The Functional Unity of the Singing Voice
by
Barbara M. Doscher

6 Vocal Resonance
共鳴

発声器官の独特のつくりは、共鳴するシステムの大きさと形が話者または歌手の意識的なコントロールの下にあるということである。(1)

(1) Culver, Charles A. Musical Acoustics, 4th ed.1956、p.226-228

でも、そうなんですか?共鳴器の大きさと形をコントロールすることができると感じている歌手はどれくらいいるのでしょうか? たとえそうだとしても、何のために?彼らは、母音の形について十分理解して自分の声の音色を調整しようとしているのか、それとも教師の出す音を真似して歌っているのか。これらは、歌唱教師が集まって真剣で誠実な議論をする価値のある問題です。すべての教師が歌唱行為の本質について同一の考えを持っているわけではないし、これらの考えを伝えるために同じ教え方をすることもありません。教え方の違いは、聴覚的な知覚と音の好みだけでなく、個人的な性格、ペース、そして、以前に行った技術的なトレーニング等に基づきます。歌声に関する生理学的、音響学的情報が、教え方の基礎を形づくる限り、教育的アプローチには多くの種類の教え方が確かにあります。この楽器はかけがえのないものです。

確かに歌唱指導の完全な基礎ではありませんが、音響学の基本的な物理法則を理解していれば、教師と歌手が不可能な目標や間違った目標、発声法を目指すことを防ぐことができるかもしれません。

管楽器としての声

声を他の楽器と比較することは魅力的なことです。それは、ただ1本の管と二重のリードを持つオルガンと同類でしょうか?おそらくある点においてはそうです、しかし、オルガンとは異なり、声道は生きている組織でできていて、それ故、きめと形での変化が可能です。声帯は、弦楽器の動作に例えることができるでしょうか? 両方の振動体にとって、3つの要素― 緊張、厚み、長さは、振動数を決定します。両者とも、音高の急速な変化をもたらすことができます。しかしながら、類似性はそこまでです、何故なら、それらが振動している間、声帯はそれらの緊張を変えることができますが、弦にはそれができません。もちろん、呼吸圧力の使用vs振動体を起動させる弓の使用の間には、より明らかな違いがあります。他の楽器との類似性の比較は時には有益ですが、ある点以外では不十分です。

声が声帯のリード楽器であることは広く意見が一致しています(基本的にダブルリード・タイプの管楽器)。声の振動体とは、肺から上がってくる空気流を周期的に解放して、切り離す空気流音声発生装置です。声帯は、通常のリードのように片方を固定した固い層ではなくむしろ、それぞれの端で固定されていない、膜組織によって覆われた2本の筋肉のくさびから成っているといえます。縁だけではなく膜組織の全体面が振動します。呼吸、振動する襞と共鳴する腔の重要な要素を考えれば、声はまさにリード楽器であると結論を下さざるをえません。

共鳴腔

2つの原理的な共鳴空洞は、喉または咽頭と口腔であり、それぞれが調整可能であるという普遍的な合意があります。つまり、その大きさや形だけでなく、その開口部の寸法は、舌、唇、軟口蓋、あごの特定の調整によって変化させることができます。これらの調整は歌手の意図的なコントロールの下にあり、それらが自動的になるまで練習しなければなりません。

咽頭は、鼻の後ろ側から輪状軟骨の基部の後面に向かって伸びる不規則な形のチューブです。この大きな腔のそれぞれのセクションは、鼻咽頭口咽頭喉咽頭と呼ばれます。これらの3つのセクションの任意の境界線は、厳密に分割されたラインとして示されません。ある人が口咽頭と思っているものを、別の人が喉咽頭の部分であると考えるかもしれません。全スペースは単一の機能的ユニットで、そのように処理されなければなりません。

図‐33 共鳴体と関連する器官の輪郭

(p. 109)

鼻咽頭は、頭蓋骨の底から軟口蓋まで延びています。嚥下中に食物が鼻に入るのを防ぐため、口蓋は弁の役目を果たし、この部分を閉じることができます。中耳と内耳ににつながる耳管は、鼻咽頭に開口部があります。そのうえ、中耳と内耳の骨、さらに外耳管の軟骨から起こりうる振動フィードバックも考えられます。音が空気を通るよりも骨を通る方がはるかに速いので、骨伝導が、歌手が自分の音をリスナーとは違った形で聴こえる理由の一つであることは間違いありません。

口咽頭は、軟口蓋から喉頭蓋の最上部まで延びています。軟口蓋も喉頭も上下・前後に動くことができるため、形を変える能力が最も高い大きな共鳴空間です。舌の位置もまた、この空間と、口腔とのカップリングに重大な影響を持っています。

喉咽頭は、喉頭蓋の最上部から輪状軟骨の底に至ります。音波は最初にこの空間を通り抜けるので、特定の倍音の初増幅にとって特に重要です。

可能性のある補助共鳴器の存在については様々な意見がありますが、研究上の証拠は、ほとんどの場合、思わしいものではありません。胸腔内で「胸」の共鳴が発生するという考えは、胸部には空洞がないので誤りです。ある咽頭振動が、歌手によって感じられたり想像したりする振動感覚を生み出すということはありえます、しかし、共鳴体として気管またはあらゆる他の声門下腔が共鳴体として使用されていることを示す事実に基づいた証拠は今までのところありません。

