown(89, 1967, p. 29)は、子音の明瞭さと速さに関する巧みな調音を抜きにして、満足のいく母音形成は不可能であるとしている。 彼は、「非常に現実的な意味で、子音がうまくいけば、母音もうまくいく」と いう古い決まり文句を引用している。その他、子音の機能を重視する発言は以下の通りである:
弱い子音は、良いディクションの最大の敵である [98, Camburn 1962, p.24]。
子音はスターターであり、スペーサーであり、ストッパーであるが、20個(母音の4倍)もあるので、それらには通り一遍の注意以上の注意を払う必要がある [635, Strickling 1951, p.50]。
子音を明瞭にするための努力を惜しんではならない。それは良いディクションに不可欠であり、良いディクションは歌の中の発話を明瞭にするのに不可欠である[378, J. Lawson 1955, p. 58]。
子音はすべて正しい筋肉で出さなければならない。 子音の「浮かび(floating)」を邪魔してはならない。 歌い方が劇的であればあるほど、子音はより重要になる [225, Fuchs 1964, p. 56]。
METHODES OF CULTIVATING DICTION
ディクションの訓練法
心理的アプローチ
メンタル・イメージの重要性
11人の著者の意見によれば、歌手のディクションは、実際に歌う前に心で思い描いた望ましい表現に影響される可能性がある。この心的イメージの概念は、Cranmer(138, 1957, p. 33)、Bellows(55, 1963, p. 97)、Baker(39, 1963, p. 9)の記述に支持されている。Kagen (1950, p. 63)は、「歌ったり話したりすることの実質的なあらゆる側面が、多かれ少なかれ、歌い手や話し手が出したい音に対する心的イメージの明瞭さに影響される」と述べている。
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例えば、正確な母音の生成に必要な筋活動のコーディネーションは、母音の正確なイメージの形成に極めて大きく依存している。」 「 母音はまず歌い手の耳の中に存在します。もしそこに存在しなければ、この世の何物もそれを生み出すことはできません。共鳴器の形成や周波数に関する専門的な議論も、人間の耳が放っておかれた場合に成し得ることを達成するには無力なのです」(342, Judd 1951, p. 5)。
手段としての話すこと
話し言葉のディクションと歌のディクションの関係は、声楽教育学の教材で広く論じられている。Helen Traubel (675, 1943, p. 6)はこう言っている。「発音(エロキューション)の練習は役に立ちます。私は歌の先生と一緒に自分なりの話し方を勉強しました」。 Vennard (714, 1967. p. 185)は、「歌の一節を舞台の上にいるように2、3回話し、それからそれを歌う」ことが優れた訓練になると示唆している。Crystal Waters (742, 1953, p. 61)は、1日30分、声を出して読むことを勧めている。著者は、スピーキングが歌に与える影響を頻繁に指摘している。その代表的なものが以下の記述である:
良いディクションは美しい話し方にかかっている[643, Sunderman 1958, p.37]。
歌とは何か? 第一に、それは音域とパワーの両方において、話すことを拡張したものである[617, Slater 1950, p.6]。
良いスピーチに適用される原則は、良い歌唱にも適用される[50, Beckett 1958, p.30]。
歌うことは、本能的な叫び声を意識的に洗練させたものに過ぎない。 歌うことは、どんな音程でも、どんな母音でも、最適な口のポジションを見つけることだと言えるかもしれない[51, Beckman 1955, p. 76]。
『話すように、歌いなさい』、あるいは、少なくとも、『話さなければならないように、歌いなさい』というスローガンは、ほとんどの母音とほとんどすべての子音で通用する[ 720, Vennard and Irwin 1966, p. 18]。
スピーチ音の生成の「メカニズムを研究しなさい」[342, Judd 1951, p. 106]。
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教師は、歌うことは基本的に話すことと同じであることを生徒に理解させるべきである [537, W. Rice 1961, p. 11]。
