James Anderson の2012年に出版された『WE SANG BETTER』は、1800年から1960年の間の歌手たちの歌い方に於ける250の提言を集めた2巻本である。

ここでは、最も多くのページ数を割いた13章のレジスター、声区の章を訳しました。ページ数が多いということは、声区に関する歌手たちの関心度の高さを示しています。特に、声区に関わることは医者や科学者には立ち入ることのできない領域です。

この書での様々な歌手達の提言(Tips)は、最新の声の科学的なエビデンスではなく、あくまで個人的な歌手の経験や昔からの教え、上手く歌うための歌手の感覚に基づいています。

しかしながら、歌唱教育の伝統のない(明治時代に洋楽が日本に入ってから相当な時間が経過していますが)我々にとってはなかなか知ることのできない非常に貴重な言葉が多く含まれています。

 

 

[WE SANG BETTER  VOLUME 1 HOW WE SANG by JAMES ANDERSON]

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REGISTERS
声区

Exploit your natural sounds
自然な音を生かしなさい

一人二人の幸運な声は、この分野では全く問題がありません。そして、前の章からのアイデア(音の純度、母音の純度、自分の言葉の正常性、よく開いたガレットの開発、共鳴など)はすべて、音域全体にわたって真に自然に歌えるように導くのに役立ちます。実際、そのようなアイデア自体が、「声区」に過剰に気を取られることのないとても良い選択肢となり得るのです。

ですから、この最初の2ページだけを見て、この章の主題をざっと理解し、残りの90ページを必読と思わないでください!このテーマが自分に必要なものかどうか、一番よく分かっているのは自分自身でしょう。学生の歌手はこの点では様々です。(声区については、ご理解いただけると思いますが、歌い手からの証言は長くならざるを得ません。さまざまな声種をカバーしなければならないし、昔の歌い手たちが報告したさまざまな感覚を考慮しなければなりません。)

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現代の歌のレッスン、特に高音域のレッスンで最も致命的なフレーズのひとつが、「さあ、中声を強化しなければならない」です。何故? なぜなら、最悪の場合、歌手が「声を強く」しようとすると、声は鈍く、不正確なものになり、高音は無理強いされたり、不安定になったり、汚れたり、低音は伝わらなくなり、声は表現を失い、人々の注意を引き付け、言葉やフレーズを伝えるのに役立つ、あの簡単な明瞭さを失ってしまうからです。

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昔の教師は、このことに非常に過敏だったようです。耳を使って、何かを強制するのではなく、少しずつ、自分の声の領域をすべて探っていくように導いていくのです。その領域に属する自然な響きを見つけ出して、まずそれをしっかり感じ取るように仕向けるのです。これらの感覚とそれを利用する能力は、時間をかけて根気よく開発することができます。このプロセスを通じて「セットアップ」を緩やかに保つことができれば、理想に近づくことができるのです。理想的な状態では、あなたの声は共鳴し、均一で、真実であり、それらは『語りかける』のです。また、ドリア Doria が言ったように、このような声区の開拓の過程を経ることで、あなたの声はより色濃くなるでしょう。

しかし 、他の人がこの領域について技術的に論じているのを聞くとき、あなたは柔軟に対応する必要があるでしょう!

例えば、以下のTip (提言)の多くで、昔の歌手は『ヘッド』ヴォイスを音に活用する方法をきわめてよく知っていたことがわかると思います。これは、昔の歌唱スタイルの極めて主要な『秘密』と言ってもいいでしょう。しかし、これは普通のリスナーにとっては必ずしも『当たり前のこと』ではありません。

また、歌の歴史の中で、これら同じ歌手が『胸からよく歌った』という記述に出会うこともあります。聴衆は、終始チェストボイスを使っていたと言っているのではなく、楽々と音が出ること、そして、音に到達するために上体を伸ばす必要が一切ないように見える、その様子を描写しているのです。このような歌唱では、音は充実し、共鳴することができ、空気が胸から離れた後、音はどこにも『つかえる』ようには思えません。その音は、例えば、喉に引っかかったり、鼻に詰まったりしません。 あるいは、初心者の歌い手が『頭』の音を出そうとして陥りがちな、息切れ、青白さ、声枯れ、震えなどの問題もありません。

そして、そこには間違いなく『胸』の共鳴もあるはずです!クレセンティーニの弟子であるスカファティの最終的な理想は、キャスカート博士によってこう報告さ れました:

低音から高音まで、すべての音を胸と頭の共鳴で出さなければならず、完全にブレンドされているので、歌い手は低く歌おうとか高く歌おうとか考える必要がなく、それぞれの音が同じように簡単で、音楽が要求する表現に全身全霊を捧げることができるのです。

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AT THE BEGINNING 
始めに

119. ガルード Garaude(理論)、サントレー Garaude(例) – トレーニングが進むにつれて、それぞれの声区の可能性を引き出し、より深く知ることができるようになる
120. ナヴァ Nava  – なぜ私たちはそのような用語を使うのか、そしてそれがどのように異なる音声に適用されるのか

MIDDLE AREA OF VOICE
声の中音域

121. クリヴェッリ、アルバーニ  、ノルディカ 、ラーコム ―中音域を鍛えてもよいが、無理はしないこと。
122. アマート― 時間をかけて、教師はどのように彼の中声を助けたか
123. ラウリ・ヴォルピ ― ドラマチックな声でも中低音を楽に保てたこと(コレッリ は現代のモダン・テクニックとは全く違うことを述べている)。
124. バティスティーニ ― 声の中・低声区を「オーバーロード」しないこと
125. ポンセル ― 声の中間で普通のスピーチのように感じさせること

CHEST SOUNDS 
胸声

126. ラブラーシェ ―いかに『胸』声を出すか
127. ハーン―女性の皆さん、リスナーは胸音を聞くのが好きだし、偉大な歌手は常に胸音を使ってきたということを、まず受け入れてください。
128.マリブラン、 ヴィアルドット、 ミオラン-カルヴァッロ 、 マルケージ 、 シューマン-ハインク、 フォーレ― 胸声を練習した

INITIAL ADVICE ON BLENDING OF REGISTERS
声区のブレンドに関する最初のアドバイス

129. ナヴァ & レーマン – 声区をブレンドする方法

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HEAD SOUNDS 
頭声

130. レーマン―  頭声は、輝き、運声力、声の寿命を加え、他の声区を助ける
131. テトラッツィーニ ― 中声を使って押し上げようと思っても、薄い響きの頭声になるでしょう
132. デスティン – 時間をかけて頭の音色を開発しなさい
133. アルダ、メルバ、シューマン-ハインク ― これらの高い音の練習は、楽に始められなければならない&自分の音域のどこから始めればいいのか?
134.スカファティ ― ハミングは必要ない、本物の音を出そう
135. スキーパ – 頭声でのいろいろな練習の仕方

A NOTE ON BEING OPEN-MINDED ABOUT REGISTER TERMS
声区用語を受け入れるための注意

136. ズブリッリア― テナーはファルセットを使いますが、息を巧みに使ってこれを行います。 私の弟子であるジャン・ドゥ・レシュケに教えたのはこの方法です。
137. ジーリ― 私の高音はファルセットも巧みに使っていました。
138. リーブス― 私の定義ではファルセットは別のものですが、昔のイタリア楽派が頭声を使っていたのは事実です。もっと静かに歌うときはメッツァ・ボーチェと呼ばれ、優雅さと感情を表現するのに欠かせないものです。
139. マコーマック ― (私の定義も、ファルセットは何か他のものです)私は、私の静かな高音を表現するためにメッツァ・ボーチェという言葉を使用して、その取得は非常に難しいものでした。
140. SVS ― バリトン、トップノートはテナーよりも簡単に出てくるかもしれないが、叫んではいけない。 また、ヘッドボイスを上手に取り入れることだ。 バスもこのアドバイスに同意する人がいるかもしれない。
141. Bonci & SVS ― このすべての作業(高い、低い、大きい、柔らかい、など)を通して、あなたの主な目的は、あなたの母音を『語る』ようになることを学ぶことです。

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WHAT TO DO IF YOU ARE STRETCHING TOO MUCH OR FORCING
無理に(音域を)伸ばしたりしている場合の対処法

142. ガルシア、ベイコン、ガルード ― 声を双方向に無限に伸ばして成功させることはできない。
143. ラーコム、リーブス、テトラツィーニ – 声区の強制に対する治療は、第一に休息、第二に高音域から穏やかに取り組むことである。

SOME FURTHER SUGGESTIONS FROM OUR SINGERS (warning – more technical!) ON SINGING HIGH私たちの歌い手からのさらなる提言(警告-より専門的に!) 高く歌うことに関して

1. 異なる声種において、声区はどこで始まり、終わるか?(しかし、それらは変わる可能性がある!)
2. 昔の歌手は、高くなるにつれて何を考えていたのでしょうか?
3. この問題に取り組むために、何か特別な音楽的練習をしたのでしょうか?
4. 忍耐力と勉強の価値、 自分に合ったアイデアを見つけるために。

REGISTER MATTERS – CONCLUDING ADVICE
声区 – アドバイスのまとめ

144. ベーコン、レーマン、テトラッツィーニ、ウッド ― 全員で一つの処方を決められるか?いいえ。 実験し、自然、あなたの耳、感覚、そしてあなた自身の美意識が時間をかけてあなたにとって最適なセットアップを提供してくれるでしょう。

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歌手の提言 No.119

アレクシス・ドゥ・ガロードは、カストラートのクレシェンティーニの弟子でした。ガロードは1830年代にこんなことを言っています。

[学生歌手にとって]声のそれぞれの声区に属する音の質に注意することは、非常に重要である。

サー・チャールズ・サントレーは、教師が彼にこうした異なる声域を探求させた生徒の良い例である。1855年10月、21歳のサントレーは40ポンドをポケットに入れ、ミラノに旅立ちました。スイスに渡り、サンゴタール峠の大部分を歩いて越え、途中で吹雪に遭遇しました。ミラノでオーストリア当局に身分を告げると、適切な教師を探すことになりました:

彼はまず、レッスンをしているランペルティに声をかけた。ランペルティの話を聞いても、サントレーは何の印象も受けなかった。 ランペルティから、これから2週間は忙しいからと言われ、ガエターノ・ナヴァを紹介された。ナヴァは彼に自分の書いた最高のヴォカリーズを初見で歌わせそのテストに見事に合格しマスターを満足させた。
ナヴァのもとでしばらく勉強していると、ランペルティが聞きにやってきて、ナヴァにこう言った:
『 いったい彼の声種は何だろう?』 『低く歌うとバス、真ん中で歌うとバリトン、高く上がるとテナーのようだ』 と。

コメント

そして、それは勉強としてすばらしい!まず自分の声のいろいろな部分を探っていきます。各エリアに確信が持てるようになると、隣の音とうまく「結合」できるようになります。サントレーは、幅広い音域をカバーする均整のとれたよく通る声になりました。これは、ヘンリー・ウッドの回想です:

… ヘンデルの偉大なアリア「Nasche il bosco」の彼の演奏は、私の最も大切な声の記憶の1つです。彼の低いFの音はすべて、最大のコンサートホールの隅々まで響き渡り、高いFの音は銀のトランペットのように響いた。チャイコフスキーの美しいアリアのタイトルを引用すると、『ああ、今日の歌の芸術はどこへ逃げてしまったのだろう。』(1938年執筆)

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歌手の提言No.120

この章の冒頭で、スカファティがこう言ったのを覚えているでしょうか:

最低音から最高音まで、すべての音は、胸と頭の響きによって完璧にブレンドされて生み出されなければならない…

私たちの時代の初めには、声の両端にある声域を Chest と Head と呼ぶのが一般的でした。声の低い部分、チェストボイスは、あなたの「自然な」声だと考えられていました。
それ故、胸声と頭声は、カストラート達が声区の特徴を記述する主な手段でした。隣接する部分の音の混ざり合いを考えるなら―そのためにカストラート達は努力していたのですから―私たちの時代にも、完全にその線に沿って声区を考えることが可能です。

しかし、19世紀になってカストラート達の重要性が薄れると、多くの教師は、普通の男性の声や普通の女性の声を訓練するための正しい方法をもっと正確に説明したいと思うようになりました。彼らは、男性にも女性にもこの『声区』があることを知っていましたが、この声区がどこで変わるかについては、男女で大きな違いがあることも知っていました。( その他の点については、ご注意ください。 トレーニングは男女とも同じでした。)

たとえばガエターノ・ナヴァ。まず、彼は声区を定義しました:

各々の声種に属している一連の音は、すべて1色ではありません。慣れた耳なら、ある連続した音と、その後に続く音の違いをすぐに感じ取ることができるでしょう。その違いは、別の共鳴の仕方から構成されています。

その次に、彼は3つの呼び名を使用しました:

胸(Chest) ; 混ぜられた (Mixed)(胸-と-頭); 頭 (head)

カストラートから見れば、単なる言葉遊びのように見えるかもしれません。しかし、この「狂気の沙汰」には明らかな「方法」があり、ナヴァの説明は次のようなものでした:

男性は声域に占める胸声(Chest note)の割合が高く、例えばバスの場合、全音域を胸声で歌える人もいる。コントラルトを除いて、男女ともミックスを使いますが、それぞれ音域の異なる部分でミックスを行います。テナーを除けば、男性には女性のような頭声はありません。

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バス - 胸声あり ― ミクスト必要ならば少しあり - 頭声なし

バリトン- 胸声あり  ―  ミクストあり - 頭声なし

テノール- 胸声あり - ミクストあり  ―  頭声多分最高音で あり

コントラルト―  胸声あり  ―  ミクストあり(時々必要、しかし、理想的にはない) - 頭声あり

M-ソプラノ- 胸声あり - ミクストあり - 頭声あり

ソプラノ- 胸声あり(非常に軽い声でない限り)- ミクストあり - 頭声あり

コメント

このように表すことの利点は、上記の3つの声区にそれぞれ一つの身体的な「セットアップ」が存在するだけである、とナヴァは述べています。彼は、この「セットアップ」について、かなり積極的に説明し、男性でも女性でも同じであると言いました。しかし、ピッチや声域のどこで「セットアップ」を変えるかという問題については、それぞれの声種で異なります。(どこの音域かは217~218ページ、声区の感覚については239~244ページで取り上げています)。

ナヴァは、少なくとも最初のうちは、男性のミックス音は

(メゾやソプラノと違って)そう簡単には見つからない

と付け加えています。

また、ナヴァは、女性のミックスボイスがうまくセットアップされると、ヘッドボイスがごく自然に伸びるように感じられるようになるとも言っていました。

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歌手の提言No.121

昔のアドバイスでは、声の中間を楽に保つということでした。その充実は、時間の経過とともにやってくるものです。他の領域の声の仕事をするのではありません。クリヴェッリは1840年に次のように書いています:

この中間の音質を充実させ、丸くするのは、力ではなく、音を出して支えられる安定性と容易さによるものである…

博識な解説者ルイス・エンゲルは、1890年、ソプラノ歌手エンマ・アルバーニが38歳だと思っていた時に、こんなことを書いています:

…彼女は、ちょうど中声が一番伸びる年頃である

リリアン・ノルディカ Lillian Nordica がイタリアでキャリアを積んでいた頃、母親は1878年と1879年にこの文章を家で書きました:

彼女は、マリブラン Malibran、グリジ Grisi 、ティートイェンス Tietjens のオールドスクールの声を持っています… ミドルボイスがなければ、オールドスクールに並ぶことは不可能です…しかし、彼女は、それが完全に成長するまでは、その中にある仕組みに何らかのショックを与えるようなことをしてはなりません

コメント

ガルシア・ジュニアに教えを受けたソプラノ歌手アグネス・ラーコム Agnes Larkcom は、1920年に『The Singer’s Art』で女性の声についてこう書いています:

