Training the Singing Voice
歌声のトレーニング
An Analysis of the Working Concepts Contained in Recent Contributions to Vocal Pedagogy
(声楽教育学の最近の著作に含まれる実践的概念の分析)

第5章

CONCEPTION OF RESONANCE
共鳴の概念 

 

定義。 ウェブスターによれば、共鳴とは、補足的な振動によって楽音を強め、豊かにすることである。また、音の発生器(ジェネレーター)から発せられる最初の振動と調和する同期振動の結果でもある。共鳴体の作用は発生装置の作用とは区別され、通常、発生装置によって発生する特定の周波数を増幅する一方で、他の周波数を減衰させたり吸収したりする。したがって共鳴の効果は、最初の音を増加させるか、音質を変えるか、あるいはその両方である[Curry 124, p. 42]。

THEORIES OF RESONANCE 
共鳴の理論

GENERAL DESCRIPTIONS 
一般的な説明

人間の音声器官は管楽器であり、オーケストラで用いられる開管式の管楽器に類似している。この類似性は現在では広く受け入れられているようだ。このような楽器は、音を発生させるマウスピースと、音を共鳴させる円筒形のパイプまたは空洞から構成されている。このような楽器が発する音の質は、常に2つの主な要因に依存している。すなわち、発振器の振動の仕方と、共鳴器を構成する空気空洞の形状である[Redfield 462, p. 267, 1935] 。円筒管や類似の空洞の共鳴特性は、実験的に正確に決定することができる。しかし、声道は個人によって異なる不規則な形状をしているため、共鳴特性を推定するには、類似した形状や一定のパターンとデザインを持つ管と比較するしか方法がない。そのため、最も一般的な発声の説明は、類推によって楽器から借用されている。人間の発声器官は、声帯やマウスピース、共鳴体を構成する骨や筋肉の空洞からなる周辺構造から成ると考えられている。発声機構における共鳴体は、口、喉、鼻、副鼻腔であり、胸腔も重要な共鳴体とみなされている[Dodds and Lickley 139, p. 33, 1935]。

129/130

表4
歌唱指導で用いられる共鳴の概念のまとめ

(発言の総数)―(小計)―(総計)―(プロ歌手)―(文書化された証言)―(未記録の証言)

I. 共鳴理論      ー・ー・137・ー・ー・ー

A.一般的な説明   19・ 19・ー・2・6・13
B. 音響要因      44・ 44・ー・ー・30・14
C. 生理学的要因    ー・74・ー・ー・ー・ー

1. 頭部共鳴

a) 頭部の空洞は重要である 7・ー・ー・2・ー・7
b)頭部の空腔は重要ではない 3・ー・ー・ー・2・1

2. 副鼻腔の機能

a) 副鼻腔が使用される  9・ー・ー・ー・2・7
b) 副鼻腔は使用しない  4・ー・ー・ー・3・1

3. 鼻腔共鳴

a) 鼻腔は意識的に使用される  14・ー・ー・2・4・10
b) 鼻腔は意識的に用いられない  3・ー・ー・ー・ー・3

4. 口腔と喉の空洞の重要性 11・ー・ー・ー・6・5
5.胸腔の重要性              7・ー・ー・ー・2・5
6. 共振器としての全身 16・ー・ー・1・1・15

II. 声の共鳴のコントロール方法 ー・ー・125・ー・ー・ー

A. 心理学的アプローチ      ー・19・ー・ー・ー・ー

1. 表現意図が共鳴をコントロールする 6・ー・ー・ー・1・5
2. 直接コントロールは可能か

a) 共鳴は直接コントロールできる 5・ー・ー・1・ー・5
b) 共鳴は直接コントロールできない 8・ー・ー・ー・ー・8

130/131

B. 技術的アプローチ ー・106・ー・ー・ー・ー

1.指標としての質 16・ー・ー・2・1・15
2. 声のフォーカスを得る

a) 声は意識的に集中させるべきである 41・ー・ー・4・2・39
b)声は意識的に集中させてはならない 19・ー・ー・2・2・17

3. ハミングの価値

a) ハミングは便利な手段である 25・ー・ー・1・ー・25
b)ハミングは便利な手段ではない 5・ー・ー・ー・1・4

総計  262・262.262・17・63・199

130/131

共鳴器の音響特性について詳細に論じる必要はほとんどない。なぜなら、そのような情報は、どの良質な専門書にも記載されているからだ。ここでより重要なのは、歌唱指導者が、声楽トレーニングの方法を選択し、使用する際に役立ついくつかの基本的な音響学的知識を得ることである。したがって、以下に、この分野における最近の研究者の実験結果に基づく簡潔な音響学的概要を示す。

ACOUSTICAL FACTORS 
音響要因

音は伝わるが、音波を伝える空気の振動や脈動する粒子は伝わらない [Brown 68, 1941]。音の波は、意のままに方向を変えられる空気の流れや気流ではない。それは、風が吹いているときに小麦畑を渡る波のようなものだ。それぞれの茎は少し揺れるが、元に戻る。同様に、空気の粒子は、固定された軸を中心に揺れ動く。振動によって運動が開始されると、そのエネルギーは隣接する粒子に伝わり、さらにその粒子は、振動源から放射状に広がる同心円状の球体として、同時にあらゆる方向に振動エネルギーを伝達し続ける。[Hemery 238, p. 40, 1939]

131/132

レッドフィールドが説明しているように、音とは、大気の震えや揺れのようなもので、一斉にあらゆる方向に伝わるものである[462, p. 266, 1935] 。それが振動するエネルギーそのものを発生しないが、振動が伝播される[Curry 124, p. 53] 。931]。

すべての音は、音声であるか否かに関わらず、4つの主な特徴、すなわち「ピッチ」、「大きさ」,「持続時間」,「音質」を有しており、音波の周波数、振幅、周期、形態を表している[Seashore 505, 1939]。

