第4章
Formants Primer
フォルマント入門

声道(Vocal Tract)
声道は、片端が開き、別の端でほとんどの場合閉じているチューブである。上記のように、一次共振または定常波が、声道の長さの4倍の音波の周波数で、それは1/4-波長共鳴体を作る。さらにまた、そのような共鳴体は、より高い周波数で共鳴を持つ(声道の中の定常波は1/4の奇数番号:3/4、5/4、7/4などをつけられた倍数である)。硬い壁の共鳴体 ― 金管楽器のように ― は、むしろ特定の、狭い倍音周波数でのみ共鳴するだろう。軟らかい壁のチューブである声道は、別の1/4-波楽器より広い周波数帯域幅で共鳴する。これは声道に、その共鳴周波数ピークの近くにある音源倍音も強化することができる。しかしながら、広く間隔があいた声道共鳴の中ほどにある音源倍音は全くとまでは行かないまでも著しく弱体化されるだろう。

フォルマント(Formants)

声道は形を変えることができる不均一なチューブなので、その生来の共鳴は-限度内で-上で挙げたもの以外の波長に調整することができる。これらの共鳴は、ほとんどの音声・科学論文でフォルマント(7)と呼ばれている。フォルマントは同時に、声道の固有共鳴(natural resonances)である。これらは、一般的に、聴覚的有意性に関して、十分に低い周波数と、十分に強い強度を持つのは、3~5個のフォルマントだけである。それらの周波数の位置は、長さと声道/チューブ(Titze、1994)の形による。チューブの長さは、全フォルマントのフォーメイションの一般的な位置を決定する:
・チューブがより長いほど、フォルマント周波数は低くなり、そして、聴覚的な有効度に入るものが多くなる。
・チューブがより短いほど、フォルマント周波数は高くなり、そして、聴覚的な有効度に入るものは少なくなる。
フォルマントがどこにあるかは、主にチューブの長さに依存し、全体的な声質を決定する、それゆえ、長さは、歌手の声種またはFach(ヴォイス・タイプ)を決定し、それを維持するために重要な要素となる。それらの喉頭の位置 ― それによるチューブの長さ ― がピッチ変化のために絶えず変ってしまう歌手は、統一された音質も一貫した音質的カテゴリー(最も高い音域のソプラノは除外される)も達成することはないだろう。

(7)いくつかの音声音響学科では、用語フォルマントは、共鳴体のピーク共鳴周波数のために使われず、むしろ、共鳴体がどのようにして声源倍音をフィルターに通すかを考え、放射音(the radiated sound)のスペクトル・ピークのために使われる。そのような場合、共鳴ピークが正確に音源倍音に同調するならば、あるいは、反対に、倍音が正確に共鳴ピークに到着するならば、その場合のみ、チューブ共鳴(声門から唇へ音をフィルターにかけ移動するチューブの潜在能力)とフォルマント(放射状に広げられた音の実際のピーク)は一致するだろう。しかしながら、大部分の歌声論文はこの区別をしない、声道共鳴の同義語として、用語フォルマントを用いる。

フォルマントの数(Number of Formants)
フォルマントの数は理論的には無限であるが、3~5(声種または声道の長さによる)だけが、およそ聞き取れる音域の中(キーボード(約4200 Hz下の音域)に納まり、音色にとって非常に重要である。
(8)人間の可聴音域は約20,000Hzに及ぶ(それはキーボード(およそEb10)の音域を2オクターブ以上越える)。ピアノ・キーボードを越える周波数が一定の子音に存在し、いくつかの歌唱スタイルで音質に貢献しうるが、それらは通常、西洋クラシック発声の教育学(この研究の焦点)において有意な役割を演じることはない。
その音域の中で、バスは5つの、ソプラノは3つの、そして、他のほとんどは4つのフォルマントを持つ。フォルマントは、F1、F2、F3、F4、など、番号がつけられる。

Madde探究3:音源倍音のフォルマント共鳴;倍音/フォルマント妨害

フォルマントが演ずる役割(The Roles Formants Play)

母音フォルマント(Vowel Formants)
最初の2つのフォルマント(F1、F2)は、声道の形の変化に最も敏感に反応するので、母音を分化させ、決定するための調整が可能となる。それゆえに、それらは母音フォルマント(vowel formants)と呼ばれる。それらは主に、声道の内側で舌の膨らみや円丘によって、そして、チューブの出口(唇形)のサイズによって、狭くされるところを適応させることによって調整される。前方(唇に近い)近くの内部を狭めることは、第1フォルマントをより低く、第2フォルマントをより高くする。後部近くを狭めることは、第1フォルマントを高くし、第2フォルマントを低くする。唇を丸くすることは両方のフォルマント(特に第1)を下げる、そして、唇の横への開きは両方のフォルマント(特に第1の)を上げる。声道の形のこのチューニングは、スピーチの論文で一般に調音として言及される。