中声区に三つ分の働きをさせるという、今日かなり前面に出ている流行の方法は、声域と音調の両方において、声を制限してしまう傾向があります。

ラーコムは、両方の論点に於いて正しかった。中声区に三つの仕事をさせるという風潮は確かに始まっていたし、最終的な声部を制限しているのは間違いありません。

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歌手の提言 No.122

パスクアーレ・アマートは、20世紀初頭、世界的に人気のあったバリトン歌手である。プッチーニの『西部の娘』のジャック・ランス役を創唱し、一時期はMETを代表するバリトン歌手として活躍しました。

彼の場合、10代の頃に非常に良い高音が出るようになりました。しかし、彼の中間の音は、多くの学生歌手がそうであるように、弱々しいものでした。

この状況をよく理解し、非常に段階的に中音の手助けをしてくれたナポリ音楽院の先生を高く評価していました:

どちらの先生も、私のハイトーンは大丈夫だとわかっていて、練習は低音に向かっていました。
10ヶ月以上かけて音階と持続音を練習し、低音部記号の上のE♭のところにあったブレイクが低音から高音に溶け合って、上下に歌ってもブレイクが聞こえないくらいになったのです。

コメント
これのようなケースを聞くことは、いつも良いことだと思います。歌手は通常、すべての声区がうまく機能し、声区間の明らかなギャップがない状態で生まれてくるわけではないのです!それぞれの「声区」から出せる色を全部出して、声区を繋いでいかなければならないのです。その過程では、慎重かつ忍耐強く、知識豊富な作業が必要です。

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歌手の提言 No.123

ジャコモ・ラウリ・ヴォルピは、長いキャリアを持つドラマティック・テノールとして成功しました。彼は、80でなお録音していました!若い頃、ローマで歌のレッスンを受けたとき、『聞いてください、マストロ。私は母が私を作ったように歌いたいのであって、あなたが私に望むように歌いたいのではありません。私は帰ります』と言いながら出て行きました。
彼はオペラの役をいくつか習い、すぐに採用さ れました。
彼は、他の演者の話を一生懸命に聞く知的な歌手でした。彼の力強いテノールの歌声は、明暗の濃淡と陰影のある美しさで神秘的ともいえる質感を持っていました。

1990年にニューヨークで放送されたオペラ・ファナティック・ラジオの番組で、司会のステファン・ザッカーがドラマティック・テノールについて、よりモダンなテノール、フランコ・コレッリと議論し、コレッリはこう述べました。

ジャコモ・ラウリ・ヴォルピを例にとって考えてみましょう。中音と低音を軽く甘く歌い、高音を緩めていました。
彼のレパートリーは膨大であったが,彼に最も適したオペラは,・・・中心音を捨てて輝きと高音を見せようとすることができる英雄的作品,古典的スタイルと純粋な音色を強調できる作品・・・[たとえば,ここではラウリ・ヴォルピが歌い,コレッリ自身が歌わなかったオペラを引き合いに出す]アイーダの成功にはレガートとベル・カントが必要なのです。

私は現代のテナーで、音域全体を通して重く歌います …私は、トップで歌うよりセンターで歌う方が好きなんです…

ヴェリズモ(私の好み)のテナーは、丸くて強い中声を持ち、高音をガッツで押し出します。カルーソーがこのような歌い方を教えてくれたのです。

コメント
コレルリは、もし自分のキャリアをもう一度やり直せるとしたらどうするかと尋ねられ、それに答えて、

もっと力を抜いて、もっといろいろなダイナミクスで、もっと情熱的に、もっと心で歌うだろう – ジーリのように… ジーリ の声は、イタリアの太陽のようだった..

コレッリも『無理してセンターを押すとハイCが出なくなる』と付け加えています。

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歌手の提言 No.124

『バリトンの帝王』マッティア・バティスティーニ(1856-1928)も同様に、声の中間や 低音域を押すなと頑強に主張しました。
彼は、『力は正義なり』と信じているバリトンの同僚を叱責しました。バティスティーニは1909年にこう説明しています:

[この力強い同僚は]低音に過剰な負荷をかけ、中音を無理に出すので、私より若いにもかかわらず、彼の高音にはすでにビブラートがかかっています。彼はたった一つの音色-力強いフォルテ-を使い、歌の唯一の美しさは声の大きさにあると信じているのです。彼はドラマチックな役しか歌わないし、『バッティスティーニ自身』よりも効果的に歌っていると言う人もいる。しかし、…人それぞれである。
私は、声を損なってまで低音を力強く歌うことを自分に許さないし、同僚のように力を尽くしてオテロとイアーゴの二重唱を歌うこともない。私の長所はカンティレーナ、声の柔らかさと敏捷さ、音色、つまり音楽性にあるのです……
このような資質は、生涯をかけて名声を得るために育てなければならず、決して超劇的なバリトンのようなはかない栄光を追い求めてはならない。そうすれば、真の芸術家、知的なプロフェッショナルになれるし、どんなに歌っても、老後まで声を保つ方法がわかるはずだ。
【訳注:この力強い同僚は、おそらくTitta Ruffo(1877-1953)だとおもいます。Titta Ruffoは、バティスティーニの発言を裏付けるように歌手としての寿命は短く、録音にもその様子が聞き取れます。】

バティスティーニは、老齢になってもその声を保ち続け、その見事な技術は、パートIVで詳しく紹介します。

ちなみに、ラウリ=ヴォルピとバティスティーニの低音は、やはり客席に『伝わって』いました。しかし、中低音を無理に出すと、聴衆は高音が響く前に感覚が鈍ってしまい、「苦労して歌っているんだな」という印象を与えてしまいます。中低音を無理に出さない方が声質が保たれますし、高い位置でいろいろな効果を出すことができます。ラウリ=ヴォルピもバティスティーニも、高音を膨らませたり、弱めたりする能力が高く、聴衆を手のひらの上に乗せることができるのが特徴でした。

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歌手の提言 No.125

20世紀最大のソプラノの一人は、1918年にカルーソーの相手としてメトロポリタンにデビューしたアメリカ人女性、ローザ・ポンセルであることは間違いないでしょう。彼女は、正式な声楽のレッスンはほとんど受けていません。晩年、彼女は次のような声のアドバイスをしました:

中声区において、ただ話しなさい、口を動かし過ぎずに…まりに大きなスペースを空けないで。
しかし、上の音に進むほど、より多くのスペースが必要になります、…口をもっと開けて、あごを下げて、リラックスしなさい。

コメント

ここでのアドバイス、つまり普通の話し方を中音に適用することは、中音を真に引き出すために必要なことであり、素晴らしいことです。このときの声は、オーバーワークの誇張を必要としません;また、ポンセルが思い起こさせるように、言葉の『マウシング(大げさな口の動き)』を必要としません。

ポンセルが音が高くなったときに『リラックス』という言葉を使っていることにも注目しましょう。このことは、顔の下の部分がリラックスしているのを感じる他の多くの歌手と結びついています。例えば、リリ・リーマンは、『私の喉と喉頭がこめかみから吊り下がっているような感じがする』と述べています。

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歌手の提言 No.126

胸声について、偉大なバス、ルイジ・ラブラシェ以上のアドバイスを受けることはないでしょう。1840年にイギリスの聴衆のために書いたものです:

胸から出る音は、…息や音が通過する経路の中で、口のどの部分に対しても振動させることなく、出さなければならない。 口の屋根や側面と少しでも接触すると、音質を破壊してしまう。
女性は、口のわずかな湾曲によって、最も容易に胸から音を生み出すことができる。

コメント
それで、ここでは胸声についてのいくらかの具体的なアドバイスを得ることができます。低く歌うために「低くする」必要がないことを示しているのですから、役に立ちます。あなたの低い声は、-どう言えば良いのでしょうか?― 楽に話すポジションから発せられる。このような音は、聞くのも一つの楽しみでしょう。個性的でありながら、強引さや押しつけがましさがなく、壁になっていない。それらは問題なくヴォーカル「ライン」の一部を形成しています。繰り返しになりますが、ラブラシェが言っているのは、胸声は口の前から何の障害もなくまっすぐ出てくるような感じを与えることです。

また、胸声も他の音と同様に、ほとんど息を必要としないことも覚えておくとよいでしょう。 息を吹きかけるように与えると、おそらく毛羽立つか、不明瞭になることでしょう。これに対処するために、何かを抑えたり、硬直したりする必要はないのです!ラブラシェが提案する方法で、胸声もシンプルに、自由に出してみましょう。しかし、話をするときよりも少しばかり労力をかけてください。

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歌手の提言 No.127

レナルド・ハーン Reynald Hahn は、パリに居を構えたヴェネズエラの作曲家である。彼は、歌手の技術に大きな関心を持ち、実際、自身もかなりの歌い手でした。1921年に、彼はこう云っています:

偉大な歌手はみな(ハーンは女性歌手について話していた)、低音域で胸声を使っている。
F[Hahnは中央Cより上のFを言っている]の下で使われる、混合された声区ほど、弱く、哀れな、退屈で、苦痛なものはない。今日、多くの教師たちが、ミックスボイスを「正しく位置づける」ことができれば……チェストボイスに取って代わることができると言っている。決して、決して……これが本当の意味での代りであるはずがない。

そして、ハーンは、胸声(チェストボイス)をうまく使っている歌手の例をいくつか挙げ胸声の持つ有用な伝達力を示しました:

細い声のマルガレーテを何度も聴いた後で…『ファウスト』の2000回目の公演で、イヴォンヌ・ガル女史が、この数年間は聞き取れなかった有名な言葉を、しっかりとした支えと独特の音色で表現するのを聞いた時の喜びを覚えています:”Je voudrais bien savoir quel etait ce jeune homme”「あの青年が誰なのか、ぜひとも知りたい。」

コメント
私自身、この意見に大賛成です。女性の胸声には、音色だけでなく、声を運ぶ性質があります。
そして、唯一の例外は、ソプラノがこの領域で全く能力を持っていないように見える場合です。ナヴァはこれに対していました…:

…いくつかのソプラノ声、特に非常に高い声は、… 胸声区の音を持っていない… それに注意を払う必要はなく、この胸声音を得るために喉にどんな努力もする必要はない。この様な場合… 中音の発声を可能にするために用いられるものと…同じ音質を適用した方が良いかもしれない。このようにして得られた音は、特に低音のC、D、Eにおいて非常に不明瞭であるが、適度な練習によって十分に量感と表現力を得ることができる。

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歌手の提言 No.128

私たちの時代の最初のころは、女性のレッスンは「胸」の領域で正しく始める教師が少なからずいました。例えばガロードは、ソプラノと思われる女性に、C(ピアノでは真ん中のC)とその4音上のFの間で練習さ せました。彼は、これで彼女の高音の獲得が台無しになるのではという心配はしていませんでした。これは、彼女の声の3つの異なる領域(胸声、中声、頭声)を発見することの一部に過ぎなかったのです。ガロードによれば、女性はまずこの声区を発見し、隣接する区域を「結びつける」(reunir)仕事をすることになっていました。彼はメゾを中央Cの下のAから始めて、胸声で4度上のDまで練習しました。ナヴァと同じように、コントラルトは3つの声区より2つの声区がある方が良いと考えていたので、理想的な胸声区は、例えば中央Cの下のFから中央Cの上の2番目のDまでと、広い範囲でした。

冒険的な教師もいました。 ガルシア家はマリア・マリブランとポーリン・ヴィアルドットに、胸声の高さをコントラルトの高さまで上げる練習をさせました。そして、レッスンでのデュプレもそれと同じように厳しいものになるかもしれません:

確かなことは、デュプレがミオラン嬢(後にカルヴァーリョ嬢、グノーのオペラでジュリエット、ボーシス、ミレイユの初演を歌った、いずれも高貴な役)を指導したとき、B♭までの走句を胸声で歌わせたとサン=サーンスが私に語ってくれたことであろう。

これは誰にでもできることではないはずです!サン=サーンスが言葉の後で言ったように、『彼女はとても頑丈な声を持っていたに違いない!』より普通の勉強は、上記のガロードの提案に沿うものであったことを付け加えておきましょう。

歌手の中には、胸声のトレーニングがしっかりできている、と評価される人もいました。
ドラマチックなソプラノ歌手、エマ・カルヴェEmma Calve はこう語りました:

あなたは、全く正しい。私の発声装置の基礎である低音をしっかり支えられたからこそ、声が保てたのだと確信しています。

歌のレッスンによって自分の胸声が明らかになったのなら、それを誇りに思い、その胸声を積極的に使ってください。マルケージは、1901年に書きました:

多くの国で……胸声の育成は高音の発達を損なうだけでなく、その完全な喪失を伴うという意見が優勢である。 …[これは]間違いだ,断固として間違いだ…. 胸声のない声は、G弦のないヴァイオリンのようなものだ。

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さらに付け加えるなら、胸声も他の音と同じように、下品にアタックしてはいけないということだ。1921年にインタビューを受けた時、コントラルトのシューマン=ハインクはこう答えています:

わたしはオルトルートの胸声のAを力まずに歌えるようになりました。胸声を無理に出すと高音が苦しくなるし、その逆も然りということを常に念頭に置いてください。

シューマン=ハイクは、女子学生には胸声を『緊張せず、力まずに』出すようにと、確かに強く求めていました。

若い女の子が子牛のように胸の音を出したり、霧笛のようにメガホンを鳴らしたりして歌うのを聞くのは恐ろしい…この霧笛の音は続けることができません。自分自身を消耗させるだけです、そして気がつくと声が出なくなっているのです。

まあ、私たちの時代には、この本に登場するすべての歌手から標準的なアドバイスがあったわけですが。力まずに、やさしく作業してください。

この胸声区の見つけ方は?コントラルトや本物のメゾは、もともと何かを持っているのでしょう。このソプラノ歌手へのアドバイスは、バリトン歌手のジャン=バプリスト・フォーレが1886年に出版した歌の本から引用したものです:

ソプラノ歌手がこの声区を必要とするときに、それを見つけるのを助ける最も効果的な方法は、模倣です。生理学的な定義では、彼女らの助けになりません。ソプラノは、少年の声、子供の合唱で聴く声、コントラルトの声などを真似ることで、最も早く身につけることができます。

前回のTipで紹介したレイナルド・ハーンは、この本を大変気に入り、クララ・バットのようなコントラルトや、ネリー・メルバのように明らかに高い声と強い胸声区を兼ね備えたソプラノのレコードを聴くのも有効だと付け加えています。

コメント

ちなみに-声にたくさんの息を押しつけないことは ― 異なる声区の特徴的な響きを発見するのに、役に立つかもしれません。

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歌手の提言 No.129

声区の変更については、ナヴァは『隣り合った2つの声区の間に明らかな区切りがあってはならない』と述べている。むしろ、あなたが目指すべきことは、

声質が全域にわたって均一であること。

ナヴァは、『ある声は、それを自然に持っている』が、『他の多くの声は、美しく、響きがよく、広範であるが、異なる声区の間の断絶があまりにも明白であるという欠点がある』と述べている。これは、『ブレイク』を持つ人へのアドバイスで す:

この欠陥は、隣の音に気づかれないように接続することが困難な、声区の端にあるいくつかの音が犠牲になっているとしか考えられません。例えば、コントラルトの歌手が、胸声のAやB♭[中央のCの上]に到達したとき、…[次の]声区を前にして抵抗感を覚えるために、声の全領域をすばやく走り抜けることが難しいと考えている、あるいは、そのまま続けていると、別の声が代用されたのではないかと思われるほど大きな違いが感じられるような場合である。
では、このコントラルトにA♭やB♭の声区の変化を予測させてみると、すぐには無理でも、少なくとも辛抱強く練習すれば、やがてその障害は消えていくだろう。このような変換は、声の美しさを損なうことはなく、ソステヌートのスタイルでも、特に異なる声区の連続する2つの音の間で大きな効果を発揮することができる。

