Respiratory Function in Singing

chapter 5
control
コントロール

INTRODUCTION
序説

呼吸動作は、神経システムによってコントロールされる。この章は、神経システムの構造といろんな呼吸活動のコントロールのための機能を考える。

STRUCTURE OF THE NERVOUS SYSTEM
神経系の組織

図5-1は、呼吸のコントロールにとって重要な神経系の部分を描画している。これらの部分は、2つの小部分、中枢神経系と末梢神経系を形成する。

図5-1.  成人の神経系。

(左図)Cerebral Cortex(大脳皮質)、Brain(脳)、Cerebellum(小脳)、Brainstem(脳幹)、Spinal Cord(脊髄)、Cranial Nerves(脳神経)、Spinal Nerves(脊髄神経)

(中央図)Thalami(視床)、Basal Nuclei(大脳(基底)核)、Medulla(髄質)、Central chemoreceptor(中枢化学受容体)、Peripheral Chemoreceptors(末梢化学受容体)、Common Carotid Arteries(総頸動脈)、Pulmonary Apparatus(肺器官)、Chest Wall(胸壁)、Mechanoreceptors(機械受容器)
(右図)Primary Motor(一次運動野)、Supplementary Motor(補足運動野)、Somatosensory、(体性感覚野)、Premotor(運動前野)、Limbic Lobe(大脳辺縁葉)

 

中枢神経系(Central Nervous System)

中枢神経系には脳と脊髄(spinal cord)が含まれる。脳は頭蓋骨内の神経組織のかたまりであり、脊髄は脊柱(vertebral column)を通って下に広がる脳の長い外肢である。中枢神経系内のいろいろな組織は呼吸のコントロールに関与する。そして、その活動は自動的に、自発的に、または、感情的に引き起こされるかどうかによって左右される。

無意識の呼吸コントロールは、脳幹(brainstem)に帰属する。無意識の呼吸にとって重要な組織は、髄質(medulla、脊髄(spinal cord)の最上部に隣接する脳幹の部位)にある。

意図的な呼吸は、脳内のいくつかの深層部といくつかの表層部の脳全体に分布される組織によってコントロールされる。これらの組織には、大脳(基底)核(basal nucleus)、小脳(cerebellum)、視床(thalamus)と大脳皮質(cerebral cortex)が含まれる。大脳皮質の中の運動野は脳の前頭葉(frontal lobe)で、一次皮質(primary cortex)、運動前野(premotor cortex)と補足運動野(supplementary motor area)が含まれる。脳の頭頂葉(parietal lobe)において、体性感覚皮質(somatosensory cortex)もまた、意図的な呼吸のコントロールに関与する。

感情的な呼吸の形は、主に脳の大脳辺縁葉(limbic lobe)内の組織の管理下にある。これらの組織は脳の深層に位置する。


<塀の上>
歌手は、横隔膜が「無意識の」筋肉か「意図的な」筋肉かとよく質問します。その答えは両方です。すべて他の骨格筋のように、横隔膜は、神経システムがたとえどんなことをしろと命令しようとも実行する奴隷です。それには、ある瞬間(しゃっくり)における無意識の行為と、別の瞬間(深い吸気)における意図的な行為があるでしょう。忘れてはならない主要なことは、横隔膜が自身の理性または脳を持っていないということです。歌手は、演奏している間のすべての動作または動作の欠如を正確にコントロールします。彼らは、このパワーに感謝しなければならりません。聴衆は、さらなる感謝をしなければならなりません。演奏の間、横隔膜が野放しの手に負えない障害柵であると思い知らされる混乱状態を想像しなさい。たちまちけんか腰になるだでしょう。


末梢神経系(Peripheral Nervous System)

末梢神経系は、中枢神経系を体の他の部分につなぐ。これらの結合は、脳と脊髄神経によってなされる。4つの脳神経が呼吸コントロールにとって重要である。これらは神経IX(舌咽神経/glossopharyngeal)、X(迷走神経/vagus)、XI(副神経/accessory)とXII(舌下神経/hypoglossal)が含まれる。そして、それは喉頭、上気道と首のいろいろな組織に神経を分布する。表5-1は、胸壁の運動神経支配だけをリストアップする。

表 5-1.胸壁の筋肉への運動神経補給の分節起始についての要約
(C;=頸部(cervical )、T =胸部(thoracic)、L =腰部(lumbar))。
DicksonとMaue-Dickson(1982)に基づく


筋肉(左側)—————神経支配(脊髄神経)


胸郭壁


Sternocleidomastoid(胸鎖乳突筋)——————————-     C1-C5
Scalenus Group (斜角筋群)——————————-     C2-C8
Pectoralis Major (大胸筋)——————————-      C5-C8
Pectoralis Minor (小胸筋)——————————-      C5-C8
Subclavius (鎖骨下筋)——————————-        C5-C8
Serratus Anterior (前鋸筋)——————————    C5-C7、T2-T3
External Intercostal (外肋間筋)―——————————-   T1-T11
Internal Intercostal (内肋間筋)——————————    T1-T11
Transversus Thoracis (胸横筋)——————————-    T2-T6
Latissimus Dorsi (広背筋)——————————-      C6-C8
Serratus Posterior Superior (上後鋸筋)——————————-  T2-T3
Serratus Posterior Inferior (下後鋸筋)——————————  T9-T12
Lateral Iliocostals Group (側腸肋筋群)————-   C4-T6, T1-T11, T7-L2
Levatores Costarum (肋骨挙筋)——————————     C8-T11
Quadratus Lumborum (腰方形筋)——————————    T12-L2
Subcostals (肋下筋)——————————         T1-T11


