第9章
Pedagogic Implications of Tube Acoustics
チューブ音響効果の教育学的意味
声道は、本質的にチューブの形(すなわち、母音によって異なる)によって変る、自然の共鳴によるチューブ共鳴体であるので、それゆえ、以下の原理と戦略は、首尾一貫した、実際的な音響教育学のために信頼できる基礎を作ることができる。
General Principles:一般原則
・倍音/フォルマント適合を求める際に、歌手は倍音をチューニングすることはできない。倍音は、彼らが歌うために作曲家によって求められる基本周波数(ピッチ)から自動的に生じ、それの上に築き上げられる。歌手には、それらの倍音を選択的に共鳴させるフォルマント― 特にF1とF2 ― を再調整するために声道を形づくるいくつかの能力がある。
・4つのフォルマント/倍音相互作用の可能性がある:
・・フォルマントは、移動する倍音にフォルマントを通過させることができる。
・・フォルマントは、安定した倍音を横断させるために調整されることができる。
・・フォルマントは、倍音を追跡する(track)ために調整されることができる。
・・フォルマントは、倍音列から離れて「離調される(detuned)」ことができる。
・すべての音響声区現象は、各々の母音の第1フォルマントの位置と関連して起こる。(第2フォルマントもまたしばしば関与する。)
・喉頭声区調整は時々音響声区現象から独立しているが、しばしば音響声区現象との相互作用によっても影響される。
・どんな倍音でも第1フォルマントを横断するときはいつでも、聞きとれる現象がある:倍音がF1の下に下がるときは音色的な閉じが聞こえる。
・チューブの長さと形が同じままに保たれるならば、母音と音色は上行ピッチで次第に閉まり、下行ピッチで次第に開く。
・声が、すべての母音に対して同じピッチでターン・オーヴァーするというわけではない。
・各々の母音はその第1フォルマントのすぐ上とオクターブしたでターン・オーヴァーするだろう、そこで、歌われているピッチのH2は母音の第1フォルマントを突破する。
・他のミニ・閉じまたはミニ・開きも ― F1を横切る高い倍音を含んでいる ― 母音、ピッチと声のFachによって予想できる場所で、起こらなければならない。
・予測可能な、安定した回転/横断場所は、安定したチューブの長さと形を示す。
・第1フォルマントを上げる方法は2つしかない:
・・チューブを短くすること
・・母音を開くこと
・第1フォルマントを降ろす方法は2つしかない:
・・チューブを長くすること
・・母音を閉じること
・極端な高いソプラノ・レジスターを除いて、チューブの長さの変化は、めったに西洋の古典的テクニックの適切な戦略とはならない。
・倍音/フォルマント横断の推移を探る練習は、学生が区別するのを助ける:
・・音域と母音を横断して同じままであることができるもの
・・音域と母音を横断して変わらなければならないもの
・第1フォルマント場所を知ること、そして、フォルマント/倍音交互作用の特徴を知ることは、創造的な、効果的戦略の基礎を作ることができる:
・・基本的な音域の開発のために
・・レパートリーの中で起こる音域または声区課題のために
Acoustic Strategies Across Range:音域を横断する音響戦略
・歌われているピッチが十分に低く、つまり、1オクターブ、または、歌われている母音の第1フォルマントのかなり下である限り、一般に共鳴しやすい配置(開いたのど、上げられた口蓋、前に置かれた舌、すなわち、収束性、シンガーズ・フォルマント/明暗法音色のために調節される)をとることを越えて重要なフォルマント・チューニングの必要を除外する、声道フォルマントによって共鳴に利用できる十分な倍音が存在する。
・西洋の古典的な響きのために、H1以外のすべての倍音は、F1を通過させておかれなければならない(すなわち、フォルマント追跡なしで)。F1が上昇する倍音、特にH2(叫び声音色)とH1(フープ音色)を追うことが本能的なことから、これはトレーニングが必要である。
・ミュージカル・シアターのベルトと多くのワールドミュージック・スタイルについては、F1はH2を追わなければならない ― イエールの場合のように ― しかし、息の圧力と気流レベルは旺盛である。
・第一の移行(F1/H2交差)の下で、発音で比較的閉じたままにして、第1フォルマントを歌われている母音のために楽に低く保ちなさい。
・H2が第1フォルマントの通常の共鳴を起こすスピーチ場所までF1を越えて上昇させることで、そのポイントで、「ターン・オーヴァー」の第1の音響移行を生じさせる。
・閉じた音色へのF1/H2交差より上で、声道の長さや母音閉鎖が増やされるならば、F1はさらに低く降ろされる、そして、声は以前のフープ音色(より低い)へ移動する(すなわち、良くて1オクターブ未満)。
・閉じた音色へのF1/H2交差より上で、声道長と閉鎖が維持されるならば、フル・フープ音色がF1/H1接続に達するまで、音色はますます閉じるようになる。
・これは女声と高音域男声に特有の戦略でもある。そして、それは西洋の古典的歌唱のより「頭声優位な」音色を好む。
・閉じた音色へのF1/H2交差より上で、母音が閉じた音色の範囲内で徐々に開けられるならば、つまり、F1がH2を追い越さない程度に、フープ音色は延期されるか、全く避ることさえできる、そして、「胸声ミックス」音色のより多くは維持される。頭声的な、より柔らかい効果を求めない限り、これはより力強い高い声を好む男性の典型的戦略である。これは、F1の場所が男性の音域内にあるそれらの狭母音の上で特に必要である。
・F1/H1カップリングで、フル・フープ音色(非常に頭声的/ファルセットの)は、成し遂げられて、非常に典型的で、女性(または高音域男性)の西洋古典的歌唱にとって望ましい。
・フープ(F1/H1優位)音色であるとき、F2がより高い倍音に合わせて閉じているならば、音色はより明るくて、おそらく鋭い。そして、どれぐらい高い倍音が補強されるか次第である。その状況において、能動的母音修正によるF2のデチューン( ― 通常より低く ― 倍音からさらにそれを移動させる)は、音色の暖かさと丸みを増やす。
・F1/H1(フープ音色)接続より上で、第1フォルマントは、音色の豊かさを維持するか、薄くなることを避けるために、上昇する基音(H1)とともに上がらなければならない。これは、母音の開きによって主に達成されるが、結局女性のまたは最高音歌唱(およそB5以上)の最も高い音域においては、チューブを短くすることによって達成される。F1/H1(フープ音色)接続より上の高音域の声に対する他の戦略は、暖か味はないがより輝いている(銀色であるが、より細い「フロート」品質)高くて弱い音声が求められるならば、より閉じた母音発音を保持することによって、H1(歌われたピッチ)をF1の上に上昇させることであるかもしれない。大きいダイナミック・レベルでは、この戦略は、かん高い音になる。
・歌われてるピッチのF1追跡を終えて、F1がもうそれ以上上がることができないとき、より高いピッチは、ホイッスル声区にあり、F1とF2の集積によって共鳴させられるだろう。
2018/03/03 訳:山本隆則