〔128〕 後頭部空間の共鳴を示す〈クッペル〔=ドーム・丸天井〕音響〉と言う美しく、非常に具体的な言葉は、これまでそうであった以上に、歌手の間に大いに定着しなければならないであろう。しかし、たとえば頭蓋前面の共鳴を表すために、〈マスク〉〔148〕という用語が正しく評価され、声楽家語彙の中に確固として取り入れられるまで、実際何十年もかかったのである。それと同じように、〈クッペル〉の柔らかく、丸みのある共鳴が、声楽界で確実な概念となるまでには、まだしばらく時間がかかるかもしれない。
共鳴の面(歌手が把握し、彼の表象的世界で用いるような)では、クッペル音響と言う表現は、本来の頭部共鳴と完全に一致する。両者とも頭部後方部の共鳴を指しており、そこから、頭部共鳴(1)を得るためには、〈後頭部をからっぽに〉〔300〕しなければならない、と言う歌手の言葉が生まれるのである。両者とも声帯より上方の空間、したがって、咽喉腔、咽頭腔、鼻咽腔〔173〕の共鳴を意味している。両者とも音響的には柔らかさと響きを丸みづける要素を代表している。それは金属的な輝かしい共鳴である 頭蓋前面の共鳴とは対照的である
クッペル音響は頭声機能〔129〕に典型的に属しており、そのドルチェ(柔らかさ)を穏やかに反響させつつ、さらに運び伝えるのである。力強いフォルテにおいても、それは音響に丸みと振動美を付加する。女性の高音部にとって、それは絶対的に重要である。そこにそれが欠けると、音響は鋭くなり、高貴さを失ってしまう。
(1)筆者(マルティーセン= ローマン)は〈頭部共鳴〉という語を、主として後頭部の共鳴=クッペルとして用いているが、時としてはクッペルのほかに、さらに頭蓋前面部=マスクをふくませていることもある。〔178〕や〔217〕を参照のこと。
[フランツィスカ・マルティーセン= ローマン、歌唱芸術のすべて p. 182]