46
III
BREATHING
呼吸が芸術的な歌唱と関連している場合、それは複雑な問題となる可能性がある。「通常の呼吸は、純粋かつ単純に、血液を浄化するという生理学的機能のために行われる。」[Curtis, 1914, p.54]が、「肺に取り込まれた空気は、血液に酸素を供給するだけでなく、音の伝播の媒体としても機能する。」[Thorp and Nicholl, 1896, p.23]。歌唱時の呼吸に関する記述は、全部で538件が収集された。
THEORIES: THE IMPORTANCE AND NATURE OF BREATHING
理論:呼吸の重要性と自然
Breathing is a Primary Consideration
呼吸は第一に考慮すべきことである
呼吸と呼吸管理の重要性ほど、声楽教育学において広く同意を得ている概念はない。160の出典のうち84がこの概念について論じている。「生命は呼吸に依存している。歌は技術的な呼吸に依存している。」[Bach, 1894, p.120]。テトラッツィーニは、パッキアロッティのオールド・ベルカントの格言を想起させる著者の一人である。「正しく呼吸する者は正しく歌う、と言われている。そして、その主張を支持しない権威者は一人もいない。イタリアの昔の巨匠たちは、確かに歌の芸術は呼吸の芸術であるとよく言っていました。」[Tetrazzini, How to sing 1923, p.47]この格言を引用している人物には、F.ランペルティ[1883年、序文]、ホワイト[1918年、11ページ]、テイラー[1914年、19ページ]などがおり、また、クレシェンティーニの格言も紹介している。「歌とは、首の自由と息の上の声からなるものである。」もう一つのよく知られた概念は、呼吸は3つの部分からなるシステムの原動力であり、喉頭は振動器として、首と頭の空洞は共鳴器として機能するというものである[Thorp and Nicholl, 1896, p.23; Mackenzie, 1891, p.26]。
呼吸という概念を第一に考慮することが非常に重要であるため、数多くの声明が盛り込まれているが、その考え方は多くの場合同じである。
表3 呼吸の概念のまとめ
I. 呼吸の理論
A. 呼吸の重要性と本質
1. 呼吸、第一の考慮すべき問題・・・・・・ 84
2.発声前トレーニングの奨励・・・・・・ 35
B. 生理学的な要因
1. 肋骨と横隔膜の活動・・・・・・ 50
2. その他の連携要因 ・・・・・・ 9
II. 呼吸コントロールの養成方法
A. 心理的なアプローチ
1. 自然呼吸の奨励・・・・・・ 23
2.歌うことが呼吸作用を鍛える・・・・・・ 3
3.解釈による制御(interpretational controls)
a)正しいフレージングによって・・・・・・ 23
b)音楽との同期によって・・・・・・ 3
c)呼吸を改善するための他の工夫・・・・・・ 12
B. 技術的なアプローチ
1.姿勢のコントロール
a)身体的な修練を通して・・・・・・ 30
b)正しい胸の位置を維持することを通して・・・・・・ 66
2.勧められる呼吸器官の意図的なコントロール・・・・・・ 26
3.横隔膜コントロール
a)横隔膜コントロールは必須である・・・・・・ 9
b)横隔膜コントロールは必須でない・・・・・・ 3
4.開口部のコントロール
a)勧められる口を通しての呼吸・・・・・・ 11
b)勧められる鼻を通しての呼吸・・・・・・ 20
c)勧められる口と鼻を通しての呼吸・・・・・・ 6
5.量的要因
a)呼吸節約・・・・・・ 36
b)呼吸圧力と支え・・・・・・ 34
c) 息継ぎ、回数、スピード・・・・・・ 41
d)サイレント、観察されない呼吸・・・・・・ 14
TOTAL STATEMENT 合計 538
歌手は、次の2つの技を自分のものとし、自然にできるようにしなければならない。1)一瞬のうちに肺を息で満たすこと、2)控えめに、しかし声の全力を尽くして、再び息を送り出すことである。[Hiller, 1780, p.14]。
もし生徒がまだ息を豊かに使うことを理解し、習得していない場合、そのような音色(美しい音色)で成功することはほとんどないだろう。[D’Aubigny, 1803, p.74]
歌手にとって、長く、楽な呼吸は最も重要な資質のひとつである。[Lablache, 184-, p.4]。
呼吸は、音を正しく出すための真のメソッドの不可欠な要素である。実際、それは…問題の根本であると言えるかもしれない。[Ffrangcon-Davies, 1904, p.106]。
呼吸は歌である…呼吸を正しくコントロールできなければ、最良の歌声や話し声のトーンを作り出すことはできない。なぜなら、トーンは声に出された息にほかならないからだ。[Fillebrown, 1911, p.23]。
おそらく、歌声の妙技において最も重要な要素は呼吸である。他のすべての場合と同様に、完璧な楽さと自然さを維持することが求められる。[Galli-Curci in Brower, 1920, p.58]。
歌の美しさを保つには、喉の自然な開きを維持するために呼吸を完全にコントロールする必要がある。このコントロールが維持されている限り、声帯はコントロールされた呼吸の圧力に自動的に調和し、舌の上部と後部の空気の共鳴振動を引き起こし、声に音調を加える。[Shakespeare, 1924, p.3]。
Pre-Vocal Training in Breathing
発声前の呼吸トレーニング
19世紀後半から20世紀の最初の20年間は、プレ・ヴォーカル・トレーニング、すなわち発声練習の前に呼吸筋を鍛えるトレーニングが非常に流行した時期であった。この概念について最初に論じたのはラブラッシュであり、彼は「歌を歌わなくても、生徒に長時間息を止める練習をさせる。」と書いている[184-, p.5]。
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「最初の声の運動のすべては、まず音なしで学ばなければならない。」[Myer, 1886, p.16] 。「発声を伴わない呼吸法は、呼吸筋を強化し、肺を発達させる上で、障害となることはなく、多くの場合、間違いなく有益な結果をもたらすだろう。」[Shaw, 1914, p. 99]。過去の研究から、実際の訓練方法の一部が紹介されている:
呼吸の事前練習
以下の方法により、生徒は横隔膜のコントロールと安定性を習得する:
第1段階 — 胸いっぱいに空気を吸い込み、数秒間その状態を維持する。この際、口は閉じ、空気の通り道を極めて狭い開口部だけにしておく。
第2段階—ゆっくりと静かに息を吐き出す。
第3段階—再び肺を満たし、できるだけ長く肺を膨らませた状態を維持する。
第4番 — 完全に息を吐き、体力的に可能な限り胸を空っぽにする [Bassini, 1865, p. 5, 著者はGarciaの著書『Ecole de Chant』の言い換えであることを認めている]。
呼吸体操の予備動作は、肩を後ろに引き、背骨を腹部の奥の部分で強く前方に反らせることで、胸を前方に、そして上に押し出すことであるべきである。同時に、腕は胸の横に垂れ下がらないようにすべきである[Holmes, 1879, p. 166]。