スピーチから歌に移るとき、いかなる変化も感じてはならない。 音楽は言葉の上に置かれるのではなく、言葉の中に溶け込んでいるのだ[37, Bairstow and Greene 1945, p. 34]。
スタンレーは、生徒が咽頭で話すこと、つまり歌うのとほとんど同じように話すことを強く要求している。 このやり方は、生徒が歌うための準備として素晴らしい効果を発揮する[624, Stanley, Chadbourne and Chadbourne 1950, p. 37]。
デバイスとしてのウイスパリング
ウィスパリングは、歌唱におけるディクションを向上させるテクニックとして、著者によって時折言及される程度である。
特に、生徒にとって難しいフレーズについては、しばしば聞こえるささやき声を出すべきである。なぜなら、ささやき声は、語の正しい形成のポイント、息が常に歯を横切って流れる感覚、語を形成したり話したりするための随意の身体的労力からの解放を観察するための最も有用な手段となるからである [414, MacDonald 1960, p. 29]。
ウィスパリングの練習について、フィールズ(204, 1947, p.199)は次のように述べている。「声帯は振動しないので、ウィスパリングは声を休ませ、発声器官の弛緩と解放につながると考えられる。」フリードリッヒ・ブロドニッツのコメント(80, Brodnitz 1953 p. 156)には注意が示されている: 「喉頭炎の間は声を完全に休ませるようにと我々が忠告するのは、まさにそのことだ。
ささやきは声を休ませない。『ステージ・ウィスパー』のようなささやきを続けると、会話よりも声帯に負担がかかることさえある。LuchsingerとArnold(403, 1965, p.120)は次のように付け加えている:「ささやき声の間、声帯は様々な度合いで閉じているので、声にならない話し方は声の休息にはならない…急性嗄声のアタック時には、患者にささやくように勧めてはならない。声の休息は沈黙を意味する。」
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デバイスとしての詠唱(チャンティング)
一部の著者は、詠唱(chanting)の練習が教育的に有益であると考えている。『Training the Singing Voice』(204, Fields, 1947, p.199)において、Fields は次のように述べている。「詠唱とは、歌曲の歌詞を音楽的な単音の抑揚で朗誦することである。詠唱者は、歌唱に必要なすべての正しい動作を行うが、音高・強弱・表現上の変化については気にかける必要がない。したがって、音程(イントネーション)および発音(ディクション)の問題に、より多くの注意を向けることができる」。 Christy (111, 1961, p.53)は、「『イントネーション』のチャンティング練習は、話すことと歌うことの間のギャップを埋めるための自然な移行であり、歌を歌うための中間段階として、言葉の共鳴領域を拡大するものである」と述べている。Ringel(539, 1948、p.8)は、「楽な音程で文の一部分や詩の一行を唱え、それから……ドラマチックな抑揚をつけてバランスをとって話す」と述べている。彼は、このデバイスは個々人のスピーチや 歌唱においてより大きな応答を刺激し、言葉の音声パターンの認識を生み出すのに役立つとコメントしている。他の著者では、Freer (228, 1961, p. 547)やCates (106, 1959, p. 7)が、よりよいディクションを習得するための工夫としてチャンティングを用いることについて、支持的なコメントを寄せている。
技術的なアプローチ
母音テクニック
「ah」母音の重要性。–「ah」母音は、意図的な発音なしに自然に発せられる「uh」という母音音と類似しています。 以下は、歌唱ディクションへのアプローチとして、ah母音の採用を提唱する代表的な声明です:
母音 ah の発音における共鳴体のポジションは、他のすべての母音の ポジションと区別できる出発点とみなされるべきであることは、すべての生理学者が認めている [3, Aikin 1951, p. 44]。
最も自然な母音であり、それ以外のことを教える流派は、古いイタリアの流派とは一切関わりがない [371, Lamson 1963, p. 7] 。
発音記号[a]は、fatherや、star、heart、calmといった単語の母音の音を表す。 この音は歌の基本であり、他の母音がそのバリエーションとなるときのテーマである [436, Marshall 1953, p. 125]。
