[Barbara M. Doscher, The Functional Unity of The Singing Voice, Second Edition, Chapter 6, Vocal Resonance] p.106

 The Tongue

調音の筋肉の相互作用は、単一の筋肉の動作を特定することを難しくします。しかし、舌が最も重要な単一の調音器官であると言うことは、おそらく正しいでしょう。何故なら、よかれあしかれ、その形状が腔のカップリングの主要な調整器となるからです。それは後部で舌骨、喉頭蓋、軟口蓋に固定されているので、声道のほぼ全体を占めています。正面と側面は、固定されていません。BrowneとBehnkeは、それを「大きな移動するプラグ」と呼びました。(7) 効率的な共鳴は、この大きくてしばしば手に負えない筋肉複合体の意図的なコントロールを学ぶことに依存します。

(7) Lennox BrowneとEmil Behnke、声、歌とスピーチ(London:Samson Low、Marston、SearleとRivington、1887)(161)。

安静時に、舌の先端は下の歯に付いています。この安静時の位置と完全に閉ざされた口で、舌は硬口蓋と軟口蓋に対して高くアーチの形になることに注意しましょう。これは、舌の「正常な」位置であり、寿命の半分以上の間その場所にあります(あなたが1夜に2時間の睡眠で、そのほとんどをしゃべり続けていない限り)。この正常な位置と平らな舌の間の中間的な位置が、話すことと歌うことのために習得されます。

舌の動きは、軟口蓋と舌骨の動きによって大きく影響をうけます。舌は伸ばされ、後ろに引かれ、高くされ、降ろされて、凸または凹の形にすることができ、その動きのいずれか、またはそれらの組合せが、特定の時点で適切なものとなります。

母音の音質は、舌の後と上の空間の自由、そして、舌自体の自由に由来する。(8)

Shakespiareが舌の後と上の空間の「サイズ」について言っていなかったことに気づくでしょう。いくつかの母音や周波数レベルによっては、他のものよりも多くのスペースを必要とするものもあれば、それ以下のスペースを必要とするものもあります。自由と可動性は、ここでのキーワードとなります。舌の人工的な操作は、用語上の指示であれ、肉体的な手段によるものであれ、一般的には、硬くて反抗的な舌には何の役にも立ちません。舌をフラットにするように言われれば言われるほど、歌手の舌はより固くなります。舌根が、へら、カキ・フォークまたはミニチュア三脚で押されたり、引かれたりするならば、自尊心のある舌は黙って従うことはないでしょう。

(8) William Shakespeare, The Art of Singing (Bryn Mawr, Pa.: Oliver Ditson, 1921), 32.

舌の過度の緊張は、しばしば舌根での緊張が原因であると突きとめることができます。自己-伸展エクササイズは、より多くの可動性を促進するでしょう。
穏やかな弛緩した唇と下顎で:

(1) 心地よくなるまで、舌を出しなさい。それをすばやく引き戻し、先端が下の前歯にゆるく当たるようにしなさい。
(2) 舌の先端で下の前歯を、穏やかに前に押しなさい。舌は、前に、上に巻きあがるでしょう。元のポジションに戻しなさい。
(3) (無声の)/th/を伴ったヴォーカリーズで母音に先行させなさい。舌を伸ばせと言われ続けると、舌は引っ込んでしまいます。また、この子音の使用はまた舌の後部空間をゆるめます。

このたぐいのエクササイズは、舌がゆるみ、自然な反応を助けます。それらは目を見張らせるものでも、風変わりなものでもありません。すぐに結果が出るわけではありませんが、効果があり、解決しようとしている問題を別の問題に置き換えることもありません。舌を引っ込める歌手(特にアジアの言語を話す歌手の間でよくある)のために、また、これらのエクササイズは、非常に有益です(特に三番目のもの)。引っ込められた舌は舌骨と喉頭を極端に低いポジションに押し込み、重い、暗い音と濁ったディクションになります。