「頭」または「鼻」共鳴に関しては、多くの歌手が目の下の上顎洞や、それの近くで振動を感じます、そして、この感覚は胸の振動と同じぐらい強くて「リアル」です。しかし、科学者たちは、声道の特定の形状によって生じる骨や組織の共振共鳴(sympathetic vibrations)を指摘しています。副鼻洞は真の共鳴腔ではないし、頭も鼻もそうではありません。今日の最も重要な音響学者の1人であるJohan Sundbergは、はっきりその事について述べています。

声道(鼻を含む)以外の共鳴は、歌唱で使われる音に寄与しない。(2)

(2) Johan Sundberg、”The Source Spectrum in Professional Singing,” Folia Phoniatrica, 25:3 (1973), 88

しかし、最近の研究では、声道の中に実際に補助的な共鳴空間があることが指摘されています。1949年という早い時期に、Vennardは、補助共鳴体(彼が喉頭部襟首と呼んだ空間)として、声帯の真上に、喉頭蓋と披裂喉頭蓋ヒダによって形づくられた空間について、オープンな姿勢を保っていました。(3)(3) Vennard, Singing, 1949 ed., op. cit., 51. その後の研究は、この小さい補助共鳴体が2500~3000cpsの共鳴振動数を持っていて、結果的に「歌唱フォルマント」を生み出すことを確認しました。そして、「歌唱フォルマント」は、ハイ・ソプラノの声以外のすべて良好なフル・ヴォイスの歌声における重要な要素です。Sundbergは、以下のように報告しています:

咽頭への喉頭出口の面積が、咽頭の横断面の6分の1以下であれば、喉頭は声道の残りの部分と音響的にミスマッチしていると計算することができます;それはそれ自身の共鳴振動数を持っていて、声道の残りの部分からほとんど独立しています; …喉頭が下がったときのX線写真をもとに、この降ろされた喉頭の共鳴周波数は2500から3000ヘルツの間であると推定しています…ちょうど歌唱-フォルマント・ピークが生ずるところです。(4)

(4) Johan Sundberg、「歌声の音響」、Scientific American、236:3(1977年3月)、86-88。

Sundbergは、この共鳴する襟首の形成は、少なくとも部分的には喉頭の位置が低下していることに起因していると考えています。したがって、私たちには、発声機構における機能的な相互依存性の別の事例となります。なぜなら、ストラップや外転筋が働いていないと、喉頭位の安定化ができないからです。舌根の相互作用と喉頭蓋の位置への影響に関する先のセクションでは、この共鳴体の形成における重要な要因を指摘しています。Sundbergが言及した固定歌唱フォルマントについては、次の章で詳しく説明します。

(p. 111 )

共鳴体のチューニング (Tuning the Resonator)

場合によっては、絶望的に調子外れの共鳴体がイントネーションに影響を与えることがあります、これは、耳が良くても技術が低い歌手が「はずれたキー」で歌う可能性があることを説明しています。
(5) Vennard、Singing 前掲書、82。

この状況は歌手以外の人にはほとんど理解されておらず、歌の教師や歌唱指導者の中にも、イントネーションの悪い歌手はすべて “耳が悪い “と言い続けている人がいます。一部の人はそうかもしれませんが、大多数の人は技術的な問題を抱えています。共鳴体が「絶望的に調子を外す」原因は何か?それに対してどうすればいいのか?母音フォルマントの問題を考える前に、調音器官について調べて見ましょう。

咽頭

口と咽頭は単一の複合共鳴器を形作るために結合しますが、声帯からの音波はまず咽頭を通過しなければなりません。1894年にGarciaは、「歌手の真の口は、咽頭と考えられなければならない。」(6)と言いました。 最初の6つの部分音は主に咽頭で増幅されると推定され、声質のほとんどはその空洞の形成に依存します。

(6) Garcia、Hints、前掲書、12.

ほとんどの歌唱教師が同意していると思われる何か唯一の概念があるとすれば、それは「喉を開く」というが概念です(喉を開く方法や、『開く』の意味について合意に達しているわけではありません)。開かれた喉についての考えは、明らかに解釈の問題で、音質における美的な好みの異いによって大いに左右されます。前方への「プレイスメント」を推奨する方法論にとって、鼻咽頭と口咽頭での感覚が、開かれた喉を達成したことを意味します。喉咽頭での最大の空間を擁護する人にとって、開かれた喉は、反対の意味を持っています。しかしながら、方法論に関係なく、咽頭はしめつける緊張とは無縁でなければなりません。そして、しめつける緊張はひだになり、壁をたるませ、音を減衰する危険性を増大します。喉咽頭はその位置から、特に首が突出していることで歪みが生じやすくなります。残念なことに、咽頭の収縮は、特に英語を話す人々の間で優勢である。後ろの/a/はまさにその通りです。舌は引っ込んで咽頭の中に突出し、時には奥の壁に触れそうになります。喉咽頭や口咽頭の大部分でさえも見ることができないため、開いた口から見ることができる舌は、必ずしも舌の位置を正確に示すものではありません。舌の平らな位置は、舌の好ましくない緊張と、後退がないことを保証するものではありません。イタリア語の/a/では、もちろん、舌をより前のポジションに出します。