ナヴァは、『どんな声質でも同じルールが適用される』と、有益な説明を加えています。

コメント

後述するように、一旦うまく音を発する方法を知ってしまえば、その次の音を予測することはあなたにとって必要なことではありません。しかし、それは、歌う学習に於いてはそうです。
レーマンは、生徒たちに『次の音への正しい伝わり』をあらかじめ頭の中で作っておくように言いました。
これが常にできるようになれば、『声区に関する疑問はすべてなくなるに違いない』と考えていたのです。
しかし、彼女は非常に有用な一般的なアドバイスを付け加えました:『(生徒は)しかし、声区について訓練されてはならない。 いくつかの音を一つの同じ点に押し付けてはならない。すべての音は、それぞれの場所に自然に置かれるべきものである。』

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歌手の提言 No.130

そして、今、我々は頭声に移ります。この分野には、「もし」や「しかし」はありません。良い歌を理解したければ、あなたは頭声を理解しなければならない!そして、その価値をすべて理解するには、少し時間がかかるかもしれません。それでいいんです。昔の歌手も往々にして時間がかかりましたから。

リリ・レーマンは、頭声こそ歌い手にとって最も価値のある財産だと言い、その理由を説明しました。

頭声……それは男女を問わず、すべての歌手の最も貴重な財産である……。

これなくして、すべての声は輝きと伝達力を欠き、脳のない頭のようなものである。他のすべての声区の助けになるように常に呼び出すことによってのみ、歌い手は自分の声を新鮮で若々しく保つことができるのです。それを注意深く適用することによってのみ、私たちは最も疲労する要求に応えることができる持久力を得ることができるのです。この方法によってのみ、すべての声域を完全に均一化し、その音域を拡大することができるのです。
これが、高齢になっても声の若さを保っている歌手の大きな秘密なのです。

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Lehmannは次のように考えていました、

頭声は、何にもまして、守護天使でありガイドとして大切に育てられなければならない

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歌手の提言 No.131

ルイザ・テトラッツィーニは、あなたが初めて頭声について考えたときに直面する問題をよく理解していました。最初の頭の響きが『しっくりこない』ことが多いので、低い声区で押し上げることに戻るのです。頭声の響きを取り入れることで得られる多くの利点は、すぐには得られないかもしれませんが、その苦労に見合うだけの価値があることを、あなたは受け入れなければなりません:

若い歌手は過度の熱意をもって高音を伸ばし、自分の耳で、ともかく中声と同じように大きく響かせようとします。
純粋な頭の声は、歌手自身には小さく弱々しく聞こえ、むしろ胸の声質を使いたいと思うのですが、頭の声は、大きなホールでも伝わるような突き抜ける声質を持っており、中音域は・・・声がこもり、重く、活力に欠けたものになるのです。
歌い手にとって、その音はとても大きく感じられても、実際には響きに欠けるのです。

コメント

頭声には伝達力以外にも多くの美点がありますが、テトラッツィーニがそこに注目するのは正しいことです。それは、第三者が見れば簡単にわかることですが、最初は自分自身があまり評価しないものなのです。しかし、頭声が身についてくると、この高音がもたらす音の響きやスリル、生きる喜び、表現力などを自分で感じられるようになるのです。

テトラッツィーニは、頭声を「作り上げる」のに時間がかかることを認めています。しかし、中声を「引きずり上げる」のは常に間違いであると付け加えています:

中声区は高音域まで引き上げることができますが、常に、まず声の美しさ、次に声そのものを犠牲にします。どんな器官も、長い間間違った使い方に耐えることはできませんから。

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歌手の提言 No.132

ここで、『頭声』の概念を最初はとても理解しにくいと感じたある歌手の例を紹介します。それでも、彼女は最高に素晴らしい高音を出すことに成功しました。そして、それがドラマチックなソプラノ歌手、エミー・デスティン Emmy Destinn です。彼女は10代の頃、歌手のロエベ・デスティンLoewe-Destinn に師事し、ご覧のように彼女の名前をもらったのです。10代の気難しい学生(決して音楽ができないわけではなく、立派なバイオリニストだった)である彼女は、当初「ヘッドトーン」の意味さえ理解していないと話していました。しかし、レッスンの後半には理解できるようになり、その後、それらを育てるために努力したと言われています。

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エミー・デスティンのヘッドトーンは、 初期の録音アーティストの中でも最も素晴らしいものの一つです。強靭で、純粋で、大編成のオーケストラの上を乗り越えていくことができるのです。例えばコヴェント・ガーデンでは、アイーダ、トスカ、マダム・バタフライで有名でした。

私たちは今日、このような役柄で安定した明瞭な声を聴くことに慣れています。その素朴さ、壮大さ、装飾音への対応力(華麗なトリルも可能)により、初期の音楽にも向いていました。例えば皇帝【オーストリア=ハンガリー帝国】は、彼女が歌う伯爵夫人のアリア(『フィガロの結婚』)をいつも聴きたがっていました。

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歌手の提言 No.133

ここでは、さらに3人の歌手が頭声の重要性を強調し、どこでどのようにアプローチすればよいかをアドバイスしています。フランシス・アルダ Frances Alda はニュージーランドのソプラノで、前世紀初頭にパリで訓練を受け、その後メトで輝かしいキャリアを積みました。:

マルケージは、頭声を非常に重視しました。彼女は、あらゆる弟子に、高音部譜表の第一線のF以上を、頭声以外では決して歌わせませんでした。彼女たちは、フルボイスで最高音に触れることはほとんどありませんでした。声の上部は、初期の故障を避けるため、限りなく慎重に節約さ れました。その結果、彼女の教え子たちは、高音を歌うとき、何か余力があるように感じながら歌うようになりました。高音で力尽きるような歌手は、芸術的でもなければ効果的でもありません。

同じくマルケージ門下のネリー・メルバは、高音を出すために決して緊張してはいけませんと言いました:

ソプラノ[トレーニング中の]が頭声を歌うとき、非常にソフトに、全く緊張することなく上昇しなければなりません。このことは、強く主張してもし過ぎることはありません。

正確に頭の音のどこに持ってくるかは個人差がありますが、コントラルトのシューマン=ハインクは、すべての女性がDとE♭(高音部譜表の上の)から始めるべきだと推奨しています。

私は必ず頭声と呼ばれるものを使っています。女性の歌手は常に譜表上この度数で頭声を開始しなければなりません、そして、時々推薦されているように、FまたはFisの上でではありません。

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ヘッドトーンの開始位置に関するシューマン=ハインクのアドバイスは、マルケージよりも標準的だったのかも知れません。これについては、本章で紹介する『SOME FURTHER SUGGESTIONS』のセクションで詳しく説明します。歌い手が声区について語るとき、どこで変化が起こるのか、その評価は少し異なることがあります。

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歌手の提言 No.134

よく、歌わない方法でヘッドトーンを見つける方法があるはずだと提唱されることがあります。ハミングがよく言われます。合唱団に所属する子供たちならともかく、大人たちは昔から『ハミングしてはならない』と言われてきました。昔の歌の勉強は、歌って覚えるものでしたから実際の音を目指します。その次に、声のセットアップですべてを正しくトレーニングすることになります。

ここで、クレセンティーニの弟子であるスカファティが、この件についてはっきりと述べています:

彼は、「頭声」と呼ばれるものを獲得する手段として、鼻からハミングをするという現代的なやり方が流行っていることを、軽蔑して笑った。 咽頭を発達させない限り、決して正しく身につけることはできないからだ。

彼は、この試みは単に鼻音が強く出るだけで、経験の浅い人はこれを本物の鼻腔共鳴と勘違いし、頭の中で感じるブーンという音の強さは、頭の中の振動量の基準にはならない、と主張した。

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キャスカート博士は、スカファティーの説明を続け、こんな注意をしました:

さらに、ハミングの練習は、どんなに熱心に行なわれても、生徒が喉を自由に開くのを助けることはできませんし、音が喉に詰まって、歌手、特に現代の疑似科学路線で訓練されたテノールによく見られる喉声のような音が出るのを防ぐことはできないのです。

昔のテノールに移りましょう!

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歌手の提言 No.135

Tito Schipaは前世紀で最もエレガントなリリックテナーの一人である。ジーリでさえ、彼のことを『スキーパが歌えば、我々はその偉大さにひれ伏すしかない』と言っていました。1932年、デンマークでインタビューを受けた彼は、誰に教わったのかと聞かれました。

『彼はマエストロ・ピッコリというんだ』とスキーパは答えました。『彼はいい人で、とても耳がよく、私の歌を聴いてくれて、よく “ブラボー “と言って褒めてくれました。』

『しかし、その見事なニュアンスと多彩な声色は、誰に教わったのですか?』

『このような経緯で実現しました』 と、スキーパは云いました。『作曲を始めた当初はピアニッシモで歌おうとし、徐々にメッツァボーチェ、ミックスクオリティ、ファルセットでテンションと色彩を高めていったのです。その後、自分の声の2オクターブで簡単に異なるテンションを出せることに気づきました。』

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そうですね、ここには使えるものがたくさんあります。スキーパは、「頭声」をいろいろと試しながら、そうして少しずつ自分の声の色をつけていったと語っているの です。テンションという言葉も、彼が指摘するとおりです。  声帯がうまく機能するためには、ある種の緊張感を持たせなければならないからです。つまり、首ではなく、声帯にテンションをかける能力です。(そして、他の歌手は、これが硬い握力ではなく、弾力的な収縮能力でなければならないことを思い起こさせるでしょう。)

スキーパの声は、とてもよく『通る』ことで有名でした。フォーカスが容易で、旋律の美しさにも注目されます。

Tip130で、レーマンが、ヘッドボイスを注意深く適用してこそ、最も疲労するような要求に応えることができる、と述べたのを覚えているでしょうか。頭の響きを取り入れた声は、無理に押し出した声よりも『長持ちする』のです。スキーパが言ったように、『演奏後に身体が疲れていても、ハスキーになったことはない』のです。

 

A NOTE ON BEING OPEN-MINDED ABOUT REGISTER TERMS
声区という用語に関する留意点

声区という用語は、厳密な科学というより、むしろおおまかなものです。
それらが示す多くのことは、最終目的地というよりも、あなたにとって必要な道程なのかもしれません。
最終目的地は、スカファティの言葉から引用すると、次のようになります:

低音から高音まで、すべての音を胸と頭の共鳴で出さなければならず、完全にブレンドされているので、歌い手は低く歌おうとか高く歌おうとか考える必要がなく、それぞれの音が同じように簡単で、音楽が要求する表現に全身全霊を捧げることができるのです。

しかし、そこに至る道程では、自然が与えてくれたすべての生き生きとした真の共鳴を発見することになるのです。

この章の冒頭で、「声区」についての主張を聞くときは柔軟に対応する必要があると述べましたが、もしかしたらあなたもあまり主張しすぎない方がいいかもしれません!

一番いいのは、自分の耳と心を開いて、最も優れた歌の習得を目指し、それを自分で実現することです。もし、あなたが「声区」について固定的な意見を言う人に出会い、特にその意見によって、自分の声の中に発見できるあらゆる色や響きを心地よく探求することができなくなるようであれば、その人のアドバイスは無視した方がいいかもしれません。

例えば、Tip119で、サントレーがレッスンで自分の声の3つの領域を探ったこと、それを訪れたボーカルマスターが揶揄したことをご覧になったでしょう。それでも、この「道」はサントレーにとって正しいものだったのです。しかし、最終的に彼は、歌の歴史の中で最も幅広く、均整のとれた声の持ち主となったのです。

音楽のプロフェッショナルの中の傍観者は、このプロセスを必ずしも理解しているわけではありません。多くの歌い手にとって最終的な理想、つまり声のすべてが1つの「声区」だけで作業することだと、簡単に結論づけることができるのです。だから、その人たちは、たぶん、「女性は胸音を使う必要はないんだ」と言うでしょう。もしその考えが歌の世界で広まったら(残念ながらある時期には広まった)、女性歌手は「その通り、私たちは胸声なんか使いませんよ」と言い返さざるを得なくなってしまうのです。アルボーニもシューマンハインクも、本当の真実を知っているレイナルド・ハーンのような専門家たちを楽しませるために、自己防衛のためにこの嘘を発したの です。

207ページ

テナーの場合はさらにひどかった。彼らは、すべての声をひとつにまとめたいタイプだったとしましょう(もうひとつのタイプは、この時代のはじめに起こった一過性の現象で、後編で扱います)。スキーパの提言や、これから紹介する提言からもわかるように、この時代のテナーは、「頭」の響きを最も確実かつ巧みに声に取り込んでいました。スキーパを含む何人かは、その音にファルセットを使ったといいます。

ファルセットというのは、頭声(ヘッドボイス)の別名であることが多いので、歌い手と聴き手の間で特に論争になるようなことはありません。

しかし、テナーが声を均一に出すのが上手になり、また高く出すのも上手になると、周囲の視線が厳しくなってきました。テノールの高音に充実感がないように思えるのはファルセットだからだ、どこか欠陥があるのでは、と指摘されたのである。そのため、後述するように、何人かのテナーはファルセットという言葉が自分たちには当てはまらないことを、すぐに説明し直しました。

ファルセットの用語の『定義』はまだこれからですが、声区の用語は厳密な定義が難しいということは、もうお分かりかと思います。この章の最終ページまでに、声区の開発と最終的な均一化を保証する標準的な解答がないことがわかってもらえたと思います。自分の感覚を頼りに、自分で道を切り開くのです。

しかし、芸術的な目的は変わりません。昔の師匠達は、声の領域にはそれぞれ目的があり、それぞれの領域には適切な敬意が求められると断言しました。そして、個々の声を持つあなたは、音量、躍動感、純度、透明度など、これらの領域を均等にする必要があったのです。

今まで通り、力まかせではなく、あくまで楽にやること。

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歌手の提言 No.136

提言135では、スキーパが頭と頭-胸(『ミックス』)の音をいろいろと使いながら声を作っていったと話していました。そこで、さらに4人のテナーを時代別に見てみましょう。全員が頭声を開発するのに時間をかけていることがわかります。

そのうち2人は、スキーパと同じようにファルセットという言葉に納得していましたが、2人はそうではありませんでした。

その最初の人が、ジャン・ド・レシュケです。彼の師であるスブリッリアの言葉です:

テノールの高音は、息が下にあるファルセットであることに誰も気づいていないようだ。ジャン・ド・レシュケは、バリトンであった。私は彼を、彼の時代で最も偉大なテノールにした。
教師からの慎みのない主張ではあるが、いくらかの真実がそれにある!