声質や音色は、歌手の唇から発せられる音波の形状と、そのハーモニック成分または倍音の相対的な周波数と強度によって決定される[Evetts and Worthington 167, p. 39, 1928]。スタンリーによると、音質とは、実際には2つの独立した要素を含む総称である。a) 特定の音における基音と倍音の分布パターンによって決定される音のまたは母音のスペクトル、b) 音の美的効果または美しさ。どうやら、音のスペクトルは音の美しさに影響を与えないようである[Stanley 577, p. 299, 1939]。母音スペクトルにおける音の周波数の分布は、フォルマントと呼ばれる。ボルチャーズは、ある瞬間の声の音色を、絶対音高、絶対音強、母音特性(音調スペクトルまたはフォルマント)の3つの要因の組み合わせとして説明している[Borchers 58, 1942]。シーショアによると、声質は「支配的なトーンスペクトル」に完全に依存する。[Seashore 507, 1942]。カリーは、音質を音波の性質に関する主観的な印象と表現し、この印象は周波数と相対周波数に依存すると述べている。音の強度と持続時間。音波の基音は、最も低い周波数を持つ成分であり、通常、私たちが聞く音の絶対音程を決定する[Curry 124, p. 41, 1940 ] 。声の周波数と強度の複雑な構成は、音声表現中に連続的に変化するため、声質を客観的に測定することは容易ではないことに留意すべきである[Farnsworth 169, 1942] 。ルイスは、歌ったり話したりする際の声道は常に変化していると報告している。「全体的な証拠から、… これといった重要な固定された音声共鳴体は存在しないことが示されている」[Lewis 340, 1936]。

歌唱における良好な声質は、通常、音の中心となるピッチの周りに、1秒あたり約6回の、知覚できないほどの微妙なピッチと強度の変動を伴う。この声音の変動はビブラートと呼ばれる(第IV章)。ピッチの中心が不適切に移動すると、聞き手にとって不快な効果となる[Stanley 577, p. 301, 1939]。ビブラートは音に生命や温かみを加えるように思える。強度は音量やダイナミックな特性を、低域のフォルマントや周波数の分布は深みや共鳴を、高域のフォルマントは輝きを与える。[Ortmann 437, p. 99, 1935]これらの特性が複合的に作用して、声音の質が形成される。

134/135

ピーボディ音楽院では、40人の男女歌手の歌声から録音した1,000以上の声音を5年近くにわたって分析し、以下の結果を得た。優れた歌声には、4つの明白な特徴がある。均一なビブラート、音の強弱が最小限であること、500サイクル前後の低次倍音またはフォルマントが顕著であること、2900サイクル前後の高次倍音が顕著であることである[Bartholomew 40, 1940] 。スタンリーは、良質な音では最大エネルギーがわずか2つか3つの周波数帯域に集中している一方で、不良な音ではエネルギーの分布がより広範囲にわたっていると主張している[Stanley 578, 1931] 。体系的なトレーニングを通じて、上記の客観的な特徴が達成されたときに、声は適切に配置(placed)されると言われている[Bartholomew 37, 1940] 。

音響に関する4つの事実をさらに挙げておこう。リンドスレーは、共鳴器官の1つまたは複数における振動量を増加させることで声質を変えることができるという実験的証拠を報告している[Lindsley 347, 1933] 。これは歌手の声を訓練した結果として自動的に得られるものなのか、それとも熟練した歌手であれば、自分の声を意識的に任意の共鳴体の特定の領域に集中させることができるのかどうかについては、彼は述べていない。ルイスとリヒテは、訓練を受けた歌手の声のさまざまな倍音や部分音が、声門や口の開き具合を変えることで次々と導き出されるという実験を報告している[Lewis and Lichte 341, 1939]。カリーは、喉頭蓋や舌、その他の表面によって、声道の他のさまざまな部分に音波が反射されると考えるのは誤りであると主張している。なぜなら、平均的な声域の音の波長は、声道内の比較的小さな表面の影響を受けるには長すぎるからだ[Curry 124, p. 49, 1940] 。カリーが指摘するもう一つの興味深い観察結果は、歌手がフォネーションによって発する声は、フォネーション中に声帯に加えられるエネルギー全体の約20パーセントにしかならないということである。どうやら残りのエネルギーは、最初の音から発せられ、声道全体に吸収される「寄生振動(parasitic vibrations)」として散逸するらしい[同書、p.50, 1940]したがって、共鳴体全体がフォネイションのエネルギーの約5分の4を吸収しているように見える。

教育的な側面
音声生成における共鳴因子の作用は、歌唱指導者の間で大きな論争を引き起こしている[Drew 147, p. 125, 1937]。共鳴という用語は、正規の指導システムによって適切に育成された後に、歌声が獲得する未知の特性を説明するために、しばしば曖昧に使用される。この意味では、共鳴は声のプレイシングと同義であり、声のプレイシングという用語は、優れた発声指導の成果を漠然と表現している。

133/134

ボナヴィア=ハントは、ハーバート=カエサリ著『歌声の科学と感覚』の序文で、歌唱に関する多くの文献に典型的な次のような主張を行っている:音声が喉頭から外に向かって伝わる際に、喉や口の中で音量やその他の特性が加わって、最終的に周囲の大気中に放出される[Herbert-Caesari 269, 1936] 。ほとんどのテキストは、共鳴は共鳴空洞内の空気の同期振動によるものだと同意している。ニューヨーク・シンギング・ティーチャーズ協会は、この見解を受け入れている [421, p. 55, 1928] 。また、人体の、骨や軟骨の骨格の共振振動は共鳴システムの1つであるという説明もある[Herbert-Caesari 269, p. xiil, ] 。カリーは喉頭に連結した構造の寄生振動について述べている[Curry 124, p. 49, 1940]、ニーガスは声門下の気管および気管支の容積を声の共鳴器のシステムの一部として含めている[Negus 418, p. 440, 1929 ] 。スタンリーは、気管および気管支、喉頭咽頭、口咽頭、鼻咽頭、鼻腔、副鼻腔、口腔を声の共鳴体として挙げて いる[Stanley 578, 1931] 。

