パリの高名な生理学者。腹式呼吸の強力な推奨者で、1855年パリの医学雑誌Gazette Medicaleに発表した論文により、腹式呼吸が世界に広まった。ここで言う腹式呼吸とはベリー・アウトのことで、日常の呼吸である腹式呼吸とは違う。
当時、パリ・コンセルバトワールの歌唱メトードは、Antonio Bernacchi の教えに基づいたBernardo Mengozzi (1758-1800) による “Methode de chant du Conservatoire de  musique” であった。
これに対しMandl は、「音楽学校の嘆かわしい教義は多くの声の消失の原因であると躊躇なく考えられる。腹部をフラットにすることは横隔膜の通常の低下を妨ぐことであり、それが深いとき、呼吸が鎖骨呼吸になることを強いることになる。我々は、それゆえに、致命的な原理と戦うために十分な力で声を揚げることができない、特にそれが公認のメソッドと考えられているのを見るときには。」(彼の自伝からの引用)[Joal, Joseph. On Respiration in Singing  41] と攻撃を開始した。
結果的には、コンセルバトワールのメソッドの新版がバチストと、腹式タイプの呼吸法に賞賛を与えられたMandl自身によって1866年に出版された;その中には、Mandl自身の手によって書かれた注釈を含む呼吸に関する章がある。

オールド・イタリアン・スクールに於ける呼吸法では、吸気時に腹部を、フラットにするか内側に引かせる(ベリー・イン)が基準とされていた。それに対し、Mandle は、吸気時に横隔膜を下げ、腹部を前に出す(ベリー・アウト)方法を提唱した。Mandlは腹部のシステムの発案者でないが、その雄弁な擁護者であり、強力な普及者であった; マンデルは、この方法がItalyで練習されるのを見てきたMasserによって、この種の呼吸法に注目したと、確かに明言している。

Mandl の腹式呼吸派はその後、19世紀後半の科学信奉の風潮の追い風に乗って世界中に広まった。
特に、ランペルティー楽派はその呼吸法の概念を全面的に受け入れ、その普及に積極的に貢献した。以下の引用は、息子であるGiovanni Battista Lamperti の The Technics of Bel Canto (1905) の中の長い原註である。

p. 1 の原註 (1) L.マンドル教授は ― 彼のHygiene de la voixページ14、2で次のように書いている;「呼吸が腹式(横隔膜)である限り、発声器官の緊張は胸が原因で生じることはない。…そして、喉頭も咽頭も穏やかな呼吸によって動かなくなる;すべては安静時のままである。それ故、吸気の後、発声器官は正しく働く位置にある、そして、さもなければ生じたかもしれない何らかの妨害が、 先行する収縮にによっても、そして、空気のゆっくりした放出に必要な動きによっても生じることはない。呼吸は、広く開いた声門を通して容易にとられる…」 ページ17、5:「歌声は、我々の現代のメソッドによるーそれは鎖骨呼吸を教える(または少なくとも許した)ーよりも、ルビーニやポルポラなどによって教えられたように昔のイタリアのメソッドによってよりよくそして長い間保たれた。そして、横隔膜呼吸に味方する教師は同じように最高の結果を示すことができる。」
p. 3 の原註(2) 主要な呼吸-筋肉は横隔膜である。そして、筋肉の隔壁が腹部器官(肝臓、胃など)から胸部(肺、心臓)の器官を分割する。それは、背骨、低い肋骨、そして、腹部の前側の内壁に付着し、ドーム状の形で第4の肋骨の高さへ上昇している。呼吸の動きは、次のように進む:横隔膜の筋肉組織は収縮すると、横隔膜のドームを下に引き下ろし、その上に希薄になった肺-腔を形づくり、大気圧と同じ圧力になるためにその中に空気が流れ込む(受動的に)。これが、吸気である。
今や、それら自身の弾力性[そして、拡張された胸部からの圧力のために]によって、肺は収縮しようとする。このように、横隔膜の下げられたドームでわずかな引っぱる力を生み出す;さらに、下げられた腹部器官は、腹部と骨盤の広げられた筋肉壁による圧力のために、リラックスしようとする拮抗状態にある;そして、この上と下から協力し合う圧力は、横隔膜のドームを第4の肋骨の高さへ押し上げる。これが、呼気である。

