[ Richard Luchsinger and Godfrey E. Arnold, Voice-Speech-Language  p. 69]

V. 喉頭機能の生理学

1. 歴史的な所見 P.69

最も初期の所見。
実験的な声の生理学は、1741年にParisian Academy of Sciencesパリの科学アカデミーの面前で、Antoine Ferreinによって、摘出された犬の喉頭の公開実験を通じて始められた。
彼の出版は、以下の記述を含む:
「私は声門唇に近づけて、猛烈に気管に吹き込んだ;音(だけでなく、その器官は生き返ったように思え、そして、音だけではなく、最も美しいコンサートよりも、私には気持ちの良い本当の声を生み出した。」Agen(フランス)で1693年に生まれて、FerreinはMontpellierの医師になって、最終的にMarseillesとパリで手術と解剖学のための教授職についた。彼の多くの栄誉の中には、イタリアのフランス軍の主席医者としての任命、College de Franceの教授、そして、パリの科学学校のメンバーなどがあった。
Ferreinの注目すべきデモンストレーション以前は、死んだ発声器官は音を生成することができないと通常信じられていた。パリ・アカデミーのこの注目すべきセッションには、その時代の傑出した自然科学者、例えばReaumurやde Maupertiusが出席したことは驚くべきでない。そして、その内の何人かはFerreinのデモンストレーションと解説に非常に批判的であった。喉頭唇を、気流によって振動させられるエオリアンハープの弦と比較して、Ferreinは「声帯」という用語を案出した。Ferreinの、バイオリンの弦と声帯との例えの間違った推測は、彼の実験の正しい解釈に基づくものであった。彼は、気管に強く息を吹きつけたとき、声帯振動の可動域が増やされ、より大きい音に成ることを発見した。振動している帯にさわると、音は止まった。振動している帯の長さが,声門の前か後の部分的な圧縮によって短くなったとき、振動している弦が短くなると起こるように、聞き取れる音のピッチが上がった。そのうえ、Ferreinは、生きている人でのピッチの上昇が主に声帯のさらなる緊張と伸長によって達成されることをはっきり確認した。輪状軟骨と甲状軟骨の前方の接近によって、声帯が長くされて声のピッチが上昇することを、彼ははっきり記述した。Ferreinは、最終的に人間の死体喉頭を使用して彼の実験を繰り返した。彼は、それを通して空気が吹きつけられたとき、切除された検体でつくられた声の爆発でアシスタントを仰天させた。声を発している声帯をポケットレンズで観察して、Ferreinは、声帯がハープシコードの弦と同様の方法で振動するということを発見した。
喉頭発声の起源への更なる研究はDodart(1706)とLiskovius(1814-1846を見よ)によって着手された。これらの著者は、人間の声がフルートの音のように生成されると信じていた。彼らは、声のピッチは開きのサイズと推進気流の強さで決まるということを発見した。開きがより小さくなるとき、そして、空気圧力が増加するとき、音程は上昇する。Dutroche(1806、Merkelの引用(1863))とMagendie(1816、Merkelの引用(1863))は、ピッチの変化に於ける声帯筋の重要性を発見した。これらの筋肉が収縮するにつれて、声帯の伸縮性は増やされ、高音の生成に寄与する。

古典的実験の時代

1837年にJohann Müllerによって着手された実験を通して、大きな前進が成し遂げられた。彼は切除された死体の喉頭をフレームの中につるし、声帯の位置、緊張と振動、と同時に、さまざまな空気圧力の使用の測定可能な変更ができるようにした。Müllerは、それで以下の結論に達した。
(1) 気管気流によって動かされるとき、内転した声帯は人間の声の音と全く同様の豊かで純粋な音を生成する。
(2) 仮声帯と喉頭蓋の喉頭の準備(laryngeal preparation)があるかないかで、有意な差を作る。それらが存在するとき、音はより大きくてより豊かな音を生成した。
(3) 声のピッチは声帯の緊張を増やすことによって上昇する。
Müllerは、一方の声帯間の振動と、他方の音楽的な弦またはきちんとはりつめた膜との間の振動の差に気づいた。
(4) 2つの主要な声区(胸声とファルセット)の差は、はっきり見られた。Lehfeldt(1835)が、最初にストロボスコープで、これらの2つの声区で特徴的な振動パターンを観察したあと、Müllerは以下の方法で振動差を記述した。
胸音の場合、声帯は活発な方法で、全ての息にわたって広い可動域で振動する;ファルセット音の生成において、振動は声帯内の縁に変わる。
(5) 声帯の緊張が取付けられた重しによって等しくて保たれたとき、増加した空気圧は声の音程を約5度上げた。
(6) 喉頭蓋の下降は、音をより暗くて少し低く聞こえさせた。

