声帯閉鎖という概念は、音を響かせている最中の最も重要な活動を特徴づけている。すなわちそれは、歌唱において特定の音高をつくり出すための、〈声門〉のまさに目にもとまらぬほどの素早い開閉の交替のことである。これらの音高がすっかり固定されてはおらず、ヴィブラートによって変動するものであるということは、〈絶対的〉な硬さとは対照的な〈相対的〉なゆるやかさと関連している。
健全な声帯閉鎖はそれ自身の力で呼吸圧を調節し、そのことによって音響の質を支える。閉鎖の度合いが弱いか強いかによって、声の性格がおぼろになったり力強くなったりする。
もし医者が歌手に、「あなたの声帯は閉じていません」(それが風邪によるものであれ、過労によるものであれ)といわなければならないとき、それは、医者と発声指導家が互いに協力して、極めて大切な処置を施さねばならない期間の開始を告げるものである。(マルティーンセン=ローマン、歌唱芸術のすべて p.338)