横隔膜


Diaphragm (横隔膜)——————————         C3-C5


腹壁


Rectus Abdominal (腹直筋)——————————       T7-T12
External Oblique (外腹斜筋)——————————       T8-L12
Internal Oblique (内腹斜筋)——————————       T8-L12
Transversus Abdominis (腹横筋)——————————     T7-T12
Latissimus Dorsi  (広背筋)——————————         上記参照
Lateral Iliocostals Group (側腸肋筋群)——————————   上記参照
Quadratus Lumborum (腰方形筋)—————————–     上記参照


 

FUNCTION OF THE NERVOUS SYSTEM
神経系の機能

呼吸行動は、起きているか、眠っているか、意識的であるか、無意識で、などのさまざまな状況と関係する可能性がある。それらはまた自動的か、反射的か、学習されているか、意図的か、感情的かのような用語でさらに分けられる。当面の目的のために、コントロールとは、それが周期性呼吸(tidal respiration)、そして、呼吸の特別法(special acts of respiration)に適しているものとみなす。また、コントロールとは、参加している神経衝動が起きるときと考えられる。

周期性呼吸(Tidal Respiration)のコントロール

周期性呼吸が自動的または無意識の呼吸であり、通常意識的な自覚なしで起こると言われる。周期性呼吸のコントロールは、主として脳幹におけるニューロンのネットワークに帰属する。これらのニューロンは、呼吸のためのいわゆる中枢パターン発生器(central pattern generator)を構成し、呼吸の連続的律動的なパターンを起こす。これは呼吸のためのいわゆる「深層」脳中枢である、そして、その機能は、生体恒常状態(homeostasis)を維持するために動脈血液ガスレベル(arterial blood gas levels )を管理することである。それは換気を調整(空気の出し入れの分量)することによってこれを行うので、 適切なガス交換(酸素の供給と二酸化炭素の除去)が生じる。

脳幹からの運動指令は、末梢神経を通って呼吸筋肉に伝わる。例えば、吸気指令は、吸気の主要な筋肉である横隔膜に伝わり、十分な強さであればそれを収縮させる。吸気指令はまた肋間筋肉も活性化するだろう。そして、それらを固定させ、補足的第一動力(より力強い吸気の間)として働かせる。

入力される情報のいろいろなフォームは、呼吸筋肉に送られる運動性指令に影響する可能性がある。この情報のいくつかは、無意識に受け入れられ処理される、ところが、一部は意識(感覚)のレベルで、または、意味と関連性(知覚)のレベルで処理されるかもしれない。これは、呼吸に関係のある現象(例えば、呼吸に必要な動きと力と感覚)を知覚することを可能にする。

情報は、化学受容体(chemoreceptors)と力学的受容器(mechanoreceptors)(化学変化と物理的な変化に鋭敏な組織)の各々から来る可能性がある。化学受容器は中枢と末梢の2つのタイプがある。中枢化学受容器は脳幹に位置して、脳脊髄液で主に二酸化炭素の変化に反応する。二酸化炭素のレベルの増加は、脳幹活動の増加と、同時に生じる換気の増加の結果を検出した。末梢化学受容器は、普通の頸動脈が分岐する頸動脈小体の近くにある。これらは主に酸素受容器である、しかし、それらはさらに動脈血で二酸化炭素と酸性度-アルカリ度バランスのレベルの変化に反応する。


<感じ>
呼吸器官から来る情報を用いるとき、あなたとあなたの神経系の間には違いが生まれます 。あなたの神経系へ流れる情報は、求心性情報と呼ばれます。神経系は動きを達成する際にこの情報を使うかもしれませんが、あなたは意識的にその情報、またはあなたの神経系がそれを用いているという事実に気づいていないかもしれません。つまり、あなたの神経系は、あなたが知らないことを「知っている」かもしれません。求心性の情報はあなたの脳内で、あなたがそれに気づく前に感覚を引き出さなければなりません。
その後であなたは知覚に基づいて動きを変えるかもしれません。あなたの感覚(sensations)は、呼吸器官に関するあなたの「感じ(feeling)」です。それらは、あなたの指令に従っているか否かに関係なく、それが行っていることをあなたに知らせる 、そして、あなたの脳の他の部分とともに、あなたが望んだものとあなたが得ているものの間に一致するものがあるか否かにかかわらずあなたに教える。


機械受容器は肺器官と胸壁に位置する。肺器官の中のものは、平滑筋の伸ばし、気道刺激物と肺胞壁のねじれに反応する。このタイプの情報は、脳神経Xを通して中枢神経系に伝わる。胸壁の機械受容器は、筋肉の長さと筋力の変化に反応する。このタイプの情報は、脊髄神経を通して中枢の神経系に達する。