意味論の問題として、「舌を平らにする」と言わない方がよいでしょう。そのフレーズはたいてい舌の後ろを押し下げることになります。この種の締めつけは、サウンド波に影響を与えます。もう一つの共鳴と発声の直接的な相互作用は、この場合は負のものとなります。

平らな舌で発音される母音はほとんどありません。しかし、ある歌唱法の支持者は、あごがよく開けたままで保たれている間は、舌だけですべての母音を形成することができるといまだに主張しています。そのようなシステムが可能であるかどうかにかかわらず、各々の人が自分自身で実地試験を行い、決めることが提案されます。しかしながら、経験的に確認しなくても、母音識別のための調整はほとんど不可能であることは自明の理です。継続的に、「あごを下げなさい」、「喉により大きい空間を作りなさい」と指導するのが、このメトードでの典型です。これらの状態下では高い部分音が弱くなるので、母音はゆがめられ、音は非常に暗く、了解度は損なわれます。リチャード・ミラーは、しばしばこれらの歌唱法の結果である次のようなポジションを一覧にします。(9)

(1) 舌の前部は、下の歯の付け根の下である。
(2) 舌の前部は、口腔の中に、上・後ろへ巻き上げられる。
(3) 舌の前部は、下の歯に付いているが、誇張された/i/のポジションでは、下の歯を越えて前の方に盛り上がる。
(4) 舌の前部は、下の歯に接触せず、口腔の中にまっすぐに引き戻される。

舌が一度に2つの場所にあることができないことは、唯一合理的なようにおもえます。それは、同時に上げることと降ろすことはできません、ついでに言えば、前に出すことと後ろに引くこともできません。バートン・コフィンは、喉の最大の変化は、帆咽頭軸に対する舌の動きだと考えています。(10)彼の図(図35)と説明的なコメントは、その問題を非常にわかりやすくします。母音は、舌円丘の前と後の両方で同時に大きな空間を持つことはできません。母音は大きな空間を喉で持つか、舌円丘の前でもつかのいずれかです。

(9) Richard Miller、「Supraglottal Considerations and Vocal Pedagogy、声門上の考慮すべき問題と発声教育学、Care of the Professional Voice、(第9回シンポジウムの記録、パートII)(New York:The Voice Foundation, 1980)、56)
(10)Coffin, Overtone、前掲書、13

Howellもまた、舌の重要性を注意深く観察し、腔のカップリングにおける役目を果たす第一の調音器官と言いました。(11)  Zemlinは、声道を成型する一般的な3つの調音動作を記述します。(12)

(1) 声道の長さに沿った主要な狭窄の位置(舌円丘があるところ)
(2) 狭窄の程度(舌と口の上側の空間)
(3) 声道の長さ(喉頭の位置によって決定する、そして/あるいは、円唇すること)

3つの内で最初の2つは、舌の位置によって調節される。
舌が自由に使えるかどうかの一番わかりやすい証拠は、音自体の中にあります。舌のサイズと配置は、人によって変化するので、観察によってしか判断することができません。何人かの人々はより高い硬口蓋を持っているので、舌はより上がげても音に悪影響を与えることはありません。それは、舌のそれぞれのサイズ、軟口蓋の構造と硬口蓋弓によって決まります。バランスの良い音のための主要なゴールは、特定の母音に必要とされる最も好ましい空間を獲得することです。この空間は、弛緩した舌と共に、最適の機能的な効率を生み出す。

(11) Peter Howell(Auditory Feedback of the Voice in Singing「歌唱における声の聴覚フィードバック」第11章、音楽の組織と認識、Peter Howell、Ian CrossとRobert West)編者。(New York:Academic Press(1985))、354-355。
(12) Zemlin、スピーチとヒアリング、第2版.(Englewood Cliff、NJ:プレンティス・ホール、1981)(354-355)

 

2020/ 05/01 訳:山本隆則