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『息が下にある』という言葉は、クレセンティーニやマリブランの『息の上(above the breath)』という言葉を思い起こさせるかもしれません。Tip79を思い出すと、クレセンティーニはこれを『頸部のゆるみ』に結びつけていました。スブリッリアも同じように、『胸から上は緊張してはいけない』と強く言っていました。

ズブリッリアは、ボイストレーニングには時間がかかることを知っていました。『美しい倍音を伴って正しく声を訓練するには3年かかる』と、彼は言いっていました。 『高い音声は、息が下にあるファルセットである』という彼のキーワードを考えるとき、そのような考え方を念頭に置かなければなりません。

我々は、言わばアマチュアの気息質の声や、小さなファルセットについて話しているのではないことは明らかです。結局、ズブリッリアの弟子で、この系統の教育を受けたジャン・ド・レシュケは、ワーグナーとフランスのグランド・オペラを代表するテノールになりました。私たちが話しているのは、響きがよく表現力のある高音、声の各部分と一体化した高音ですが、音や見た目は少しも気息音が強くない高音についてです。

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歌手の提言 No.137

もう一人、自分の高音をファルセットだと考えたのは、ベニアミノ・ ジーリである。
耳鼻咽喉科医のトマティス博士が、アーティストとの対話を記録したものです:

Gigliは、私に彼の高音の秘密を教えた…それは、ファルセットのaccomodate(順応、調整、和解)であった。[Gigliの想像上の造語。それは彼がどのように感じたかという正確なレポートは、243ページを参照]。
しかし、生前は決して口外しないようにと言われていたので、その意向を尊重してきました。生きていれば、どんな騒動になったか想像が付きますよね。人々は、彼を弱虫とかインチキと呼んだでしょう。

その当時はヴェリズモの全盛期でした。ファルセットは絶対にダメでした、特にイタリアでは…このような歌唱法の美点は、ヴェリズモで出現した押し出しの強いガッツのある音に取って代わられそうになった……ファルセットは一時期、時代遅れで、頽廃的であるとであると思われた 。それを使い続ける歌手は、うまく誤魔化さなければなりませんでした。人々は忘れていました、……それが私たちの作るすべての音の基礎であることを。これが、声区間を正しくシフトする唯一の方法です。その調整の仕方がわからないと、高音へのアプローチが難しくなります。喉頭は自由に下がらず、声は硬く、ストレートで、白く、酸っぱく、生気のないものになります。これはベルカントではなく、カンベルトだ!このメカニズムは、ソプラノからバスまであらゆる声にあるはずだ。

コメント

これは非常に有益なコメントであり、歌唱技術が度重なる無知に悩まされていることの証明でもあります。音楽業界の人間は、音楽の音の成り立ちについてあまりに無知で、偏見に満ちているため、最高のアーティストでさえ嘘をつかなければならないのです。

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歌手の提言 No.138

それに対してシムズ・リーヴスは、ファルセットという言葉の定義を明確に述べています:

ファルセットとは、フルート奏者が出す偽音のようなもので、いわば音の外にあるものです。ヴァイオリニストが倍音を出すときも同じである。

しかし、リーヴスは、イタリア語の歌唱には頭声(ヘッドボイス)が欠かせないと考えていました:

メッツァ・ヴォーチェ唱法― つまり胸から高音を叫ぶ代わりに頭で声を出すというのは、ほとんど最後の技術のように思われる。しかし、メッツァ・ヴォ―チェは、イタリア人が古楽派と呼ぶものの最大の魅力のひとつである …
歌のフレーズを楽に描くためには、歌い手はメッツァヴォーチェを完璧に使いこなさなければならない。 そうでなければ、優雅に、あるいは感情的に歌おうとしても、ただ声がぐらつくだけで、滑稽なものになってしまう。
メッツァ・ヴォーチェを修練しない罰は、声の速やかな破壊であるだろう ― ;ほえることと叫び声(それを多くの人は生気に満ちた劇的な歌い回しと間違える)のは、歌手の破滅への道である。

コメント

『メッツァ・ヴォーチェの完璧な制御』…、そしてそれなしでは…『声の破壊』。この技術は、すべての歌手が習得しているわけではありませんが、本書に登場する歌手は習得しており、表現力豊かな歌唱には欠かせないものです。ヘンリー・ウッドはリーブズを賞賛していました:

私はいつも言っているのだが、ある歌手があるフレーズを歌い、それが聴き手の心に残り、他の誰かがそれを歌ったときに再現されるなら、その歌い手は決して無駄な歌を歌ったのではないのだ。そう、私にとっては、それがシムス・リーヴスなのです。私は、Deeper and deeper still (Handel)のタイトルを聞いて、彼の素敵な抑揚と質を思い浮かべずにはいられません…『トム・ボウリング』では、観客の涙を誘ったが、彼はドラマのために音を犠牲にすることはなく、音によってドラマを表現したのである。この偉大な歌手の蓄音機レコードがあればと願うばかりである。

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歌手の提言 No.139

ジョン・マコーマック(リーブスの写真を音楽ライブラリーに飾っていた)は、彼が考えるファルセットとメッツァヴォーチェの違いを快く実演してくれました。かつて彼は、静かな高音を『ヴォ―カル・トリック』『絞り出したファルセット』と評した批評家から非難を浴びたことがありました。マコーマックは公開書簡でこう答えています:

私はファルセットを歌わないことを敢えて申し上げたい。私の柔らかい歌声は純粋なメッツァ・ヴ―チェで、それを得るために何年も懸命に勉強したと言ってもいいでしょう。メッツァ・ヴォーチェとファルセットの大きな違いをお見せしたい、いや、お聴かせしたいと思います。

そのような実演を聴くことができたら、とても魅力的だったでしょう。 しかし、マコーマックは別のところで、どのようにして高音やさまざまな音量で歌うことを学んだかを語っています:

私たちの作業において、サバティーニが最も注意を払ったのは2つの目的であった。 私が生まれつき持っていないメッツァ・ヴォイスを獲得すること、そして私の高音を自由にすること。
この声はいわゆる「長い」声ではなく(つまり下から上まで十分な音域があるという意味だ)、高音は喉に入ってしまう。しかしそれを自由に出して、高いAやB♭を低音部と同じ音質を持つようにするために、サバティーニから絶えず丹念に教えられ、自分でも練習する必要があった。メッツァ・ヴォーチェ(声量を半分にする、あるいは半分以下で歌うこと)には時間がかかり、しばしばくじけそうになったものです。

コメント

マコーマックによると、彼の高音の能力は、決して生まれつきのものではありませんでした。むしろ、高音は自分で練習して、根気よく教えてもらったものです。
そして、サバティーニの教えの中心はそこにあったということを、私たちは有益に理解することができます。

212

歌手の提言 No.140

ロンドンのSVSは、バリトンはテナーより少し楽な仕事だと考えていました。バリトンやバッソカント(バスバリトンともいう)をまとめて、こう言いました:

いずれの声も「ブレイク」に関してはあまり問題ないが、かなり未熟な場合、オクターブ下と上とで自然な質の違いが感じられる。
しかし、これらの音域(F,G,A below middle C)で感じられる違いは、テノールやコントラールが声の切れ目を管理する際に遭遇するような困難はなく、練習で取り除かれます。したがって、バリトンボイスの持ち主は、比較的「楽」であると見なすことができるかもしれません。

しかし、彼はすぐに学生のバリトンに警告を加えます:

ただ、大声を出したり、音域の頂点までフルピッチで歌ったりするような誘惑は避けてほしい……。…バリトンが派手な歌手になるのはかなり簡単なことで、そこに、本当に優れた歌手になるチャンスに対する最大の危機がある。生まれつきの才能に恵まれない人と同じように、自らを律し、忍耐強く修行に励まなければならない。

コメント

そして、SVSは若いバスにも同じように警告を発しました:

他のどの声種の場合よりも、豊かで充実した声質が現れるのが遅いので、若い歌手は、バスの音域とバリトンのような声質でしばらく勉強することに満足しなければならない……
高音で声の幅を広げようとせず、低音に最大の注意を払おう…最初は(高音を)そのままにしておくことに満足しよう…もし今、高音を叫ぶことに執着するなら、粗い高音しか出せなくなり、ただ行商人の手押し車の後で聞くか、ミュージックホールの「コミック」ソングにしか適さなくなるだろう。

213

歌手の提言 No.141

前世紀初頭のイタリアでは、テノール歌手のアレッサンドロ・ボンチ Alessandro Bonci は『昔の歌い方』を代表する存在と考えられていました。
1912年、アメリカの歌手がマンチーニの著作を英訳したとき、ボンチをこの歌の芸術の後継者と考え、序文を欠くために彼に質問しました。これはボンチの発言の一部です:

子音を犠牲にすることなく母音を広げる方法を教えてくれるので、英語圏の人々にあなたの著作を強く勧めたい…
イタリア語は、非常に流動的で純粋な言語であるが、母音を強調することで、音を適切な位置と高さに保ち、柔らかい部分でも大きい部分でも、丸く響くようにすることがよくある。

母音を『広げる』ことは英語圏の歌手にはなかなか正しい意味を伝えられませんが、(Bonciの言葉では)『強調された』母音とともに、より広い喉を考えることは助けになるかもしれません。そして美しい音色と正確な母音、適切な位置と音程を得ることが、声区を扱うすべての目的なのです。

コメント

母音を強調することは、英語圏の歌手も同じように推奨していました。例えば、こちらはロンドンのSVSです:

広い場所で、多くの人に向かって話したり歌ったりするときは、…歌われる言葉のすべての母音を強め、…通常の会話よりも正確に伝えなければならないことを忘れてはならない。

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歌手の提言 No.142 編集中

一般的に、音域は2オクターブあれば十分と言われています。確かに、いくつかの役ではそれ以上のものが要求されますし、歌手は自分の声を壊すことなく、それ以上の音域を扱えるように学びました。しかし、3オクターブの音域を日常的に鍛えるというのは、トラブルのもとです。これについては、我々の多くの情報源から警告がありす。例えば、ガルシア・Jrは1864年、ケルンでマルケージに師事していた歌手のアントワネット・スターリングを指導しました。彼女はミドルCの下のDからトップソプラノのCisまで、3オクターブの音域を披露しました。

あなたが、やってきたことを続けるならば何が起こるか分かりますか? ゴムのこの部分を見なさい。私は両端をしっかり持って伸ばしています。結果はどうなるか?、中央で薄くなります。これをずっと続けていると、だんだん弱くなってきて、最後には壊れてしまうんです。

ガルシアは、スターリングにコントラルトを歌い、当分の間、極端な練習はしないようにとアドバイスしました。その後、彼女はコントラルトとして素晴らしいキャリアを積んでいきました。

ベーコンは40年前にも同じアドバイスをしています。『声を双方向に際限なく伸ばしてはいけない』ということです。:

喉の器官は、一方では音域を獲得し、他方では音を失ったり、損なったりすることが滅多にないような構造になっていると考えています。

そしてガロードは、普段から自然が自分の音域や音色をかなり明確にしてくれていると考えていました:

たとえどんな教授が言ったとしても、自然は私たちに1種類の声しか与えないのですから、その音色や音域を変えることには細心の注意が必要です。

コメント

そう、歌手の中には、自分の声が2オクターブ以上出ることがわかっている人もいるのです。しかし、やはり上記のように慎重にアプローチするのが一番です。

215

歌手の提言 No.143

私たちは、自然の限界を超えた声区の強要について、すでに何度か警告を発しています。
もし、あなたの声が荒れたり、疲れたり、ハスキーになったり、かすれたり、もろくなったりしたら、標準的な答えはいつも – 少し…休んでください!でした。ガルシアの同僚であるアグネス・ラーコム Agnes Larkom は、典型的な治療法、この場合は胸声区を無理に上げた女性に対する治療法について説明しました。

声区の使い方が間違っていて、声帯に『結節』(胸声区を無理に上げた結果、よく起こる)ができている場合は、しばらくの間、安静にすることが必要です。 そして、中音域は、非常に軽い発声練習で、困難な箇所の上から始めて下降形で訓練しなければなりません、コントロールができるようになり、筋肉が正常な弾力性を取り戻すまで続けなければならないのです。

この解説は、あらゆる声のあらゆる声区変換でも転用可能です。

全体的なアドバイスとしては、声のどこかに悪い声区の『ブレイク』を作ってしまった場合、それを治し始めるには、音の『頭声性』を持ち込むしかない、ということでした。このテーマについて、2つの異なる国に住む2人の歌手が、ほとんど同じことを書いています:

たとえどこにブレークがあろうとも、その特定の箇所の頭声を訓練することによって治癒しなければならない ―(Sims Reeves ― The Art of Singing(歌唱の技巧)、London 1900)
どこでブレイクが起きても、頭声を鍛えることでしか治らないことを忘れないでください。(ルイザ・テトラッツィーニ、How to sing(歌い方)、ニューヨーク1923年)。

コメント

低音域の声区を高くしすぎてしまうことは、できるだけ早いうちに気をつけて勉強した方が良いでしょう。次の高い声区を楽に持ってくる方法を見つけるようにしましょう。この章の次のページで、さらに多くのヒントに出会えることでしょう。

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SOME FURTHER SUGGESTIONS FROM OUR SINGERS (warning-more technical!) ON SINGING HIGH
私たちのシンガーからの更なるアドバイス(警告-より専門的な!) 高く歌うために

これらは非常に個人的なもので、アドバイスではなく、あくまで提案です。ここで、自分に合う、あるいは時間をかけても効果があるアイデアが見つかるかもしれませんが、どうか個人差や 試行錯誤をお許しください。

『レジスター』についてのヒントはあと1つしかないでしょう。 この章の最後に、4人の情報提供者がこう言っています。 レジスターを均等にするための唯一の公式は存在しない、見つけるのはあなたの責任である。 できるだけ音楽的で自然な方法で、自分に一番合った方法を見つける責任があります。

これらの提案のうち、あるアイデアがあなたに合うとしたら、それは、あなたがより簡単に、調子を合わせて、時間通りに、真の母音で、安定して、あなたの声の残りの部分と「一緒に」心地よい響きで歌うことができるようになるからです。もし、ここにあるアイデアがあなたにとってうまく働かないとしたら、それは、無理強いしているように見える、不快感を与える、基本的な理 由から遠く離れて母音を変える必要がある、速度が落ちる、苦痛に満ちた表情をする、などの理由によります。
ですから、この分野では忍耐強く、柔軟に取り組む必要があります。
4つの主要分野を見てみましょう。

1  異なる声種によって、レジスターの始まりと終わりはどこか?(しかし、それらは変えられる!)
2  昔の歌手は、高くなるにつれて何を考えていたのか?
3 この問題に取り組むために、何か特別な音楽的練習をしたのでしょうか?
4 自分に合ったアイデアを見つけるための、忍耐力と勉強の価値。

1  異なる声種によって、レジスターの始まりと終わりはどこか?(しかし、それらは変えられる!)

すべての声がどこで声区変換を受けるのかを、ひとつのルールで表そうとする試みもありましたが、なかなかうまくいきませんでした。ナヴァを例に挙げてみましょう。ナヴァはその著書の中で、こんな一般論を述べています。

声区変換は、すべての声種で、それぞれの音部記号の第4間と第5線の間で行われる。

ナヴァの言う『声区変換』とは、より高い、あるいは最も高いレジスターをもたらすものです。
確かに、昔はそれぞれの声に音部記号がありました。ここでは、そんな『声区変換』を現代的な表記で紹介します。

Mezzos  &  Sopranos —-ドとレの間
Contralto —- ファとソの間
Tenor —- レとミの間(以上、高音部譜表)
Baritone —-シとドの間、Bass —-ソとラの間(低音部譜表)

しかし、ナヴァはPractical Method(baritones & basses)(実践的方法(バリトン&バス))Elements of Vocalisation(sopranos & tenors)(発声の要素(ソプラノ&テナー))で、主要なレジスターの変化についてより充実した、より多様な説明を書いています。これらが主な特徴でした:

男声:

バス:ハイEまでチェストボイス、ただし「ハイDを過ぎるとやや強引な印象」(だから、バリトンと同じことを、バリトンより低い出発点で変えているように思えるバスもいる)。

バリトン:チェストボイス、そして『バス記号の上のCから始まり、ミックスと呼ばれる声質で滑るように、高い音に甘さをもたらす。』

テノール:チェストボイス、そして『「五線譜の一番上のDまたはEから始めて、ミックスと呼ばれる種類の声部に入る。』

女声:

コントラルト: チェストボイス(オープンボイスとも呼ばれる);次にミドルCの上のCからヘッド(ただし、ここでは無理強いしないように注意深く、ヘッドボイスはもっと低い位置に持ってきてもよい)

メゾ・ソプラノ: チェストボイス、ミドルCの上のGからミックスボイス、そして五線譜の上の方に近いDからヘッドボイス。

ソプラノ:チェストボイス、ミドルCの上のFからミックスボイス、そして五線譜の上の方に近いCまたはDからヘッドボイス。

上記は十分に実行可能な要約であるが、教師や生徒がそれに対するアプローチに違いがあるのは確かである。
ある人は、ナヴァの変化の領域を超えるまでは、本当の意味でレジスターを変えたことにはならないという事実に注目し、他の人は、これらの領域以下でも、望めば、自分の「より高い」共鳴のいくつかを有効に取り込むことができると指摘しています。明らかに、レジスターの領域とその記述の対象には、個性と柔軟性を認めなければなりません。

2  昔の歌手は、高くなるにつれて何を考えていたのか?(様々な提案、特に決まった順序もなく)

警告!
これらの提案の中で、いくつかの技術的な記述に出会います。強引な訓練というより、想像力豊かなアイデアとして、軽く扱わなければならないのです。パッティの義兄であり、師匠でもあるモーリス・ストラッシュはこう言っています。

イタリア人は、筋肉ではなく、想像力で声を鍛えることを信条としていた。

だから、お願いです。これらの提案を解釈する際には、どれも『ヘヴィー』ならないでください。高音やレジスターの変換を自分自身で簡単にできるようにすることを最終目標とした旅です。ここにあるアイデアの一つか二つはあなたの進歩に役立つかもしれません。数週間後、数ヶ月後には、その特定のアイデアはもう必要ないかもしれません。また、ここで『アイデア』を探すのではなく、自分の直感を信じて高音を探す方もいらっしゃることでしょう。

(a) 『喉頭』と『喉頭の上(’above-the-larynx)』?