図‐34 舌の位置の比較

イタリア語、フランス語、スペイン語の子音は、英語やドイツ語の子音とは全く異なる発音をします。そのほとんどが歯音化しています、つまり舌が上の歯に対して前に出ていて、空気の流れがそれほど圧迫されていない状態です。例えば、/d/と/t/は、歯に対して舌の先端のゆるやかな動きによってつくられる。これに対して、英語での同じ子音は、歯を鋭く寄せ合って爆発的な空気を放出することで発音します。英語の/l/は、舌の先端を歯に当てて発音します。イタリア語の巻いた/r/と、非常に評判の悪い英語のうなりの/r/を比較してみてください。イタリア語とスペイン語では、/g/と/k/は、英語のような発作的な飲み込み動作ではなく、舌の前部で形られます。英語を話す歌手のこれらの望ましくなく、深く染みついた習慣の全ては、機能的な自由を促進する反応を学ぶことによって変えることができます。歌手は、自分の言葉を使うときには、慣れない言葉を使うときと同じように、自分の言葉の音声を大切にしなければなりません。

咽頭収縮の別の主な原因は、外因性筋肉のネットワークが使われないことです。引き下げ筋が挙筋と協力して働いていないならば、喉頭は高く上がりすぎ、舌根は押し下げられ、そして、喉頭収縮が後に続くでしょう。

調音の筋肉の相互作用により、単一の筋肉の動きを分離することは困難です。しかし、舌が最も重要な単一の調音器官であると言うことは、その形状が、よかれあしかれ、腔カップリングの主要な調整器となるからです。後方を、舌骨、喉頭蓋、軟口蓋に固定されているため、声道のほぼ全体を占めています。正面と側面は、固定されていません。BrowneとBehnkeは、それを「大きな可動式プラグ」と呼びました(7)。 効率的な共鳴は、この大きくてしばしば手に負えない筋肉複合体の意図的なコントロールを学ぶことによって決まります。

(7) Lennox BrowneとEmil Behnke、声、歌とスピーチVoice, Song, and Speech(London:Samson Low、Marston、SearleとRivington、1887)(161)。

安静時に、舌の先端は下の歯に接していなければなりません。この安静時の位置で、口を完全に閉じた状態では、舌は硬口蓋と軟口蓋に対して高くアーチ形になることに注意してください。これは、寿命の半分以上、それがとると想定される「正常な」位置である(夜2時間の睡眠で、ほとんどの時間を喋り続けない限り)。この正常な位置と平らな舌の間の中間的な位置が、発話と歌唱のために学習されてきました。

舌の動きは、軟口蓋と舌骨の活動によって大きく影響を受けます。舌を伸ばしたり、引っ込めたり、上げたり下げたり、凸状にしたり凹状にしたりすることができ、これらの動作のいずれかまたはそれらの組み合わせが、特定の時点で適切である場合がある。

母音の質は、舌の後ろと上の空間の自由度と、舌の自由度そのものに由来しています。(8)

(8) William Shakespeare, The Art of Singing (Bryn Mawr, Pa: Oliver Ditson), 32

Shakespiareが、舌の後・上の空間の「サイズ」を言わなかったことに気づくでしょう。母音や周波数レベルによっては、他のものよりも多くのスペースを必要とするものもあれば、それ以下のスペースを必要とするものもあります。ここでは、自由と可動性がキーワードになります。舌の不自然な操作。歌手は、舌をフラットにするように言われれば言われるほど、舌は固くなります。舌根が、へら、カキ・フォークまたはミニチュア三脚で押されたり、引かれたりするならば、自尊心のある舌はおとなしくは従わないでしょう。

舌の過度の緊張は、多くの場合、舌根での緊張であることを突きとめることができます。自己-伸展エクササイズは、より多くの可動性を促すことができるでしょう。唇と下あごを静かに、そしてリラックスした状態で:

(p.115)

(1) 楽にできる範囲で、舌を出しなさい。それをすばやく引き戻し、先端が下の前歯にゆるくもたれるようにしなさい。
(2) 舌の先端で下の前歯を、穏やかに前に押しなさい。舌は、前に、上に巻きあがるだろう。元のポジションに戻しなさい。
(3)  母音に無声の/th/を先行させてヴォーカリーズしなさい。舌を伸ばせと言われ続けると、舌が引っ込んでしまいます。この子音を使うと舌の後部空間もゆるみます。

このようなエクササイズをすることで、舌の反応がゆるやかで自然になります。それらは壮大なものでもではないし、独特なものですらありません。すぐに結果が出るわけではありませんが、効果はありますし、解決しようとしている問題を別の問題に置き換えることもありません。舌を引っ込める歌手(特にアジア語圏の歌手に多い)には、これらのエクササイズは同様に非常に役立ちますが、特に3つ目のエクササイズは非常に役立ちます。舌を引っ込めると、舌骨と喉頭が過度に低くなり、重くて暗い音と濁った発音になります。

