Chapter 7
FIXED FORMANTS AND VOWEL MODIFICATION
話すことと歌うこと p. 162
「歌うことは、話すことと異ならない。」
あなたはその声明をどれぐらい度々聞きましたか? とても論理的に聞こえる考え方を論破することは非常に困難です。そしてまた、そのように述べられることも理解できます。歌手または歌手達は、どれほどいい加減な発音習慣をしているのか。あるいは、リスナーは、母音と子音がもっと正確に明瞭に発音されさえすれば、テキストがよりわかりやすいのにと感じるかもしれません。
ある程度技術的な熟達が得られなければ、少なくとも「クラシック」歌唱では、良いディクションは不可能でしょう。母音は歌唱サウンドの99%を占めて、均一で、流れるようなサウンドを生みだすために正しく調律されなければなりません。正しい呼吸の機能的な調和、効率的に活動している振動体(声帯)、そして、うまく調律された共鳴する声道は、わかりやすいディクションの優れた技巧のための前提条件となります。
歌うことは話すことと異ならない、ということに関して、大いに異なるいくつかの確かな方向性があります:
(1) スピーチは、特定の音程と結びつかない。
スピーチでは、すべるように動く音高の変化が広範囲に使用されますが、歌唱において、少なくともクラシック歌唱では、特定の音程が決められ、イントネーションのわずかな不規則性ですら美学的に不快なものとなります。
(2) スピーチは、継続されない。
スピーチ・サウンドは通常一定に延ばされないので、特定の母音と子音の投射のために、共鳴器はすばやく調節されます。
(3) フォルマントと話し声。
ほとんどすべての普通の成人の話し声の音域は、歌声よりかなり低くなります。「ハイC」で話す人はいません。男性の話し声の周波数の中央値は、おおよそ145サイクル/秒(D3)で、女性はおおよそ230サイクル/秒(B3)(53)です。そして、両者とも最も低い第1フォルマント(さらに抑揚における変化も考慮される)よりかなり低くなります。
(53)Lloyd A. SmithとBrian L. Scott、「Increasing the Intelligibility of Song/歌の理解度の増加」、NAT Bulletin、25:2の(1968)
(4) 話す音域は、ずっと狭い。
話す音域が5度以上になることはめったにありませんが、歌の音域は少なくとも2オクターブに達します。その結果、スピーチにおいては母音を区別するための部分音の選択肢が多くなります。この選択は、適切に共鳴器を変える調音器官の素早い動きと共に、スピーチにその理解度と正確さを与えます、その一方で、歌でよく使われる高い周波数では、使われる母音の変更と普通の調音のスピーチ習慣の変化が必要となります。
(5) 声門下圧と喉頭の位置。
話すことにおいて、声門下圧は主に音量のコントロールのために使われます;音量の上昇は基本周波数の上昇を意味します。しかしながら、歌では、意図された音量と音高のために「各々の音は、それ自身の圧力を必要とします」。(59) 言い換えると、音量の増加は、必ずしも基本周波数の上昇を意味しません。同じぐらい重要なことは、歌唱フォルマントは話し声には滅多に存在しないので、その結果、喉頭の位置は重要ではないということです。
(59)Johan Sundberg、「何が、歌手についてそれほど特別か?」声のジャーナル、4:2の(1990)、108。
しかしながら、ごく少数の話者はリスナーを圧倒的なサウンドで感情的にかきたてることができます。偉大な歌手が持つ音域、投射と色のパレットを持っていたリチャード・バートンのような俳優はめったに現れません。ほとんどのスピーチはそのような投射を必要としません、そして、実のところ、上記のように、ほとんどの話し声はサウンドにそれ程多くの響きを与える歌唱フォルマントを使いません。訓練された歌手が効率的な発声(すなわち、最も低い可能な熱量と喉頭部区域の摩擦)を使うならば、音響的な力への呼吸エネルギーの最適の変換が起こるでしょう。変換率は、与えられるエネルギーの1%から10%に及ぶ。(60) 対照的に、典型的な会話のスピーチは、0.1%のみを変換する。
(60)Ingo Titze、「音のFoucusと声のプレイスメントのための科学的な説明はあるか?」NATS Bulletin, 37: 5 (19811), 27.
良いディクションは歌手にとって賞賛に値する必要な目標であるが、単に話し声を真似することによって得られるものではありません。
2017/11/13 山本隆則:訳