発声と共鳴が最終的な歌声の音色に及ぼす影響については、意見が大きく分かれている。極端な意見としては、ベルジェは共鳴はネガティブな要素であり、喉頭で発生する振動の種類に完全に依存すると主張している。発声振動が正しければ、最終的な音声も正しくなる[Bergere 45, 1934] 。一方、グラーベとマデンは、フォネイションに関しては、誰もがほぼ同じ歌声を持っていると主張している。私たちが声の違いと呼ぶものは、声帯から発せられる音のピッチにわずかに加わる特徴である。これらの違いは喉頭ではなく共鳴器官に由来し、そこで歌声は「その特徴と個性を獲得する」[ Graveure 208, 1931; またMadden 367, 1936] 。

声質の概念は、一般的に、共鳴器の形状の違いや、フォネイション(有声音化)される声音と共振する部分の振動の違いによって生じる声質の差異と共鳴要因が関連していると考えられている[Henderson 243, p. 57, 1938] 。つまり、声質の相違は個々の解剖学的特異性に依存する [Negus 418, p. 289, 1929] 。この点を説明するために、X線実験に関するウイーラーの報告書では、いわゆる自然に美しい声は口蓋弓と咽頭弓が左右対称であるように見えるが、弓が平坦な声は弓がよく発達した声よりも声の美しさが劣ることを示している[Wheeler 656, p. 630, 1930]。

134/135

一般的に使用されている「胸声」と「頭声」という用語について。ドリューは、声は実際には胸や頭から発せられるものではないため、これらの用語は歌手にとって誤解を招くものであると主張している。さらに、頭部の洞は音響的に声を増幅するようにはできておらず、胸の共鳴体は濡れたスポンジで満たされた箱と同等である。このような不利な条件下で大きな共鳴が得られることはほとんど期待できない[Drew 147, p. 126, 1937] 。この発言をしたとき、ドリュー氏は、声を発しているときの身体のさまざまな部位の微細な振動活動をテストした『心理学会誌(Psychological Bulletin)』に掲載された以前の実験について、おそらく知らなかった。最も活発な共鳴器は、その壁の振動量が多い順に、咽頭、下顎、胸部、頭頂部、鼻骨、左右の上顎洞、前頭洞の順にリストアップされた[Lindsley 347, 1933]。

PHYSIOLOGICAL FACTORS 
生理学的要因

頭部共鳴。
頭蓋腔、上顎洞、鼻腔が歌唱において果たす役割については、意見が分かれている。ドサール女史をはじめとする7人は、頭蓋腔と胸腔には、各歌声の声音を強化する明確な場所があることを確信している[Dossert 140, p. 36, 1932]。これは、豊富な指導経験に基づく見解の相違のようである。ウェッテルグレン[Wettergren 654, 1927]とデ・ゴゴルサ[de Gogorza 134, 1942]という2人の著名なプロ歌手も、インタビューで、すべての音はマスク、すなわち目の直下と鼻の奥にある空洞の骨で共鳴させなければならないと述べている。

一方、イーストマン音楽学校のオースティン・ボールは、頭蓋骨の空洞が音質に与える影響は無視できるほど小さいと断言している[Austin-Ball 31, p. 39, 1938 ] 。この後者の見解は、バーソロミューによって支持されている。バーソロミューは、歌手が頭部の共鳴を感じようとすることで、音質が向上することが多いことを認めているが、それは生理学的コントロールというよりも心理学的コントロールであると述べている。言い換えれば、良好な声質を身体的につくり出す上で、頭蓋腔内で実際に音が共鳴することは、重要であるとしてもごくわずかである [Bartholomew 38, 1935 ] 。スタンリーは、歌手が頭の中で音を鳴らそうとすることを一切反対している。この意識的な努力は喉を圧迫するだけで、最終的には声域の上部の音をいくつか排除してしまうだけである[Stanley 578, 1931] 。ウィルコックスは、明らかな矛盾を指摘している。頭蓋腔は質の調整器(regulators)として重要であるが、音の音量には寄与しないため、共鳴器(resonators)とはみなされない可能性があるというのだ [Wilcox 669, p. 7, 1928] 。

上顎洞の機能
上顎洞は6つあり、鼻の穴とつながっており、空気を蓄える頭蓋骨内の比較的小さな骨空洞である。共鳴器としてのその機能については、声楽教師の間で常に論争の的となっている。実験者の報告でさえも相反するものがある。

135/136

ウィーラーは、実験的研究から、声域は前頭洞の空間の長さによって決まると考えている[Wheeler 656, 1930] 。バーソロミューは、上顎洞の共鳴値は事実上ゼロに近いと主張している。上顎洞は半液体で部分的に満たされているため、音を増幅するよりも減衰させたり吸収したりする可能性が高い[Bartholomew 39, 1937] 。ホワイトは、学術的な3巻構成の論文で、一般的に信じられている喉頭ではなく、上顎洞で声音が生成されるという驚くべき論文を構築した。[657, 658, 659, 1938] 。それは長文の合理化で、強く主張された説得力のある内容であるが、その過激な主張を裏付ける実験的証拠が求められている。非技術的な議論において。ヒルは上顎洞を音を構築する部屋であると漠然と表現している [Hill 272, p. 27, 1938]。音声学者のシャッツは、上顎洞はもはや共鳴器とはみなされていないと主張している[Schatz 492, 1938]。発声生理学に関する幅広い著作を持つパッセは、ニーガスとシェーファーの権威を引用し、同じ意見を述べている。[Passe 443, p. 62, 1933; also Negus 418, p. 440, 1929]

