いわゆる声帯と言われるものは、図‐10のa)声唇(声帯筋), b)声帯靭帯, d)弾性円錐, などの表面を弾性のある膜に覆われたものからなります。フースラー 図 10

声帯は、vocal cords, 又は、vocal bands の訳語ですが、下の図‐1に見られる様にその形態からvocal folds 声襞と呼ぶのが現在一般的ですが、日本語では声帯が流通しているので、声襞と言うことはほとんどありません。

声帯vocal cords (誤った名称)は、また、より正確に、声帯vocal bands、声襞vocal folds、声唇vocal lips、ヴォーカル・クッションvocal cushions、声棚vocal ledges、声帯靭帯vocal ligaments、声棚vocal shelves、声帯筋vocal muscles、声帯突起vocal processes、声縁vocal edgesなどと呼ばれ、喉頭の空洞の中へ突き出る一対の筋肉の襞から成る。[Victor A. Fields, Training the Singing Voice 1947 p.98]

声帯の本体である、声帯筋(vocalis musles) は、正式には甲状披裂筋(thyroarytenoid) と呼ばれ、内側と外側に分けられますが、声帯振動に関わるのは内甲状披裂筋です。
声帯筋は、発声器官の中でもっとも複雑な筋肉で、機能としては、’Tensors‘(須永博士は、緊張筋と訳しておられますが、私は圧縮筋と訳したほうが適当だと思います)とし、次のように言っています。

声帯の中身は筋複合体(いくつかの筋肉の集合体)であって、一部は甲状軟骨の前内面から、一部は甲状軟骨と輪状軟骨のあいだの膜から起こり、披裂軟骨の二つの突起(声帯突起と筋肉突起)までとどいている(線維の一部は上方へ喉頭蓋へ行き、他の一部は喉頭室の壁にもいく)。
この筋体は種々の筋束で構成されており、おのおのの筋束はある程度の独立性とある程度の運動の自由さを持っている。これらの筋束は別々に緊張したり弛緩したりすることができ、筋束の働き、形のちがいに従って声唇の形に変化がおこり、それにつれて両側の声帯の間にすきま(声帯間隙)の形も変わる。
[フースラー/ロッド=マーリング著、須永義雄/大熊文子訳 p.28]

また、図‐10のc)は、仮声帯(室襞、false vocal  folds) という差別的な命名が成された真声帯に似たもう1枚の襞があり、この2枚の襞の間にある小さな空間を、喉頭室(モルガニー洞、Laryngeal ventricle) といわれる。

また、ズンドベリにならって言うならば、発声器官としての声帯は、肺にある圧縮された空気流を通過させることによって喉頭音源(voice source)と呼ばれる微弱な音響信号を生み出す発振器(oscillator) としての機能を果たすことによって、発声(phonation)と言う動作をする。

声帯は、新生児では約3mmの長さをもち、成人女性では9~13mm、成人男性では15~20mmへと成長する。声に対する声帯の長さの重要性は、Sawashima et al. (1983)により解明され、声帯が長いほど、声域がより低くなることがわかっている。また、声帯の長さと身長とは有意な相関はなく、むしろ、首の円周と有意な関係があることも明らかにした。
[Sundberg, 1987  p.6-7]

声帯の全長は2つの部分に分かれ、前の甲状軟骨の付着点から声帯突起の前端までの部分3/5が、膜状又は靱帯部分、声帯突起と披裂軟骨の内側に当たる残りの 2/5が軟骨状部分となります。(図-2)
「振動する声帯の軟骨状部分は同様に振動するが、膜状部分のほうがより活発に振動する。」[Zemlin 1998, 119]

これは、ガルシアによる喉頭鏡の調査で確認されたことですが、高音を出すとき、最初は、輪状甲状軟骨によって声帯を伸展させるが、それ以上に高くなると声帯の後ろ部分である軟骨状部をしっかりと合わせることで、声帯の前3/5の膜状部分だけを振動させる、つまり、歌い手は、高音で強い声門閉鎖が求められることを示しています。それの延長線上に前1/5位の振動のみの振動による、フラジョレット声区、或いは、ダンピングの出し方があります。
高音では、どうしても喉に力が入りやすく詰まった声になりがちですが、だからと言って肝心の閉鎖筋まで脱力してしまうと、別の筋肉に過度の負担を負わせ悪循環に陥ってしまいます。

 

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図ー1

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図-2