他の情報源もまた、周期性呼吸のパターンに影響するかもしれない。特に重要なのは感情因子と認知因子である。周期性呼吸の変化は、一般的にある種の情動にかかわっていて感情的な経験から分離できないかもしれない。呼吸パターンの有意な変化もまた認識活動から生じる。例えば、周期性呼吸について考えることも、そのパターンに影響を及ぼす可能性がある。

呼吸の特別法(special acts of respiration)のコントロール

呼吸が、動脈血ガスの生体恒常状態(homeostasis )を保持する主目的を果たさないとき、必要とされる活動は呼吸の特別法と呼ばれる(Shea、1996)。呼吸の特別法は、脳幹レベルでコントロールされない。むしろ、それらは「深層」呼吸中枢(脳幹)の活動を無効にするか、それを迂回する 「表層」脳中枢によって、コントロールされる。

呼吸の特別法は、いろいろな形態がある。いくつかは、息の保持(breath holding )または先行された呼吸(guided respiration)のように非常に意識的である。鳴っているか、歌っているよく練習された管楽器のようなものは、呼吸の意識的な認識はほとんど必要としない。さらに別のものは、泣いたり笑ったりのような情動によって動かされる。

呼吸の特別法は、運動プランを必要とする。このようなプランは、表層脳中枢によってもたらされる。関与する組織は、大脳基底核、小脳、視床、主要な運動皮質、運動前野、補足運動野と体性感覚皮質を含む。動きがさらに習得され意識的な導きが少なくなるほど、運動性プランの実行における表層脳中枢関与に置かれる依存度は少なくなる。

呼吸の特別法は、コントロールに関して独自の特徴を持つ。それらのコントロールが脳幹呼吸中枢の活動を無効に(または回避)することができるが、いつまでもそうすることはできない。望ましい例は、意図的な息の保持である。化学受容体からの危険信号が非常に強力になってもはや吸気を抑制することがあり得ないようなポイントがある。

大脳辺縁系(「古い脳(old brain)」)は、深層(脳幹)呼吸中枢に強いつながりを持っていて、その出力に応じて強い影響力を持つ。笑うまたは泣く状況下での辺縁性の衝動は非常に強力なので、ほとんど他のどんな意図的な行為も無効にすることができる。例えば、すすり泣いているときに話そうとする状況を考えなさい。

争う衝動の統御

呼吸コントロールは、争う衝動が神経供給源と競うときより複雑になる。周期性呼吸の要求が、呼吸の特別法を実行するための要求と同時に満たされなければならないときに競争が生じる。例えば、高い標高で歌うことは海面で歌うことより難しいかもしれない、なぜならば、「空気が薄い」ところでは、呼吸する衝動がより大きいからだ。或いは別の例で、一人で練習しているときよりもステージで緊張しているときの方が、 適切な呼吸パターンで話すことは難しいかもしれない。

争っている衝動は、いろいろな戦略を用いて対処することができる。1つの戦略は、妥協することである。例えば高い標高で歌うとき、妥協点は、深く吸い込み、呼気の最初の部分がすぐになくなる間に歌い、あらためて深く息を吸うことかもしれない。したがって、換気は血液ガスの必要性を満たすために増加することができ、歌唱は最小の中断で持続することができる。もう一つの争う衝動を統御するための戦略は、1つのものを一時的に勝たせることである 。ステージ恐怖をもつ話者の場合、戦略は深い息をとるためにちょっとの間話すことをやめることかもしれない。これは、同時に大脳辺縁系から感情的な衝動を鎮める働きをし、より神経情報資源を話す行為に向けることができるだろう。

REVIEW
復習

呼吸動作は、神経系によってコントロールされ、そのコントロールの性質は、いろいろな呼吸活動によって異なる。

中枢神経系には脳と脊髄があり、いろいろな呼吸活動のための動きのパターンをつくる役割を果たす。

末梢神経系は、呼吸器官のいろいろな部分に、4つの脳の力から付加された影響力で、22の脊髄神経を通して中枢神経系をつなぐ。

呼吸活動は、しばしば、自動的、反射的、習得された、意図的、感情的のような用語を用いて分類する。

周期性呼吸のコントロールは、呼吸のためのいわゆる中枢パターン発生器を構成する脳幹で、ニューロンのネットワークの中で主に帰属する。

周期性呼吸中の呼吸筋への運動指令は、化学と物理的な変化に鋭敏な受容体から受け取った情報のいろいろな形によって影響される。

感情と認知の要因もまた周期性呼吸のコントロールに対する重要な影響力を持つ。

呼吸の特別法は、呼吸のための脳幹中枢パターン発生器を無効にするか、それを回避する、そして、コントロールが表層レベルの脳中枢によってもたらされる多くの形をとる。

呼吸コントロールのための争いは普通によくみられる、そして、このような競争から起こる必要性は、神経情報資源と神経情報資源の使用を交替するための妥協点にかかわる戦略によって満たされることができる。

訳:山本隆則 2019/05/18