この区別は、ナヴァやガロードといった初期の文献によく見られるものです。胸の音は「純粋な喉頭」(pure Laringe / du Larynx)だが、高い音は「喉頭の上」(al sicopra della Laringe / sus-laryngien) だと考えられていたのです。

そんな歌手たちは、胸の音はシンプルなものであると言いました。
口からまっすぐ音を出す(Tip126のラブラシェのアドバイス参照)か、少なくとも「開いた」音と言えるような形で口の中で音を共鳴させることで胸の音を出すことができます。ナヴァによれば、さまざまな胸の音は、「喉頭の単純な作用」以外の何ものでもなく、生み出されるのだという。

しかし、同じ歌手は、ヘッドボイスを取り入れたいならこの設定を調整しなければならない、とも言っています。これからはもっと自分の中で音を出していかなければなりません。そして、もしこれで何か顕著な感覚が得られたのなら、この感覚は今、口の奥の『喉頭の上』のどこかにあるのです。

(b) この喉頭の上の感覚についてのさらなる記述

男性の声に関するナヴァの記述を見てみましょう。次の提案では、女性の声に関する彼の非常によく似た説明を見ることができるでしょう。これは、彼がテナーについて述べたものです:

DまたはE(五線譜の先頭付近)から始まる声は、いわゆる胸声と頭声あるいはファルセットの性質を併せ持つため、ミックスボイスと呼ばれる種類の声に入る。
このミックスボイスは、ソプラノの中音部のように喉頭の上方で生成される。咽頭または喉をある程度長くすることで、音を鼻腔の方に巧みに運び、丸みと響きを獲得し、非常に心地よく美的に響く。 これがないと、口から出る音は平坦で喉音になる。

そして、バリトン:

バリトンボイスの音域がすべて1つのレジスターに属していると考えるのは誤りである。ライン上のCから始まって、ミックスと呼ばれる声質で滑り込むと、高音域は見事に甘美な音で到達することができる。このミックスボイスは、ソプラノやメゾ・ソプラノの中音のように、喉頭の上方で生成される。しかし、少なくとも初めのうちは、そう簡単に見つかるものではない。したがって、この種の声は、チェストボイスでもヘッドボイスでもなく、2つの音域の混合でなければならないと考える必要がある。
このようなことが理解できるようになったら、次の音符で練習するのが最も望ましい。

譜表ド~レ♭、ド#~レ、レ~ミ♭、レ#~ミ、ミ~ファ(それぞれ全音符二分音符の長さで)

 

(c) では、そんな歌い手たちは、喉頭とその周辺に何が起きていると考えていたのだろうか?

ナヴァのような教師達は、どんな声区でも、音が高くなるにつれて喉頭が自然に上がるものだと考えていました。しかし、巧みにセットアップを調整していくうちに、新しい声区で喉頭が再び下がり、楽なスタートポイントになる可能性があるのです。この行為に伴って、ある種の「ノドの拡張」も手に入れることになるのです。この一連の流れを、今度は女性の声についてナヴァの説明を見てみましょう:

胸声とは、喉頭の単純な動きによって生じる声のことで、与えられた音の中で徐々に上昇し、声門(glottis)*を押し上げ、ついには喉の峡部(isthmus)**でほぼ開くようになる。

ミックスボイスはチェストボイスの直後に続く。喉頭はそれ以上高く上がることができないので、適切な位置まで下がり、それによって喉が自由に伸び、ボーカルチューブの寸法が増大し、与えられた数の中間音(特にソプラノとメゾソプラノの声において)を変調させることができるようになる。 そのため、中音は緩和音(temperate)と呼ばれ、自然音または胸音と後続の頭音を連結させる役割を果たす。

* 喉頭の上端は声帯と呼ばれる2本の靭帯でカヴァーされています。これが唇のようになり、グロティスと呼ばれる小さな楕円形の開口部を残す[ナヴァの言葉]。
** 喉の峡部とは、舌の背後、咽頭と口が接する部分を指す。【gulletは食道とも訳しますが舌の後ろで口と接するところは咽頭と考えるべきでしょう。口峡のことか?】

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そして、ナ―ヴァは頭部共鳴の活性化について、より具体的に述べていきます:

鼻腔は…口の後ろ部分につながる…軟口蓋の収縮によって覆いがないままだと、声管が(vocal tube)増加する。高音の音をこの空洞にうまく導くことで、ある種の反響が生まれ、声に深みを与えることができる。これらの音は、頭声と呼ばれている。

このレジスターは、前述の鼻腔への音のアクセスによって、高音域まで拡張された先行するミックスボイスの継続と呼ぶことができる。

 

(d) 再び強制することへの警告;強制的に位置を決めるのではなく、「あるがまま」にしておける解決策を見つけるようにしてください。

特にナヴァは、低い声区を無理に上げることの危険性を強く訴えていました。女性については、コントラルトを例に挙げて、次のように述べました:

…このような声を出すのは、特にまだ若年の少女には容易ではない。この時期には、絶対に自然に出る音以外、胸の音を出させてはいけない。 そうでなければ、喉頭を過度に上昇させることになり、きつい喉の音になるだけで、さらに声帯の自然な成長に重大な傷害を与えることになるからである。

テノールのためのは;

このように高音を修正する方法は、若い学生には難しいことがある。一般に、高音を胸から無理に出そうとする傾向があり、明らかに努力して、声帯を少なからず傷つけてしまうからである。

そして、バリトンには:

どの若いバリトン歌手も、ミックス・ノートを大切にせず、胸から最も高い音を出そうと努力し、さらに、声帯が自然に出せないものを出すという不可能に近いことを試みると、間違いなく自分の声を台無しにし、いや、完全に失う危険に身をさらすことになる。その一方で、芸術の規則に従って巧みに育成することによって、最も陰影に富んだ効果を声から得られる。

(e) 確かに、上に向かって押し上げるよりも、下に向かって『flop 押す』『drop 落とす』というイメージのものもありました。

レーマンは、そのときの感覚をよく伝えています:

のどや 喉頭がこめかみから吊り下げられているような感じがする。

リトヴィンヌはTip87で、下顎が無能者のようだと言ったのを覚えていますか、Tip125でポンセルはこのような文脈で述べています:

中声区は、ただ話すだけ、口を大きく動かして話さない……あまり大きなスペースをあけない
しかし、上昇するにつれて、より多くのスペースが必要になります…口をもっと開けて、顎を落として、リラックスしてください。

しかし、上に突き上げたり押したりしてはいけないということは、同じように下に向かって突いたり押してはいけないということですね!これは、ヴィアルドットです:

[中略]修正すべき欠点 ...音を下に向かってアタックするということ

むしろ、『発せられた音の自由で純粋なアタック』を目指すべきと彼女は言います。だから、『flop 押す』や『drop 下げる』は、すべてを含む活動ではなく、おそらく文脈なのでしょう。

 

(f) また、現在「横隔膜」などのアクションを多く練習している方は、この部分について再考する必要があるかもしれません …

この本に登場する歌手たちは、しっかりとした胸や肋骨を確立することには強い関心があったかもしれないが、胴体の他の部分を押したり、引いたり、握ったり、締めたり、握ったりしようとすることには無関心な人が多かったようです。(もし、これが初耳なら、前の章をいくつか見直してみてください!)

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ですから、もしあなたがそのような体勢からの脱却に問題を抱えているのであれば、別の見方をすることが有効かもしれません。ここで、横隔膜という言葉を一度も口にしないロンドンのSVSがヒントを与えてくれているのかもしれません。また、『Perseverance 忍耐』の項では、練習の目的は『喉の神経と筋肉』を注意深く訓練することであると述べています。さて、私たちは、首の部分(例えばCrescentini、Sbrigliaなど)だけでなく、筋肉(例えばStrakoschとPatti)の過度な指示については十分に警告をしてきました。そこで、代わりに『神経』という『軽い』テーマで少し考えてみましょう。歌につながる主な神経は2つあり、どちらも大迷走神経の分枝である。 咽頭、食道、胃、肝臓、脾臓、喉頭、気管、肺、肺胞に神経を供給し、腹部の中央まで伸びている』大迷走神経です。信じられないかもしれないが、私は今、19世紀の「音楽辞典」から引用しました。

さて、筋肉を考える代わりに、みぞおち(『腹部の真ん中』)にわずかな感覚があるかどうか確かめてみましょう― 言わば空腹を感じているような感じ(昔の歌手は食後に歌うことを望まなかったことを思い出しましょう)。そして、筋肉を使うのではなく、その感覚が、より流動的で穏やかなセットアップを助けるかどうかを確かめてください。そして、これに合わせて呼吸のアドバイスが必要なら、胸のあたりにだけ少量の息を取り込むとよいでしょう。 そして、Scafatiが言うように、息をどこかに『押し付け』ようとしないことです。このようなセットアップにより、首や喉の感覚が以前よりゆるやかになり、声帯がより自力で、より高い精度で機能するようになるかもしれないのです。

 

(g)このプロセスで声を『老けさせよう』としないこと。 ヘッドボイスを鍛えることは、若々しくフレッシュなサウンドを実現するための重要なポイントです。

レーマンは、このようなサウンドがもたらす若々しさについて、はっきりと述べています。

ヘッドトーンは、最も深いバスの音から最も高いソプラノまで、すべての声部の若さを意味するもので、声域全体の各単音の倍音を供給しているという事実は疑いなくあるとしても。生気のない声は、老けた声です。若さ、みずみずしさの魔力は、一音一音に響く倍音によって与えられます。

あるいはテトラッツィーニが言ったように:

声のヘッドトーンや倍音は……活力、運声力、若さを意味するため、その救いとなります……

この19世紀の理想は、イギリスのテノール歌手ウィリアム・シェイクスピアによって見事に要約されました。

正しい教育によって、声の傾向は常に安定し、新鮮で純粋な状態に向かいます。

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(h) 喉頭を気にするかどうかは、自由です。喉の動きや位置を定義する必要がある場合は、同時に喉の領域で行われる他の動きも記述する必要があります。

喉頭について語る歌手は、『気にしない』『放っておく』『柔軟だと思っている』『一つのレジスターの範囲では上に行く』『いつも下げている』『ずっと下げているわけではないが、フレーズを始めるときは下げるようにしている』などなど、様々なことを語ってくれました。

これらは、まるで全く異なるアプローチのように聞こえるかもしれませんが、歌い手が何に集中していたかによります。首には、気管とノド(食道、ガレット)という2つの『パイプ』があります。喉頭は、気管の設定の範囲内で動かせますが、ガレットの膨張によっても非常に動かしやすくなっています。クリヴェッリはその両方に言及しました:

気管は上昇と下降の自然な作用があり、この作用が喉頭に動きを与えます … [そして、喉頭の後ろにあるガレットを次のように呼びました:] expansion of the throat 喉の拡張

例えば、ある歌手が『喉頭を低く保つ』と言ったとしたら、それは、(i)気管の中で低く保ち、ガレットは何も変えない、(ii)気管の中で低く保ち、ガレットを下に広げる、(iii)必要なら気管で上昇させるが、ガレットを下に大きく広げる、の中のどれかを意味します。【gullet ガレットは、食道、咽頭などの訳語があるがガレットとしておきます】

最後の選択肢は、素人目には3つの中で一番あり得ないように思えるかもしれませんが、確かにその可能性もありました。Navaのものを忘れてはいけません

… 喉頭はそれ以上高く上がることができず、適切な距離まで下がり、それによって喉が自由に伸びることができ、ボーカル・チューブの寸法が大きくなる…[ここで、もし音が高くなれば、喉頭は再び上がるだろうが、ボーカル・チューブはそのまま下に広がっていくだろう…] 【訳注:ここでのボーカル・チューブは、ガレットのこと】

したがって、『喉頭の位置』については、あまり断定的にならないように注意する必要があります。【+後注】


【+後注】 19世紀の歌手は、気管とガレットの違いをより意識していたのでしょうか?G.B.ショーは、イタリアのバリトン歌手バディアルは、高齢だが『若者のように新鮮な声で…音符を歌いながら同時に一杯のワインを飲むことができる』と報告している。

 

(i) では、『Vocal Tube』(あるいは咽頭や ガレット)が多少膨らむとしたら、それはどのようにすればいいのでしょう?

すでにTips81~86で取り上げていますが、その要点を改めて説明します。

・口の中の(見える)一番奥を絶対に開けないこと。
・むしろ、広げなければならないのは、舌の後ろ、つまりガレット(咽喉部)の領域なのです。
・これに加えて、高音になるにつれて、音が、口蓋垂の後ろから上方へ届くようにできることが望まれます― 軟口蓋を鼻や硬口蓋に少し押し付けるか縮めるかして、そのすき間を調整することができます。
・舌を無理にのどに押し込んではいけません。
・また、口や顔の自然な表情を変える必要はない、ということも付け加えておきます。 ― 昔の歌い手たちは、口の中を見ることに満足はしても、喉の中まで見ることを期待していなかったのです。開いた口の前後の長さ:これはごく普通に見えるもので、ガレットは口から下に向かって直角に保たれています。昔の歌手は、このごく普通の位置から、『障害物のない』音を出すのが一番いいと考えていたのです。

ナヴァには、喉の拡張について多くを語ってもらいました。スカファティも同様にこの問題について雄弁でした。咽頭の拡張をどのように説明したかは、Tip82で述べたことを思い出して下さい。

咽頭は、上下、左右、前後の3方向に拡大することができる。昔のイタリア楽派のもう一つの秘密は、まず上から下へ拡大しないと、左右にも前後にも拡大できないことだ……

1830年代に書かれたクリヴェッリも同じ考えで、これらの項目を図式化した最初の一人である。彼の図では、喉を『喉』と表記せず、『the expansion of the throat 喉の広がり』と表記していまする。そして、ナヴァと同じように、『頭部の振動と言われるもの』を確保するために、口蓋垂の後ろの上方通路と通じる機能を描き出しています。

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(j) あなたの舌はどうなっているのでしょうか?

