最初から息を過剰に詰め込むことを教え、いかなる初心者にも肺を空気で一杯にして歌わせると、その発声器官は無理な発声と硬直化という重大な危険にさらされ、〈間断なく犠牲者〉が生ずるのである。
賢明な発声訓練では、最初は少ない呼吸量によって練習が行われる。というのは短く軽い吸気という原則が柔軟性を促進するのと同様に、故意的に一杯に吸気することは、逆に柔軟性を損なうからである。いわば驚いたときにするような、素早く、無理のない、全く無音の吸気法 ― 口と鼻で同時に行う - は、柔軟性の訓練である。
少量の呼吸量、すなわち最少呼吸のこのような訓練は、大きく充実した響きの為の自然な準備練習であるということを、昔のイタリア人はすでに知っており、そのため彼らは、息を「決して吸い込むな、ただ素早くつかめ」、と語ったのである。
現代の発声訓練においては、発声研究家のパウル・ブルンスが、〈最少呼吸〉という概念を新たに注目させるのに力があった。この素晴らしい言葉が彼の名を確固としたものにした。彼の風変わりで空想に飛んだ教説に完全に納得するか否かは別にして、この言葉の造語および導入は、常に彼の功績でありつづけるだろう。
(マルティーンセン=ローマン、歌唱芸術のすべて p.221)