図3:最初の2つの声道フォルマント(母音フォルマント)のスペクトログラフィック・モデル。

母音変更(修正)(Vowel Modification)
理想的にその長さを保っている間、最初の2つのフォルマント周辺を動かすことは、声道を再構築することによって母音を調整するか、さらに変えることになる。これは、通常、母音変更(Vowel Modification)と言われる。これは、習慣的な発話姿勢から声道の意図的な再構築を伴うので、より正確には能動的母音変更(active vowel modification)と呼ばれるかもしれない。(後でより詳しく)

第1フォルマントの役割(The Roles of the First Formant)
第1フォルマントは、音色の深さ(depth)または充実(fullness)、そして、母音の開放‐閉鎖度を決定する。さらに、これから学ぶように、すべての音響声区現象(喉頭部は別にして)は、第1フォルマントと喉頭音源倍音の相互影響によって生じるか、それに関するものである。

声色の深さまたは豊かさ(Depth or Fullness of Timbre)
第1フォルマント(声の最も低い共鳴)は、響きの深さ(depth)と豊かさ(fullness)(すなわち、音の中の低い倍音の強さ(音の暖かさまたは丸みとしても記述される))を生み出す役割がある。第1フォルマント(F1s)が、C4とC6の間の2オクターブにあり、通常高音部譜表(D4-G5)と重なっている。任意のあらゆる声の第1フォルマントは、すべての母音で、/i/母音の最も低いF1から/ɑ/母音の最も高いF1まで、1オクターブ異なる。第1フォルマントの周波数ピークの近くに少なくとも1つの音源倍音を持つことが、フルに共鳴し、音色の深さを持つために必要である。これは、高音域の声にとって特に重要になる。音源倍音が第1フォルマントによって共鳴してないならば、音声は充実感を欠き、薄くてかん高いものになるだろう。これに対するありうる例外は、ホイッスル声区である、それはいずれにしろ音質では一般的に全く豊かな響きではないが、一部の歌手においては非常によく響いてる。後者の場合、基音または第1倍音は、おそらくフォルマント1と2の集積によって、または、あるいは第2フォルマントによって共鳴させられている。歌われている母音に対してF1の周波数がより低いほど、喉がより開いていることを知ることは有益である。

母音の開きと閉じの寸法(Openness-Closeness Dimension of Vowels)
第1フォルマント周波数はまた、母音の開き(openness)または閉じ(closeness)も決定する。/i/や/u/のような閉じた母音(Close vowels)は、低い第1フォルマントを持つ。/ɛ/、/ ɔ/、あるいは、/ɑ/のような開いた母音(Open vowels)は、高い第1フォルマントを持つ。それゆえに、フォルマント(訳注:この文章での2つのフォルマントは、第1フォルマント)が高いほど、より開いた母音となり、フォルマントが低いほど閉じた母音となる。色と同様に、周波数の音域がひとつの色の名称(赤、たとえば)によって特定される場合、母音もまた同じである。単一の母音識別の範囲内で、第1フォルマントを高くチューニングするほど、発音はオープンに聞こえるだろう、そして、低くチューニングするほど閉じて聞こえるだろう。第1フォルマントが上/下に動くにつれて、いくつかのポイントで母音の同一性が隣接する母音のそれへ変化するだろうで、それは、まさに赤の色合いがあるポイントでオレンジや紫の色合いに変わるのと同じである。例えば、F1を上げるならば、/i /は最終的に/ɪ/に変わる、/e /は/ɛ/に変わるなど、または、F1を降ろすならば、その逆になる。

第1フォルマントによる倍音の相互影響(Harmonie Interractions with the First Formant)
音源倍音が第1フォルマントを通過するときはいつでも、聞き取れる影響(付随的な、同時に起こる受動的母音修正(passive vowel modification)による音色のある程度の閉鎖または開き)がある。そして、それは音響声区(acoustic registration)現象として知覚できる。これらの倍音のフォルマント横断とそれらの音響効果は、第1フォルマント(離れてクラッシックの歌唱音色を離れて訓練されなければならない本能的な反応)を動かすことによって、しばしば避けられる(後で詳しく)。すべての音響の声区現象は、主に第1フォルマントと倍音の相互の影響とによって行わなければならない。(9) したがって、基本的な母音の第1フォルマント位置と全ての第1フォルマントのセットの一般的な周波数の場所輪郭を知っていることは、教育上非常に役に立つ(図9、26ページと付録2を見る:声(124ページ)によるF1位置を接近する)。
(9)音響声区とは、声区のいくつかの知覚された変化と関連する聞き取れる音質的変化を指す。そして、それは喉頭メカニズムによるのではなく、むしろ音源倍音と声道フォルマントの変化する関係のよるものである。倍音の第2フォルマントとの相互作用 ― それは音響声区現象にとってしばしば重要でもある ―は、 確かに重要であるけれども、第1フォルマントに依存し、第1フォルマントと倍音の相互作用に対して補助的な意味を持つ。