意味的な問題として、「舌を平らにする」と言わないことがベストです。そのフレーズは、一般的に舌の後ろをくぼませることになります。このような収縮は音波に影響を与えます。共鳴とフォネイションのもう一つの直接的な相互作用は、この時にはマイナスものとなります。

平らな舌で発音される母音はほとんどありません。しかし、ある歌唱法の支持者は、顎をよく開いている間は、舌だけですべての母音を形成することができると主張しています。各自で実地試験を行い、そのようなシステムが実現可能かどうかを判断することが望まれます。しかしながら、経験的に確認しなくても、母音区別のための調整はほとんど不可能であることは、わかりきっています。このメトードでは、”アゴを落とせ “や “喉に大きなスペースを作れ “という指示が続くのが典型的です。このような状態では、上位倍音が弱くなるため、母音が歪んでしまい、音色が非常に暗くなり、明瞭度が低下してしまいます。Richard Millerは、これらの歌唱法の結果となることが多い、以下のポジションをリストアップしています。(9)

(9) Richard Miller, “Supraglottal Considerations and Vocal Pedagogy,” Care of the Professional Voice, Transcripts of the Ninth Symposium, Part II (New York: The Voice Foundation, 1980), 56

(1) 舌の前部は、下の歯の付け根の下にある。
(2) 舌の前部が、口腔の中に上・後ろに向かって巻き上げらている。
(3) 舌の前部は、下の歯に接しているが、誇張された/i/の位置で、前歯越しに前に盛り上がっている。
(4) 舌の前部は、下の歯とは接触さず、直接口腔の中に引き込まれている。

舌が一度に2つの場所に存在することができないことは、唯一合理的なようにおもえます。上昇と下降を同時行うことはできませんし前かがみと後ろかがみになることもできません。Berton Coffinは、喉で最も大きく変わりやすいものは、口蓋帆咽頭軸(Velo-pharyngeal Axis)に対する舌の動きであると考えています。彼の図(図35参照)と解説は、この問題を非常に明確にしています。母音は、舌円丘の前と後で同時に大きな空間を持つことはできません。母音は、喉に大きな空間を持つか、舌円丘の前でもつかのいずれかです。

図‐35 口蓋帆咽頭軸

舌の重要性はHowellも指摘しています。彼はそれを腔カップリングの役目を果たす主要な調音器官と呼んでいます。(11)   Zemlinは、声道を成型する3つの一般的な調音の動作を説明しています。(12)

(11) Peter Howell, “Auditory Feedback of the voice in Singing, “Chapter 11, Musical Structure and Cognition, Peter Howell, Ian Cross, and Robert West, eds. (New York: Academic Press, 1985), 259.
(12) Zemlin、Speech and Hearing, 2nd ed.(Englewood Cliff、NJ:Prentice-Hall, 1981)(354-355)

(1) 声道の長さに沿った主な狭窄の位置(舌円丘があるところ)
(2) 狭窄の程度(舌から口の屋根への空間)
(3) 声道の長さ(喉頭の位置によって決まる、そして/あるいは、唇丸くすること)

3つの内で最初の2つは、舌の位置によって調節されます。

舌が自由であるかないかの一番わかりやすい証拠は、音そのものにあります。舌の大きさや位置は個人差があるので、観察だけでは判断できません。より高い硬口蓋を持っている人もいますし、音に悪影響を与えることなく舌がより高く上がることもあります。それは、舌の大きさ、軟口蓋の構造、硬口蓋のアーチなどの個人差によって決まります。バランスのとれた音を出すための主要なゴールは、特定の母音の必要性に最も適した空間を獲得することです。この空間は、弛緩した舌と共に、最適な機能効率を生み出します。

口蓋

口蓋部の主な目的は、嚥下時に食道と鼻腔を分離することです。この領域は硬口蓋と軟口蓋から構成され、口蓋アーチの高さは口腔の音響特性と直接関係しており、おそらく個人の声の特徴に影響を与えると考えられています。硬口蓋は全体の長さの4分の3以上を占め、この骨板の後4分の1は口蓋骨によって形成されています。硬口蓋や歯が音波の共鳴板または反射体の役目をすると、依然として信ずるごく少数の者にとって、そのアイデアはとっくの昔に論破されています。硬口蓋は低いバスで1.85㎡を測定しなければならないだろうし、「ソプラノは口蓋が0.55㎡で、同じ長さの歯(これらを含んだ場合)で管理することができるかもしれません!」(13)。

(13) Richard Paget, Human Speech (London: Routledge and Kegan Paul, 1930), 211

口蓋の全長の残りの4分の1は、筋肉弁として機能し、軟口蓋(soft palate)または口蓋帆(velum)と呼ばれる。それは、複雑に織り込まれた筋肉のシステムから構成され、後ろに導かれ、静止時には口咽頭にカーテンのようにが垂れ下がています。軟口蓋は、上げる下げる、前後に動かす、そして緊張させることができるので、その可動性を司る5つの主要な筋肉を見てみましょう。2つの引き下げ筋、2つの挙筋、そして1つの挙筋緊張筋があります。