喉頭における力の代償作用。
p.70
声のピッチに対する推進する空気圧の影響を鑑みて、Müllerは、喉頭での音の生成に寄与する力の相互作用を調査した。強度を増やすスエリング音が同じピッチで維持されるならば、増加した空気圧によるピッチの上昇は他のメカニズムによって埋め合わせされなければならない。モデルにおいて、Müllerは、大きくなる空気圧から起こるピッチの上昇は、同時に起こる声帯緊張の減少によって埋め合わせられる事を、示すことができた。クッション-パイプ・モデルによるこの問題の研究において、Müllerの力の代償作用の法則が頭声のためにのみ有効であるとWeiss(1936ab)は結論を下した。この発見は、現在の著者の音声呼吸(phonic respiration)の調査と一致している。

喉頭機能のモデル。

世紀をまたいで、機械的モデルで声帯機能を真似ねて作る試みが成された。1853年に、Harless(Nagel(1909)で引用される)は、チューブの片端にカエルの筋肉を横切って張った。空気が別の端から吹きつけられたとき、筋肉は振動し始めて音を生成した。
Ewald(Nagel(1909)で引用される)は、改良された方法でこれらの実験を再び始めた。彼は、矩形のチューブの一方の開きに横切って、2つのカエルの筋肉を取り付けた。空気が管に吹きつけられたとき、筋肉は聞きとれるぐらい振動した。さらに、Ewaldは、筋肉に誘導電流の流れによる刺激によって収縮させた。電気刺激の量によって、筋肉は様々な程度で収縮し、それに相似して声のピッチが上がった。Ewaldは、喉頭モデルによって声の現象を調査することに多くの時間を費やし、それをクッション・パイプとして記述した。彼は、生きた喉頭が膜(リード)パイプとクッション・パイプの中間型を示すと推測した。

現在の解釈。

Wethlo(1913、1926)がこれらの調査を再び始めたとき、彼はMüllerによって提案された切除されたモデルに類似した人工喉頭を使った。声帯は、ゴム管の一部が代用された。それらの緊張度は、取り付けられた重りによってコントロールすることができた。基本的な所見は次のようだった。
(1) 声帯の低い緊張度では、空気圧を増やすことでピッチを上げる。
(2) 中間的な声帯緊張では、増加する空気圧は、声のピッチに対してほとんど影響しない。
(3) 声帯が強い緊張の下にあるとき、空気圧力が大きくなるとピッチが下がる。
さまざまな研究者の所見の間の不一致を理解するためには、彼らが喉頭モデルに多くの異なるタイプを使ったことに留意しなければならない。さらに、機械仕掛けのモデルは、生きている人の喉頭より多くの点で劣っている。Wethlo(1948-1949)はクッション・パイプの反応を記述し、空気圧の影響を調査した。
空気圧力の平均値では、空気圧が増加したとき、音のピッチは下がった。しかしながら、空気圧の高い値では、逆の関係を示した:空気圧力が増やされたとき、音的なピッチは上げられた。

空気圧と声帯緊張。

一見すると、喉頭モデルでの声の研究結果は理解するのが難しく見える。我々が推進する空気圧と声帯の強さの相互依存する関係を考える時に理解は進む。測定する要素は、空気圧と声帯張力の間の量的関係を見つけることである。声帯緊張が空気圧に比べて比較的高いならば、空気圧力を増やす効果は音のピッチに反比例し、その結果下がる。反対に、空気圧が声帯緊張に関して比較的高いとき、増加している空気圧と音のピッチは直接釣り合っている、なぜならば、大きくなる圧力はその後上昇ピッチを生成するだろう。Wethloは、声門下圧(それは声帯を別々にし、声帯の伸縮性によってリバウンドして声門の閉鎖を生成する)の相互作用を通して、これらの現象を説明した。
中程度の声帯緊張では、増加する空気圧は、声帯振動の開きと閉じの両局面を速めるだろう。振動の加速は、上昇するピッチを意味する。
しかしながら、高い声帯緊張が認められる場合、増加する空気圧は、弾力的なリバウンドに対立するだろう。
素早い開き局面の後、リバウンドする閉鎖局面は遅れることになる。したがって、ピッチを下げる。