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母音ahは、学習の初期段階において、声の訓練用 の媒体として最も頻繁に使用される[777, Wilcox 1945, p.18]。
ah母音は最も緊張を伴わずに発せられるので、論理的には、より自然な発声における鍵となる音で なければならず、他のすべての発音を明瞭化するためのアプローチとなりうるということになる [50, Beckett 1958, p. 30]。
まれに、母音 『ah』の価値を否定する発言もある。「私の個人的な経験から、……若い声は母音 “ah “と “oh “で作ってはいけないと学んだ。それらは、マスクから声を取り出して、喉のほうに落とす傾向がある」(748, Welitsch 1950, p.18)。「昔は……教師は声楽の生徒たち全員に母音のアーに取り組ませ、これが一番簡単だと主張していた。私は、これは真実ではないと主張する」(435, Margolis, Sabinより引用、1951, p.19)。
舌のコントロール。–良い歌唱ディクションの過程において、舌が最も忙しい器官であることは一般的に知られている。しかしこの点を超えると、母音形成における舌の機能について、著者の意見は一致しなくなる。
発声器官は、咽頭、舌、軟口蓋といった発声機構の可動部位の位置関係によって形成されるが、その様々な調整とは、単に一つのことを意味する:母音である。 母音を正しく形作ることは、発声器官を正しく形作ることである [793, Wragg 1956, p. 529] 。
舌は決してだらんとしたものであってはならない。よく思われているように、舌は常に平らに保たれているものではなく、はっきりと母音の形を作るものなのだ [356, Kelsey, Grove’, p. 52]。
母音の位置に適用できる一般的な原則は、顎はすべての母音に 対して開いたままであるべきであり、したがって、母音の形状のさまざまな変化は唇と舌に依存するということである [3, Aikin 1951, p. 81]。
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Vennard (714, 1967, p. 130)は、直接的、間接的を問わず、舌のコントロールが良好な母音形成に最も重要な要素であると確信している。Marshall (436, 1953, p. 122)は、どうやら異なる見解を持っているようで、英語の母音の研究において、舌の動作を強調しない。『The Singer’s Manual of English Diction』の中で、彼女は子音の研究における舌の機能について論じているが、彼女の経験では、英語を話すボーカリストのほとんどが母音のための舌の調整を自動的に行っていることを示している。
他の身体的なコントロール。– Robert M. Taylor (656, 1958, p. 29)は、歌の世界で最も誤解を招きやすい誤謬の一つは、「母音が口の特定の形によって 『形成 』されるという概念であり、特定の先入観にとらわれた 『型 』を使うことによって、ある種の卓越したディクションを達成しようとする努力は、数え切れないほどのフラストレーションを引き起こしてきた」と述べている。この強いポジションは、以下の記述に照らしても興味深い
歌い手の《母音成形機》が軟口蓋と舌の中心で構成されていることは、必ずしも理解されていない [Kelsy, Grove’s p. 52]。
私自身は、母音を決定する上で、口の共鳴は首の共鳴よりもはるかに重要であり、また、はるかに一定していると感じている [599, C. Scott 1954, p. 151]。
発音は口の前半分で行い、喉は自由にする [418, McLaughlin 1959, p. 11] 。
様々な母音とその無数の合成音を発音する唇は音の形を変えず、共鳴の感覚を変える [88, R. Brown 1946, p. 90]。
咽頭腔は、特定の音–特に母音–に非常に特徴的で予測可能な形と大きさを持つ [680, Truby 1962, p. 1978]。
学生は、すべての母音は…咽頭、つまり軟口蓋が必要に応じて上下する口 の奥の部分で完全に形成される…と固く確信しなければならない。 口の前部は…実際の母音形成には全く関与しない。なぜなら、母音形成には操作可能な調整部分が絶対に必要だからである [301, Herbert-Caesari 1965, p. 128]。