1.口蓋引き下げ筋(Palatal Depressors)

(1)舌口蓋筋(Glosso-palatine)又は、口蓋舌筋(Palatoglossus)。軟口蓋の前部表面から舌の側面に挿入するように走る。また、前口蓋弓(anterior palatine arches)または前口峡柱(anterior faucial pillars)と呼ばれる。
(2)咽頭口蓋筋(Pharyngo-palatine)又は、口蓋咽頭筋(Platopharyngeus)。軟口蓋から下に走り茎突咽頭筋(stylo-pharyngeal )に混ざるように咽頭の側壁へ入ります。また、後口蓋弓(posterior palatine arches)または後口峡柱(posterior faucial pillars)と呼ばれる。

舌口蓋筋の収縮は軟口蓋を下げるか、口蓋が固定されているならば、舌の側面と後部を上げるでしょう。この筋肉が半円形であるので、括約筋として作用し、同様に前口峡柱の左右の間を近づけます。咽頭口蓋筋の作用はより複雑です。ここでは、筋束の上部の収縮が嚥下やのどを詰める動き(gagging action)であると言うにとどめましょう。収縮がそれほど強くない場合でも、後口狭柱の間の距離は狭くなります。前口狭柱後口峡柱に上向きや下向きの力が入りすぎると、柔軟性が最も重要な部分に過度の緊張が生じます。【訳注:口狭を参照】

図36 口蓋アーチ
(左)両方とも本来のアーチの位置
(中央)引き上げられた位置の舌口蓋骨(前弓)
(右)引き下げられた位置の咽頭口蓋骨(後弓)

 

2. 口蓋の挙筋と緊張筋(Palatal elevators and tensors)

(1)口蓋挙筋(Lavator palatine)。軟口蓋の大部分を形成する。側頭骨と耳管の軟骨枠組みから起こって、口蓋骨に挿入する。軟口蓋を、上へ、後ろへ上げて、口蓋帆咽頭閉鎖にとって重要な役割を果たします。【訳注:軟口蓋を上げる主要目的は口蓋帆咽頭閉鎖であることに注意。また、軟口蓋を引き上げる筋肉は、軟口蓋ではなく挙筋であるので、軟口蓋よりも上に緊張が来る】
(2)緊張口蓋筋(Tensor palatine)。横方向に収縮して、軟口蓋を平らにし、緊張させ、わずかに下降させます。(Zemlin, 333-334ページ参照)
(3)口蓋垂筋(Uvular muscle)。正中線上にある垂れ下がった組織である口蓋垂を持ち上げ、それに伴って軟口蓋も持ち上げます。口蓋骨から起こって、軟口蓋の全長を後ろに走り、口蓋垂に挿入します。【訳注:軟口蓋と口蓋垂を混同して口蓋垂を引き上げることが軟口蓋を上げることと誤解して教えている教師が多いが、非常に弱い筋肉に緊張を強いるのですぐに疲労してしまう。】

喉頭の外因性懸垂ネットワークと同様に、自由で可動性のある軟口蓋を維持するためには、挙筋と引き下げ筋【訳注:舌根を下すことではない!】として機能する筋肉の連携作用が必要であることがわかります。

深呼吸をすると、喉頭が自動的に下がり、軟口蓋が上昇しますが、これは音色の変化に重要な影響を与える生理的事実であり、音色のセクションでさらに掘り下げていきます。

軟口蓋はリラックスした状態では、下に垂れ下がり、鼻への出入口を開いたままにしますが、上昇したた状態では、咽頭でより大きい空間ができて、過度な鼻音質を防ぐことができます。

Vennardは、軟口蓋による口蓋帆咽頭閉鎖は完全でなければならず、鼻の共鳴はごくわずかな価値しかないと述べています。(Vennard, 93) 同時に、ケーキの中の塩のような「トゥワング(twang)」が必要であることを認め、高音域に「トゥワング」を使うことで「フォーカス」と強い歌唱フォルマントが得られると考えています。  Coffinは、アマートとカルーソという二人の有名な歌手のレントゲン写真を示し、カルーソは鼻孔が完全に閉じていますが、アマートの写真では/a/の母音以外【訳注:ア母音はフイルムの枠から軟口蓋が編み出しているので空いているか閉じているかが見えない。】は開いています。特に興味深いのは、カルーソは口蓋帆が開いているはずだと信じていたのに、開いていなかったことにショックを受けたということです。(17)

(16) William Vennard and Minoru Hirano, “Varieties of Voice Production,” NATS Bulletin, 27;3 (1971)
(17) Coffin, Overtones,182-183

