Preface
序文

1981年、ミネソタ州、ミネアポリスで歌唱教師全米協会の総会で、Tomas Clevelandは声のカテゴリーとシンガーズ・フォルマント周波数の関係に関するレポートを発表した。彼のプレゼンテーションの間、合成されたテノールの声が、母音/ɑ/でヘ長調の音階を歌った。注目すべきことに、ピッチ(基音周波数)の変化以外の、声道フォルマントまたは音源入力の変化がプログラムされなかったにもかかわらず、男性のパッサージオを連想させる音色変化を通して、テノールの声質は移行した。パッサージオがプレゼンテーションの焦点ではなかったけれども、その瞬間に私は、声のカバーの音質変化は、喉頭部声区の変化によるのではなく、むしろまだ理解されていないいくらかの共鳴現象によるのではないかという認識に襲われた。このように、私は音声音響学の領域へ旅立った。
8年後、オバーリンで、研究休暇の間、無くなったリチャード・ミラーとの発声レッスンで、D4で/e/母音を歌っているとき、私の声は「回転した(turn over)」。以前私は、男性の声はパッサージオ・ゾーン( テノールにとっておおよそD4- G4 )において、高い声の準備をし始めるが、G4の第2パッサージオの近くのみで回転すると考えていた。私はまた、母音の音質にも驚いた。それは私の内在的な聞こえ方にとって奇妙に聞こえた。私は、ちょうど今、私が行ったことが許容できるかどうかをリチャードに尋ねた。彼は私にもう一度パッセージを歌わせ、更なる説明をすることなく、それでよいと言った。それは、この旅における第2の大きな一歩であった。リチャードが当時オーバーリン・カレッジで展開していた新しい研究所で、研究休暇の間、私はそこで練習をしていて、そのリアルタイム・スペクトログラフィ(real time spectrography)によるKay Elemetrics Sona-Graph 5500を定期的に使っていた。極めて短期間に私は、声が母音の第1フォルマントの場所に対応して、ターン・オーバーし、「閉じる」ことを理解した。私が、その要因が何であるかについて正確にわかるまでには数年かかった、しかし、そのときから私の男性のパッサージオの教え方は変化した。
次の10年間を通じて、私はこの仮説の実験を音声科学コミュニティーの関係者に何度か試したがうまく行かなかった。同じ頃に、Donald MillerとHarm Schutteがグローニンゲン(オランダ)の研究室でこれと別の音響現象を観察していたということを、私は知らなかった。私がSvante GranqvisのMaddヴォイス・シンセサイザーを提供されるまで、私は長い間推測してきたこと(男声は、第2倍音が第1フォルマント以上に上昇するときターン・オーバーすること)を正確に証明することができなかった。この時までに、MillerとSchutteはこれと関係がある現象を詳細に記録した、そして、私が教えるLawrence大学へのその後の訪問において、Donaldは私の観察を確認した。私はDonaldと他の音声科学者のメンバーの極めて有益な話し合いを持って以来、今や彼らのほとんどが、声のF1/H2変換の現象を認めている。
私は、音声科学者ではない。私は、発声教師である。この少ない個人的な経歴をもつ私の目的は、発声教師達に、我々が知らないこと-あらゆる専門分野において既に十分存在する-を理解しようと思わせるように促すことことではなく、むしろ、我々のそれぞれが、その話し合いに何か大きな価値があることを理解することである。発声教師が音声科学学会からの知識を受け入れ、現実に反する考え方を自発的に放棄する必要がある、と同時に、我々もまた貢献するためにこの上なく重要なことがある。発声教師と音声科学者 ― 両者ともが、他者の観点を考慮するのに充分な、思慮深さと謙虚さを持っている ― の間で進行中のオープンで誠実な共同研究が、歌唱の教育学と技術を前進するために必要である。
ここにあるテキストは、スタジオ教育にとって効果的であると証明された音声研究から明らかになった発声の実態と原理を抽出して、それらを一般的な音声コミュニティーに利用しやすい方法で示す試みである。それは、より優れた教育学に、そして、教育者と科学者コミュニティの間のより生産的で、より情報に通じ、相互に敬意を示す有益な話し合いに貢献すると確信する。
私が音声音響学の領域において学んだものについて、William Vennard、Johan Sundberg、Ingo TizeとDonald Miller(彼はまた、私の自宅に客として1週間過ごし、本の見解を論議して、特に女性の共鳴戦略についての私の理解を前進させてくれた)の著述から、科学者Ron SchrerとDavid Howardとの啓蒙的な会話に、そして、Richard Miller, Scott McCoy, John Nix, Christian Herbst, Stephen Austin, と Dan Ihaszのような、声について見識のある同僚に多くの恩恵を受けている。Christian Herbst, Donald Miller, John Koopman, Richard Sipoerdsma, Stephan Austin, Scott McCoy, Steven Spears, そして Dale Duesingは、テキストの草案を読んで、非常に役に立つ感想を述べてくれた。
私はまた、最初にこのテキストを書くことを勧め、その後プロジェクトを熱心に推し進めてくれそして、私の、音声科学の専門用語をよく知らない人々にも、わかりやすく近づけるようにと言う主張に対して、友人であり、PendragonプレスのKatheleen Wilsonに特別の謝意を述べなければなりません。。
私は、長い間、彼らからまた彼らを通じて学んだ生徒たちに感謝します(特に同封のDVD*のために録画されたエクササイズを助けてくれた):Luke Randall、Davery Harrison、Willson Oppedahl、Phillip Jindra、Jon Stombres、Mitchell Kasprzyk、Cayla Rosche、Paige Koebele、Natasha Foley、Jenna KucharとEmily Flack。私はまた、同僚David Bark(教育工学の専門家)に感謝する。彼はDVD*を生産する際に時間と専門知識を惜しみなく与えてくれた。(*現在http://www.kenbozeman.comで利用できる)
最後に、私はグラフィックスとイラストレーションで息子のChistopherに、そして、無数の教育学的会話、校訂、一般的助言と精神的な援助のための家内、仲間、親友と仲間の発声教師(Joanne)の援助に感謝する。

Kenneth W. Bozeman
Frank C. Shattuck音楽教授
Lawrence大学音楽学校
Appleton(Wisconsin 2013年5月)

 

2018/06/14  訳:山本隆則