[James Stark, Bel Canto  p.99 ]
Mandlは、呼気筋吸気筋の間の『声の闘争:vocal struggle」を表すlutte vocaleと言う用語を創り出した。彼の見解は、 Lamperti楽派の歌唱マニュアルに取り入れられ、引用された。Francesco Lampertiは、それを次のように引用した:
「与えられた音を維持するために、空気はゆっくり放出されなければならない;音の終わりに達するために、呼吸筋は活動し続けることで、肺の中の空気を保とうと努めると同時に、音の生成のために空気を吐こうとする呼気筋の活動に対抗する。これらの2つの動因間のパワーバランスはこのように打ち立てられる。そして、それはlutte vocaleまたは声の争いと呼ばれる。声の放出とは正にこの平衡の保持に依存する、そして、その方法によってのみ、生み出された音に真の表現が与えられる。」 (F. Lamperti 1916, 25) [Marek, Singing  74, B.M. Doscher, The Functional unity of the Singing Voice 21 にも引用されている。]
Mandlは、lutte vocaleは主として腹筋と横隔膜の争いであり、同様に喉頭の収縮に反映されると主張した。(Mandl 1876, 16-17)

F. Lampertiは、彼自身の意見が高名なパリのDr. Mandlの見解と一致するので、それらを取り入れた。(F. Lamperti 1916, 24) Lampertiは、論文に吸気の3つのメトード(横隔膜、側部/lateral、鎖骨)のオーソドックスな解説をしている。彼は、歌手に、ノイズ混じりの呼吸を避けるように勧めた。(F. Lamperti 1884, 14) 「横隔膜呼吸は、歌手が完成しなければならない唯一のものである、何故なら、喉頭を自然で緊張していない状態に保つ為には、横隔膜呼吸が3つの内の唯一の方法だから。」(11) 彼はこの点について詳しく、「横隔膜と腹筋を使って出来るだけ深い息を取らせなさい、呼吸時に於いて、胸部でのあらゆる努力は完全に避けなければならない。害悪はここにあり。」(56)Lampertiが、ここで言わんとしていることは、胸式呼吸の弾力のある反発力は、歌手に無意識のうちに声門を狭くさせ、その結果生じる息の圧力に対して喉頭を上げてしまうと言うことだ。 他方、腹壁のリラクゼーションを通じてしっかりと腹式呼吸が達成されれば、この様な歓迎されざる反動力はなくなり、歌手は声門閉鎖と喉頭の上昇を上手く抑制することが出来る。 この解釈が正しいか否かにかかわらず、これらの見解によってLampertiは、現在「深い’deep’」呼吸法、或は、「腹を出す’belly out’」呼吸法と言われているものに対する彼の選択を明確にした。

[D.H.Marek 74]
William Shakespeareは次のように書いています。
我々は、コントロールにより、大きい声の歌唱に必要な強力な呼吸圧力を持っています、なぜならば、肋骨筋の上への活動と下への活動のバランスをとることによってこれを制御することができるからです、その一方で、横隔膜の下への運動と腹筋の収縮とのバランスをとります。(W.Shakespeare, The Art of Singing  14)
我々は横隔膜だけを用いて極めて深い呼吸をとることができる;この場合、腹部は、最も低い部分で膨らむ。しかしながら、これをするならば、肋骨を上げることができない;もしそうしてしまったら、第6肋骨とより低い肋骨に付着する横隔膜は、最も十分な大きさまで下降するのを妨げられるだろう。
意図的に歌うために、横隔膜呼吸は、肋骨呼吸と結合されなければならない;しかし肋骨上昇筋を使うとき、(特に背中の上部の肩甲骨の所までの重要な筋肉、)横隔膜でそれほど深く呼吸することができない;横隔膜は肋骨の持ち上げによって影響を受ける;それは、胸骨のすぐ下の柔らかい場所で腹部が上へ高く膨らむために、ただ緊張するだけである。横隔膜は、付着する肋骨を広げることによって、下降が著しく促進される。肩は、正常な位置で静止しなければならない。(Shakespeare, The Art of Singing 12)