第6章
Female/Treble Voice Resonance Strategies
女性/高音声の共鳴戦略

女性と高音域男性(カウンターテナー)(音域が主に高音部記号内にある)は、カウンター・テノール以外の男性とは異なる喉頭声区問題とフォルマント/倍音状況に直面する。男性が、主に厚い声帯の形と大きな垂直位相差による振動モード1だけでいる所で、西洋クラッシック歌唱の女性は、その薄く、引き伸ばされた声帯の形で、低声域または中低声域で、振動モード1からモード2へ移行する。第3の振動のモード ― 一般的に完全には閉まらない張りきった声帯のホイッスル・レジスター ― が、極めて高いピッチ(およそC6より上に)のために使われる。

第2に、女性の声は男性の声域よりおよそ1オクターブ高いので、女性は共鳴が利用できるキーボード音域中に倍音数の半分しか持っていない。(これはMaddeシンセサイザーではっきりと示されることができる:Madde探査2(118ページ)を見なさい。)この理由から、第1フォルマントを利用できる倍音にチューニングすることは女性の共鳴にとっていっそう重要である、ピッチが高いほど、その原則はより問題になってくる。

第3に、男性の声道より平均して20%短い声道で、大部分の女性は、彼女らの音色を作るキーボード音域の中で、より少ないフォルマント― 多くの場合わずか3つ ―しか持っていない。それにもかかわらず、それは依然として母音フォルマント(F1とF2)と使用可能なシンガーズ・フォルマント(F3)の無くてはならない主成分を含んでいる。一旦、歌手がおよそD5を越えるならば、基本周波数が支配的な倍音になって、必要な音量レベルを生み出すための周波数が十分に高いので、シンガーズ・フォルマントは全体的な共鳴と投射に対する重要性を減少させる。

最後に、第1フォルマントが高音部記号の中にあるので、女性は、男性より彼女らの音域の比較的はじめ、およそG4-G5から、上述のH1のF1追跡(母音を開くことによって)を用いる必要に直面する。言い換えると、歌手が母音の第1フォルマントのピッチに達するとすぐに、彼女はいかなる高いピッチでもその母音を開ける必要がある。*11さらにまた、一部のクラッシックの女性歌手はさらにいくらか母音を閉じ、低い頭声主体の音色のために、H1をフォルマント追跡するためにF1を降ろす。したがって、西洋クラッシックの女性の歌唱は、時間的に長い割合、フープで歌われる。この能動的母音変形は、彼女ら全員が、高音部記号の上の/A/のフォルマント・チューニングに取り組み、母音音色を平均化してある程度まで中立化するので、必然的に母音間の区別がなくなる。それにもかかわらず、十分な原文と子音の文脈と、連続したはっきりした意図された母音の概念をプラスして、いくらかの母音の区別と了解度を理解することは、その高い音域においても意外にも可能である。

*11 弱く、銀色のような、暖か味の少ない高い浮遊感が要求されるならば、歌手はより閉じた調音にとどまる場合がある。そして、H1(歌われているピッチ)がF1の上に上げる(フープ追跡を避ける)ことができる。

開母音の中声の課題 (Middle Voice Challenge of Open Vowels)
低い中声で、女性は一般に/i/、そして、/e/のような狭母音(特に閉じた前母音)を好む。これは、それらの母音の第1フォルマントが高音部記号の中で十分に低い位置にあるので、その音域のピッチの基音の周波数(H1)が効果的に共鳴するためだ。
一方、/ɑ/の第1フォルマントは、ソプラノのにとって高音部記号の最上位なので、一旦モード1が放棄されたならば、低い中声の/ɑ/はかなり弱くなるかもしれない。
いろいろな戦略が、音域のこの部分を強化するのに用いられることができる:

・モード1の訓練を通じて声帯自体を強くすること。(声帯は主に「胸声」の筋肉から成る;モード1を練習することは ― 適切な方法で ― より力強い声帯をつくる。);
・情動、大きな声道の姿勢、周致な線形の刺激(deliberate linear motivation)、しゃがれ声療法(creaky voice therapy)などを用いることにより完全な声門の閉鎖筋を見つけること;
・中間型を見つけ、さらに声帯の厚さを徐々に変えること(振動モードの2部分からなるシフトが常にいくつかのポイントで多分起こるだろうが、シフトは完全に分極化する必要はない、或いは、声帯の形を根本的に変える必要はない。訓練の効果は、できる限り移行がなめらかにならなければならない。)
・舌を高く前にすることで、歌われているピッチにその第1フォルマントを近づけるために、/ɑ/の修正を深化させること。
・H3の第2フォルマント共鳴を見つけること;
・それらの間にある第2倍音を共鳴させるのに十分なF1とF2を集める母音へ修正すること;
・より収束的に/閉じて共鳴器を形づくること*12。 /ɑ/がより収束的なほど、声道はより振動体の効率を促進する、と考えることができる。