上述したように、上顎洞の、中または近くの振動の存在にもかかわらず口咽頭声道以外で補助共鳴体を示す証拠はありません。しかしながら、口蓋帆咽頭閉鎖について、依然として見解の相違があります。歌唱教師の間では、Vennardの見解に同意する人もいれば、極端に堅い閉鎖は粗い音声に帰着すると考える人もいます。Zemlinが口峡と呼ぶその狭い開口部は、口蓋アーチ(「口腔と咽頭と鼻腔との出入口…」)の2つのセットで作られる。(18) Fritzellの研究では、歌い手の間でかなりの次元の違いがあることが示されているが、何が閉鎖を解除するのかについての決定的な証拠はまだない。 非鼻声母音を歌っているときに、ある種の鼻-咽頭-口の結合の可能性が研究されている(19)。

(18) Zemlin, Speech and Hearing, op. cit.,  223.)
(19) Bjorn Fritzell, “Electromyography in the Study of the Velopharyngeal Function,” Folia Phoniatrica, 31 (1979), 93-102

(121)

多くの歌唱教師は、音声の中の鼻音性のかすかな徴候ですら非難しますが、彼らが「頭の共鳴」または「鼻の共鳴」と呼ぶものに対しては、冷静に受け入れ、さらに擁護さえします。2つの用語の違いは、純粋に意味論的なものなのでしょうか? アーチ型の口蓋が上がり気味でわずかに前方にあると感じるときにのみ、流れる音声が可能となるのでしょうか? 定位置に動かずに固定された軟口蓋は、ビブラートのない音声を育てるでしょうか?これらの質問に対する事実に基づく回答は今のところありません。それらが、鼻音性とその意味論的な同類のもののいかなる主観的な定義も、個人の聴覚的な認識と音色の好み頼らざるを得ません。

あごと口の開き

舌のように、あごの位置は、蝶番または顎関節の自由度ほど重要ではありません。蝶番が緩く感じられ、耳のすぐ前に少し空間を感じることができるはずです。特に高音域では、口が十分に開き、子音が舌先で非常に早く発音することができるように、顎は非常に柔軟でリラックスしている必要があります。

この問題は専門的すぎてここでは詳細には触れませんが、近年、顎関節機能障害(TMJ)の認知度が高まってきています。普通の言葉で言うと、顎関節の機能不全です。問題が身体的な問題と健康障害の広範囲で似ているため、しばしば誤診されます。症状としては、夜間の歯ぎしり、顎関節の痛み、顎の開閉時のクリック音、首や背中の筋肉の混乱などがあります。Daniel L. Laskin口腔外科医博士、Virginiaの医学大学のTMJとFacial Painセンターのディレクターは、顎関節近辺のストレスに関係する筋肉緊張は、TMJ機能不全の10の事例中9つを引き起こす可能性があると推定しています。この緊張は筋肉のけいれん、あるいは、体の残りの部分に表面的な痛みが放射状に広がる不随意収縮を引き起こす。しかし、それだけでカチッと鳴るかポンとはじける顎関節が必ずしもTMJ障害の徴候とは限らないことを強調しなければなりません。この問題に関する論説は、一般的に噛み合わせ板または副木、はめ込み細工またはブリッジなど、適切な咬合を回復するための他の類似した方法について言及しています。バイオフィードバックを提唱する人もいますが、フェイシャルマッサージについて言及している人はほとんどいません。TMJ機能不全に影響を受ける約7500万のアメリカ人に対して、彼らのうち最低75%が女性です、初期段階のストレスはマッサージのような、穏やかな筋感覚アプローチが有利に反応するだろうとみなすことは理にかなっているいるようです。

あごが正しい位置にあると、頭は首と肩の上で快適に休むことができます。しかしながら、あごが所定の位置以外に押しつけられるならば、頭を支える筋肉はその位置に頭を保つのに苦労します。重度の筋肉緊張が起こります。遅かれ早かれ、筋肉は痙攣状態になって小さな痛みの塊が頭痛の原因となり、顎関節症が片頭痛と診断されることが多い理由です。

感情的なストレスが歯ぎしりやそれに類する習慣を引き起こすことがあるのは事実ですが、特にストレスを内面化している人の間では、顎関節症の純粋に肉体的な原因も存在します。バート・レイノルズは映画製作中に顎を殴られ、噛み合わせが矯正されるまで頭痛と視力低下に悩まされた。交通事故によるむち打ち症や出産時のケガなど、顎に何らかのケガがあると、関節に問題が生じることがあります。顎関節症の最も一般的な物理的な原因は、顎がずれて動く原因となる美容上の理由から、特に歯の抜歯などの不適切な矯正処置かもしれません。姿勢、外因性喉頭筋、そして、共鳴調音器官に及ぼす側頭下顎骨症候群の影響は破壊的です。歌手のために、機能的な平衡を達成するためのいかなる試みも損なってしまいます。専門的な診断と治療をお勧めします。

あごの緊張は、たいてい他の機能的な緊張によって引き起こされます。例えば、呼吸が鎖骨呼吸であるならば、外因性筋肉ネットワークが不活性化されます。その結果、喉頭は高く上がりすぎ、舌根は緊張し、あごは堅く、そして、咽頭腔が狭くなります。さらに歯と大きな唇の筋肉も、それを「助け」ようとしてかたく閉じるかもしれません。筋肉ネットワークはバランスを崩し、特定の筋肉が働いていないか、不適切な作業をしたりします。逆に言えば、あごの張り自体が空気の流れを制限したり、抑制したりしていることになります。また、共鳴体の壁を締めつけるので、押し付けられたかん高い音を生成します。