第2フォルマントの役割(The Roles of the Second Formant)
第2フォルマントは、女性の中声の共鳴戦略と同様に、男性の高音の共鳴戦略において、母音の明瞭さ(母音の前-後の寸法)に関わる役割を演ずる。

母音の明瞭さ/鮮明度(Vowel Clarity/Definition)
第1と第2のフォルマントが母音を定めることに関与するが、第2のフォルマントは知覚的に明瞭さに対してより責任がある。これはおそらく、口腔との知覚的な関係に、あるいは、第1フォルマントより第2フォルマントが、すべての母音にわたってより一貫して変更されることによる、そして、それらの位置は、前舌と後舌母音にわたって二通りの形がとられる。この理由から、それは本能的なものではあるが、発音の明瞭さを向上させるために口の形の違いを誇張し過ぎることは、下手な共鳴戦略である。過度の口の使い方は、たいていキアロスクーロによるバランスのよい共鳴(18ページ下)と対立する。第2フォルマントの母音識別における知覚的な優位性はまた、擬音の音の関係でも明らかである:高音(例えばピーピー、叫び、ジュージューいう音)で発音された言葉は、多くの場合高周波の第2フォルマントを伴った母音を含み、一方で(強打した音、叫び)と、低い(うめき、うなり声)音で発音した言葉は、中間と低い周波の第2フォルマントを伴った母音を含んでいる。

母音の前-後の寸法(Front-Back Dimension of Vowels)
第2のフォルマントはまた、母音の前後の寸法として知覚される事の原因ともなる。前舌母音、例えば/i/は、高い第2フォルマントを持つが、後舌母音、例えば/u/は、低い第2フォルマントを持つ。第2フォルマントは、与えられた声の範囲内ですべての母音にわたっておよそ1オクターブの隔たりがあり、ほぼA5とD7(つまり、中央のCより上のおよそ2~3オクターブ)の間にある。前/後の知覚は、第1フォルマント(/u /の場合のように)、第3フォルマント(/i/の場合のように)のいずれに対しても、第2フォルマントの近接性による。近接するフォルマントは、相互に強化し合う。パティー好きの人達のように、彼らが集まるとよりうるさくなる!それゆえに、低い第2フォルマントは第1フォルマントを強化して、音色の低周波成分を押し上げて、「後舌」母音を生成する。高い第2フォルマントは、シンガーズ・フォルマント・クラスターを強化するだろう。そして、音色の高音域成分を押し上げて、「前舌」母音を生成する。前-後の寸法はまた、舌の形に一致する:前面に置かれた舌は、小さな前の空間と高い第2フォルマントを生成する、一方、前面にされない舌は、口腔の後ろを狭くして接近し、大きな前の空間と、低い第2フォルマントを生成する。母音の前後の寸法は、直接、知覚された「プレイスメント」位置(振動部位の感覚)に必ずしも一致することはないことを、我々は後で見るだろう。
男性の高声のための第2フォルマント戦略(Second Formant Strategy for Male Upper Voice)
第2フォルマントはまた主要な男性歌手(特にテノール)のかなりのパーセンテージにとって高音の共鳴戦略で突出した役割を演ずる。喉頭音源の第2倍音が、第1フォルマントの周波数ピークを上回ることで力を失うとき、プロの男性歌手は、特に鳴りの良い最高音を得るために、利用できる高い音源倍音に第2フォルマントを同調させることで第2フォルマントを増やし、響きをしばしば修正する(Donald Miller、2008)。(これ以上のことは後の:第2フォルマント戦略(29ページ)を見なさい)

シンガーズ・フォルマント・クラスター(Singer’s Formant Cluster(SFC))
より高いフォルマント(フォルマント3とそれ以上)は、特定の状況(低い喉頭、開いたのど、そして、狭くした上喉頭出口)のもとで集まる。これはいわゆるシンガーズ・フォルマント・クラスター(SFC)をつくる。その鳴り響く音質は、オーケストラなどの音を貫き通す運声力を与えるプロのクラッシック歌手に結びつく。(Sundberg、1974; TitzeとStory、1997)。それは、男性の声に最も特有であるが、女性の中間と低い声区、つまり、およそD5の下で歌われたピッチにとっても同様である。シンガーズ・フォルマント・クラスターは、ピアノの一番上のオクターブ(C7とC8)の中の、通常人間の外耳道が音量に最も敏感であるオクターブ(2400-3200Hz。)の中央にある。これは、人間の外耳道が、一次共振が3000-4000Hzの範囲にある1/4-波共鳴体でもあるからである。それらの周波数の範囲内で外耳道に入るいかなる倍音も、鼓膜へ行く途中で強い響きの後押しを受ける。一旦、歌われたピッチ自体が放出するのに十分高ければ、声帯共鳴(vocal resonance)はシンガーズ・フォルマント・クラスターに依存しなくなり、第1フォルマントによって共鳴している基本周波数の強さにますます依存する。この理由から、シンガーズ・フォルマント・クラスターは、高音域の声の高い声区での役割を減少する。