鼻腔共鳴。
鼻腔は、その大きさ、形、容積がほぼ固定されている。歌を歌う際の声の生成過程において、鼻腔の壁に強い振動感覚が感じられる。この事実から、多くの歌唱指導者は、鼻は「声の共鳴板」であるという信念を持つようになった。[Scott 502, p. 32, 1933]しかし、歌を「鼻から歌う」のと「鼻腔が響くように感じる」のとでは大きな違いが あります。前者の状態は歌手にとっては極めて不都合です。これは鼻声と呼ばれます。後者の状態は非常に望ましいものです。これは鼻腔共鳴と呼ばれます。ここで区別されているのは生理学的なものであり、音響的なものではありません。鼻から歌うことは、口蓋垂または軟口蓋を緩めることで、口腔の後部と鼻腔の間の通路が開くことによって起こります。一方、鼻腔共鳴は鼻腔の壁や頭蓋骨の骨に音が伝わる効果に過ぎず、鼻中隔が塞がっている場合でも起こりうる [Orton 439, p. 98, 1938; Fory 194, 1934]。

著名なプリマドンナ、ケレリン・ソープボルグはインタビューで、不快な鼻声対策として、持続音を出しながら鼻を摘むテストを勧めている。鼻の穴を交互につまんだり離したりしても音質が変わらなければ、声は正しく共鳴している[611, 1939]。鼻孔から耳までゴムチューブ【?原文は、 a rubber tube from nostril to ear ですが、それがどんなもので、どのように用いるかは不明。 】を使用すると、歌手は軟口蓋がいつリラックスして不快な鼻声が発生するかがわかるようになる[Bartholomew 39, 1937] 。歌の単語を(ning)のような音節で置き換えると、鼻腔共鳴の感覚が生まれます [Novello-Davies 430, p. 189, 1930] 。ダン・ベドゥーは鼻腔共鳴を誘発するために「ハング音」の使用を推奨している [Beddoe 42, 1935] 。 ウォデルは「m」、「n」、および「ng」音の使用を推奨している [Wodell 680, 1928] 。

136/137

エドガートンは、「すべての音は鼻から歌われなければならない」と信じていた[Edgerton 156, 1942] 。ウォーレンは、鼻腔共鳴を意識的に使用することを推奨している。なぜなら、さまざまな声の共鳴を「複合的な芸術的な音調に融合する」役割を果たすからだ[632, 1934]。

ヘンダーソンは、鼻腔共鳴を意識的にコントロールすることには明確に反対しており、鼻腔を最大限に活用する最善の方法は「鼻腔を完全に放置すること」であると助言している[Henderson 243, p. 60, 1938] 。バーソロミューは、不快な鼻声は軟口蓋の弛緩ではなく、ノドの共鳴が弱いまま鼻腔の共鳴が強い場合に生じると示唆している[Bartholomew 39, 1937] 。この記述については、著者の明確化が必要である。さらに、すべての母音を発声する際には、鼻腔に通じる軟口蓋の通り道を開けておくべきであると彼は述べている。なぜなら、これが「声の質」の始まりを意味するからだ[同上37] 。ショーも同様に、軟口蓋が過度に盛り上がっている場合、声の伝達能力は約半分に低下すると主張している[534, p. 156, 1937] 。イタリアの有名な歌の巨匠であるスブリッリアにとって、鼻にかかった音は忌まわしいものでした。そのため、彼は常に声を胸に保つことを提唱することで、この問題を解決した[Huey 290, p. 610, 1935] 。

口およびノドの空洞。
さまざまな声の共鳴体の機能を定義する際、口または口腔は鼻腔と区別され、咽頭または喉頭腔は喉頭および胸腔と区別される。これらのさまざまな空洞の境界線は、声帯を除いては、細かく区切られていないが、声帯は胸腔と喉頭腔の正確な境界線を形成している。これらの空洞に関する最もシンプルな生理学上の概念は、それらが、筋肉や軟骨の突出によって形作られた様々な曲線や輪郭によって断続的に遮られてはいるものの、より連続した通路を形成しているというものである。
このような弁状の突起の例としては、口腔内の舌、鼻腔内の口蓋垂および口蓋帆、そして咽頭または喉頭腔内の喉頭蓋と声帯が挙げられる。声の共鳴体の輪郭は、ホーン型スピーカーの壁に類似しており、喉頭が音声発生ユニットである。声が喉頭から唇へと通過する通路は共鳴腔であり、その大部分は喉と口の形状によって形成されている[Evetts and Worthington 167, p. 35, 1928] 。しかし、ここで類似点は終わりです。広く受け入れられているわけではない説のひとつに、咽頭、鼻、口だけが共鳴腔であり;頭部や身体の骨は、それらを覆う組織によって減衰されるため、共鳴しないというものがあります [同書、p.37] 。

生理学や音響学の専門家でさえ、歌っているときの口腔と咽頭のそれぞれの共鳴機能を決定することは難しいと指摘している[Curry 124, p. 56, 1938] 。スタンリーは、口は重要ではなく、歌の教師の主な目的の1つは、口を機能させないようにすることであり、それによって声のトーンを受動的にすることであると主張している。

137/138

スタンリーによる実験によると、歌う際の顎、唇、頬の動きは、声のトーンや母音の純度にほとんど影響を与えない。したがって、口の共鳴は、適切に発声された声にはほとんど影響を与えることはないない[Stanley 578, 1931] 。ウィルコックス、バーソロミュー、ニーガスは、科学的音声研究の分野を徹底的に調査し、一般的な話として、喉が声音の主要な共鳴体であると報告している [669, p. 7; 39; 418, p.440] 。

