[W. Shakespeare:The Art of Singing]

Attack and Legato p. 29
アタックとレガート

締め付けられた喉の使い方をすると、生徒は目的のピッチで正確に音をアタックする力を失う、そしてこの問題点は、同じ声区の中で音が高ければ高いほど大きくなる。歌が下手な人がよく出す「すくい上げる(scooping up)」ような音は、喉が硬くなっていることが原因である。声を正しく配置(place)するときにのみ、どんな音も完璧なイントネーションで始めることができる技術が明らかになる。

また、硬い歌い方をしていると、喉の機構をコントロールできずに次の音に移れなくなってししまう。その際の移行では舌や顎の動きを伴い、歌い手にも聞き手にもぴくっとした痙攣性の感覚が伝わる。救済策は、原因を取り除き、楽器を解放することであり、明らかに音から音へとスラーリングアップして欠陥を隠そうとすることではない。このような音のつなぎ方では、メロディとは無関係な微小な音程が苦しそうに聞こえるだろう。

正しく歌っているとき、声は思うままに1つの音から他の音へと瞬時に移動する。音程筋(tuning-muscles)の働きを妨げるものは何もなく、音はつながっているようでいて、しかも「きれいに切れている(clean cut)」、いわば「弦の上の真珠」である。 – 昔のイタリアの巨匠たちが好んで使った表現で、彼らはこのような音のつなぎ方をレガートスタイルと呼んでいた。彼らが重視したのは、レガート唱法、つまり音がスリップもスラ―もなしで音を調和させ、的確なチューニングで音をアタックすることを身につけることであった。

Chi non lega, non canta,というイタリアの格言がある。 (音を結び付けない者は、歌うことができない)。

このように、完全なアタックと音をつなげる力は、良い歌唱の2つの要素である。

 

Tone

楽器の音色を豊かにするのは、サウンドボードの同調的な振動、あるいは密閉された部屋の空気の振動です。

バイオリンの弓が正しく操作されると、弦が大きく震え、楽器全体とその中に含まれる空気が同調して振動し、それによってソノリティとトーンが加えられるのです。

p. 30

人間の声は、息の圧力が声帯を振動させる原動力となり、バイオリンの弓のような働きをする。しかし、胸部、喉と口、鼻腔、そして場合によっては頭蓋骨にあるその他の空洞など、ある種の密閉された空間の空気が共振して振動しなければ、声の大きさはほとんど変わらない。

硬口蓋と歯は、声が反射され、それによって力強さと輝きを増すサウンドボードと考えることができるかもしれない。

息をしっかりとコントロールすることで、発声楽器は無意識のうちに自由にチューニングされ、舌は発音に必要なあらゆる位置をとることができる。その結果、舌の後ろのスペースと口の中の空洞が完全にコントロールされ、音色が特定の開いた喉の状態を要求するので、発音の仕方と息のコントロールを知っている人は、歌い方を知っていることになる。

人間の声は、動きと調整が可能な共鳴器を持つ、すなわち先に述べた空間は自然に与えられた楽器であり、これらの空間が少しでも硬いと音色が損なわれ、喉と舌が完全に自由であれば、発音するのと同じ行為によって音空間を調整することができる。このように、発音上の問題点を音の問題点と切り離すことは困難である。

通常の状態の喉は大きく開いている。それを閉じるためには自発的な努力を必要とする。音階が上がるにつれて、喉を部分的に閉じなければならないのかもしれない。確かに、ある母音は他の母音よりも喉の開口部を小さくしなければなならない。しかし、これらの変化は自然なものであり、先に述べた喉の不自然な締め付けとは無関係である。飲む込む前の瞬間の喉の奥の静止状態と全く抑制されない状態こそは、私たちが歌うすべての音に添えられるべきものである。この事実を知ったLampertiは、「声を出すときの感覚は飲み込むよう(like drinking)でなければならない」という格言を思いつかせた。

昔の巨匠たちは、主に舌と喉を最も無意識にする必要のある母音で練習を歌い、それが正しく行われると、喉と口の中に最も大きな空間を作り出し、声が可能な最も高貴な種類の音を出すことができる。

ここでは「ah」という音に言及していますが、これはイタリア語の「anima(ahneemah)」のような発音であり、英語での「father」の母音の発音とは異なります。したがって、舌が緩めば緩むほど、”ah “の音が豊かになり、音色も充実してきます。 この母音は、他のどの母音よりも早く、喉の硬直とその結果としての喉の閉鎖を現わにするだろう。 

 【太線強調は全てシェイクスピアによる。】

 

2022/02/09 訳:山本隆則