ウエストの自由を妨げる衣類はすべて身に着けない。仰向けに横になる。片手を腹部に、もう片方の手を下部の肋骨に軽く置く。鼻からゆっくりと深く、均一に、中断することなく、また急激に動かさずに息を吸う。これが正しく行われれば、腹部は徐々に、震えることなく大きくなり、下部の肋骨は横に広がり、胸の上部と鎖骨はそのままの状態を保つ。次に、声門を閉じることなく、みぞおちを下に保ち、胸郭を広げた状態で息を止め、1分間に60の速さで4つ数える。そして、息を急に吐き出す。よく理解してほしい。吸気はゆっくりと深く、呼気は急激に完全に吐き出すことだ。吸気では腹部と胸部の下部が膨らみ、呼気ではそれらが収縮する[Behnke, 189-, p. 106]。
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横隔膜呼吸の練習は、…椅子に座って、両手を椅子の背もたれの後ろでできるだけ高い位置で組んだ姿勢で行うことができる。[Bach, 1898, p. 34]。
1.前足よりに重心を置き、肘を曲げた状態で、手のひらを上向きにして親指を後ろにしながら腕を外側と前方に伸ばし、背筋の存在を意識する。
2. 胸骨の下の柔らかい場所と肩甲骨の下で感じられるまで、口から音を立てずに素早く呼吸するか、息を吸ったり吐いたりして小刻みに震える。これにより、肩や胸では感じられない深い呼吸ができる。
3. 心の中で「AH」と長く発音しながら、10~15秒間、何かを温めるように息を吐き出す。そして最後に、コントロールを失うことなく、喉を開いた状態で、呼吸筋で呼吸を止める。[Shakespeare, 1899, p.16]。
1903年、ハルバートは、姿勢、呼吸、呼吸コントロール、息の放出を鍛えるための多くのエクササイズとともに、呼吸の基本ルールを提示している。彼は写真も掲載している。[Hulbert, pp.11-16]。
クリッピンガーは、横隔膜の運動がそれぞれの再調音のきっかけとなる、独立した音調の練習である拍動ドリルを提案している。これにより、歌手は横隔膜と呼吸および音の関係についてより明確な概念を得ることができる[Clippinger 1910, p.8]。
前傾姿勢をとると、息を吸う際に必要となる動きの一部が不要となり、代わりに背骨がその役割を担うようになる。これは、背筋をまっすぐ伸ばしたり、厳格に直立した状態で、胸を張って呼吸をすると簡単に試すことができる。身体に掛かる負担は、身体がわずかに前傾している状態よりもはるかに大きいことが分かるだろう。歌手が徐々にその前傾姿勢を取り、再び肺を空気で満たすようにすると、そうすることでより少ない時間と負担で済むことが分かるだろう。[Miller, 1910, p.42]。
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フィルブラウンは、「急激な放出を伴うゆっくりとした吸入」、「ゆっくりとした排出を伴う急速な吸気」や「ファリネッリの素晴らしい練習」など、8つの練習を提示している。[上記のバッシーニと比較]:
できるだけ狭い口唇の開きから、ゆっくりと安定した息を少しずつ吸う。数秒間息を止め、それからできるだけ狭い口唇の開きから、ゆっくりと安定した息を吐き出す[1911, p.34-37]。
フィルブラウンは、この演習は初心者向けではないと警告している。パリゾッティは、読者に胸を広げるためのエクササイズとして、背中で肩を下げて引き寄せることを教えている[1911, p.14]。一方、マイヤーの基本的なエクササイズは、息を吸いながら左右に腕を上げ、手のひらを上に向けるというものである[1913, pp. 6-7]。
1915年には、発声前の呼吸練習に反対する最初の声明が見られる。マッキーは、「外因性筋肉と内因性筋肉の作用の関連性をなくすことに時間を費やす方が有益である」と記している[p, 105]。プロショウスキーは、「まれなケースではあるが、生徒に呼吸体操を教えるのが賢明な場合もある。しかし、それは健康全般に役立つという理由であり、歌うことへの直接的な利用ではない」[1923, p. 33]と考えている。
THEORIES:PHYSIOLOGICAL FACTORS
理論:生理学的要因
肋骨、横隔膜と結合された筋肉の活動
ランは、ガルシアが1847年版の「Respiration(呼吸)」の章で次のように書いていると引用している。「自由に吸気を得るためには、頭をまっすぐにして、肩をこわばらせずに後ろにそらし、胸を開く。ゆっくりと規則正しい動きで胸を上げて(raise)、お腹をへこませる(draw in)。この2つの動きを始めた瞬間から、肺は空気が満たされるまで拡張していく」[ラン、1888年、p.23]。この記述は、19世紀中頃以前の書籍で用いられていた単純な姿勢や胸の位置に関する教えと、レノックス・ブラウン著『Medical Hints on the Production and Management of the Singing Voice(発声と声の管理に関する医学的ヒント)』(1875年頃)などの1870年代に始まった呼吸生理学の複雑な議論の間の中間点に位置するものである。ほとんどの資料が説明している呼吸法の種類は、大きく分けて3つに分類される。横隔膜呼吸、腹式【胸式?】呼吸、鎖骨呼吸である。純粋な腹式呼吸の実践者はほとんどいない。複数の情報源では、横隔膜呼吸と腹式呼吸(または肋間呼吸)のテクニックを組み合わせることを推奨している。【モナハンは、横隔膜呼吸と腹式呼吸を別のものと捉えているが、ここでの腹式呼吸は胸式呼吸の間違いではないか?】
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横隔膜呼吸。1883年、F.ランペルティは読者に対して横隔膜のコントロールの使用を推奨している[p.10]。バッハは次のように書いている:
横隔膜は胸腔と腹腔を隔てる仕切りの筋肉であり、呼吸において重要な役割を果たしている。そして、歌うことにおいては最も重要な部分であると言っても過言ではない。通常、私たちは話すときに胸の上部で呼吸する。しかし、歌うときは肺の下部でも呼吸し、横隔膜で空気を保持しなければならない。単純そうに見えるが、初心者が正しく行うのは非常に難しい[1889, p.23]。
また、ヘンダーソンは横隔膜の役割について説明し、「息を吸い込むと横隔膜が収縮し、同時に腹腔を下方に押し下げる。これにより腹部が自然に膨らむが、腹部が無理やり押し出されるわけではない」[1906, p.28]と付け加えている。フレングソン・デイヴィスは、横隔膜呼吸の感覚を「腰の周り全体が膨らむ」と表現している[1904, pp. 87-91]。サルヴァトーレ・マルケージとリーリ・レーマンも横隔膜呼吸を推奨しており、レーマンは、正しい動作は横隔膜を収縮させた後にリラックスさせることだと述べている[1906, p.14]。
横隔膜呼吸と肋間呼吸。1883年、メイヤーは「横隔膜呼吸が唯一正しい歌の呼吸法である」と書いている[p.26]。1891年の著作では、彼は意見を変え、横隔膜呼吸と肋間呼吸を組み合わせたものを擁護している[p.23]。この方法は、少なくともブラウン著『Medical Hints(医学のヒント)』(1885年頃)にまで遡る。ブラウンは次のように書いている:
吸気は、腹筋の動きと横隔膜の下降によって始まるべきである;言い換えれば、腹部と胸部の壁を前方に押し出すことによってである。横隔膜の下降に伴い肺が膨らむと、息を吸う時間が長くなり、横に広がるようになる。肋骨は均等に広がるが、肩甲骨と鎖骨は固定されたままである。呼吸がさらに長引くと、鎖骨呼吸になる[1887, p.15]。
シェイクスピアは、横隔膜・肋間呼吸の擁護において、肋骨、横隔膜、呼吸筋の作用について非常に詳細な生理学的見解を示している[1899, pp.9-17]。フチートは、この横隔膜・肋間呼吸は、イタリアの古い名歌手たちとカルーゾが用いていた方法であると説明している[1922, p.115]。カーティスは、腹筋を追加で使用する理由を次のように述べている:
通常の呼吸では、収縮する横隔膜の筋肉が腹部の壁全体を押し広げる圧力を生み出すが、胸部を大きく広げるためにあらゆる技術を駆使する歌手は、より良い呼気コントロールを維持するために、深い呼吸をする際に下腹部の壁を内側に引き込む[1914, p.56]。
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鎖骨呼吸に反対する人々。鎖骨呼吸に関する最も肯定的な意見は、完全な呼吸には鎖骨呼吸、肋間呼吸、横隔膜呼吸が含まれるというものである[Kofler, 1897, p.40]。 コーフラーでさえ、「呼吸法のすべての中で、鎖骨呼吸またはハイ・ブレスは、最も大きな努力を要するにもかかわらず、供給される空気は最小限である」と認めている[1897, pp. 35-36]。 ほとんどの著者は、鎖骨呼吸のテクニックに強く反対している:
鎖骨呼吸は、完全に有害な呼吸法であり、避けるべきである。それによって胸全体が平坦化され、内側に引き込まれるため、肺の下方または大きい部分が広がらない[Browne, 1887, p.15]。
鎖骨呼吸では、舌は通常引っ込められ、喉頭は押し下げられる。その結果、喉の空洞が減少する(この空洞は本来、声の共鳴板として機能すべきものである)…鎖骨を上げる呼吸法は極めて疲労を伴うものであり、横隔膜呼吸には見られない障害を克服しなければならない[Bach, 1898, p.46]。
ブラウンとベーンケは、正しい呼吸の見た目を強調することが重要だと考えている。「正しい呼吸の基準は、腹部と胸部の下部のサイズが大きくなることである。腹部を引っ込めて胸部の上部を持ち上げる人は、呼吸が間違っている」[1883, p. 142]。正しい呼吸の取り方に関するその他の記述は、この章の「静かで、人目につかない呼吸」という見出しの下に記載されている。
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Other Coordinating Factors
その他の連携要因
息をするときのコーディネーションには、他にも3つの要素があり、それぞれ複数の著者が言及している。ランは、息を吸い込む動作と発声の開始の間に休符を入れるべきだと述べている。これは、息の流れを助けるためである。ヘンダーソンは、この動作は呼吸筋を使って行う必要があると説明する:
深い呼吸の練習では、肺が満たされた後、息を吐き出す前に2~3秒間空気を止めなければならない。この空気の保持は、喉頭の気道を閉じることによって達成されるものではない。息は、横隔膜と肋骨の筋肉の作用によって単純に保持されなければならない。喉は緩めて開いた状態に保たなければならない[1906, pp. 29-30]。
コフラーは、この一時停止は衛生上の理由から有益であると述べている[1897, p.59]。プロシュコフスキーは、歌手に「支えられて」いるという感覚を与えるために、この「息を吸ってから出すまでのわずかな間」を利用している[1923, p.44]。
もう一つの概念は、堅固な胸の感覚である:
胸を堅固に保つためのはっきりした理由がある:まず、声の音響効果…胸声を発している間、声帯靭帯の振動により気管内の空気の柱が振動し、音がより充実し、豊かになる。気管が固い胸郭に寄りかかれる場合、音はより丸みを帯びる…もう一つの理由は、胸部の上部圧力の補助がなければ、呼気のプロセスは行なわれないということだ[Kofler, 1897, p.67; 類似の意見はShakespeare, 1924, p.7で表明されている]。
3つ目の概念は、呼気時の腹筋と横隔膜の筋肉の対立である。 「この発声行為は、息を吸う行為とは『相反する動き』である。横隔膜の収縮は吸気と平行して起こるが、腹筋の収縮はそれに逆らうように感じられる」[G.B.Lamperti, 1905, p.9; also Lunn, 1904, p.13]
METHODS : THE PSYCHOLOGICAL APPROACH
メソッド:心理学的アプローチ
自然な呼吸の推奨
厳密に言えば、19世紀後半以前の時代の著述家たちは、姿勢、経済性、ブレスの更新といったテクニックについて語っていないため、ナチュラル・ブレスを提唱していたと言えるかもしれない。
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もし、昔の師匠たちの教えについて、その弟子たちが確かに歌い方を理解していたことを踏まえて、その教えを注意深く読んでみれば、呼吸法に関してはほとんど意見の相違がないことが分かるだろう。昔の教師たちの大半は、それについて多くを語ることはなかった。彼らは、深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出すことを系統的に練習し、そのすべてを音に変えるようにすれば、やがては必要な方法で息を吸う力が身につくと信じていたようである[Henderson, 1906, p.25]。
しかし、「ナチュラル」テクニックに関する議論は、間違いなく19世紀の終わり頃に広く浸透した科学的手法への反動から生まれたものである。自然な呼吸法を提唱する人々は、ブラウンやマッケンジーといった生理学者や、サイラーやガルシアといった科学的手法で得た情報を用いる人々を攻撃することから議論を始めることが多い。自然な手法の頂点は20世紀の最初の10年間であり、この観点で最も人気のある著者にはマッキー、パリゾッティ、ショー、テイラーなどがいる。マイヤーによる初期の引用文に続き、1910年から1919年の10年間に書かれた典型的な文章がいくつか紹介されている。
歌う際に、自ら意識的に息を吸うことは決してない。歌う際に意識的に呼吸する者は、それによって声を失い、間違った歌い方をする。歌手は、歌うために呼吸することについて、生きるために呼吸すること以上に意識してはならない [Myer, 1897, p.78]。
私たちの呼吸装置は、何の指示もガイダンスも必要とせずに、実にさまざまな方法で私たちに役立っているという証拠を日々目にしている。そして、私たちが実行しようとする行為に応じて、呼吸装置が機能しているのだ。もし私たちが歩いたり、走ったり、跳んだり、ボートを漕いだり、泳いだりすることを選ぶならば、呼吸筋は異なる程度や様式で同時に働くことによって、私たちの即時のニーズに適応するのではないだろうか[Rogers, 1910, p.25]?