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母音アタックを向上させるための様々な手助け–Margolis (435, 1951, p.34)は、各歌手にとって最も自然な母音を選び、後でそれを他の母音にブレンドすると述べている。母音のアタックを改善するもう一つの方法として、George Newton (489, 1954, p. 8)は、発話音として最も美しく、かつ母音に特徴的な性質を残す音を見つけることだと述べている;また、いくつかの音のより良い出し方を見つけるためには、発話習慣を変える必要があることがよくあると付け加えている。Vennard (714, 1967, p. 44)は、多くの場合、[h]を意図的に誇張して使うと信じている;この後、突然、しっかりと大きな母音が続く。スタッカートでは、バルブは緊張が高まる前にすぐにまた緩められる。Vennardはさらに、[h]の発音は正しいアタックを習得するための松葉杖に過ぎないと言う。152母音が明瞭で鮮明に発音できるようになったら、[h]に費やす無駄な時間と息の量を減らし、それが 『 イメージ上の[h]』だけになるようにする。子音の発音は、Dengler (154, 1944, p.22)が母音の発音を改善する手段として提案している。彼は、子音は「母音が生まれる位置である。母音のカタパルトとして機能する。バッ、バッ、バッは……アッ、アッ、アッ……よりもずっと速く歌うことができる」だと言う。」
母音の変更
話し声の通常の音域よりも上で、歌声、特に初心者の歌声は、音域の強い部分から弱い部分へと移行する。経験的な見地からも実験的な研究からも、上音域ではある程度の母音修正が必要であることが一般的に受け入れられている。「歌い手は、声のある部分において完璧に音を生成するためには、母音のある種の修正が不可欠であることを理解することが重要である」(186, Eberhart 1962, p. 9)。この声部の母音の歌い方に関しては、はっきりしないところがある:
歌い手が純粋母音を正しく形づくることを学んだとき、それぞれの母音が形と色において修正可能であることに気づくだろう。この修正は、高音で歌うときにはすべての母音において必要である[793, Wragg 1956, p. 530]。
母音はピッチが上がるにつれて短い形に変化する [31, Bachner 1947, p.70]。
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音階を上がるときは、声の「芯(基本音)」を少し軽くして上昇を助ける。ただし、最上部でコントロールできるだけの芯は常に保つようにする。そのためには、上に行くにつれて母音をわずかに変化させるのが基本である[Abgell 1957, p. 6]。【訳注:Abgellの「drop out some of the basic tone」は、ベルカント唱法の「aggiustamento(母音調整)」に通じる概念であり、現代音声科学でいう formant tuning(フォルマント調整)を先取りしている。声の“芯”を過度に保つと高音が硬直し、逆に抜きすぎると支えを失うため、適切なバランスを探ることが重要である。】
ジャン・ド・レシュケはテノールに、高音では母音üを使うようにアドバイスしているが、喉が自由でリラックスしていなければならないので、歌手によってはこれは命取りになるかもしれない[244, Fuchs 1964, p.83]。
上のメカニズムへの移行点では、選ばれた男性歌手の変化を分析する傾向があることが調査によって示唆されている。 Taff (648, 1965)は、選ばれた男性歌手のスペクトル分析でこのことを指摘している。 この研究の枠組みの中で、被験者はすべての母音のフォルマント周波数に、移行音またはその近辺で有意な変化を生じていることが明らかになった。 しかし、Bellows (55, 1963, p. 97)は、「声域全体にわたって、すべての純粋母音をそのまま歌うことは十分に可能である」と考えている。
高音域での言葉の明瞭度については研究の対象になっており、一般に、高音域では言葉の明瞭度を高めるのが難しいことが認められている。HowieとDelattre (323, 1962, p. 6)は、一般的にピッチが上がると母音は明瞭度を失うと報告している。Triplett (679, 1967, p. 50)はこの観察を裏付けている: 「もし歌い手が声質を二の次にし、音の始めに母音を確立するために必要な一瞬の間だけ、母音 の色を優位にすることを学ぶことができれば、高音でより明瞭な音を歌うことができるだろう」。
子音のテクニック