胸腔。
胸部の共鳴体としての機能について、著者の観察結果は主に2つの観点に関連している。すなわち、胸部の空気空間のみが共鳴体を構成するのか、あるいは胸部の骨や筋肉の壁が声の共鳴に寄与するのかという点である。エヴェッツとワージントンは、声門によるフォネーションの際に胸腔が閉じられるため、チェストは共鳴器としてまったく機能しないと主張している[167, p. 36, 1928] 。しかし、レッドフィールドの実験によると、管楽器の演奏時に大気中に発生するすべての周波数は、演奏者の口、喉、喉頭、胸腔内に閉じ込められた空気にも同様に発生していることが分かった[Redfield 461, 1934] 。楽器に当てはまることが真実であるならば、声にも当てはまるはずである。楽器を演奏する奏者の唇を支える空気の柱は、発声時に声帯を支える空気の柱と類似している。したがって、音響学的に言えば、胸腔は発声時に声門による振動には閉じられていない。これは、胸郭に聴診器をあてるだけで簡単に確認することができる。フルートを除き、すべての管楽器(声道をふくむ)は、マウスピース側(つまり声帯)に圧力のほぼ一定した波腹が存在し、その結果、楽器内部(声帯の上)と演奏者の唇内部(声帯の下)の両方に同一周波数のパルスが確立されるという意味で、二重開放管である[同上Redfield 461, 1934] 。つまり、音は、それを発生させる呼吸の流れに沿って伝わることも、それに逆らって伝わることもある。後者の場合、声門で発生した発声の音は、胸の声門下の領域に向かって下方に伝わる。したがって、声門下の空気は共鳴体となり、その総体積により、声の基本周波数およびより低い倍音を強めることになる[Curry 124, p. 49, 1940] 。このような音響効果は一般的に「チェスト・レゾナンス(胸部共鳴)」と呼ばれている。

胸部共鳴に関するもう一つの見解、すなわち、喉頭の振動は、胸部の壁を構成する骨格および筋肉構造によって胸部に伝導されるという見解について、現代の文献で言及しているのは、スコット[Scott 501, p. 47, 1933]、エメリ[Hemery 238, p. 61, 1939]、オースティン=ボール[Austin-Ball 31, p. 38, 1938]のみである。3人とも、発声時には特に低音域において、胸郭に振動が確実に伝わる可能性があること、また、発声時には胸部の骨構造が声の共鳴に寄与する同期振動を生み出す可能性があることに同意している。

138/139

共鳴体としての全身。
広義では、体全体が声の共鳴板である[Barbareux-Parry 34, p. 197, 1941] 。声帯で振動が開始されるのは事実だが、これらの振動が身体の骨格全体に広がっているという事実は、そのいずれの部分でも容易に検出できる [Harper 228, p. 41, 1940] 。
優れた歌唱では、全身が調和し、声音の共鳴板として機能する [Gould 206, p. 37, 1942] 。ブラウンは次のように表現している。「歌手の音色と身体の質感は、目に見えない全体であり、絶えず、首尾一貫して協力し、機能している」[Brown 70, 1933]。マラフィオティ博士は、著書『カルーソーの発声の秘密』で、声の共鳴について次のようにまとめている、すなわち、体全体がひとつの複雑な声の共鳴体であり、声帯を発生源としてあらゆる方向に広がる振動を受け止め、増幅する。喉のつまりが存在すると、声の振動が身体の共鳴体のすべての部分に放射されるのを妨げる[Marafioti 368, p. 102, 1933] 。個々の歌手の共鳴体の違いは、骨格、空洞、組織などの人体の構造的な違いによるものである[同書、p. 107] 。

もちろん、これが事実であれば、声の質や楽器としての声の共鳴は、全身の筋緊張に依存することになる。したがって、全身を楽器として機能するように訓練しなければならない[Gametti-Forbes 198, p. 81, 1936] 。身体全体の筋肉の調子や緊張は、声の共鳴に影響を与えるものであり、弱々しく、活力のない筋肉は、部分的に緊張(トーヌス)状態にある筋肉や、健康な身体に特徴的な平衡状態にあるものと比較すると、音波に反応して振動しにくい[同上、p. 64] 。コンサートやオペラ歌手のジェシカ・ドラゴネットは、共鳴体に関する自身の意見を次のようにまとめている。「私は、歌う身体をひとつの大きな喉頭として考えたい。喉は音を発するが、歌っているのは身体全体なのです!」[Jessica Dragonette 146, 1940] 。

Methods of Controlling Vocal Resonance
声の共鳴体のコントロール方法

PSYCHOLOGICAL APPROACH 
心理学的アプローチ

表現意図が共鳴をコントロールする。
身体のあらゆる器官の正しい機能とは、生命における自然な、適切な、または特徴的な作用または使用である(W)。マッケンジーが主張するように、発声器官の機能が人生の思考や感情を表現することであるならば、明らかに声の表現的な正しい使い方が、その質や共鳴を決定し維持する最大の要因となるだろう[Mackenzie 364, p. 23, 1928] 。 効率的な発声には、伝達力だけでなく感情的な価値も必要となる。

139/140

実際、音調の美しさ、伝達力、感情的特性は、すべてひとつの声の衝動または表現欲求の副産物である[Haywood 233, 1928]。声質の支配者は、歌手の心と想像力である[Lewis 343, p. 3]。あるいは、ブラウンが言うように、感情が声質を左右する[78, p. 98, 1931]。 オズリーとフェルドマンも同様に、声質は心身のコンディションに左右されると考えている。声色のバリエーションは「歌手の感情の複雑さに直接比例する」[Owsley 441, p. 62, 1937; Felderman 175, 1933]。

共鳴体を直接コントロールすることは可能だろうか?
このトピックについて述べられた13の意見のうち、8つは、表情意図を通じて声に間接的または心理的なコントロールを施すことの重要性を強く強調するものである。残りの5つは、共鳴要因の直接的なコントロールを支持して いる。フランク・フィリップは、息の流れの方向と声の共鳴体の使い方は、確かに歌手の意志の実際の制御下にあると述べている[Frank Philip 446, p. 27, 1930]。したがって、発声時に最適な共鳴条件を作り出す喉、舌、頬、唇の位置を生徒に指導することは、歌唱指導者の仕事の一部である[Passe 443, p. 63, 1933]。ショーは、声の共鳴が良好な結果となるのは、声門、口、唇を正しく随意的に調整した結果であると考えている[Shaw 518, p. 184, 1930]。言い換えれば、声のプレイスメントとは、学生歌手を訓練し、声域内の各音に対して、自発的に上気道を形作り、可能な限り最良の共鳴条件を作り出せるようにすることである[Redfield 462, p. 268, 1935]。アーティストであり歌手であるグレタ・シュトゥックゴールドは、音を頭に意識的に送り込むことで、ある種の共鳴コントロールが可能に なる、と考えている[Stueckgold 594, 1935]。