呼吸そのものには困難はないため、特別な指導は必要ない。実際、通常の呼吸は無意識に行われる行為である。歌う際に息を吸うことに苦労を覚える必要はまったくない[Parisotti, 1911, p.4]。
呼吸をコントロールしようとする試みをすべて避ければ、呼吸は正常かつ自然に行われるようになる[Shaw, 1914, p.99]。
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声の正しい使い方が、習得した呼吸法の習得に依存しているということが科学的に証明されたことは一度もない… この主題の重要性は、過大評価されている… 呼吸コントロールは、ほんの少しの練習で簡単に習得できる [Taylor, 1917, pp. 131,132,133] 。
20年代の著者のうち、自然な呼吸を提唱しているのは、グリーン、マラフィオティ、そして自然な呼吸をある程度は支持している2人の教師である:
多くの権威者は、歌手が公の場に登場する際には、決まった呼吸法を用いるべきだと主張している。著者は…この意見に反対である。著者は、厳格な呼吸法の練習が最も重要であることに同意するが、公の場では…呼吸筋の動きは無意識であるべきだと考えている[Douty, 1924, p. 19]。
歌手の呼吸が何か奇妙なものであったり複雑なものであったりするはずがない。それは、通常の健康的な呼吸を拡大したものに過ぎない。しかし、一般の人々の無意識で何気ない呼吸とは対照的に、歌手はプロの呼吸の達人である。[Fillebrown, 1911, p. 23]
Singing Develops Breathing
歌うことで呼吸が鍛えられる
歌うことで呼吸が鍛えられるという概念について直接的に論じているのは、わずか2人の著者による3つの主張のみであった。マイヤーは、「歌うこと自体が『歌手の感覚』(これは、)局所的な筋肉の力で歌う歌手にはわからないもの」を与えると書いている[1897, pp. 18-19]。マラフィオーティは、1922年[pp.50-51]と1925年[p.110]の著書で同じ文章を使用して いる:
発声には呼吸が不可欠であるが、現在教えられているような、声を出すための本質的な力ではない。それどころか、歌うという行為は呼吸装置とその力を発達させる。歌うことで呼吸が発達し、呼吸が歌を発達させるのではない。
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Interpretational Controls
解釈によるコントロール
正しいフレーズで。フレージングは、18世紀から19世紀初頭にかけて、呼吸を調整するための最も重要な手段のひとつであった。
一息で終わらない部分を演奏する場合は、もう一度息継ぎをしても許される:
1.譜面に休符がある場合、それが長いか短いか。
2. 言葉が少し休みを許すところ、そして、
3. 句読点が現れた場合、または詩の韻律がその可能性を指し示している場合 [Hiller, 1780, p. 15]
しかし、このような指示は、歌手の呼吸を改善することを目的としているわけではない。それらは、音楽性を高めることと、歌手が呼吸を整えることを助けることを目的として記載されている:
歌手にとって、息のコントロールは最も重要である。主なルールは、フレーズを歌い始める直前に胸を満たしておくこと、弱拍またはアクセントのない拍の弱い部分で息継ぎをすること、小節の最初や単語の途中では決して息継ぎをしないこと、可能であれば同じ息で一つのフレーズまたは音楽的フレーズを歌うこと、長いパッセージや区間を歌う前に、深い呼吸で準備すること 、 長いパッセージや区間の準備をするために、短い休符や休止が与えるチャンスを最大限に活用し、可能な限りゆっくりと息を吸い、吐き出すこと。その他のすべてのルールは、経験によって習得しなければならない。[Bacon, 1824, p. 91]
呼吸とフレージングを関連付ける20世紀の著者には、サントレー(1908年、61ページ)、ロジャース(1910年、125ページ)、W. S. ドリューなどがいる。ドリューは次のように書いている:
正しく考案された歌唱練習そのものが呼吸の訓練となり、長いフレーズや短いフレーズを1回の呼吸で何度も歌う際に、そのように活用すべきである[1924, p. 17]。
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音楽との同期。この概念は、フレーズで息継ぎするという概念と密接に関連している。なぜなら、フレーズはしばしば、1回の呼吸で処理できる長さの周期的なリズムパターンを楽曲の中で形成するからだ。
問い、歌手は、どこでブレスするのですか?