もう一つのよくある問題は、まだ筋力的に成熟しておらず、適切な空間を提供することができない共鳴体に対する過度の呼吸圧力または「支え」です。そのような状態は、若い歌手に最もよく見られます。

音が出る前にあごが緩んでいることもありますが、発声が始めるとすぐに固まり始めます。そのような堅さは声門アタックに特徴的なものです、或いは歌手が声を「コントロール」したいときによく見られます。

どの程度口を開くかについては、いつも論争の的となっています。Garciaは、「口は、あごの自然な下落によって開かれなければならない」(21)としています。彼は続けて、「この扉が充分に開いていなければ、音声は自由に出てこない」と言っています。しかし、実際「充分に開く」とは何を意味し、「あごの自然落下」とは何を意味しているのでしょうか? それは、発声サイズ、歌われた音のピッチ、母音、求める音色、ダイナミック・レベル、そして、与えられた音声に対する他の特別な要素によって決まります。パヴァロッティは “誰もが感じたままに口を開けたり閉じたりする “(22)と考えています。

(21) Garcia, Hints, op. cit., 12
(22) Luciano Pavarotti, Mizar Record PF3.

ただし、「あごの落とし」で口の開きが大きいからといって、すべての歌唱場面で自動的に有利な位置になるわけではないことには注意が必要です。初歩的に音響法則を理解しているだけでも、このことは明らかです。Taylorの例えは、面白くてむしろかなり痛烈であるけれどももっともなことです。

多くの発声教師は、「大さじ1杯の薬が病気の人に良いなら、8杯や10杯ならその何倍も良いはずだ」という信念のもと、生徒たちに口と喉をできるだけ大きく開くように勧めています。(23)

(23) Taylor, op. cit., 31.

(p.124)

最終章の「空洞に関する音響法則」の項を見直すことで、共鳴画像の中で空洞の大きさと開口部の形状を再確認することができます。したがって、口とあごの開きは、主に歌声の周波数と使用されている母音に依存します。必要以上に大きい直径は不必要であるだけでなく、有害ですらあります。順応性があり、弾力性のある口とあごの開きは、定められた測定値よりも機能的により効率的です。

唇の位置は、歌われている母音によって異なります。一般に、歯は後舌母音より前舌母音でよく見えます。(24)    Vennardは、上の4本の歯の縁を露出させることは、「音色の中に良い高音域が生成されているものは何であれ、それを維持するために活力を与えるにはちょうど良い」(25)と主張しています。あらためて、個々の身体的な特徴は異なり、そして、形状は、何が最適の共鳴を引き起こすかに依存します。効果的にすぼめられた歌口を使用している歌手もいますが、開口の直径が狭すぎて、過度の滅衰と非常に暗くてこもった音声になる歌手もいます。反対の極端(横向きの位置)は、あまりにも強調された場合、金属的な、さらに貫き通す音声を生じる場合があります。この問題は主観的なものであり、それぞれの口の形、音の振動数、歌われる母音によって大きく左右されます。

(24) 「前舌」母音と「後舌」母音という言葉は、舌円丘の位置と、それが口蓋帆咽頭軸の前にあるのか後ろにあるのかを指しています。
(25) Vennard, Singing: The Mechanism, op. cit., 119

唇と、それを取り囲む大きな筋肉は、リラックスして可動性がなければなりません。それらの特定の形状は変わりやすく、口腔ー咽頭腔のカップリングに影響を与えます。

また、頬の位置も共鳴空間に影響を及ぼす可能性があります。男女いずれの歌手によっても、高音域で頬を上げることは、口蓋アーチに過度のストレスを置くことなく軟口蓋での最大の伸縮性を得るようです。この動きはテレビで見ることができます。

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要約すると、舌、軟口蓋、唇またはあごの完全な位置は一つではありません。人の体格はそれぞれ違います。唯一破られないルールは、これらの調音器官は、共鳴空間が声帯から来る音波に共鳴して振動するように声道を形成しなければならないということです。理想的には、これらの調整は、非生産的な緊張を避けるために、最小の労力と最大の効率で行わなければなりません。このような最大の効率を得るためには、共鳴管の調音器官と発声メカニズムや呼吸のメカニズムとの相互依存性が鍵となります。「声道器官の解剖学的構成を調べると、すべての構造は筋肉と靭帯によってネットワーク化されており、器官の動きは互いに依存し合っていることがわかります。例えば、舌の調音は喉頭に力を加え、その発声機能を変えてしまうかもしれません。」

音色または音質(Timbre or Tone Quality)

基本音と自然倍音のパターンとその相対的な分布と強度によって決まる音色については、第5章で説明しました。それぞれの楽器にはそれぞれ特徴的な音色があり、楽器の中でも最も個性的な声楽には、それぞれの声に特徴的な音色や色があります。それぞれの声の基本的な色は、その人の生理的特徴、すなわち、身体構造、声帯の大きさと形状、声門上の共鳴特性の影響を受けています。しかしながら、すべての測定可能な要素が考慮されたあ後も、言葉で説明するのが極めて難しい聴覚的な知覚が残っています。このような一般化された主観的な音色の見方に取り組む前に、音色が様々な気分や感情を反映するように変化する具体的な方法を考えてみましょう。