声の共鳴の直接コントロールに反対する人々は、声の生成が十分に自由である場合、音色は、それが適切に増幅されるのに利用可能なすべての共鳴腔を、それが胸腔であろうと頭蓋腔であろうと、自動的に見つけ出すと信じている[Doubleday, (Fauldsは,172) 141, 1931]。「声の質とは、まず最初に頭に浮かぶイメージ、心象として存在する」とクリッピンガーは言う[Clippinger 112, 1931]。通常の人の発声器官では、無意識のうちに適切な声の共鳴を引き起こす反射作用の一種が起こる[Conklin 121, p. 20, 1936]。もちろん、共鳴は声の生成において常に重要な要素であるが、歌手は、それがいかに重要であっても、それは常に不随意筋の調整による産物であることを覚えておくべきである[Wilcox 669, p. 6, 1935]。したがって、共鳴は直接的な筋肉のコントロールによって改善することはできない。エベッツとワージントンによると、歌声を撮影したラジオグラムがこの事実を証明しているという。[Evetts and Worthington 167, p. 45, 1928]。共鳴は、筋肉の干渉が取り除かれると、常に自然に発生する[Douty 144, 1933]。ジャッドは、良い共鳴は正しい声のアタックと明瞭なディクションの産物であると考えている。したがって、この2つの訓練のチャンネルを通じて間接的に教える必要がある[Judd 309, p. 11, 1931]。「偉大な歌手は、意識的なコントロールではなく、心理的に声を色づけする。」[Stanley and Maxfield 580, p. 125, 1933]。

140/141

TECHNICAL APPROACH
テクニカル・アプローチ

ガイドとしての音質。
声質とは、同じ音高、音量、持続時間を持つ別の音と区別できる音の特性である。声質は、主に発声時の共鳴体によって決定される音の特徴である(W)。

16の意見は、歌手に「声の質や美しさの主観的な聴覚認識」を養うことの重要性を認めている。[Wharton 655, p. 75, 1937]。声の評価においては、ピッチよりも音質の方が重要である [Samoiloff 484, p. 5, 1942 ]。それは強弱や音量よりも重要であり[De Bruyn 132, 1940]、美しい歌声のトーンを最大限に保つためには、正しい発音を犠牲にしなければならないこともある[Kortkamp 322, 1940]。イタリアの古い格言に次のようなものがある「質を求めよ、そうすれば量は後からついてくる(cerca la qualita, la quantita verra )」(Orton 439, p. 120, 1938)。言い換えれば、大きな声が必ずしも良い声とは限らない[Austin 28, 1939] 、また、柔らかくて澄んだ純粋な音質は、ダイナミクス、柔軟性、明瞭な発音の基礎となる[Glenn 204, 1928]。フォーリーは、W. J. ヘンダーソンの「もし歌手が丸く、まろやかで美しい音色を出すことに全神経を集中させれば、発声にこれ以上の困難は生じないだろう」という意見に同意している。[Fory 189, 1935]

歌手が練習のウォーミングアップとしてまずすべきことは、自分の楽器の音質を確かめることである[Kerstin Thorborg 612, 1939]。実際、声の正しい「プレイシング」とは、主に、最高の音質を確保するための共鳴体を調整する技術を習得することである[Bartholomew 36, 1934]。あらゆる声の特性を決定するには、まず、自然な、あるいは自発的で訓練されていない発声がどのようなものかを認識する必要が ある。これにより、声の分類や評価を行うための真の音質や音色が明らかになるだろう[Witherspoon 675, 1929] 。

声のフォーカスを獲得する
音声をフォーカスするとは、声を発している際に振動や共鳴の活動が集中する身体の限定的または局所的な領域に、注意を集中的に向けることである(W)。クォルタンによると、音色生成の主な要因は、前方への焦点の感覚をコントロールすることである[Kwartin 325, p. 41, 1941]。これは、喉頭および咽頭の干渉を除去する手段として不可欠である[Savage 490, p. 90, 1931]。ドッズとリックリーは、ベルカント唱法の「息に乗せて歌う(singing on the breath)」という用語は、息を吐き出す方向に音を前方に集中させるための教具であり、それによって喉と喉頭領域が意識的な筋肉の努力やその結果生じる収縮から完全に解放されると主張している[Dodds and Lickley 139, p. 53, 1935]。

141/142

上向きと前向きに焦点を当てるという考え方を技術的に応用する方法は、教師によって異なる。しかし、この原則の解釈については、すべての教師が同意しているわけではない[Bartholomew 39, 1937]。以下に挙げる典型的な教育上の概念は、歌う際に声のフォーカスを自主的にコントロールすることを推奨する人々の主張を裏付けるものである。