答え、単語の途中や、文法的に密接に関連している単語と単語の間に息を入れることは、常識的に考えても避けなければならない。したがって、当然ながら、歌手は句読点と音楽が一致する箇所で息を吸うべきである[Garcia, 1894, p.54]。
音楽作品を歌う際に生理的な呼吸の規則正しいリズムを意識することはもちろんありえないが、音楽のフレーズで示される動作と呼吸で示される反応との完璧なリズムの関係は、常に維持されなければならない[Rogers, 1895, p.82]。
その他の呼吸を改善する工夫。歌手が呼吸法を向上させるのに役立つかもしれない5つの概念がここに集められている。これらの指針は、すべてが心理的に声に関連しているわけではない。
ラブラーシュは、 「息を自由に送り出し、その過程で息が口のどの部分にも当たらないようにする。腺に少しでも触れると、音の振動の質が損なわれる」[184-, p.5]と述べている。テトラッツィーニは、歌手の衣装はゆったりとしたものを着用すべきであり、特に女性はコルセットの使用を避けるべきだと勧める数少ない人物の一人である[1909年、11-12ページ]。【胸郭まで締め付けるようなコルセットを否定しているが、コルセットはアッポジャーテの助けになるのでコルセットをすべて否定しているわけではない。山本】サントレーは、呼吸に関する入念な曲の準備について語っている:
経験豊富な人々は、緊張の影響下では胸いっぱいに息を保つことがより難しくなることをよく理解して行動すべきであり、また、学習においては、話し方や歌に影響を与えずに余分な息を吸い込む可能性がある場所をマークしておくべきである。[1908, p.62]
共通する概念のひとつは、歌うことは思考と実際の動きの両方において、相反する方向性を表現する芸術であるということだ。
上に向かって息を吸い、下に向かって歌うことは決してない。常に下に向かって息を吸い、上に向かって歌う。これはもちろん、身体の動きについて完全に言及している… 上昇する努力の方向は、音と一致してはならず、常に音から離れていなければならない。「上に向かって歌い、下に向かって考えなさい」[Mayer, 1897, pp.72, 73]
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ランは生徒に「下方に向かって音を合わせるように考えなさい。つまり、活力の方向を逆転させるのです」と指示している[1904年、p.13]。
彼は図を示す。 思考の方向――⇩ 呼吸の方向――⇧
音が高くなるほど、呼吸は深くなる[G.B. Lamperti, 1905, p.12]。
声楽教育における2つの伝統的な「訓練法」には、冷たい鏡とろうそくの炎を使うという心理的な意味合いがある。シェイクスピアはさらに、指を使うことも付け加えている:
昔の歌手たちは、声帯が自然に振る舞っているか、あるいは何らかの方法で正しい位置から外れて圧迫されているかを、2つの兆候によって判断していた。まず、正しく発声された場合、その音は比較的少ない息で歌うことができる。そして、適切なコントロールと組み合わせることで、ろうそくの火が揺らぐことなく、鏡が曇らず、指が過度に温まることなく、少なくとも20~30秒間息の圧力で音が十分に響くかどうかを確かめるために、ろうそくの火や鏡、あるいは指に向かって練習するという習慣が生まれた。 [1910, p.24]
これらの方法について言及している 他の文献には、Bach[1880, p.30]、BrowneとBehnke[1883, pp.147-18]、Duff[1919, p.15]、Cooke[1921, p.139]がある。
CULTIVATING CONTROL:THE TECHNICAL APPROCH
コントロールの育成:技術的アプローチ
Postural Controls
姿勢のコントロール
身体訓練による姿勢のコントロール。音楽以外の身体鍛錬という概念は、この研究の始まりよりも以前から存在していた。特定の身体能力は、歌手だけでなく舞台でも実用的な目的を持つと見なされていた。「イタリアでは、バレエの師匠が若い志望者たちに正しい立ち居振る舞いと賢明な行動を教えるために雇われている。最後に、フェンシングの師匠が雇われ、ヒーローが剣を取り、それを乾杯用のフォークのように扱うのを防ぐ」[Furtado, 18–, p.9]。
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おそらく、歌うために身体のさまざまな筋肉を鍛えるための運動の体系化は、体操を生理学上の法則に基づいて行うと主張するグットマン(1860年)から始まった。
発声の訓練に関するほとんどの教科書には呼吸体操のルールが記載されており、優れた一連のエクササイズは、グットマンの『Gymnastics of the Voice(声の体操)』に含まれている。ウォーキング、フェンシング、水泳、ダンベルを使ったトレーニングは、それらが疲労の限界までやり過ぎない限り、「持久力」を向上させる優れた手段である[Mackenzie, 1891, p. 98; Curtisはほぼ同じ意見で、1914, p.55]。
その他、身体鍛錬を提案している人物としては、バッハ[1894, p.103]、コフラー[1897, p.75]、フロサード[1914, p.131]などがいる。
正しい胸の位置による姿勢のコントロール。正しい胸の位置を維持することは、声楽教育において最も広く受け入れられてきた概念のひとつである。発声時の姿勢に関する複雑なルールがどのように進化してきたかを、時系列で述べられた文章を追うことでたどることができる:
教師は、声がすべて自由に構成されるように、生徒に立って歌わせるべきである。生徒が歌っている間、優雅な姿勢で、魅力的な外見になるように注意させるべきである[Bacon, 1824, p.89、Tosiの引用]。
テンドゥッチは立った姿勢で胸を張ることを推奨している。彼は練習中、「できることなら立った姿勢でやった方がはるかに胸に良い」[1785, Rule XI]と述べている。
歌手は、体をまっすぐにして立ち、頭を上げ、胸を前に突き出すべきである。そうすれば、十分に広い空間が確保できるだろう[Anfossi, 180-, p.13]。
立っていると、より多くの力を得ることができる。頭と体をまっすぐにして、声を自由に通りやすくする[Corri, 1810, p,11]。
クーケ Cookeは、コッリの概念に「肩を後ろに引いて胸を広げる」[1828, Introduction]と付け加え、メイソンは「胸を少し外側に曲げ、口をきちんと開く」[1847, p.100]という考えを付け加えている。
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バッシーニは、おそらくよく知られた軍隊の姿勢のイメージの生みの親である:
生徒は注意深く観察しなければならない。胸を張り、肩を自然に落とし、頭の位置は高すぎず低すぎず、一言で言えば、兵士のような姿勢で[1864, p.2]。
19世紀後半の執筆者たちは、正しい姿勢の理由をより多く述べる傾向にあった。コフラーは、より豊かな音色と呼気のしやすさの理由から、しっかりと胸を張ることを推奨している[1897, p.67; 全文は54ページの上部に引用されている]。
