[A DICTIONARY of VOCAL TERMINOLOGY by CORNELIUS L. REID, p.121, 1983]
フェインド・ヴォイス(偽の声):イタリア語、voce di finte;古風な用語で、胸声とファルセットという2つの声区のメカニズムの間のつながりを表すファルセット由来の音質を指す。
フェインド・ヴォイスの正確な意味は不明であるが、17世紀と18世紀には、ファルセットとほぼ同義語として考えられていたことは間違いない。ポルポラの弟子であったドメニコ・コッリDomenico Corri(1746-1825)は、これらの用語を互換的に使用していた多くの人物の一人であり、胸声部の直上の音域を「フェインドまたはファルセット」と称していた。フェインド・ヴォイスを定義した唯一の著者であるアイザック・ネイサン Isaac Nathan(1791-1864)は、この用語を異なるコンテクストで使用した。彼は、チェスト・レジスター、ファルセット、ヘッド・ヴォイスに加えて次のように述べている
4つ目の声の種類は、ほとんど評価されておらず、その結果、ほとんど育成されていない。イタリア人にも、この独特なスタイルに名前をつけた英国人にも、後援者を見つけることができないため、私はそれをフェインド・ヴォイスと呼ぶことにする。私は、ファルセットが偽声とみなされていることを知っている。確かに、人工的な抑制によって作り出されるその声は、偽声であるに違いない。しかし、私が言及しているサウンドの音質は、喉で作り出されるものではなく、すでにファルセットという名称で区別されているものでもない。また、頭声でもない。それは、遠くから聞こえてくるような、甘く柔らかな美しい響きであり、まるで魔法の呪文のようにこだまする。[Isaac Nathan, Musurgia Vocalis (LOndon: Hentum, 1836), p. 117.]
この声の効果は、2つの声区のメカニズムを結びつけるために重要であるとネイサンが考えていたことは、次の記述から明らかである:
男女の声には、ある程度ブレイクがあるが、特に男性の声には、ヴォーチェ・ディ・ペットとファルセットの間に明確なブレイクがある。発声器官のこの部分で、ヴォーチェ・ディ・ペットがファルセットとつながっている部分を、イタリア人は「小さな橋」という意味の「イル・ポンティチェロ」と呼ぶ。このヴォーチェ・ディ・ペットを小さな橋の上で安全に歌いこなすことができる歌手は、本当にその美しさを歌い上げることができる。ここで、シンガーは、2つの音質を、その接合部で、一方から他方への移行が耳で感知できないような方法でブレンドするよう工夫すべきである。これは、フェインド・ヴォイスの助けなしには達成できない。フェインド・ヴォイスは、ファルセットを胸声に持ち込む唯一の手段、あるいは媒体であると考えるのが妥当であろう。
もし私のフェインド・ヴォイスに関する説明がわかりにくく、初心者がその練習やファルセットとの区別に困難を感じたとしても、それは2つの音が互いに似ているように見えることから、そうなる可能性がないとは言えない。その場合、初心者はファルセットを異なる母音で発声してみることで、その疑問をすぐに解消できるだろう、その試みのなかで、イタリア語の幅広いaを物理的に発音することが不可能であることがわかるだろう、しかし、フェインド・ヴォイスはあらゆる抵抗を本能的に乗り越え、そのイントネーションの媒体と化す。この局面では、音質の2つの性質を即座に把握しなければならない。
したがって、ファルセットは口の閉じた状態の大きさによって完全に支配されていることが明らかである。口蓋弓の上にある小さな空洞、すなわち内鼻と呼ばれる部分には影響を及ぼさない。さらに、後者は声門のすぐ上、口蓋垂が位置する喉と頭の後ろの部分で形成される。口蓋の覆いが上がり鼻腔を塞ぐため、音が鼻腔を通過できなくなり、結果として、音は直接、口を通って通過せざるを得なくなる。
これまで、フェインド・ヴォイスとファルセットを区別することで耳を鍛えてきた初心者は、任意の音でファルセットから始めて、その2つの音質をブレンドするよう練習すべきである、そしてその音を伸ばしている間、息を継ぐことなく母音を変化させなければならない。これは間違いなく望ましい融合に影響を及ぼすだろう;それが達成されたら、次の目的はフェインド・ヴォイスをヴォーチェ・ディ・ペットと融合させなければならない。
すべての音は、フェインド・ヴォイスでできるだけ静かに始め、徐々に音量を上げ、すぐに最初のピアニシモに戻す。声の力強さと音質が向上したら、徐々に音量を上げるが、注意深く行うこと。少しでも不規則さや荒さが見られる場合は、その歌手が自分の器官がまだ対応できる範囲を超えてしまっている証拠である。声の不安定さや震えは、音を小さくすることで改善できる。逆に、音を大きくすると、欠点を増長し、悪化させるだけである。[pp. 144-145]
フェインド・ヴォイスに関連するテクニックの使用は、間違いなく、ベルカントの伝統で訓練された人々の信じられないほどの能力を裏付けるのに役に立った。
【feigned〈形〉とは、feign〈動〉 想像する、…を装う、振りをする、でっちあげるなどの形容詞で、うその、見せかけの、偽りの、仮の、などの意味がありますが、偽声と日本語に訳してしまうとファルセットとの区別がますます曖昧になるのでフェインド・ヴォイス又はヴォ―チェ・ディ・フィンテとした方が望ましいと思います。】
2025/04/01 訳:山本隆則