1. 口を開けるのと閉じるとのを交互に繰り返すことで、声を頭頂部の最も高い位置にフォーカスさせることができる。 [James 300, p. 39, 1931]
2. 音は頬骨に囲まれた空洞に向かって発せられ、そこで自由に振動するようにすべきである。 [Mme. Schoen-Rend 493, 1941]
3. 声音は、ngが置かれている場所から始まるようだ。 [Brown 78, p. 56, 1931]
4. 声はマスクの前部から出るため、逆向きや下向きに歌ってはいけない。 [Altglass and Kempf 8, 1934]
5. 音は常に額と鼻の交差する場所に集中する。この振動感覚と頭部の共鳴体の感覚は、あらゆる歌い方において不可欠である。[Samoiloff 484, p. 27, 1942]
6. 言葉であれ、歌であれ、叫び声であれ、すべての正しい音は鼻梁の裏側で形作られる。 [Lloyd 351, p. 14, 1929]
7. 前方への声の出し方は、歌手にとっての主たる目的のひとつである。単に、口の前歯の裏側に、音を勢いよく導くのだ。 [Scott 501, p. 65, 1933]
8. 硬口蓋の前方に音を出すことを意識すると、自動的に口が共鳴しやすい正しい位置に置かれる。 [Henderson, W. J. 243, p. 61, 1938]
9. ピッチが上昇すると、声の焦点が徐々に硬口蓋に沿って後ろに移動する。 [Kwartin 325, p. 43, 1941]
10.歌声と、言葉を伝える媒体としての声の親密な関係は、喉頭と口の間に密接な関係を築き、声は口の中で作られなければならないという定説を生み出した。[Marafioti 368, p. 72, 1933 ]
11. 音は口の正面に向けるべきである。 [Jacques 299, p. 36, 1934]
12. 練習時間の最初の部分は、マスクの音の置き換えに集中して取り組む。 [Vivian della Chiesa 135, 1942]
13. 鼻の奥と目の下に強い振動を感じる。この前方への輪郭が、声音に確固とした個性を与える。[Jessica Bragonette 146, 1940]

142/143

このグループに反対する人々は、声をどこか1つの場所に集中させようとすると、声の柔軟性と色合いが制限されてしまうと信じている。音色は気分によって変化し、適切な表現では、声はいつでもどこへでも自由に行き来できなければならない[Witherspoon 677, p. 24, 1930; also Douty 144, 1933]。 アーバインは、声を意識的に方向付けることは干渉であると主張している。明確な声のフォーカスを維持するには、ある種の緊張を伴う。そのため、誤った緊張が生まれ、それが音の人工性を露呈させるのである[Irvine 295, 1942]。スコールズは、音の流れを解剖学上のどの部分にも向けることは不可能だと考えている[Scholes 496, 1935]。つまり、音波は特定の音源からあらゆる方向に同時に伝わる。したがって、精神力や肉体的な努力によって音を集中させようとする試みは不自然で無駄である[Ten Haff 603, 1931]。音は物質的なものではないので、配置したり置いたりすることはできない。何の妨害もない場合、音は自動的にすべての開いている空間に流れていく[Booker 56, 1939]。「発声教師として、硬口蓋や歯の共鳴板作用は起こり得ず、音自体を口や頭のどこかに向けたり、投影したり、焦点を当てたりすることはできないということを理解するために、音響学の要素について十分に知っておくべきである」[Bartholomew 39, 1937]。したがって、故意にどこにも声を置こうとしない。ノドの堅さは、ほとんど不変の結果[Gregory 211]である。したがって、意図的に声をどこに置こうとしてはいけない。

ハミングの価値
ハミングとは、口を閉じたまま発声する歌い方、つまり、口を開かずに、mの音を長く伸ばすような、あるいはmの音を連想させるような音を発すること、と定義できるかもしれない(W)。多くの教師は、声のハミング音を声のプレイスメントと共鳴体の開発のガイドとして活用しているが、ここでもまた意見は分かれて いる。ランペルティのお気に入りの格言は、現代の声楽のテキストにも数多く引用されている: 「まず口を閉じて歌うことができなければ、口を開けて歌うことはできない。[MacBurney 361] 。このスローガンは、同じ出典によるものとされる次の言葉によって無効化されている:「正しい歌を歌えるようになるまでは、正しいハミングはできない」[Brown, W. E. 78, p. 104, 1931] 。カインによると、ハミングには声音の質を向上させるような音質はなく、発声練習としては避けるべきであるという [Cain 90, p. 88, 1942] 。コンクリンは、ハミングはヴォイストレーニングにおいて、声の方向性を定めるための焦点合わせの手段として以外にはほとんど価値がないと考えている[Conklin 121, p. 70, 1936]。

「ハミングについて、アクトンは初期の優れた練習法のひとつであると主張しているが [Acton 3]、ブラウンは「ハミングするな!歌えるようになるまではハミングするな」と率直に叫んでいる [Brown 78, p. 104, 1931]。

143/144

スティーブンスとマイルズは、歌唱における発声アタックとピッチ精度の関係に関する実験的研究において、ハミングそれ自体は、開口歌唱よりも発声アタックの様式としての確実性が低いと報告している[583]。ジェームズは、唇を使う子音は声音や息のコントロールに使うべきではないという意見を持っている[300, p.39]。mは常に最も豊かな共鳴を生み出す。これはすべての声音の基礎であり、私たちのすべての母音は、この子音の変形にすぎない[Scott 501, p. 21 and p. 8, 1933] 。一部の歌唱指導者は、ハミングの際に n の音を好む。なぜなら、音が常に正しい位置に置かれるからだ [Lloyd 351, p. 3, 1929]。他の人々は、mとnを推奨している。なぜなら、それらは歌声の自然な共鳴音質に非常に近いからだ[Skiles 564, 1936]。

ショーとエフナーは、ハミングが基本的な声音を促進することに同意している[Shaw 518, p. 184, 1930 and Efnor 159, lesson 4, 1942]。基本的な声音とは、基本的な共鳴体を意味するものと思われるが、この点は言及された文章では明確になっていない。他の文献では、ハミングの練習は、いわゆる声の前方プレイスメントの発達に役立つと主張している [Stock 589, 1930] 。また、ハミングはプレイスメントに最高の感覚をもたらすとも主張している [Hok 278, p. 29, 1941]。ハミングは、自由とリラックスをもたらし、喉のつまりを防ぐため、有益である。声道全体が十分にリラックスしていないと、うまくハミングできない [Grace 207, p. 9, 1938] 。連続音をハミングしながら完全にリラックスしていれば、口を大きく開くまでゆっくりと顎を落とすことが可能であり、ハミング中に発生した共鳴の音質を一切損なうことなく行うことができるはずである。これは、正しいハミングと正しい共鳴のテストとして用いられる[Hill 272, p. 27, 1938]。したがって、声楽を学ぶ学生はハミングをできるだけ頻繁に練習することが勧められている[Philip 446, p. 38, 1930]。モーウは、正しいハミングは最も価値のあるエクササイズであり、正しい音程を導くものだと主張している[Mowe 405, p. 12, 1932]。フォーリーは「かけがえのない教育装置」であると評価している[Fory 188, 1934] 。有名なソプラノ歌手リリー・ポンスは、唇を閉じた状態で多くの音階やヴォカリーズを歌うと述べている。「この練習は私にとって非常に助けになります。」[Lily Pons 450, 1931] 。