*12 一般に、十分な内部のスペースと開いたのどであるならば、高音域の声にF1場所が高いすべての母音のために中声を通して閉じた調音の位置にとどまらせることは収束と共鳴バランスを向上させる。

高い中声 (Upper Middle Voice)
高い中声においてより良い機能が成し遂げられるとき、ソプラノは「広げられた(spread)」トーンのより広い、より短い、横の、「騒々しい(mouthy)」感じよりはむしろ、より背の高い、より狭いトーン(「目の後」にある「ドーム」)の聴感覚をしばしば報告する。
感覚は逆説的でありえる。
前面に置かれた舌、適度に閉じた、収束性の母音の形状、楽しい気分、そして、軟口蓋を、かなり硬口蓋の近で前に向かって引き上げられる感じは、たとえこれらの動きのセットによって、ノドの自覚がほとんどないとしても、すべて開いたのどを達成する。ノドのスペースのための筋肉運動感覚は、悪評高き間違いである。(開いたノドとノイズがない吸気(pp. 63-4)を参照)女性が、高音部記号の上半分を通って一番上の声区へと歌うにつれて、これらの戦略は、高い声のために必要なF1/H1フープ音色を確立するのを助けるように見える。一部の先生は、非円唇母音を、実際に円唇化することによって、この狭くする感覚の促進を勧めるが、たとえ上で述べられた内部の戦略が十分に成されたとしても、母音の外見を歪曲する必要はない。

フープ音色とそれ以降 (Whoop Timbre and Beyond)
一旦女性が母音の開きによってできるだけ高いF1を追跡する(およそBb5まで)ならば、彼女は、より高いピッチがF1/H1フォルマント追跡を続けるためにある程度喉頭を上げる必要がある。F1がそれ以上に上昇することができない場合、音響声区は、F1とF2が互いに十分に接近するホイッスル・モード(mode three)へ移行するので、H1は、集められた帯域幅によって、それらの間で共鳴することができる。時折これらの成層圏フォルマント・チューニングのピッチのそばで聞こえるピッチの際立った母音音質を説明するために、より多くの研究が、この領域で必要とされる。開母音/o ɔ ɑ a æ /に対する中間的変形(これらの母音フォルマント(F1とF2)のほとんどは比較的接近している)として、それらは一般的に認められる。いくつかの場合において、極度に高いピッチ(H1)はF2によって共鳴させられるかもしれない。

Madde探査5:フープ音色とそれ以降

F1/H1トラッキングの例 (Examples of F1/H1 Tracking)
ソプラノのLeontyne Priceが歌うRichard Straussの「Beim Schlafengehen」の録音に、中声の狭母音のF1/H1トラッキングのいくつかの優れた例がある。「sehnliches」という語でのメリスマは、終わり/e/母音(0;40)で、トラッキングを示している。

図10:「sehnliches」のH1のF1追跡:フープ音色/e/。

歌手が歌っているピッチの近くのF1をキープするためにどのように母音を開けるかについて注意しなさい。1:00の「Kind」の/I/母音もまた、フープ音色を維持するために、能動的に開かれ・修正されている。両方の症例において、母音を開くことは、音質の充満と丸みのためにF1の効果的帯域幅の範囲内でH1を十分に保っている。

図11:「Kind」のH1のF1追跡:フープ音色/ɪ/

H1のF1トラッキングによって音色を維持することのより劇的な例は、進行中の2:45-3:01にある「Seele」という語の/e/である:

図12:「Seele」のH1のF1追跡:フープ音色/e/。

最後に、3:18-3:30での「Flugen」と「schweben」の狭母音/y/と/e/がF1/H1を合わせる共鳴を追うためにかなり開けられている。

 

図13:「Flügen」のH1のF1追跡と「schweben」:フープ音色/y/、そして、/e/。

一旦、歌われるピッチが母音の第1フォルマントの周波数に達するならば、母音が開けられなければならないという事実は、かなり以前から知られていた。ただ母音がどのように開けられるか ― 喉頭が低くとどまり、のどが開き、状況に応じて、共鳴器に響きが集中し、上手く調整されるように ―は、先生/学生の協力での指導と改良を必要とする。
(これに代わる女性の音響戦略についてはベルティング(68ページ)の音響効果を参照。)

 

2018/02/09 訳:山本隆則