できる限り息をコントロールし、節約するためには、私は…肩を上げずに腹部を引っ込めたこの胸の高位置を推奨する。[Lankow, 1803, p.9]
このテーマについて詳しく論じている20世紀の他の著者には、テトラッツィーニ[1909, pp. 14-16, 19]、シェイクスピア[1910, p.16]、ハルバート[1903, pp. 17-19 and 1921, pp.16-18]が いる。
Voluntary Control of Breathing Organs Advised
呼吸器官の自主的なコントロールを推奨
呼吸装置の直接的コントロールを提唱する一部の著者は、議論の冒頭で、なぜ自然呼吸では不十分だと考えるのかを説明している。その中には、ミラー、ラッセル、シェイクスピアなどがいる。
生徒はしばしば自然に呼吸するように指導される。では、歌手の呼吸は、他のあらゆる優れた能力と同様に、明らかに自然であるべきである… しかし実際には、歌手の呼吸は通常の呼吸を大幅に増幅したものとなる。したがって、まず最初に学ぶべきことは呼吸であり、すなわち、十分な息を吸い込む方法、それを押し出す方法、そして長いフレージングのためにそれを節約する方法、そして… 喉を開いて無意識のうちに、この基礎の上にすべての音を歌う方法である[Shakesprare, 1910, pp.9]。
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歌手に自然な呼吸を教える本が存在し、この指示はシンプルであるとして繰り返し強調されている。確かにこれほどシンプルなルールはないだろう。しかし、それだけでは十分ではない。個人の裁量に委ねすぎているのだ。なぜなら、自然な呼吸とは何かということについて、多くの異なる人々からほぼ同数の意見が寄せられることは明らかである。また、人は間違った呼吸法に慣れすぎてしまい、それが自然な呼吸だと信じ込んでしまうこともある。正しい呼吸は、身体の機能であると同時に、技術でもある[Miller, 1910 pp.27-28]。
ラッセルは、呼吸のテクニックは「経験的に、つまりかつてのヴォイス・カルチャーの時代のように. . . あるいは合理的に、つまり現代のより高度な指導法のように、生徒の最初のレッスンは、まず身体と呼吸をコントロールする方法を学び、その後にトーンを習得する」という2つの方法で習得できると考えている。しかし、ナチュラル・ブレスについては、彼は次のように書いている:
よく言われる説のひとつに、「自然に任せれば、歌手の呼吸は適切に管理される」というものがある。しかし、熱心な学習者は、自然が供給するのは基礎的条件、つまり土台だけであることを知らされている。そして、適切な訓練なしでは、これらの基礎的条件は正しい習慣ではなく間違った習慣に陥る可能性が高い。したがって、自然だけに信頼を置くことは、単に粗野で浅はかなことを正当化する言い訳に過ぎない… 自然のメカニズムは完璧であり、私たちはその特性と力を研究し、それだけに頼らなければならない。しかし、このメカニズムの機能の自然な発現は芸術的目的とは直結していないため、私たちは、これらの無意識的、直感的な自然な機能に、意図的なコントロールのプロセスを組み込むことを求められている[Russel, The Body and Breath Under Artistic Control, 1904, pp.2, 4]。
呼吸器官の直接的なコントロールを支持する著者の意見を代表するものとして、いくつかの引用文が提示されている。
声帯から口へと通る空気の振動柱の正しい管理、あるいは誤った管理は、疑いなく、歌手の成功または失敗の大きな秘密である。[ Myer, 1883, p.18 ]。
声楽における呼吸法の第一歩は、体幹の下部を意識した精神活動を準備することである[Ffrangçon-Davies, 1904, p.98]。
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歌手は、動物や人間が眠っているときのように、楽に自然に呼吸すべきである。しかし、歌うときは起きている。そのため、正しい呼吸法を慎重に研究する必要があり、それは理解と経験の賜物である[David Bispham in Brower, 1920, pp. 214-215]
ドッズは、呼吸器官のコントロールによる発声上の8つの利点と、身体的利点9つを挙げている。発声上の利点としては、より大きな呼吸容量、より少ない労力、呼気筋のコントロールに対する自信の向上などが挙げられる。身体的利点としては、胸郭の完全かつバランスのとれた拡張、血液浄化の改善、腹部臓器の自然なマッサージによる消化機能の向上などが挙げられる[1925, p.29]
Diaphragmatic Control
横隔膜のコントロール
9人の著者は歌う際の横隔膜のコントロールを推奨しているが、3人の著者は推奨していない。さらに多くの著者は横隔膜の使用について言及しているが、それ自体がひとつのコンセプトであるかのようには論じていない。つまり、このコンセプトに対する反対意見があることを知らないようである。
横隔膜は、不随意器官とみなされているが、神経線維の多様な性質により、ある程度随意的に動かすことができる。そして、この横隔膜があるからこそ、息を吸ったり吐いたりしながら歌ったり話したりすることができるのである[Guttmann, 1887, p. 40; Koflerの考えは、Guttmannの1897, p. 122とほぼ同じである]。
アーティスティックな歌唱に必要とされる呼吸法は横隔膜呼吸である。歌手が肺から声帯へと、静かに、かつ最小限の労力で十分な空気を送り込むことができる唯一の方法である。私たちの最初の取り組みは、横隔膜呼吸を強化することであり、これは腹部の筋肉を体系的に鍛えることで達成できる[G.B. Lamperti, 1905,p.5]。
横隔膜の直接的なコントロールに反対しているとされる3人の著者は、ショー、ガリ=クルチ、ロジャースである。
横隔膜での呼吸や音調をコントロールしようとする試みはすべて自殺行為[原文のまま]である[Shaw, 1914, p. 100]
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我々は、発声教師によって多くの誤った考えを言われる。1つは、音に支えを与えるために横隔膜を堅く保持されなければならないということである。これは深刻な間違いであると私には思われる。私は、横隔膜をリラックスしたままにします。このように、私の場合、音生成は、常に楽に行われます;決していかなる緊張もありません。[Galli-curci in Brower, 1920, p.54]
呼吸と歌うという行為の間で横隔膜が反転するのは、意図的な行為ではない。放っておけば自然にそのようになる[Rogers, 1925, p. 75]。
Orificial Control
口のコントロール
歌唱時の呼吸は、鼻、口、あるいは両方の穴から同時に吸うことができる。この研究には、3つの見解すべてに賛同する人々がいる。鼻呼吸を支持する意見は、少なくとも1810年のファイファーとナエゲリの論文にまで遡る。口呼吸に関する最も古い言及は、184-年のラブラーシュによるものである。両方の意見は、研究の全期間を通じて支持者を獲得している。鼻呼吸と口呼吸を組み合わせた考え方は比較的新しい。このグループの最初の著者は、ショー(1914年)とフチート(1922年)である。