声のFachに対するSFCの関係(Relationship of the SFC to Vocal Fach)
シンガーズ・フォルマント・クラスターの位置は、主に声道の長さで決められる、そして音色の、したがって声のFach(声のカテゴリー)の決定のために重要である。一般的に、チューブが長いほど、SFCは低く、その結果として生じる声のFachは低くなり、チューブが短いほど、SFCとFachは高くなる。それゆえ、音域と母音の全域でチューブの長さを安定して保つことは、音色を統一して安定させる大きな要因となり声のFachが認められる。

共鳴バランスと双方向性に対するSFCの関係(Relationship of the SFC to Resonance Balance and Interactivity)
バランスの取れた共鳴は、少なくともおよそD5以下のピッチに関して、放射音の上下の部分音の強さの間で、ある程度の等価(parity)を含む。これは、通常、深さの原因となる第1フォルマントと鳴りの原因となるシンガーズ・フォルマント・クラスターとの釣合いによって達成される。シンガーズ・フォルマント・クラスターの作成は、咽頭空間と上喉頭の出口の1対6の差を必要とする(Sundberg、1974; TitzeとStory、1997)。この状態は、喉頭が楽に低く、喉咽頭は緩んで開き、そして、披裂喉頭蓋括約筋が狭くされなければ満たされない。それらのまさしくその状態は集中的な共鳴体(比較的低いF1)を生成して、音質的深さを確保する。これは、シンガーズ・フォルマント・クラスターが深さに依存していることを意味する。すなわち、SFCはほとんど「鳴り」を獲得することなく、実際に音質的深さが付随されるときのみ生じ、キアロスクーロのバランスのよい共鳴を生みだす。声が、強くて高いフォルマントを持ち、音質が「輝いている」とはいえ、高いフォルマントが、付随する深さと共に引き出されない限り、それは真のシンガーズ・フォルマント・クラスターを持つことにはならない。このように、SFCは、音響リアクタンス*とイナータンス**(より少ない呼吸圧または声門抵抗のために、より全体的な音響出力をもたらすことができる双方向性要素)の状態を生成する。

*リアクタンス:送信媒体の慣性及び弾性に起因する音響インピーダンス。
**イナータンス:慣性

梨状陥凹の影響(Effect of the Piriform Sinuses)
梨状陥凹(それは上部喉頭の両側に分岐する)は4-6000Hzの範囲における共鳴を打ち消す効果を持つ。そして、それによってシンガーズ・フォルマント・クラスターを強調し、それのすぐ上のあらゆるフォルマントを抑制する(Delvaux & Howard, 2014)。

声道音伝達特性(Vocal Tract Sound Transfer Characteristics)
前の図2(5ページ)で示されるように、パワースペクトルは垂直線で、パワーを水平線で周波数を表示する。それから、特定の声道形の共振特性の輪郭を描くスペクトル包絡線は、その時点で声門から外界へ、音響エネルギー(音)を伝える声道の能力を示す。(図4と5を見なさい。)

フォルマントとキーボードの関連(Formants Relative to the Keyboard)
パワースペクトルの周波数の規模が対数関数的に調整されるならば、ピアノ・キーボードのピッチのように、フォルマントの相対的な位置は音楽家によってより簡単に把握される。下の図5は、上の図4の(/i/)と同じ母音を表す、対数であらわされたスケールに調整される。第2フォルマントの高い位置は、第1近く以外の、または、ピアノの1番上のオクターブのすべてのフォルマントをまとめ、/i/の第1および第2フォルマントの間に大きな「谷」を残す。これはその相対的な「輝き」を説明するが、また、その第1フォルマントによって共鳴させられる倍音がなければ潜在的な薄さも説明する。最も低い第1のフォルマントとすべての母音の中で最も高い第2フォルマントによってうまく生み出された/i/は、優れたキアロスクーロ音色のバランスがある。

図4:線形周波数スケールによる母音/i/のための声道のパワースペクトル。

図5:キーボードに適応した、対数であらわされた周波数スケールによる母音/i/のための声道のパワースペクトル。

 

2018/07/13 訳:山本隆則