[Practical Vocal Acoustics by Kenneth W. Bozeman p. 41]

Chapter 7
Male Passaggio Training

Vowel Modification Revisition  母音修正再考 

母音の修正vs母音の完全性または「純度」の問題は、発声教育学の歴史を通じてたえず議論されてきた。人間の認識が複雑に絡み合うことで、両方の概念が必要とされにもかかわらず、明確な定義はなされていない。倍音がフォルマントを通して大きくなるとき、音色がいくぶん変わるという明白な事実があれば、ある程度の母音修正または変化は必然的なものとなる。しかし、母音修正は、歴史的に、修正された母音音色を生み出すための意識的な声道の形の変化から、はっきりした母音の置き換えにまで及ぶ。ここに紹介された受動的な母音修正の概念は次のことを指摘する、ピッチ(その倍音列を伴って)が上昇するとき、倍音が第1フォルマントを通り過ぎて移動するにつれて、声道(チューブ)(すなわち、母音形)が一定に保たれれば、ある程度の母音シフトは必然的に起こる。この種の母音変化は歌手に、同じ系統群内または前後の指定に関する同じ「通りの側」【訳注:前舌母音・口舌母音の系列のこと】で、微妙な移動を与えるが、彼/彼女に母音 ― 少なくとも形において ― を維持しているように感じさせる。おそらくすべての教師が避けたいものは、母音歪曲の認識である。これは、たとえば、/ɔ/のような開いた後舌母音が、/œ/のような混合母音の音質をいくらか持つようになる時に起こる。これは、ターニング・オーヴァーの音響効果より舌の緊張を示している、そして、F1/H2交差の上での/ɔ/の通常のスピーチの形を維持することからは生じない、その代わりに/ʊ/のほうに移らなければならない。
受動的な母音修正の現象は、要するに母音修正とは何か、またどうあるべきかという問題を提起する。それは、より好ましいフォルマント/倍音結合を見つける試みの異なる話声母音の姿勢への考えぬかれた共鳴器の再構築なのか?または、それはむしろ、ピッチを変えてフォルマント/倍音の関係が変わるときに、母音の形を維持する結果として起こる知覚的な変化のことであるのか?または、状況によっては、おそらく両方なのか?これらの質問は更なる研究を必要とする、しかし、この著者の意見では、ターンの下からそのすぐ上まで、後者(形を維持する)が優勢でなければならない。ターンとフープ音色の間では、どちらでも使うことができる。F1/H1のフープ・カップリングより高くから、能動的な形体変化(母音を開くこと)の何らかの形は、歌手がどのようにその形の変化に動機づけするかに関係なく、音色の豊かさを維持するのに用いられなければならない。理想的には、歌手は、より多くのスペース ― 主に下顎骨の開きを加えることによる内部の垂直スペース ― を加えること以外に、歌っている語の母音を考え続けることができなければならない。より開いた隣接する母音(母音代用)を実際に考えることによって、何人かの歌手はより良い結果を獲得する。母音を形づくることの微妙さは、人が同じピッチで他の母音と多かれ少なかれ適切に比較することで意図された母音の独自性を保つのを可能にするだろう。とは言うものの、もしもテノールのハイC(C5)で、声道が、1オクターブ下で使われる/i/母音を、良く分かるようにではなく、共鳴の必要性のために形作るのならば、人が/i/や/I/、あるいは、他の何らかの動機付けの修正を考えていたかどうかにかかわらず、それは/i/とは聞こえないだろう。反対に、テノールがC5で、通常の話声域の/i/の形を試みるならば ― 発声さえ可能であるならば ― 音色は主に緊張するかまたは締め付けたように聞こえる。良い音のために、そして、楽な発声のためにそのような状況(通常のF1周波数を上回って歌うとき)で声道の形を変えることは重要である。
歌っているときの、すべての修正に対する1つの原則は、第1フォルマントの下にある倍音の数に関係する。歌われているピッチがより低いほど、より多くの倍音が第1フォルマントの下に存在する。さらにまた、低いピッチを歌うとき、通常、より多くの倍音(H3またはそれ以上)が第1フォルマントによって大きくなっている、そして、それの下の倍音はより近くに引きよせられ(trailing)、しばしば、F1の帯域幅(裾を登る)の範囲内に集められる。したがって、引きよせられた倍音(trailing harmonic)は、F1によって共鳴させられ、このように、すぐ隣りの高い倍音によってちょうど譲られた突出を引き受けることができるように位置を定められる。第1フォルマントの下にある複数の倍音によって、第1フォルマントより上には、第2フォルマントとそれ以上のフォルマントによって共鳴させられる利用可能なより密接な間隔の倍音も存在する。それゆえに、より良好なフォルマント/倍音の一致のために形を修正する必要はほとんどない。したがって、二つ以上の倍音がF1の下にある音域で ― 声道の全般的に望ましい、収束性音響の平衡を越えて ― 能動的な母音変形を求めるべきではない。
第1フォルマントを通して大きくなったより高い倍音(より密接に引きよせられた倍音たち)は、可聴であるが、より微妙な音色の閉じまたはターニングを生み出す。しかし、第2倍音が第1フォルマントを通して大きくなるとき、トレイルしている第1倍音はほとんど1オクターブ下である、その結果、音色の変化(振動器に対する双方向のフィードバック影響は言うまでもなく)はより重要である。一旦、フープ音色が成し遂げられたら、つまり、H1がF1の周波数ピークに到着するならば、トレイルしている倍音は残らない(H1の下には倍音は存在しない-それは定義上最も低い倍音である)、そして、共鳴が利用できる基本音色音域( primary color range 、キーボード音域)の中に、数少ない高い倍音が多く存在する。したがって、高いピッチと共に、フォルマント・チューニングはますます必要になり、基音がより高くなれば、母音修正はより重要且つ大きくなる。第1倍音が第1フォルマントの上に上昇するならば、それが共鳴するために第1フォルマントの下には倍音がなくなり、音色はすぐにか細くなるので、フォルマント・チューニング(歌われているピッチと協調してF1を上げる)が欠かせなくなる。

訳:山本隆則 2018, 2.14