身体的なコントロール。–子音の音は、音の流れの通り道における障害物の作用によって作られる。これらの障害物、あるいはコントロールと呼ばれるものは、舌、唇、顎の調音作用の結果である。「子音は単語の聞き取りやすさを左右する。唇は活動的でなければならない」(643, Sunderman 1958, p.37)。「きれいで歯切れのよい子音は、俊敏な舌と緊張のまったくない顎が要求される」(537, W. Rice 1961, p. 49)。子音は、舌、歯、唇などの様々な方法による介在によって、多かれ少なかれ流れが完全に遮断されることによって(生み出される)」(153, Punt 1967 p.16)。「最も美しい子音と母音は、唇とノドの筋肉を完全にリラックスさせた状態で発音されるものである、という基本的な真実に異論はないだろう」(436, Marshall 1953, p. 2)。
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音を遮るものとしての子音。–「子音は一般的に、共鳴体の共鳴機能への干渉によって生み出される、つまり、ほとんどの場合、共鳴体の開口部の狭窄と閉鎖である」(3, Aikin 1951, p. 70)。「歌は、歌い手が流れるような話し言葉の中の母音音を、子音による区切り点で連結された一連の長方形の区画として捉えたときに、最も優れた状態に達する」(18, Appelman 1967, p.244)。Ross(559, 1959, p.44)、Eberhart(186, 1962, p.32)、Paul Peterson(514, 1966, p.69)、George Newton(491, 1954, p.8)などが、この概念を支持する記述を加えている。
デバイスとしての子音の誇張。–分かりやすい子音は、しばしば誇張によって求められる。この概念に関するコメントは様々だ:
いくつかのケースで必要とされる調音力の大きさは、生徒にとってほとんど信じがたいものである [114, Christy 1967, p. 92] 。
教師やコーチが生徒に、もっとはっきりと発音するように指示することは、良いことよりも悪いことの方が多い[244, Fuchs 1964, p.56]。
子音を子音として認識させるには、雑音が誇張されていなければならない[741, Vennard 1967, p.182]。
誇張は、明瞭さと音色の美しさのための最良の手段ではない。 最良の原則はリラックスである [ 437, Marshall 1956, p. 18]。
ここで私は、言葉の誇張を、良いディクションへの道のりの妨げではなく、助けとして推奨する[453, Melton 1953, p. 15]。
歌手は、通常のスピーチで必要とされる以上に誇張しなければならないが、歪みなくそうしなければならない[102, Cashmore 1961, p.514]。
子音の発音の誇張を教えることで、……人は、「言葉の背後の輝き」と呼ばれるものを達成する」[603, Sharnova 1947, p. 4]。
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音声学が理解され、テキストの情感が考慮され、感情を込めて言葉が巧みに発音される場合、子音は歌の中でも話し言葉の場合とまったく同じように現れ、驚くほどうまくいく[R. Brown 1946, p. 96]。
発音に関する知識はあった方がよい
国際音声記号(International Phonetic Alhabet)は、1886年に国際音声協会によって考案されたもので、すべての発話音の音声記号を提供するものである。このアルファベットは、すべての標準言語の発話音を一貫して分析し、分類するものとして受け入れられている。歌手たちは、外国語の勉強や、母国語の音節や単語の適切な音やアクセントを正確に知るために、国際音声記号を学ぶよう奨励されてきた。この研究の期間中、『The Singer’s Manual of English Diction』の出版は、歌唱を学ぶ者に国際音声アルファベットを理解させる上で大きな影響を与えた。Marshall (436, 1953, p.123)は、例えばフランス語やドイツ語の学習でこのアルファベットに助けられた歌手は、英語との比較のための貴重な基礎としてこのアルファベットを見出すだろう、とコメントしている。AppelmanのThe Science of Vocal Pedagogy(18, 1967, p.171)も音声学に注目したものである:
国際音声記号(International Phonetic Alhabet)の入念な学習は、歌手に言葉の規律をもたらしてくれる。調音器官の機械的な調整の大きなバリエーションを意識するように歌い手に教えるもので、このアルファベットの中では、歌おうとする発話音のほとんどに対して、それぞれの記号が特定の調音位置を要求するからである。
De Young (160, 1958, p. 77)は、教師や歌手に対して、記号を認識し発音できるだけでなく、どのような文章や単語でも発音記号に書き写すことができる程度まで、国際音声記号を勉強し学ぶよう強く求めている。ウォルシュ(734, Walsh 1947,p. 555)は、音声学の研究が明瞭で区別しやすい子音の発音について正確な指針を与えると述べています。
Schiøtz (590, 1970, p. 167)、Ross (559, 1959, p. 164)、Govich (272, 1967, p.214 などが国際音声記号の使用を奨励するコメントを寄せている。
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SUMMARY, ANALYSIS AND INTERPRETATION
まとめ、分析および解釈
歌手のディクション理論を検証してみると、歌われる言葉と多くの関連分野が相互に依存していることがわかる。スピーチ‐シンギング特性を研究するには、音声解剖学と生理学の知識と理解が必要であり、音響物理学と心理学は発声された音の性質を理解するのに役立つ。歌のディクションにおいて、スピーチ・サウンドの研究は、必要な発音を最良に行うために不可欠である。ある意味で、ディクションの研究とは、書かれたページや精神的に思い浮かべられる記号の研究である。
より直接的な言い方をすれば、音作りと発音の間には重要な相互関係が存在し、一方が他方を育てるのである。「歌の中で自由で自然な話し方をする歌手は、より良い音を生み出し、正しい音の放出をマスターした歌手は、ディクションに歪みを見せない」(664, Thibault 1946, p.669)。締め付けがなければ、音の放出も発音も自由になる。
声の伝達手段としての母音に関する記述からは、容易に意見の一致を見ることができる。これはこう言えるかもしれない: 母音の美しさと純粋さは、歌唱トーンの基礎である。この件に関しては、執筆者の間に意見の相違はほとんど見られない。しかし、望ましい母音の純度を達成するための本質的な方法論的アプローチに関しては、かなりの意見の相違がある。ここでもまた、身体動作コントロール理論と経験主義派の「マインド・モールド」母音アプローチとの間に矛盾が存在する。
本研究および『Training the Singing Voice』における比較数値は表11に示されています。 以下の推論が導かれます:
1. ディクションの明瞭さを実現するため、子音の発声にますます注意が向けられています。
2. 高音域で歌われる母音は、しばしば変化させられるものであり、また変化させるべきものです。
3. アーティキュレーションの多少の誇張は許容されます。
4. 本研究の期間を通じて、国際音声記号(IPA)の採用が拡大しています。
5. ディクションの補助手段としてのスピーキングの価値は広く認められています。
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6. 「あ」の母音は重要な基本技術であるにもかかわらず、以前ほど広く練習されていません。
ベリスル(53, Belisle, 1967)は、自身の研究に基づき、歌唱におけるディクションに影響を与える重要な要素を導き出しました。彼は、優れたディクションを持つ歌手は次の特徴を備えていることを見出しました:(1) 母音の対比を明確に使い分ける、(2) 声にビブラートの歪みがほとんどない、(3) 「前方に明るく響く」と表現できる発声法を用いる、(4) 強い声を備えている、(5) すべての音、特に単一母音や複合母音を注意深く意図的に形成する、(7) 一般的に高度な歌唱技術を有している、というものです。
結論として、歌手は思想や物語、心情、あるいは哲学を表現するために歌います。これは言葉を通じてのみ達成されるものです。声なくして歌唱は存在し得ないのは事実ですが、歌詞や劇的なディクションなくしては声だけでは不十分です;声はしばしば妨げとなることもあります。見事な声質であっても、不明瞭な子音や不適切な母音の発音を補うことはできません。しかし、ディクションが完璧であればあるほど、声の弱い点をカバーできるようになり、声量に恵まれない歌手でも、十分に聞こえ、理解されるようになる傾向があります。
2025/11/01 訳:山本隆則