ある人は舌をまったく気にせず、またある人は舌をしきりに気にします。たとえ誰もが守れなかったとしても、テトラッツィーニは私たちに理想を思い出させてくれるでしょう:

舌の正しい位置は、奥から持ち上げて口の中で平らにし、平らにした先端を前歯の下に置き、側面を少し持ち上げて、わずかに溝を作るようにします。

そして、

…音の上昇に伴い、高音になるにつれて舌の溝が大きくなっていきます。

そして、SVSは『舌根は、 スプーンのボウルのようにくぼんでいる』とも考えました。

さらに、高音に到達するためのアイデアとして、見えている舌の奥の部分を喉の奥に移動させることを厭わないということでした。なぜでしょう? 思い起こせば、ナヴァは高音域の声門がまさに同じ方向に動きたがっていることを説明しました。確かに、舌と喉頭はある程度つながりがあり、特に初心者はそうかもしれません…そのため、ここで提案したような舌の動かし方を習得することで、喉頭を正しく教育することができるのです。レーマンは、この動きを非常に強く表現していました:

…同時に舌を後方に動かして、その背中はこのように盛り上がっていて、弾力性があり、歌手の希望に応じる準備ができている、–つまり、喉頭の必要性である。

また、最後に:

…喉頭は低すぎても高すぎてもダメで、自由に動かさなければなりません。

レーマンもテトラッツィーニも、舌の後ろを少し上げることを推奨していることに注目するとよいでしょう。これは確かにあなたが喉にそれを強制的に押し込むことを停止することができるし、実際に避けなければならない行為です。しかし、重要なのは、舌がどこも締め付けられることなく、弾力的に動けなければならないことです。そしておそらくこれは、彼らのアドバイスとラブラシェのTip 41を組み合わせることで実現できるのでしょう。そして、おそらく最初は、より真の高音を達成するために、意識的に後方へ移動できるようにします。

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この2つの動きは、あなたのガレットを「広げたい」という思いにも応えてくれます(そう、スカファティの3つの方向性すべてにおいて)。そして、歌の世界では、あることをきちんとやり始めると、他のこともうまくいく可能性が出てくるということがあります。提示されたすべてのアイデアに従う必要はありません! 歴史的に見ても、学生が同じ目標に到達するための道はそれぞれ異なっています。

最終的には、舌と喉頭はもう少し独立させる必要があるでしょうが、両者が柔軟に使いこなせるようになることを目指せば安全な路線で進められるでしょう。

テトラッツィーニは、初心者の場合、常に舌が硬くなる危険性があると指摘しました。もし、硬くなったら、『下顎(under the jaw)の顎の下(beneath the chin)に、はっきりと感じられる硬い塊がある』と言っています。また、舌が後ろに行くときに締め付けられると、硬い『口の奥の山』ができて、『ホットポテトトーン』が出てしまい、非常に好ましくないのです。彼女は、舌をリラックスして動かすことを学ぶには時間がかかることをよく知っていました。彼女は、『舌のコントロールを得るための機械的な方法』(音楽以外の身体運動)があることは知っていましたが、それをほとんど認めていなかったと言います。

テトラッツィーニは、舌、喉、軟口蓋を意識的にコントロールできるようになること、つまり、声域の異なる部分に対してそれぞれ調整する必要があることを指摘しました。舌をリラックスさせてコントロールするための最後のテストはこれでした:

顎が完全にリラックスし、舌が口の中で平らになったとき、顎の下にわずかなくぼみができ、筋肉のこわばりがないことが分かります。

 

(k) あなたは喉を締めますか?

その答えは、「ノー」です。しかし、現代の一部の技法では、喉を締め付け、時には息の圧力を加えて、『ブレイク』を通して高音に到達するものもあるので、むしろこのことについて言及しなければなりません。テノールのアレッサンドロ・ボンチは、18世紀のカストラート、マンチーニの論考を1912年に英訳した際の序文で、次のように解説しています:

子音を犠牲にすることなく母音を広げる方法、そして音節をコントロールする方法…つまり『Faucis (口峡)』を締め付けることなく、常に純粋なトーンを損なわない方法を教えてくれるので、私はこの著作を英語圏の人々に強くお勧めします。

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LondonのSVSも読者に『特に高音で喉を塞がないように』とアドバイスしています。彼は『喉声、つまり喉で歌うことは、すべてのイギリス人歌手の共通の敵である』と考えていましたが、『喉がよく開いていて、音がしっかり指示されていれば、喉声の質を出すことはあり得ない』とも付け加えています。

鏡で見ると、軟口蓋を高音に合わせると、口峡柱が少し近づいているように見えることがある(提案のcまたはiを参照)と言われています。しかし、1876年の「ステイナー&バレット音楽用語辞典」では、高音を出すために扁桃腺が寄っているのではないか、と具体的に言及されています:

低音から高音に上がるとき、喉頭全体が頭蓋骨の方に持ち上げられ、…軟口蓋は…前方に湾曲し、[そして]扁桃は互いに接近する。

そして、少なくとも一人の歌手がそれを証明しているように思えました。クララ・バット Clara Buttです。

英国王立音楽院にいた頃、私は常に扁桃腺を切るようにと勧められていました。私は長い間、それを拒んでいましたが、ついに承諾しました。しかし、実際に手術台に座ったとき、先生から「E」という母音を高音で歌うように言われ、歌っているときに扁桃腺が収縮していることを指摘されました…..

しかし、そのようなことが顕著になったのは、この特殊な母音のせいであり、一般的な観測はできないのかもしれません。とにかく、このことがきっかけで、若いクララは手術台から逃げ出し、扁桃腺をそのままにしておくことができたのです。

ところで、扁桃腺の摘出手術は、かなりポピュラーなもので、ニューヨークの複数の情報筋によると、パティは12歳のときに扁桃腺を摘出したそうです。

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(l)練習中の音は、後ろに引っ張ったりするのではなく、明確な推進力を与えることを忘れないように

我々の提案の中には上級者向けのものもありますが、これは初心者の方でも必ず取り入れられると思います。アタック(起声)の章を見てください。全ての音域において、音を明確に始められることが必要です。これは、純粋で安定した音を見つけるための大きな手がかりとなるもので―もちろん真面目に!―自分自身でモニターできるものです。

私たちの時代の終わり頃【1950年】、コヴェント・ガーデンの主席バス、フランクリン・ケルシー Franklin Kelseyが書いた興味深い本が出版さ れました。彼は1950年に、最良の同僚とともに、『[昔の歌手たちは] 私たちがもう知らない何かを知っていた。何かが失われたのだ』と書いています。そして、この本の中で彼は、昔は今とは違っていたかもしれないことを突き詰めようとしたのです。

ケルシーの主要な結論は、昔の歌手は音をきれいに出す方法を知っているというものだった。『声帯の完璧な接近を確立し維持することは、歌唱の鍵となる問題である…真の歌い手が音を出すために行う喉頭の動作ほど、重要で不可欠な発声テクニックはない。』そして、一旦この事実を知ると、あなたは聴いたすべての歌手を、音をきれいに出せる人と出せない人に分けてしまうようになる、と続けました。彼は、この事実こそ他の何よりも、あなたが声に感嘆する理由だと考えたのです。

 

(m) 話す声がブーツの中に入っていないことを確かめる

もし、あなたの話す声が歌のピッチを持っていると想像するならば、19世紀のアドバイスでは、それはあなたの音域の下でも上でもなく、中庸に近いものであるべきだとされていました。

ガルシアもガロードも、このことを自分なりに述べています。ガロードはこう言いました:

往々にして生徒は喉でしゃべり、イントネーションが3~4音低くなりすぎている。また、逆に頭に響きすぎる話し方をすることもある。一般的には、どのような声質であれ、中間の自然な声で話す必要がある。あなたは、この悪い習慣が歌声にどんな悪い影響を与えるか、想像もつかないだろう。

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(n)この変化する言葉ーファルセット

ファルセットという言葉は、人によって意味が異なるため、話し手が何を指しているのかを知る必要があるでしょう!テナーのTips135~139で、ファルセットの定義が正に簡単であることが理解できたと思います。さらに複雑なことに、19世紀の著者の中には、男女を問わず別の使い方をする人もいました。しかも、それを最高音ではなく、『胸』声区のすぐ上の音域、つまり胸声と頭声がミックスされた音域に使うというものでした。例えばガルシア・チルドレンたちは、そのように使っていました。そして、1880年代にロンドンのSVSで使用されていたのもそうです。

「胸声」「ファルセット」「頭声」などと表現される音の変化は、喉頭とその周辺の位置の変化、および声帯の働きによるものである。[また、これらのレジスターは、歌の先生の都合のよい呼び方であるとも言われています。そして、『その変化が何であり、どのように、あるいはなぜ、我々が聞いているような結果を引き起こすのか、まだ発見されていない・・・』と予言的な真理を述べています。]

「ファルセット」、つまり胸より上の音域はそう呼ばれる(そしてそれは正しい)。その声区では、声帯とその付属部分の位置が異なるため、同じようには音が出ないことは確かだが、下の「胸」声の音色を装う(feigned)、あるいは模倣する。正しく訓練して使用すれば、[ファルセット]は「胸」声をよく模倣し、聞き手は「偽」と本物の「胸声」を見分けることができないほどだ。

まあ、確かにそれが狙いでしょうね。一般のリスナーは、『ミックス』された音と『胸』声を簡単に区別することはできず、その『ミックス』された音も『胸』声であるという印象を受けるはずである。

『装う(feigned)』という言葉は、様々なイギリスのソングマスターによって使われ、通常、『胸』声区の上の『ミックス』された声を表現するのに使われました。

イギリスの作曲家は、カウンターテナー(男性アルト)というイギリス独特の現象にも対処しなければなりませんでした。ロンドンのSVSは、この声の扱いをこう始めました:

イギリスの有名なアルト歌手によると、アルト(カウンターテナー)の声は、「ファルセットの単なる発展形、一般的にはバスボイスの下部のファルセット」だと言われました。

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ここで疑問に思うのは、SVSは今、ファルセットを可能な限り高い声区という意味で使っていたのだろうかということです。いずれにせよ、テノール歌手で作曲家のイサック・ナタン Isac Nathanは、1830年代に同じ問題に立ち向かおうとしました。高い「ファルセット」を歌う男性と、「フェイント」のミックスボイスを歌う男性の違いを、彼独特の表現でエッセイにしました:

したがって、ファルセットは完全に収縮した口の開口部によって制御され、その形成はフェインド・ヴォイスの生成に何の影響も及ぼさないことが明らかである。 前者のイントネーションは、主に内鼻と呼ばれる口のアーチの上の小さな細胞や空洞で作られ、後者は、声門のすぐ上、口蓋垂が位置する頭部と喉の後方部分で形成される。口蓋のヴェールが上昇し、フェインドボイスを発する…

この説明を好むかどうかは別として、ナタンは母音の違いを歌うことで、自分自身で その違いを証明することができると言いました。ファルセットでは『イタリアの広いAを表現するのは物理的に不可能』だが、フェインド・ヴォイスでは「本能的に簡単」だといいます。この点については、第二部で19世紀初頭の特殊なテナーを取り上げる際に、改めて考えてみましょう。

シムズ・リーヴス Sims reevesは、常に『頭』声を歌に取り入れることに意欲的で、この方法で『ファルセッ』の音を区別できると考えました。

ファルセットの音でクレッシェンドをするのは不可能だ。ごくわずかに膨らむことはあっても、完全に本物のクレッシェンドをすることは不可能だ。この事実は、学習者がヘッド・レジスターとファルセットを区別するのに役立つだろう。

もしかしたら、この記事、あるいはこれまでの考察が参考になる人もいるかもしれません。
しかし、ファルセットという言葉では、ハンプティ・ダンプティを相手にしたアリスが言ったように、『私が言葉を使うとき、それは私が選んだとおりの意味になる・・・』とフラストレーションを感じることも少なくありません。

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(o)声帯を掘り下げたり、押し込んだりしてはいけませんが、少なくとも声帯を想像するのであれば、どんなことをするのだろうと考えてみてください。

これは大変なことです。歌を習うということは、しばしば自己否定する部分が1つか2つあるように思われますが、だとすれば、声帯を直接操作することは、きっとそのうちの1つでしょう!特に高音域で、要求されたとおりの働きをする声帯があれば、誰しもが即座に欲しいと思うでしょう。しかし、私たちは我慢しなければならないことに気付きました。喉頭はもちろん首の中にありますが、首やのどを掘ったり押したりしてはいけないことは、第6章を読んでいただければ分かります。確かに、そんなことをしていると、すぐに音が荒くなったり、痛くなったりします。

他の歌手が1つか2つしか感じないような感覚を20個も持っていたリリー・レーマンでさえ、声帯についてはこう書いています:

声帯は、内側の唇のようなイメージで、私たちには感じられません。

しかし、彼女は、非常に賢明にも、

『あなたはまず、呼吸を通してそれらを意識するようになり、それは私たちにそれらを節約することを教えます』

と付け加えました。

そしてレーマンは、『できるだけ少ない量で、そこを通って息を吐く』ことが必要だと言っています。さらに、『コントロールできない息の圧力で負担をかけると、完全に声が出なくなる』と念を押されることもありました。

しかし、これらの歌手は、声帯がうまく機能しなければならないことを知っていたし、声帯が何をするのかについて、いくつかの手がかりを持っていました。ナヴァはこう言いました、

…高音域の音を出すには、喉頭を上げる必要があります。これは、適切な筋肉が収縮し、声門を口の奥に近づけることで起こります。

或いは、クリヴェッリが言ったように

喉頭は上昇し、口腔[これは彼の言葉で口の後ろのこと]に向かって傾いている…そしてこの動作の間、喉頭の筋肉の内部は…鋭い音(acute sounds)のために徐々に…収縮している。

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レーマンは、ナヴァやクリヴェッリと同じように高く歌うための動きを描写し、その『収縮 contraction』のアイデアのために、『遠くから from afar』というイメージで表現しました:

喉頭内とその周囲の軟骨を磁石のように引き寄せ、弾力的に保持し、そして弾力的に弛緩させなければならない。

高く歌うときの声帯のイメージとしては、リーマンのもので十分でしょう。しかし、我々がこの提案を通じて明らかにしようと苦心しているように、皆さんはそれぞれ異なるルートでこの『弾力性 elqsticity』の段階に到達するかもしれません。

上記の著者が声帯を動かすと考えた身体的方向は、当然、声帯の間のスリットの方向と一致しています。喉頭には右と左に1つずつ声帯があり、その隙間は前から後ろに走っています。そのため、声門が後方上方に向かうように少し意識することで、高音部で声帯がより「近づく」のを助けることが出来るでしょう。

どのくらい近づくのでしょうか?さて、1876年のステイナー&バレット音楽用語辞典は、『声帯が10分の1インチ(2.54㎜)以上離れていると音は出ない』と断言しています。

声楽を学ぶ人は、声帯の収縮と弾力性を身につけるために、多くの課題を抱えていることに気づかされます。

ボンチは自分の声帯について、歯磨き粉や絵の具のチューブを絞っているようなイメージだと語ったと言われています。この例えは、ある時期、ある学生にとって役に立つかもしれません。しかし、ボンチを思い出すなら、より上品なアドバイスとして、喉を絞めるな!と言うことでしょう。

ポーリーヌ・ヴィアルド Pauline Viardotoも同じ問題に直面し、兄に尋ねました。声がベールに包まれていて、響きがない場合、どうすればより真実味を持たせることができるの?マヌエル・ガルシアは、歌のレッスンでいつも使われている一つの仕掛けで応えました:

まずはアヒルの鳴き声を真似するのが一番だね, quack, quack, quack。 笑ってはいけない、アヒルは偉大な歌のマスターなのだ!