SUMMARY AND INTERPRETATION 
概要と解釈

THEORETICAL CONSIDERATIONS 
理論的考察

共鳴に関するさまざまな説明から、フォネーション(発声)と共鳴のプロセスは因果関係にあることが明らかである。この2つの間の境界線は明確に引かれているわけではない。したがって、純粋にフォネティックな教授法と、共鳴のみに関する教授法を区別することは難しい。声を生成する際に共鳴要因を完全に消し去ることに成功した者はまだ誰もいない。そのため、歌唱行為におけるフォネーションと共鳴のそれぞれの重要性を決定することはできない。

144/145

合計262の共鳴概念が研究された。これらは表4に分類されている。74人の著者が生理学的要因について言及している。言及されている身体の部位は、頭蓋腔、上顎洞、鼻腔、口腔と喉腔(mouth and thoroat cavities)、胸腔である。16人は、身体全体を単一の複雑な共鳴体として言及している。喉頭は、この共鳴体のリストには含まれていない。これは、喉頭が発声器官としてのみ考慮されるべきであることを示している。この見解は、現在でも歌を歌う職業の人々に広く支持されている。

19世紀後半、著名な声楽教師であり、医師および音声専門医でもあったジョン・ハワードは、喉頭はそれ自体が複雑な共鳴体または共振鳴器(consonator)であるという理論を提唱した。その機能は、音を発生させる(フォネイション)だけでなく、喉頭に直接取り付けられているすべての外側の筋肉や軟骨に声の振動を拡散させることである。発声の振動領域は、隣接するすべての部分の同期振動によって拡大し、それによって声音が強調され、共鳴する。ハワードの著書【Monahan  p. 259 参照】は現在では絶版となっており、声楽の専門家にもほとんど知られていないが、彼の理論はさらなる調査を呼び起こす。

声道を個別の機能単位に分けることで、歌唱の教師にも生徒にも何かが得られるのかどうかは疑問である。医師は局所治療の目的でこれらの解剖学的構造に特別な関心を持つかもしれないが、歌唱の教師にとっては、発声には呼吸器官、姿勢制御器官、発声器官の同時調整が関わっている。この複雑な筋肉組織のどの部分の機能制御も、音や感覚を通じて局在化することは難しいだろう。したがって、私たちは、発声と共鳴を切り離して考えることは不可能であるという結論に達する。発声と共鳴は、どちらも他方なしにはそのように機能することができないため、発声と共鳴は、発声という単一の機能の相互的な共存物である。

METHODOLOGICAL CONSIDERATION
方法論的考察

共鳴体を育成するためのあらゆるテクニックは、声の生成における音質基準を確立するという目的に役立つように思われる。音質、音響特性、美的効果、技術的規律について、より正確な説明があれば、歌唱を学ぶ学生にとって標準的な価値を持つ適切な指導方法が考案できるだろう。

任意の声音は、実際には倍音または部分音の組み合わせで構成されていることを覚えておく必要がある。このような部分音の相対的な音高と強弱の要素が、耳が受け取る音質の主観的な印象全体に寄与する。したがって、歌唱を教える際には、まず、ピッチや音量とは関係なく、共鳴の価値や声音の音質を認識できるように耳を訓練する必要がある。

145/146

もちろん、音質に関するこうした印象は、正確な測定方法や用語が開発され、研究のために客観化および標準化されるまでは、純粋に主観的または審美的なものであり続けるしかないだろう。

調査対象の歌唱テキストでは経験則が優勢であり、意見や論争によって覆い隠された方法論が導き出されている。収集された基本概念の多くは、成功を収めた歌手たちによって支持されている。しかし、それらには実験的な調査による検証が必要である。上顎洞の機能、鼻腔共鳴の重要性、開いた喉の理論、共鳴体として機能する全身、声のフォーカスの使用と価値、教育手段としてのハミング、そして声楽トレーニングのすべての要素の随意的なコントロールは、さらなる調査の余地がある論争の的となっているテーマである。

結論として、声の生成における重要な要素として共鳴に重点が置かれていることから、この現象について、なぜより客観的なデータが存在しないのかという疑問が生じる。共鳴という用語自体が疑わしい。なぜなら、発声器官の動作を説明する際、科学的正確さに欠ける点を覆い隠すために、この用語が頻繁に使用されているからだ[Drew 147, p. 125, 1937]。これまでの議論から、共鳴体の理論に関する断片的な情報はいくつか入手可能であると結論づけることができる。しかし、この分野では決定的な実験はほとんど行われておらず、教育的な情報のほとんどは経験的な観察または純粋な憶測に基づいている。このテーマにおけるギャップを埋めることはまだ不可能だが、声楽教師が歌手の共鳴力を向上させ、育成するために用いる方法についてさらに客観的に分析することで、声楽理論家の主張の一部を裏付ける、あるいは反証できるかもしれない。バーソロミューは、録音を通じて歌手の歌声の音質を決定する要因を徹底的に研究した。彼は、良い歌声と悪い歌声の音波記録を慎重に分析し、さまざまな音質を生み出す生理学的構造の違いを逆算する可能性について、ある程度楽観的である。「幸いにも」と彼は言う。「典型的な良い音質について語るのに十分なほど、良い歌声の音質を構成する要素について音楽家の間では意見が一致している。」 [Bartholomew 38, 1935]。もし実験的にそのような推測が可能であれば、この発声指導の分野を明確化し標準化できる可能性がある。

 

2025/03/14 訳:山本隆則