口で呼吸することが推奨される。ランはガルシア(おそらく1872年版)の「口を開けて呼吸するが、どこにも力を入れてはならない」という言葉を引用している[1888, p. 21]。1904年、ランは「発声練習や歌では、決して鼻で呼吸してはならない」と書いている[p. 15]。「息を吸う前に(最初は鼻ではなく口から息を吸う必要がある)人差し指が上下の歯の間を楽に通るくらい口を大きく開くべきである」[G. B. Lamperti, 1905, p. 7]。 パリゾッティは、口でも鼻でもどちらでもよいと述べているが、主な関心事は舌と軟口蓋を低くして空気が入りやすくすることである[1911, p. 22]
鼻を通しての呼吸の奨励。鼻呼吸を推奨する著者のほとんどは、健康上の理由からそれが最善であると説明している:
鼻孔で呼吸することは非常に重要である。なぜなら、口で呼吸するよりも目立たないだけでなく、口腔、喉の入り口、喉、声帯の粘膜を乾燥させないという利点もあるからだ。そして、これらの部位の湿気は、音を発する際に最も重要な要素のひとつである[Guttmann, 1882, p. 199] 。
ベーンケは鼻呼吸の擁護に4ページを割いている[189-、26-30ページ]。 その他の明確な擁護はソープ[1896、20、132ページ]とダフ[1919、10-11ページ]によって提供されている。 テトラッツィーニは、口呼吸が必要な場合があることを認めている:
口呼吸は避けるようにしなさい。鼻孔から吸い込むと、空気が喉に到達する前に浄化され温められる。口呼吸は喉を乾燥させ、声をかすれさせる。しかしながら、朗唱的な音楽を歌う際には、口呼吸によるハーフブレスと呼ばれる呼吸法が必要である[1923, p. 50]。
口と鼻を通しての呼吸の奨励。次の3つのステートメントは、この概念に対する認識を示して いる。
喉を開けた状態で口と鼻の穴から同時に呼吸すると、肺は、それらの通路のどちらかを遮断した場合よりも、より迅速かつより完全に満たされる[Rogers, 1925, p.75]。
息を吸うには、肺から圧力を可能な限り取り除き、鼻、または口と鼻から空気が静かに、穏やかに、妨げられることなく入ってくるようにすればよい[Douty, 1924, p.16]。
鼻で呼吸すべきだろうか? もちろん、寒い戸外ではそうすべきだ。 鼻の穴は、肺に入る前に息を温めるためのものなのだ。
歌っているときは鼻で呼吸すべきではないのだろうか?歌を歌いながら試してみよう。歌うのに必要な大きな呼吸を突然鼻で吸うのは難しい。鼻の穴が小さすぎるのだ。時間があるときは問題にならないが、歌手には時間がないことがほとんどだ。それに、息を吸うたびに口を閉じているのは奇妙に見えるだろう[Shakespeare, 1924, pp.9-10]。
編集中
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Quantitative Factors
量的要因
呼吸の取り方と管理に関するいくつかの要素は、以下4つの見出しに分けて説明する。しかし、これらの概念は密接に関連しているため、文章の単一のセンテンス内でも重複することがよくある。
息の節約。「息は、吸い込んだら、慎重に節約し、必要に迫られた場合には、音楽の区切りが要求するような形で、フレーズ全体を演奏できるようにすべきである」[Anfossi, 180-, p.12]。「優れた作家は少ない言葉で多くを語ることができる。同様に、優れた歌手は少ない息で多くのことを歌うことができる」[Bach, 1880, p. 16]。 「人間が音を出すために必要な空気の量が非常に少ないことに驚かされる。そして、その少ない空気で生み出される音は、ピアノでもフォルテでも最も素晴らしい音である。なぜなら、空気が多すぎると音色に嗄れや、しばしば耳障りな音が混ざり、その両方の性質が音色を台無しにしてしまうからだ」[Guttmann, 1887, p. 197]。
音の安定は、発声を生み出すための十分な緊張の下に出て行くために最小量の空気にする呼吸コントロールによって決まる。重要なのは、吸われる呼吸量でない、コントロールされる量である。それ故、必要なすべての呼吸を得て、それを保ちなさい、しかし、堅さなしで。[Fillebrown, 1911, pp. 26, 30; Duff 同様, 1919, p.15]
このテーマに関するその他の貴重な情報源は、ヒラー[ [1780, p.14]、コッリ[1811, p.11]、フチート[1922, p.117]、ドッズ[1927, p.5]である。
呼吸圧と支え。「歌う上で最も必要とされる第一のルールは、声を安定させることである」[Tenducci, 1785, Rule I] 「息の圧力が強すぎると、良い音を奏でるのに最も適した音の波の形が乱れてしまう」[Seiler, 1871, p. 110]「発せられる声は、それを支える呼吸の力よりも弱くなければならない。そうすることで、歌はより自然で均一になり、自発的になる」[F. Lamperti, 1883, p.13]。 その後の議論では、良好なブレス・サポートの具体的な理由が挙げられている。
+平凡なパフォーマーが弱音をあえて試みようものなら、呼吸のサポートがないために聞き取れなくなってしまうだろう。そのような音を無理に大きくしようとすれば、喉声になり、満足のいく結果にはならないだろう[Shakespeare, 1910, pp. 40-41]。
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限界を超えている息の圧力で生み出される声は、凝り固まって、爆発的で、調子外れで、パワーを伝えることが欠けるようになる…学生が少しの論理を使うならば、息を無理強いするか、押すかすることは、喉が不必要な圧力に抵抗することを強要することになるのを、彼らは理解するだろう。[Proschowsky, 1923, p.33]
ショーとマッキーは、コントロールを説くのは、声は音波であり、息の圧力による力ではないからだ:
教師や評論家、その他の人々による現在の声の定義は、声の本質を理解していないことを示している。声は「母音化された息」や「振動した息」、「活性化された息」など、さまざまな定義がなされてきたが. …声は空気を伝わる波であり、他の音と同じように秒速1,100フィート、すなわち時速約750マイルの速さで伝わる。呼吸は空気の流れであり、時速750マイルの空気の流れは、その進路にあるものをすべて破壊してしまうだろう[Muckey, 1915, pp. 111-112]。
歌手の息は、声帯を振動させるだけであり、それが音波を発生させる――声[Shaw, 1914, p.55 fn]。
2人の著者が、音を終わらせる際のサポートの使い方を説明している:
+息をすべて使い果たさずに音を終えた場合、残りの息を非常に静かに止めるよう注意する必要があり、不快な呼気のような音を立てて吐き出すべきではない[Lablache, 184-, p.5]。
ウイザースプーンによると、ベルカント時代には、
