テトラツィーニのコルセットについての発言;
声楽家は窮屈なコルセットを着けてはならないし、一番下の肋骨より上に来るような種類のコルセットは決して着けてはならない。別の言い方をすると、コルセットはベルトでなければならないが、コルセットを着けている人が便利で必要だと思うくらいに腰回りの長さに合っていなければならない。
正しくブレスする力を確実につけるためには、衣装は胸回りと背中の下のほうが充分ゆったりしていなければならない。というのは、肺の前の部分だけではなく、後ろの部分を使ってブレスをしなけらばならないからである。(42ページ)
コルセットについて一言触れる。声楽家がコルセットを付けてはならない理由はどこにもない。もし声楽家が力強くなろうとするなら(川口訳では、もし声楽家にとって健康に良いというなら,になっているが、それでは問題点がずれてしまう。)コルセットはいつでも必要である。声楽家が使うコルセットは特にヒップの周りがぴったりとフィットし、横隔膜の上のあたりはとくにゆったりとしていなければならない。
このようにコルセットを作ると、コルセットがブレスを邪魔することは全くない。(60ぺージ)(カル-ゾとテトラッツィーニの歌唱法、川口豊 訳 )

上記の、「声楽家がコルセットを付けてはならない理由はどこにもない。」という発言は、おそらく、19世紀半ばから始まった大論争で、フランスの医師マンデルが、女声歌手のコルセット着用に対して強く弾劾し、腹式呼吸を強く主張したことを前提にした発言のように思われます。
また、同じ書物の中で、テトラツィーニは、息の取りすぎに対しても警告しています。
つまり、声帯振動を生み出すためのエネルギー源である呼吸の働きを、大量の息によるか、或いは、適切な息の圧力によるかによって、コルセットの使用の是非は大きく変わってきます。
腹式呼吸信奉者にとってコルセットの使用は深い息の摂取にとって邪魔者でしかありませんが、声帯下圧によって声のエネルギーを生み出そうとする歌手にとっては、コルセットは非常に大きな助けとなります。