234

そして、ガルシアは以下の通りに問題を説明しました:

… 声のヴェールと響きのなさは、それがどんな声区であれ、声門の唇が互いに対して十分に押し合って(press themself)いないことを示している。その時、音にならない大量の空気が逃げ出し、煙るランプが炎を暗くするように、振動を鈍らせるのだ。

マチルド・マルケージは、幼い頃からガルシアとその弟子たちのことを覚えていました:

ガルシアは……火をつけたろうそくを前にして、目的の音を出させるために使用しました。アタックで光が消えたとき、これは声門が開き[すぎている]ことを証明するものでした …

理想は、炎が一定に保たれることでした。他の教師たちは、銀鏡やガラス板を使って、曇らないかどうかを見ていましたが、あまり曇らず、レッスンが進むにつれてどんどん少なくなっていくことを期待していました。
ヴィクトリア朝の有名な大聖堂の聖歌隊長は、『切手大のティッシュペーパーを、口の前に細い糸で吊るして、少年にそれを吹き飛ばさないように歌わせた』といいます。

マチルデ・マルケージは、この問題は命令を出せば解決すると思っていたようです。

今度は声帯を互いに合わせてから音をアタックします。アタックするときに空気が出ないように注意し、あまり強く打たないようにしてください。それは……大げさに言うと……キツく聞こえます。確かにその通りです。また、あまりに激しいアタックは、多くの教師が助言していますが、声帯を疲弊させるので、生徒には注意を促します。

マルケージは、あなたの自然な言語の成熟が関係していると付け加えました:

話すことが自由で制約のない国では、声は強く響きます。 一方、子供の頃から声を出すことが敬遠される国、たとえば英国のような国では、声帯はやがて非効率的になり、一種の弛緩が起こり、声や劇的な歌い手はめったに生まれないのです。

 

声帯の隙間(声門)を狭めるには、段階的に行う必要があるとよく言われました。ピッチが上がれば上がるほど、この隙間を狭くする必要があります。これは、ラブラシェの言葉です:

声門と呼ばれる気管の上端とそれを覆う部分の開口度の大小によって、それに見合った低音や高音が生み出される。

そして、ラブラッシュは、この狭小化が音の純度に正確な影響を与えると言いました:

声の純度は、声門の開き具合と、出すべき音の高さの間に存在すべき正確な関係によって決定さ れる。

最後に、このグループの最初の提案で、声帯そのものを感じてはいけないが、声帯の上にある口の中の何かを感じたりすることは許されている、ということを思い出してみましょう。あるいは、ベーコンが「Tip 89」で言っているように;

頭からであろうと胸からであろうと、声が通過しなければならない場所は、口の奥のほうにあると言うべきでしょう。(イタリアの優れた歌手の)方法は、声を出す前にこの場所に音をもたらし、鼻や喉、口や唇に影響されず、完成した状態でその場所から送り出すような気がするのです。

この点で、あなたの声帯がとてもよく働いていることを想像してみてください。声帯は必要以上のことはしていませんが、そのわずかなことを巧妙に、粘り強く行っていることを想像してみてください。

 

(p)気持ちの良い顔、心地よい口元、緩んだ喉、引き締まった胸など、その表情は声の効果にもつながります。

19世紀の歌手たちは、歌のためのセットアップの見た目の美しさにこだわっていました。
近年、彼らのアドバイス『まあ、彼らはこう見せたいのだろうけど、もちろん音には関係ない』と決めつけてやり過ごすことがあります。これには、彼らも強く反論してきたことでしょう!

昔の歌手の多くは、ルックスとサウンドがリンクしていました。難しい曲を簡単に歌いこなすことができれば、自分のサウンドとその発し方を正しくマスターしていると判断されたのです。そして、初心者が練習で正しい表情を身につけることができれば、必要な声の神経や筋肉を正しく教育されていることを知っていたのです。

唯一無二の理想を語るクリベリ:

イタリア語のAの音を開いて発音するとき、口元は無理なく、微笑んでいるように見える。舌は口の中で平らになっています。軟口蓋と口蓋垂は、鼻に通じる通路に向かって後退しているため、十分な空間があり、音は完全に自由で、振動する能力をもって通過することができるのです。これが唯一の練習のポジションであり、それ以外は有害な効果や悪い習慣を引き起こす …

そして、20世紀に入っても、そのような設定を推奨する歌手もいました。テノール、ウィリアム・シェークスピアです:

「Ah」という母音は、この豊かさの最大のテストであり、喉の自由度を示す絶対的なサインだと考えられてきた。「Ah」の純粋さは、舌の後ろと上にちょうど大きな空間ができるような位置で、舌の本体のバランスをとることを要求する。

ジョージ・スマート卿の子供の歌集は、口を大きくする必要があるのは口の奥ではなく、喉そのものであり、一方で口は様々な「くぼみ」を見せることができるということを上手に指摘していました:

私は、口を空洞にして歯を分離させ、喉頭(気管)の上部を開いて、声を自由に出せるようにすることを勧めるだけです。

しかし、最初にこの口の形成を非常に適切に学んだ多くの人は、それを高く掲げて、ある言葉と感覚が他のものよりもずっとそれを必要とすることに気づかないのである。厳粛さと壮大さには、口の中が空洞であることが必要であるが、快活、愛、平和は声を自由に、簡単に出すことだけが必要である。

顔を動かしすぎてはいけないし、実際には静止に近い状態をマスターしなければならない。ロンドンのSVSが述べたように:

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音を出すたびに両顎を動かし続けることは、喉頭を動かし続け、音の純度を損ない、言葉の調音を台無しにし、さらに悪いことには、顔の表情が醜くなり、この後者の欠陥だけで、どんな歌のアーティストにも重大な不利益をもたらすでしょう。

そして、『彼らは、胸からうまく歌った』という古い言葉がまだ気になる人のために、これと「あるがまま」、そしてイメージを考えてみましょう。
ロンドンのソングマスター、ジョバンニ・ヴィテッリ Giovanni Vitelli は、1850年にジェニー・リンド嬢が採用した芸術の身体的原理について本を書き、こう述べています:

声を訓練するときは、肩を後ろに下げ、胸を張り、頭をまっすぐにし、顔、喉、体全体を自由に使って、まっすぐ、しっかり、楽に立ちます。口を開けて、顎と唇を完全に緩めて、楽に、微笑んで、優雅に見えるようにする …喉をよく開いたまま、特に頭を無理に上げないようにし、顎を内側に向けて落としなさい、胸から声を出すようにし、喉の痛み、圧迫、収縮を注意深く避けなさい

 

(q)自分の中にある、均一で真実味のあるものを、「外側」と同じように聞いてみる。

ここには、一般的な提案と特殊な提案の両方があるかもしれません。

一般的なもの:プロの歌手の証明として、ホールに向かって叫んだり、喚いたりしないことです。レーマンが第3版の冒頭で強調したように:

生徒たちも、そう、プロの歌手たちも、歌声は胸部と頭部という自分の身体の共鳴の中にあるのであって、客席に息を吹き込んで大きな音を出そうとするものではないという、ただそれだけを意識してくれればいいのです。

カルーソもほぼ同じことを言っています:

自分自身の中で歌うことも忘れないでください。 いわば、自分の存在のすべてを通して音を感じることです; そうでなければ、あなたの歌は感情や権威を持つことはないでしょう。

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これはいつも言われるアドバイスです;100年前、ガルシアの父は息子にこう言いました。

財布の底を人に見せるな、持ち物を全部使うな …

これらの一般的な教訓を心に留めておくと、レジスターを均等にするという厳密な作業のために、自分自身の声をよく聴くことができるようになります。

では、具体的に何に気をつければいいのでしょうか?最初の答えは、トーンの均一性です。レーマンはそのことをよく知っていました:

私たちは声帯を感じることはできませんが、それでもトーンが均一であるかどうかを観察することで、声帯が正しく機能しているかどうかを聞き取ることができます。

SVSも同じことを言っていました –

声のトーンの変化が伴うような歌唱を一切しない、という段階に到達しなければならない。まず第一に考えなければならないのは、正しい方法で良いトーンを出すことである …正しい方法で作られなければ、声全体やあらゆる種類のパッセージで同じように良い音が出るという保証はないのです。

では、声の領域によって響きが異なる性質を持つ自然は、どのようにしてこの均一性を獲得するのでしょうか。つまり、自然界の共鳴とその特性を生かしながら、ある種の配慮とアプローチで開発を進めるのです。昔の歌い手たちは、このプロセスに疑問を持ちませんでした。まず自然で気持ちのいいところを探るのです。それから、その質を均一にする努力をすれば、量も後からついてきます。1828年、アイルランドのテノール歌手でありロンドンの劇場の作曲家でもあったトーマス・クック Thomas Cooke は、この「均一性」を目指すために、いくつかの簡単なイメージを提唱しました。

生徒の皆さんは、これから演奏する楽器を改良しようとしていることを思い出してください。その目的は、全体に等しく良い音の均一性を作り出すことです。

[これを実現するためには] 低い音は丸みとふくよかさによって、高い音は繊細さと甘さによって特徴づけられ、間にある音は…頂上から同じメロディーの素材でできた円錐を完成するように構成されるべきです。

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生徒の皆さんは、強くて力強い声が良いとおだてられないように気をつけましょう。 大きな声で歌う人はたくさんいますが、甘く歌う人はほとんどいません。声を強制することは、怒鳴ることになってしまいます…もし、この歌手が聴く耳をもつならば、聴衆はその嵐に巻き込まれることはありません。

トレーニングの目的のためには、円錐形のアイデアは非常に良いかもしれません。高音と向き合い、声の他の部分に結びつけることができるようになるのです。クックが推奨する正しい音と組み合わせることで、「円錐形」のイメージは、高音域へのアプローチの繊細さと美しさを促進し、無理のないものになります。そして、これらのラインの上の音は、取るに足らないものになるとは少しも思わないでください。このような音が、印象的な正しい振動力を簡単に持つことができることは、次の2つの提案でわかるでしょう。

(r)音を感じる?それは、分割(splits)、響き、方向性、ギャップ、点、焦点など、自分にとって都合の良いもので、なおかつ柔軟性のあるものなのでしょうか?

Tip90で分割(splits)の提案に出会いました。キャスカート博士は、スカファティの教えをこう報告している。

最後の共鳴体は口である。これは実際に2つに分けられ、1つは後ろ、もう1つは前になる。 スカファティ氏がよく言っていたように、各母音は常に2つの響きをもっていなければならない。後ろの共鳴器は咽頭の発達に合わせて開発され、前の共鳴器は後ろの共鳴器が発達して初めて完全に発揮される。

この提案では、後ろの共鳴器は、音に「頭」の音質をもたらすために不可欠なものです。その説明は、おそらく次のようなものです。胸声が前方共鳴器から簡単に口から出てしまう場合(サゼスチョンa参照)、頭声はより内部に空間を広げる必要があり(サゼスチョンb参照)、口の後ろのどこかで響く感覚を得ることができます(サゼスチョンc参照)。それぞれの音について、この後ろと前の共鳴のバランスをとるようにすると、全体的な均整をとる作業の助けになります。そして、スカファティが言うように、特に後ろの共鳴器を発達させる能力は、最も効果的で美しい『ミックス』サウンドのために重要です。

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もちろん、レーマンはこのプロセスについて、さらに多くのことを語っています:

息[音]が喉頭を離れると同時に、それは分けられます。一方は口蓋に、もう一方は頭腔に向けられるでしょう。息(音)の分割は、最も深い低音から最も高いテナーやソプラノまで、性別や個性に関係なく、一歩一歩、振動と振動が規則的に起こります……。息[音]の場所、その分割の法則、および共鳴する面は、常に同じであり、せいぜい習慣の違いによって区別されるだけです。

 

レーマンは、息-音の一部が舌の背面を通って口の前方に行き、残りは口の後方でシリンダーのようにに登っていく様子を思い浮かべていました。口の後ろの方にある『シリンダー』の発想はレーマンだけのものではなく、『注射器』の比喩をする先生もいました。そうすると、この想定される音の感覚がかなり細いと思われるのなら、まあ、昔の歌手の多くは、高音に対して『細い』むしろ『太い』感覚を語っていたのではなかろうか。ラウリ・ヴォルピは、最後にパイプからシャボン玉が出るところをイメージしました。もしそうだとしたら、『シリンダー』は固体というより空洞に思えるかもしれません。

ナヴァも高音用の『後方共鳴器(back resonator)』について似たようなことを言っていました。(c)を思い出してください。 声のチューブが伸び、軟口蓋が収縮することで、鼻腔に入りやすくなるという説明でした。そして、高音の音をこれらの空洞に『巧みに導く』ことができれば、ある種の響きや反響(rimbombo)が得られ、強い強度(una grande intensita)を得ることができる、と述べたのです。

(i)と(o)からわかるように、クリヴェッリは高音に対する音の『方向性』について、ナヴァと同じアドバイスをしていました。彼は、他のセットアップを緩めたままにしておけば、つまり筋肉を圧縮したり硬くしたりしなければ、望ましい『振動の力(poter di vibrazione)』と音の自由な広がり(libera espansione del suono)を実現できると述べています。

後世の先生の中には、弓矢の弓を口の中で引くイメージで【+】、「後ろの共鳴器」を活性化させるように上手にセットアップするように勧める人もいます。


【+後注、p.469】
音を感じること。これらの比喩は強制ではありません!これらは単なる比喩であり、筋肉というよりも想像力を働かせるためのものです- つまり この中のどれかが好きなのであれば。もし、それらに巻き込まれた場合 より多くの疑問が湧いてきます。 – 例えば、「アーチェリーの弓」は垂直なのか水平なのか……。 というような疑問が湧いてくるので、あまり神経質になり過ぎないようにするのがコツです。でも、検討するのが好きな方は、こちらもどうぞ。それはダフの教えからきています:

… 空気が喉の後ろから上がってきて,中音と高音でアーチを形成するような感覚がある。そして,高音と頭音でアーチがより顕著に感じられるが,出発点(Le point de depart)は全く同じである。しかも、それぞれの音には小さなポケットがあり、それを身体で感じることができるのです。私はよく、この隙間をビリヤード台のポケットに例えることがあります。うまく狙いを定めて距離を測れば、ボールは柔らかく転がり、そうでなければ、エッジの上で踊り出します……


241

1950年にフランクリン・ケルシーが、昔の歌手の秘密を再現しようと、この同じ問題に取り組んだときにも、歌い手は口の後ろで共鳴を感じているのではないかという結論に達しました。これは、その後広まったフォワードプロダクションの理論に反していることに気づきました。 しかし、この古い方法の方が、間違いなくクリアでピュアな音色が得られるとコメントしました。それに、音の一部は喉の後壁から前方に反射するので、あなたが望むなら、音に「前方」の要素をさらにイメージさせることができます:

…音は頭の後ろの壁に向かって流れているように感じられる…[しかし]喉の後ろの壁は、音波の連鎖を上へそして前へと反射する鏡のような働きをするようだ…

そして、『イタリア人は、口の一番前で母音を発音しない』と言い、『もし、そうすれば、すぐに英語訛りになってしまう』とコミカルに付け加えました。

ケルシーは、高音になるにつれて、母音を集中的に鳴らすことを考えなければならないと強く指摘しました。

[ 最近 ] 我々は母音の大きさが声の響きを呼び起こす決定要因であると考えがちですが、真実はこれとは正反対です…昔の歌手は…声が高くなるにつれて母音を徐々に狭めるのが彼らの習慣でした。歌い手の真の目的は、広がった母音ではなく、集中した母音なのです。

ケルシーの理想は、これでした:

もし…母音が正しく集中されれば、彼(歌手)は明るい声門リングを持つ暗くて狭い母音を生み出し、その結果、音は完全に豊かさと音量を獲得することになる。

この最後の観察は参考になるかもしれません。そして、ケルシーが解説する狭さは、他の人もよく言っていました。
テナーのジョセフ・ヒスロップとユッシ・ビョーリングは、高音に『銀の糸』のイメージを使っていましたが、これは実に『細い』イメージです。

242

それ以外の感覚も報告されています。ラインの方向性はその中の一つでした。これは、ラブラッシュがベースとして話していたものです:

[ラブラシュはすでにTip126で胸の声の感覚を述べています]
中声区、または中声部の音は、息を上の歯に向けて出すことによって出します。ヘッドボイスの音色は、息[音]を口の天井に向けて、線で結ぶことによって形成される、 すなわち、額と一直線上にある。

これはソプラノとしてコメントしているテトラッツィーニです:

一般的には、声の中音は口蓋の中央部にフォーカスポイントがあり、低音は歯に近づいて集中し、高音は口の後ろの高いアーチにフォーカスポイントがあり、いわば頭頂部を通って出ていく感覚を与えると言えます。

リリ・レーマンは、ひとつひとつの音を、口の外(最低音)から頭のてっぺん(最高音)までの円弧上に正確に描いた図を作成しました。テノールのシム・リーヴスは、『声をまっすぐ前に出すよりも、むしろ上に向けて、しかし喉を伸ばさないように(without stretching the throat)出した』と感じていました。

もうひとつは、盛り上がった軟口蓋と平らな舌の裏の隙間をイメージしてみることです。
高音は、四角形の上2つの角が軟口蓋の左右を『持ち上げ(lift)』、下2つの角が舌の後ろの左右を『平らにする(flatten)』とイメージしてください。ローザ・ポンセルが言ったように。

