stylo-hyoid (茎突舌骨筋)は、耳の後ろにある茎状突起と呼ばれる軟骨から舌骨に走る筋肉。喉頭を引き上げるいくつかの引き上げ筋の一つで、嚥下(swallowing)の後半に緊張します。人がものを飲み込む動作は、声を出すことよりもずっと大事なことです。声が出なくても生きてゆけますが、食べ物を飲み込めなくなったら間もなく死を迎えることになるでしょう。それほど重要な筋肉ではありますが、発声にとっては厄介な代物となります。
歌の未訓練の人が、自分の音域の限界に近い高い音を出すとき、顎を突き出し、首に青筋を立てて苦しそうに歌っている姿をよく見かけるでしょう。その主犯格の犯人が、茎突舌骨筋なのです。

コーネリウス・リードは、彼の発声辞典で、false elevator について書いているということは、欧米の発声教育では一般的に言われている名前なのでしょうが、この”false”は、偽のという意味ですが、false vocal cords 仮声帯に準じて、仮挙筋(かきょきん)なのか、偽の挙筋なのかどちらに訳すべきなのでしょうか?

喉頭の偽の挙筋:舌から舌骨に付着する筋肉、すなわち、顎舌骨筋、二腹筋、茎突舌骨筋とオトガイ‐舌骨筋。喉頭の偽の挙筋は、蠕動性動き(すなわち、嚥下)の間、活動的になる、その結果、それらの筋肉が緊張すると開いたのどの発声を妨げる。高い喉頭による歌唱はこの緊張を表し、ある程度の喉の締めつけがあることを示す。

Barbara M. Doscher は、さらに興味深い見解を紹介しています。

「4つの主要な舌骨上筋は、二腹筋、茎突‐舌骨筋、顎‐舌骨筋とオトガイ‐舌骨筋である。これらの筋肉の多くは、「仮挙筋」(false elevators) と呼ばれるものである;つまり、それらの使用は、舌と咽頭域で好ましくない緊張を生成する…..最近の調査は、オトガイ‐舌骨筋についての興味深い新情報を明らかにした。K. Hondaは、この筋肉(舌骨に直接付着している)は、高い振動数で舌骨を積極的に前にうごかし、また、このように甲状軟骨を前に回転させて、声帯を伸展させる、と示唆する。彼はこの筋肉を「補助緊張筋(tensor)メカニズム」と呼んで、それが特により高い振動数の前母音のために、輪状甲状活動を補うと考えている。」と言う。

どちらにしても、茎突舌骨筋の近辺には似たような箇所をつなぐ多くの筋肉がありますが、「偽の挙筋」(false elevators)として、良い発声を邪魔する最も始末の悪い筋肉であることは明らかなようです。

この筋肉が悪者であるとわかれば、その対策として考えられるのは、この筋肉を緊張させないでおけばいいのです。
どのように?参考になるのは、ジーリやカルーソーの歌唱中の胸から首にかけてのかなり上向きの姿勢、また、耳の後ろの感覚です、これは、カルーソーの歌唱中の眉毛の垂れ下がった角度が参考になります。また、20世紀の最も重要な歌唱教師Paola Novikovaは、「声は耳の後ろから前に出しなさい!」などの助言が参考になります。
一般的に日本人の歌手の多くは、首を前に傾ける傾向が強く、頭を上に向けて声を出すことはありません。極端な場合、欧米のソプラノはベットにあおむけになっても平気で高音が出せますし、テノールやバリトンが音がたくなればなるほど上を向いて歌っているシーンはよく見られます。
IMG (2)茎突舌骨筋を緩めようとすると、耳の後ろと喉頭の上が短くなるので、その結果そのような姿勢が維持されるのではないでしょうか?