第5章では、それぞれの声の個性を決定づける4つの要因を挙げました。第2の要因は、声帯の倍音出力をある程度変化させることができること、すなわち、声帯の振動パターンが変化することです。ご存知のように、振動の周期ごとに1回の開閉があり、その周期数によって音の周波数が決まります。しかし、与えられたサイクルの中での音門閉鎖時間の割合は、振動の振幅とその結果として生じる音波の特性を決定します。閉鎖時間が長くなるほど、振幅はより広くなり、倍音はより強いくなります。声門下圧と声帯抵抗の相互関係は、声帯振幅の主要な決定要因であると考えられます。

[歌手]は、各振動サイクルの制御可能な部分において、声帯を互いに押しつけることができるように、十分な振幅で声帯を振動させることを選ぶことができます…流れは、継続時間が反復速度とは無関係に多かれ少なかれ調整できる空気の瞬間的なパフから成ります。その結果、歌手は音楽の音色を変える手段としての調整可能なレシピが与えられる。[Arthur H. Benade, Fundamentals of Music Acoustics. 1990. p.363]

より短い閉鎖時間、及び/又は、よりしまりの悪い閉鎖は、幅の狭い振幅となる、より弱い倍音の音波になります。Benadeは、2種類の異なる喉頭空気流パターンを図37に示しています。下図の両グラフに示される音波は、同じ周期または振動数を持っています。上のグラフでは、流れは急速に上昇してとがったピークに達し、減少した後、各サイクルの約3分の1の間は完全に停止しています。このパターンはより多くの高い倍音と、そのためのより大きな強度を示しています。下のグラフでは、波形はずっとよりなめらかなカーブを描いています。空気のゆっくりした流れは、かろうじて声帯の振動を保つ強さで声帯の間を流れます。声帯は完全に閉まらないので、その結果として、流れは決して完全に遮断されることはありません。このパターンは、倍音が不足している音を示します。Manuel Garciaは、これらの喉頭パターンによって生みだされる2種類の音をそれぞれ「鳴っている(ringing)」、「不明瞭な(veiled)」と呼びました。

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図37 様々な空気流と振動パターンの図

より最近の調査において、ColtonとCasperは、その「…声の強さをコントロールするメカニズムは、声門下圧力ではなく…声帯自体の閉鎖の程度と時間である」と主張しています。(29)  しかしながら、より高い振動数では、声門抵抗はもはや主要な要素ではなく、空気流が主要な要素となります。更なる調査が必要なことは確かですが、音源(声帯)と声門上共鳴道が互いに最も強い影響を持っていることは十分に明らかになっています。

(29)Raymond H. Colton and Janina K. Casper, Understanding Voice Problems (Brtimore: Williams and Wilkins, 1990), 291.

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声の音色を変える喉頭法に加えて、各々の歌手は、共鳴チューブの形状を変えることができます。明るい共鳴音や暗い共鳴音の音色は主に軟口蓋と喉頭の位置関係によって得られ、それらはいつも反対の方向に動きます。喉頭が上がるときに軟口蓋は下がり、逆もまた同じです。したがって、高い口蓋弓はより暗い音色を生み、低いアーチがより明るい音色を生み出します。

 

図38。音色の可能な組合せ

歌手はその結果、自由に使える2つの主要な着色装置を持っています。それらが意識的に分けて使用されるならば、色の無限のグラデーションが可能となります。Garciaは、彼の声門閉鎖についての観察は、共鳴音色と呼吸を互いに理解することで、歌手は声のすべての色を手に入れると言います。(30

(30) Garcia, Hints, p.7

調音行為の個人的な違い(したがって、音色の)は、習慣的な「セッティング」だけではなく、地域のアクセント、言語方言と個人的な感情表現の仕方の結果です。抑揚、強弱法と使用されるストレス・パターンによって、各々の歌手の言葉に対する独特の感覚が示されます。

言葉は音楽的な現象を記述するためには決して向いていないし、音の質を記述するためにはなおさら不適切である。「甘い(sweet)」、「粗い(abrasive)」、「明るい(bright)」そして「暗い(dark)」などのすべの用語は、すべて聴覚以外の感覚に由来しており、一般的には個人的な好みや偏見を反映しています。実際に、音色は身体的特徴、言語の違いと美的な好みの組合せのように思えます。

しかし、私たちには、音を表現するために特定の言葉を使うという伝統があり、それはジョン・F・ミシェルが「相互の用語の無批判な仮定」と呼んでいるものです。音色の物理的な決定要因が実験室で測定され、ラベル付けできるようになるまでは、そして、出来たとしても、用語上の合意は不可能である。その場合でも、個々の心理的・感情的な成分によって、用語の標準化ができないことは十分に考えられます。それまでは、chacun a son gout(人の好みはそれぞれだ)!

 

2020/09/03 訳:山本隆則