しかし、腹式呼吸に対する反対意見も多く、上記のJoseph Joal は、 On Respiration in Singing の中で、最も激しい反対論を展開している。その中で、非常に興味深いことは、1885年から、当時一流の女性歌手23名、男性歌手62名を対象にして、どのような呼吸法を使っているかという統計があります。
女性歌手23名中、鎖骨呼吸が9名、肋間呼吸(胸式呼吸)が14名。つまり、腹式呼吸は0名!
男性歌手62名中、鎖骨呼吸が11名、肋間呼吸が32名、腹式呼吸は19名
この結果は、特に腹式呼吸が絶対と思い込んでいる日本の教師達にとっては信じられない数字ですが、女性歌手に腹式呼吸をする人がいないのは、当時の女性はきついコルセットを締めていたことを考えると当然のように理解できます。

以下の引用は、Joal, 1895 で引用されたMandl, Fatigue de la voix 1855. からの鎖骨呼吸に対する批判です。

「我々は、すべての前に」とこの著者はいう「教えと練習から、声の苦闘と疲労が非常に多い鎖骨呼吸を追放する必要がある。」
「確かに、固定されてわずかに柔軟性がある部分から、吸気と呼気の間に作動する多くの筋肉は、その時点で移動する。
「吸気の間、喉頭は強く降ろされ、広くされる声門は拡張し、そして、声帯は弛緩する;、そして、サウンドの変化に必要な呼気の間、これらの部分は全く反対の状態であることに気づかねばなりません。
「すべてのこれらの動きは、あるものを他のものと混交されるので、鎖骨呼吸だけの調査はあるものに喉頭の位置をはっきりさせる。鎖骨呼吸が採用された場合、歌っている間、喉頭で訓練されたこれらの反対の牽引力は、声の放出をより難しく、より疲れやすく、より調和しなくする。」
そして、Mandleは彼の説明をこのように続ける:
「多くの労力、頸部の膨張、頸静脈の拡大、頭部の背中への傾きと雑音が多い吸気は、この誤った呼吸の習慣的付随物を形づくる。それはさらに使われる筋肉と過度の感覚でついには突発的な収縮を引き起こすかもしれない;乳房部の単収縮と突然のしゃがれ声はよくこのように説明される。この病的状態は、収縮性の消失と連続的な声の消失で、多かれ少なかれ喉頭の内因性筋肉に完全な萎縮を引き起こすだろう。」

確かにここには、歌唱で鎖骨を上げる芸術家に対する心に恐怖をもたらすその陰険な性質の暗い描写がある; しかし、M. Bonheurの本(Essai critique de l’enseignement vocal actuel,avec note medicale du Dr. Cheval. Paris: Paul Dupout, 1891)を読むならば、彼らはすぐに安心するだろう、なぜならば、上部の胸式型以外で、声のための安全策はなく、腹式メソッドが歌手の最も恐ろしい敵であるということを、彼らが学ぶだろうから。

「長い間」と、Liegeの教授は言った「新境地を開き、2、3の珍妙な個性だけによって使用されることができる呼吸方法を多数の人に適用したいという願いがあり-呼吸方法は鳥と四足獣(それらの特殊な体系は鎖骨呼吸を禁じます)の呼吸法に接近してしまいました。
「私は、歌唱の技巧の頽廃が、ほとんどの場合、呼吸の教えに忍び寄り、そして、不幸にも、ほとんど権威をもつほど普及してしまった恐ろしい間違いによると断言するのを、躊躇しない。
「私が注意を喚起したいのは、呼吸の腹式メソッド、つまり、主として腹式呼吸のこれらのの危険性についてであるある。
そして、より多くの確信を持ってそれを行うことができるし、私自身この致命的な教えの犠牲者で、その経験により見解を見いだしたことをさらに確信を持って言うだろう。」
Bonheurの概念を受け入れることなく、Mandlの教義に、我々は充分に抗議することができない(Mandl の教義は間違った解剖学的、生理的理由、想像上の概念、そして、下手な観察か、ひどい解釈基づく)。
我々は、胸の筋肉の疲労の存在を認めない。そして、それは適切に等しく胸式型に現れる必要がある、それによって、後ほど忙しくなるだろう;、しかし、今、喉頭の装われた外因性で内因性動きに基づく論拠に反論しよう。
Mandlが言うように、腹式呼吸において、喉頭が動かないままであるが、これに反して、吸気中の鎖骨タイプに於いて必ず降ろされるというのは真か?
生理学または解剖学のあらゆるクラシック論文、また、喉頭科学に関する1855年以降発表された多数の仕事のどれにも、我々はこの喉頭低下の記載を見つけ出さない。そして、他の著者がこの問題についてのMandlの概念を共有しなかったと思われる。