生徒には、実際に歌ったり音を伸ばしたりするよりも、装飾音符の価値を少し長く歌っていると想像するように教えた。つまり、声楽用語で言えば、息の支えを「保持する」ことで、実際に歌った音よりも長い「ノータ・メンターレ(nota mentale)」、つまり頭の中で音を長く保つことで、音が止んだ後に息の努力や緊張も止まるようにする。これにより、音と息の支えが同時に止まることで起こる「うなり声」や「あえぎ声」が防がれる[1925, p.64]。
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呼吸の更新、頻度、速度。ヒラーは、生徒は目に見える瞬きをする間に息を吸うことができるはずだと述べている[1780, p. 14]。 ドービニーは、芸術的な歌唱は深い呼吸によってのみ達成できると述べている。なぜなら、短い呼吸を何度も繰り返すことは歌手にとって負担となるからだ[1803, p. 75-76]。「できる限り多くの息をとり、中程度の速さで、ため息をつくように、歌うように、経済的にそれを使う」[Corri, 1810, p. 7] 「もし声が弱く、平坦であると感じた場合、彼はゆっくりと息を吸い込み、突然吐き出すことで、音を力強く発することができる」[Ferrari, 1818, p. 7]
著者の多くが懸念しているのは肺の過密状態である。コスタは「呼吸が不十分か過剰になることを避ける」ことが第一のルールだと述べている。[1824, p.14] 「肺が過密状態になることは十分にあり得るということを、強く繰り返さなければならない。遅かれ早かれ、それは声の無理や不均等につながるだろう」とヘンダーソン[1920, pp. 58-59]、ヴァン・ブルックヘイヴン[1908, p.44]も過密状態になることに対して警告している。
ジョヴァンニ・ランペルティは、「各練習やフレーズの終わりには、肺に適度な量の空気が残っているべきである。なぜなら、肺が空の状態のままパッセージを終えるのは悪習であり、有害だからだ」と強調している[1905, p.12]。
0人の著者が、ハーフブレスについて議論することが重要であると考えている。最初の著者はバッシーニであり、彼は「歌手が長いブレスを取る時間がない場合」にハーフブレスが用いられる、と書いている[1857, p.10]。鼻呼吸を推奨するコフラーは、ハーフブレスが必要な場合は常に、口呼吸は鼻呼吸と併用すべきであると述べている[1897, pp. 55-56]。ヘンダーソンは、長いフレーズの間に1つか2つのハーフブレスを挿入することは、フレーズの直前に突然激しい努力を1回行うよりも良いと主張している[1920, pp. 39-40]。
静かで人知れずとる呼吸。14人の作家は、うまく取られた呼吸は耳にも目にもほとんど気づかれないと考えている。「呼吸は、努力している様子を全く見せずに取られるべきである」[Cooke, 1828, Introduction]。パノフカは、呼吸は「ohne Geraeusch, Schluchzen oder Seufzen」/ 雑音、すすり泣き(しゃっくり)、ため息なしでなければならないと主張している[1859, p.7]。「呼吸をほとんど、あるいはまったく聞こえないようにすることで、演奏の方法を改善できる」[Wieck, 1875, p.86]。シェイクスピアとマッケンジーは、ラブラーシュがルビーニを「4分間、彼が息を吸っている様子を見ることなく」観ていたという逸話を伝えている[Mackenzie, 1891, p.95 fn; Shakespeare’s version in 1910, p.15]。テトラッツィーニは、自分自身について同様の感想を述べている:
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人々は私が呼吸しているかどうか分からないと言う。まあ、私が目に見えないように呼吸しようとしても、彼らは私が息切れしているとは決して思わないだろう。私が呼吸するとき、横隔膜はほとんど動かないが、空気で肺が満たされ、上部の肋骨が広がるのを感じる[1909, p.14]。
テイラーは、息継ぎは聞こえないようにすべきである理由を述べている。「歌う際の息継ぎは、絶対に音を立てないことが最も重要である。息継ぎの際に音がする場合は、喉が硬直している証拠である」[1914, p.33]。
ANALYSIS AND COMMENTS
分析とコメント
呼吸は発声の連鎖における最初の動作である。それは音を発生させる原動力である。ほとんどの著者は、このテーマについて深く掘り下げて論じなければならないと感じているだけでなく、実際、彼らの著書のなかで、理念や手順の記述に続く最初の位置に置いている。160の資料で述べられている呼吸に関する記述をすべて調査すると、1冊の本が十分に埋まるだろう。幸いにも、呼吸に関しては多くの概念が同意されているため、多くの考えが共通して述べられている。
(1) 歌を歌うにあたり、呼吸は第一に考えるべき事項である。
(2) 胸郭が高いと、吸気と呼気の両方で呼吸が楽になる。
(3) 背筋を伸ばし、頭をまっすぐにして、胸を少し前に出し、肩を低くリラックスさせた立ち姿勢は、音の自由につながると認められている。
(4) 鼻で呼吸することは、空気をあたため、ろ過するという健康上の理由から望ましい。一方、口で呼吸すると、鼻呼吸のみの場合よりも、より速く、より少ない労力で大量の空気を吸い込むことができる。
(5) 息を節約すべきである。長いフレーズを歌うためだけでなく、無駄な息は音質にとって逆効果だからである。
(6) 安定した音を出すには、常に呼吸のサポートが必要である。しかし、過剰な圧力は余分な力となり、それを喉で抵抗しなければならない。
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(7) 肺の過密状態は息切れと同じくらい悪い。ハーフブレスでこれを避けることができる。
(8) 吸気の正しい動作は自然であり、雑音や大きな身体の動きを伴うことなく達成されるべきである。
ここで調査された概念や、フィールズとバーギンの研究で取り上げられた概念のいくつかは、この研究対象期間中に生まれたものである。発声前の呼吸練習という概念は、1870年から1900年にかけて増殖した生理学の文献や、デルサール、ハルバート、ダルクローズ(1895年頃から1910年頃)などのリトミック研究の延長線上にあるものである。この概念は、最近では人気を失っている。本研究では、35のソースが発声前のトレーニングについて言及しているが、フィールズとバーギンの研究では、それぞれ13と8のソースのみがそれを信じている。
肋骨、横隔膜と結合された筋肉の動きと呼吸の全体の連携作用の相対的な重要性に関する議論は、科学的調査の時代まで声楽教師/著者の関心事ではなかった。(ガルシアから始まる(およそ1840)、しかし、より詳しくは1860年代ごろから)
他の分野と同様に、心理学的アプローチは技術的アプローチと比較すると、比較的軽視されているか、少なくとも議論されていないように思われる。これもまた、主に考え方の違いによるものである。自然で、何の補助も受けない行動という考え方が説明されれば、技術的なコントロールに踏み込まない限り、それ以上のことはほとんど何も言えない。
2025/02/15 訳:山本隆則