第3章
Overview of the Changing Theories of Vocal Resonance
変化する音声共鳴理論の概要

声道がどのように喉頭音源(声帯)から倍音を共鳴させるかという我々の理解は、ここ50年の間にかなり進展しました。現在の理論の細部の説明をする前に、音声共鳴の理論がどのように発展してきたかというおおまかな若干の背景を提示していきましょう。

Resonance:共鳴
共鳴には、それにもたらされる特定の周波数により強く反応する(変動する)物体またはシステム(声道に閉じ込められた空気のような)の傾向のことである。声道の共鳴ピーク又はその近くの周波数の振動-例えば喉頭音源からの倍音-は、それら(声道)の共鳴ピークから離れている周波数より大きいだろう。

Coupled Helmholtz Resonator:連結されたHermholtz共鳴体
音声共鳴の初期のモデルは、2つの連続して結合されたヘルムホルツ共鳴体の理論に基づいていた:咽頭と口腔(それらを分割している舌の膨らみによって作られた狭窄を伴う)。それぞれ共鳴体の「ピッチ」(共鳴周波数、resonance frequency)を決定する基本原則は、囲まれた空間の大きさとその空間の出口の相関的な大きさであると考えられた。空間がより大きいほど、そして、出口がより小さいほど、その共鳴の周波数は、より低いだろう。それゆえに、その大きな咽頭腔と、狭く、口へのかなり前方の出口を持つ/i/は、低く「調整された」第1共鳴を生成する。同時に、その共鳴は、唇の部分では(小さな口のスペースに対して)より大きな出口を持つ、舌丘前の小さなスペースに結合し、より高い「ピッチの」第2の共鳴をつくる。この理論の解説の有効性は、/i/のような前舌母音に取っては最適である、しかし比較的小さな咽頭腔を持っているにもかかわらず低い第1共鳴を持つ、/u/のような後舌母音には説得力がない。連結された共鳴体理論は、いくらか問題となっているより高い共鳴のチューニング・メカニズムをそのままにしておいた。また、それは上部喉頭チューブについても説明しなかったし、複合共鳴を伴う、単一チューブとしての全声道の機能のことも考えなかった。それにもかかわらず、より小さな開き口を持つより大きな空間がより低い共鳴に貢献するという観察は、依然として有益である(咽頭は第1共鳴と、第2共鳴は口腔とより関連するという感覚のように)。

Liner Source-Filter Model:線形音源-フィルターモデル
より最近のモデル ― 線形音源-フィルターモデル ― は、3つの要素から成る音声音響学を提示する:動力源(呼吸圧力と流れ)、音源振動(声帯で生まれる)、そして、共鳴体(声道)、それは音源からの入力をフィルターに通し、声帯からの倍音を選択的に強化するか、弱体化する。このモデルは、声道共鳴のチューニングが、単一の1/4波長共鳴体モデルから、より効果的に説明されることがわかった。1/4-波長共鳴体は、一端(声門)で閉じられて、別の端(唇)でオープンなチューブである。そのような共鳴体は、自然にその長さの4倍の音波を共鳴させる、それゆえに、その名前は「1/4-波長」共鳴体といわれる。また、一様に形づくられた1/4-波長共鳴体は、この最も低い共鳴周波数の奇数番号をつけられた倍数の音波を強化する。このモデルは、厳密に線形であるとみなされた:声襞を振動させる、その時上へ、外に進む倍音周波数の集合を生み出す動力源(呼吸)。これらの音源倍音のいくつかはその時、唇から最終的に放散される前に、声道の共鳴によって、選択的に強化される。声道が均一なチューブではないが、このモデルは大いに的確で説明に役立つ、しかし、共鳴体と振動体の潜在的な非線形の相互作用を説明するいは至っていない。

Non-Liner Source-Filter Model:非線形の音源-フィルターモデル
最新のモデルは、相互作用または非線形性への可能性を持つ非線形の音源-フィルターモデルを提案する。
特定の状況に(後により詳細に:非線形の音源-フィルタ理論再検討(43ページ)を参照)、フィルタを通過する音響エネルギーは音源に戻って生産的に反響される。そして、喉頭音源/振動体の効率とパワーを促進する。

2018/02/12 訳:山本隆則