カルーソーが教えてくれました。彼は喉の後ろを少し伸ばして(ジェローム・ハインズがポンセルから引き出した定義では、本当は口の後ろに向かう途中)、開いた状態を保ちます・・・後ろが開いていて、リラックスしている状態です。四角い感じですが、高音の時だけです。

このとき注意しなければならないのは、口の一番奥を無理に開けて、舌を押し下げないことです(Tips 84と85で取り上げた欠点)。ポンセルが言うように、リラックスした状態を保つことです。少し狭小化されているが、おそらく全く似ていないのが、フェリア・リトヴィンネ Felia Litvinne による観察です―『瓶の中ではなく、蓋の中で歌う』 。

243

高音の感覚がとても鋭い歌手もいました。ある生徒がジーリに高音はどんな感じかと質問しました:

ジーリは鉛筆と紙を手に取り、白紙に1つの点を書き込みました。

これは、ベーコンの『正確な点』と似ているところがあるように思います。Tip89でベーコンが口の後ろについて、こう説明したのを覚えているでしょうか。イタリアの優れた歌手は:

… あたかもメソッドが音を作りだす前にこの地点に音をもたらし、その正確な点から完成された状態で送り出すかのようだ。

何人かの歌手は、2、3の焦点について語っていました。
マラフィオティ博士は、カルーソーの発声法に関する本の中で、The Mechanism of Voice Productionというイラストを描いて、口の中に『Center of Resonance』というのがあって、前方と後方の2つがあることを示しています。
ロンドンのSNSも同じように考えていて、『上の歯と口の前に感じる』ことを挙げ、さらに高い音については、『その性質と力の多くは、背骨の最端、頭部と結合する部分から与えられる一種の反射力に負っている』(おおよそ、これは口蓋垂の後ろに当たる)、と述べています。

これらの感覚のほとんどは、高音に到達するために『よじのぼる(climbing)』ようなことをしてはいけないということだったようです。

トップをあなたから逃さないでください(ローザ・ポンセル)

あなたは『今いる場所』に留まり、提案(f)のアドバイスに従えば、『上昇』ではなく『下降』する感覚を味わうことができるのです

しかし、上昇するにつれて、より多くのスペースが必要になります…口をもっと開けて、顎を落として、リラックスして…(ローザ・ポンセル)

上顎ではなく下顎を動かす。高いパッセージや音を前にしたとき、音の高さが増すにつれて下顎を下げるように運動させるべきである。(ロンドンのSVS)

下顎しか動かないので、音階が上がるにつれて下顎を落として口を開ける(Sbriglia)

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しかし、一人の先生が『上昇』のイメージを使っていました。それは、ミラノのフランチェスコ・ランペルティです。彼の弟子であるウィリアム・シェイクスピアは、女性のヘッドノートに関するランペルティの記述を書き上げました:

ランペルティは、この後頭部の音の感覚を、ピアノフォルテの音のように一歩一歩上がっていくようだと表現している。(2023/01/29)

 

(s) 音の心地よい『高さ』がようやく見えてきたら、その音で遊び、試し、慣れること

より高度なアドバイスになるかもしれませんが、高音がうまく出るかどうかをテストする方法について、リリ・レーマンからのアドバイスです:

もし歌手が自分の音をコントロールしたいと思えば(実際には常にそうしなければならないが)、器官の位置を変えることなく簡単に音を柔らかくしたり、高くしたりすることができるかどうか試すだけで良いのです……

そうすることで、音が高すぎることなく、どの程度の高さが必要なのか、また、十分に高く響かせるためには、音の高さや持続時間が不足することが多いのかを学ぶことができるのです。

そうすると、顕著な欠点が浮かび上がってくるのです!

これは非常に公平なアドバイスで、『細い』『薄い』としか言えないような音も、自分の中で積極的に聴くようにしましょう。この薄い音が自分の中で適切な響きを生み出すと感じ、レーマンが要求する上記のことができれば、すべてがうまくいくはずです。

口やのどの筋肉を圧迫したり、硬直させたりするようなポジションを取らないことを忘れないでください。
クリヴェッリは警告しています:

このようなポジションでは、音が自由に広がることができず、その結果、音質が厚くなり、振動の力を持たなくなる。

だから、どんな『厚み』のある音でも、狙った響きを実現することはできない、という厳しいアドバイスが繰り返されるのです。

また、バティスティーニも、声帯を『自由に振動させる』ことを強調しました。彼は、『声帯の緊張に関わる筋肉を軽く収縮させる方法、[反対に]できるだけ収縮させない方法…最小限の努力で最大の効果を達成する方法』を学ばなければならないと述べています。

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このような頭の音を認識するために、他に何か提案はあったのでしょうか?ヘッドトーンは正確な音程と開発された咽頭から生まれるのであって、頭がぼうっとするような感覚から生まれるのではないというスカファティのアドバイス(Tip134)を思い出すといいかもしれません。

ここで、ジーリもカラスも認識していたようですが、もっと驚くべき提案があります。左の耳より右の耳で自分の声を聞いてください! 現役の音楽家が「意識せずに」やっていることでしょうが、1940年代、50年代のトマティス博士の実験の証拠を見てみましょう。

このことをさらに詳しく調べるために、彼は(有名な)歌手をマイクの前に立たせ、左耳と右耳の2つのヘッドホンを使って歌手の声をフィードバックさせたのです。アッテネーター(減衰器)は、バランスレベルを変えることで、右耳、左耳、両耳のいずれからも自分の声が聞こえるようにするものです。

そして、これらは、(i)両耳で聞いた場合、(ii)右耳からのみ聞いた場合、(iii)左耳からのみ聞いた場合の3種類の聞き方についての調査結果でした:

耳のバランスをとって聴くと(両耳均等)、何もつけずに歌ったときと同じ声が出ています。本人も他の人も、何の変化も感じていません。

左耳を伏せて、右だけをコントロール・ポジションとする。 [a]若干の変更がありました。訓練された耳には、音がより軽く、より幽玄に、より変調され、より正確に、より明確に感じられ、そして歌い手はより流暢に感じられた……

これを逆にして、左耳にコントロールを置き、右耳を排したところ、流暢さは消え、歌手が身につけたプロとしての資質がすべて失われてしまいました。声は重く、粗く、色彩が乏しくなり、音程をはずすようになりました。最悪なのは、リズムがかなり遅くなったことです。リズムの破たんは、歌手の意志の及ばないところで起きていました。場合によっては、そのフレーズを演奏するのに通常の2倍の時間がかかることもありました。誰かが拍子をとってくれれば、それを意識することができるのですが、彼はそのテンポについていけないのです。妨害は歌に限ったことではありませんでした。実験中、被験者の動作はより遅く、よりロボット的になり、自発的な制御能力の低下が見られました。また、音を遮断した場合と音を飽和させた場合では、オーディオメーターのマスキングと同じような結果が得られました。つまり、音の不足ではなく、耳のコントロールの切断だったのです。トマティスは、同じ現象を……俳優(と楽器奏者)にも見いだしました。

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トマティス自身がコメントしたように:

これにより、声の出し方のコントロールに右耳が重要な役割を担っていることが確認さ れました。ベニアミノ・ジーリなど多くの歌手で実験を繰り返したが、いつも同じ結果でした。

そして、マリア・カラスについて、こんな驚くべき発言をしました:

マリア・カラスは、私の事務所に「私はもう右耳で歌うことをコントロールできない」と告げに来た唯一の歌手です。ほとんどの人は、自分の耳と、聴くこととコントロールの関係をそれほど強く意識していません。私は、この状況を正すためには、少なくとも3ヶ月のトレーニングが必要であると伝えました。残念ながら、彼女はアリストテレス・オナシスのヨットで計画していた旅行を断念するのを恐れて、トレーニングを行うことはありませんでした。

どうやら、脳は両耳からの音楽情報を異なる方法で処理し、右耳で「リード」することを望んでいるようです。この処理は、おそらく現代の標準的な左脳/右脳(あるいは前脳/後脳)論争よりも複雑なものであると思われます。トマティスが特に言及したのは、歌手の迷走神経は左右に分かれており、右の枝は左より短いということです。(+)


(+後注) 右耳:右耳の潜在的な力は、別の分野でも発揮されています。もっと変わった分野ですが、特筆すべきことです。ミステリーサークルのそれです。現在、29カ国で1万個のミステリーサークルが出現していますが、この現象を軽んじる声も多く聞かれます(確かに最近はフェイクも多くなっています)。しかし、このような奇妙な円は、思考する人間であれば誰でも興味を持つはずで、最高の円はすべて音楽の比率を示すため、音楽家を惹きつけてきました。活動の中心は、依然としてイギリスのウィルトシャー州です。超能力者はミステリーサークルが発生する場所や、時にはその模様まで予言することができます。ある霊能者は、ウィルトシャー州の警察にとって非常に有用であり、「我々は、トウモロコシで信号を与え、耳で音を与える…. いつも右耳だ.…これについての詳細(および右耳の開発の可能性)は、フレディ・シルヴァの名著『Secrets in the Fields』を参照してください。


トマティスが考えた、右耳で「リード」することで得られる形容詞は、昔の歌手が高音を聴くときに、正確、明確、軽い、などと勧めたのとよく似ているように思います。
彼はオペラの家系で(父親はバス)、頭の響きを声に取り入れることを全面的に信じていました。
彼は著作の中で、これらをファルセットと呼んでいました:

歌手の皆さん、ファルセットは必ず使ってください。メカニズムを試してみて、意図的に使ってみてください。それを最大限に利用するのです。

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(t)そして、高音に生きる喜びを見出し始めたら、物事は正しく進んでいるのかもしれません。

長いキャリアを持ち、1928年から1935年までコヴェント・ガーデンで歌っていたイタリアのバリトン歌手、ジョヴァンニ・インギレーリ Giovanni Inghilleri は、「高音を出すために何をしているのか」と聞かれた。彼の返事は『女性のことを考える』でした。もしかしたら、あれはイタリア人のうっぷんを晴らしただけなのかもしれませんが、コメントがあまりにも見事です!昔の一流の歌手がやっていたような方法で、トップノートを歌い始めることができれば、きっと楽しめるはずです。簡単でわずかな努力で、あなたをわくわくさせるような強烈な結果を得ることができることを学べます。

 

3.声区変換に取り組むために、特別な音楽エクササイズがありますか?

そうですね、歌手の中には『ブレンド』の声が求められる部分で特別なエクササイズを提案する人もいれば、そうでなく、一般的なエクササイズだけに頼る人もいました。

先に示したナヴァの例(提案b参照)は、典型的な『ブレンディング』の練習です。変化の部分の音、おそらく隣接する半音に取り組みます:

【譜面】D-Es、Cis-E、 E-F

(または、あなたの声の中で、取り組むべき該当する部分があればなんでも)。

シムス・リーブスはこのようなエクササイズを提案しています(ここでも、自分の声に合わせて音程を調整してください):
【音符】2/4拍子、八分音符、最初の2小節がModerato、後の2小節がLargo、ド・ソ・ラ・シ・ド・ソ・ラ・シ・ド・ソ・ラ・シ・ド(最後の音符のみ4分音符と4分休符)

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多くの学生は、最初はどちらかの声区の方が強いと思われます。だから、自分の強い声区は『弱く』、弱い声区は『強く』歌うようにと、普段から言われています。ラブラッシュは、この正確なプロセスについて、『したがって、目的は後者を強化し、前者を弱めることである』と述べています。

念のため ― これは声区の変換についてのアドバイスです。昔の歌い手は、新しい声区にいくつかの音が入るころには、自然にもっと確実な固さが出てくることがあることを承知していたのです。例えば、リーヴスは、ソプラノとテナーについて、『Gから上(五線譜の上)の頭声のクレッシェンドは、比較的容易に習得できると指摘しています。そのため、最終的な望ましい『均一な音』を得るためには、これらすべてを考慮しなければなりません。

パノフカは、一般的なエクササイズを使った歌手の例です。彼は、生徒に対して声区の問題を説明することには消極的でしたが、教師にはこう勧めています。

教師は、彼[生徒]が第一声区の最後の音から第二声区の最初の音に移るとき、同時にアクセントのあるビートで彼を助けなければならない。生徒たちは、サポートされていることを感じながら、それを意識することなく困難を乗り越えていきます。

歌手の中には、柔軟性を高めるために、変化のある部分を交互に(例:胸/ミックス/胸/ミックス)音を出すように求める具体的な練習をする人もいました。初心者でも、これらのエクササイズは簡単にできるでしょうか?
生徒の側には適切な理解力と、しばしば大きくしたり再び小さくしたりする能力が必要なようです。
これは1828年のテノール歌手トーマス・クック Tomas Cooke の例で、おそらく一部の人に合うと思います。クックは、高い声区変換で弱い音を『ブレンド』して、『どんな割れ目の存在もばれない』ようにする練習について述べています。

この望ましい組み合わせを促進する最善の方法は、フェインド・ヴォイスで言及された音を強化し、自然な声でそれを和らげるよう努めることだと私は考えている。これを達成するために、生徒はフェインド・トーンでその音から穏やかに始まり、自然な声へと徐々に膨らませていくべきである。このときクレシェンドとディミヌエンドは慎重に用いられ、進行中の音はフェインド・ボイスに気づかないうちに戻り、その時点で注意深く終止させなければならない。

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4.自分に合ったアイデアを見つけるための、忍耐と研究の価値

昔の歌い手たちは、自分の声とその響きのすべてを育てるために、穏やかな道を歩めば必ず報いがあると信じていました。だから、この穏やかなアプローチに対する彼らの『信念体系』は非常に高く、自分たちを説明するときにその考えを最優先する歌手がいても不思議ではありません。バリトン歌手J.B.Faureの1886年の大著La Voix et Le Chantの冒頭には、こんな引用がありました:

歌いたいなら、まず信じることだ・・・

テトラッツィーニは、後述するように、『勉強しなさい、ちゃんとできるようになるまで勉強しなさい』と繰り返し言っていました。彼女は有望な声を持っていたが、その『音が全く成長していない』学生に警告しました、この少女は

…これから、より多くの勉強、より多くのハードワーク、長時間の訓練、自制心の厳格な適用なしにすべての声量と美しさを生み出すことができない…

また、テトラッツィーニは、学生によっては、このプロセスが何年もかかる必要はないが、それが『(勉強の)根気強い努力』を伴うのであれば、『その成果は常に価値がある』と言っています

彼女のお気に入りのテノールのパートナー、マコーマックも『ハード・スタディ』について話していました。彼は、高音を無理に出すのではなく、高音が出てくるのを辛抱強く待つという、理想的な姿の良い例かもしれません。奥さんが書いているように:

ジョンは、フリッツ(ヴァイオリニスト、クライスラー)に対して愛情に満ちた尊敬の念を抱いており、彼の音楽活動の中で最も大きな喜びのひとつは、彼と一緒にレコードを作ることでした。
二人は完全に同調しているようで、ジョンが気に入った音で特定の音を出すと、「ああ、今の聞いたか?フリッツと同じような音が出たよ」と言っていました。

マコーマックの驚きに注目してみてください。最盛期には、誰よりも信頼できる高音、つまり、正確な母音を示す整った音、どんな音楽的意味にも合う音量と強弱を操ることができた歌手からすると、これは奇妙に思えるかもしれません。あなたは、彼がどんなものでも『驚く』ことなく再現できると思ったかもしれません。

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しかし、なぜか昔の歌手のようなアプローチとはちょっと違います。彼らは、芸術に対してより穏やかで謙虚な姿勢を持っていたように思います。テトラッツィーニは、

良い歌を歌うには、声のプレイスメントにおける正しく自然な位置を穏やかに落ち着いて学ぶ必要がある…『できる限りの音を出す』ことを目指すのではなく完璧な音色のブレンドのために異なる共鳴腔を賢く使用することです

と言いました。

 

そして、マコーマックのお気に入りの肖像画を見ると、メカニックというより神秘的な印象を受けるシンガーがいるようです。

2023/02/01 訳:山本隆則